クラフト旅物語 ―螺旋の証と絆のキセキ―   作:ユゥイ

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主人公の秘密が少し顔を出す。8章の始まりです!
と言っても、主人公本人もよくわかってなさそうですが。






第8章 螺旋の軌跡、動き出す使命 ①

〈前編 交錯する声、研究者たちの会議〉

 

 

デボンコーポレーション本社。上階にある会議室には、冷えた空気と資料の匂いが満ちていた。

 

円卓を囲むようにして座るのは、デボン社の精鋭と呼ばれる研究者たち。そして、その一角に異国の衣をまとった少女──アマネと、カナズミジムリーダー ツツジの姿があった。

 

「では、始めましょうか」

 

低く穏やかな声で開会を告げたのは、デボン社の社長、ツワブキ・ムクゲ。端正な顔立ちに厳格な表情を湛え、周囲の空気を瞬時に引き締める。

会議内容が内容なだけに、普段のお茶目な態度は封印したようだ。

 

「今回、問題の事件の対応にあたった方々もお呼びしました。まずは我々が把握している情報をご説明します。」

 

ムクゲが目配せすると控えていた研究員が話し始めた。

 

「まず、ことの始まりは一月前。ホウエン地方各地で正体不明のエネルギー波が観測されました」

 

観測されたエネルギー波のグラフと、それが発生した地点を示す地図が映し出される。

 

「さまざまなサンプルと比較した結果、詳細は不明ですがシンギ地方で採取されたと思われる鉱石サンプルから、微弱ながらよく似た波形を検出しました」

 

そして地図を指差し興奮気味に続ける。

 

「それを元に綿密な調査を続行し、たどり着いた場所が⸻ここです。」

 

「カナズミ近郊、トウカの森。その地層に埋まっていたのがこの未知の鉱石です」

 

話しながら研究員が触れるのは円卓の中央。そこには何か置かれているが布がかけられ、見ることはできない。

彼は勢いよく物体にかけられた布を取り払った。

 

それは人の頭ほどはあろうかという網目模様の鉱石だった。

 

墨をたらしたような黒の奥に、どこか苦悩のような、あるいは深い怒りのような赤が滲んでいる。──それはまるで、見てはならない記憶を覗き込んでしまったかのような感覚を見る人に抱かせる。

 

「問題の石片はこの鉱石と同一のものであることが判明いたしました。」

 

「しかし…この鉱石に何が起き、どのような条件であのような…『歪な進化』とでも呼びましょうか。あの現象と結びついたのかは未だ不明です」

 

ざわめく研究者たち。うなずく者、眉をひそめる者、それぞれの立場と思惑が交錯する。

 

「この鉱石の扱いについて、我々は立場を明確にしなければなりません」

 

その言葉にムクゲは頷いた。

そして何かを深く考える素振りを見せる。

 

一人の研究者が立ち上がる。白衣の裾を翻しながら、強い口調で主張する。

 

「封印すべきです。あのような暴走を二度と起こしてはならない。我々は制御不能なものを危険と見なすべきです!」

 

それに応じるように、別の研究者が反論する。

 

「何を言うか。これは進化の新たな扉だ! メガシンカやダイマックスとは異なる、“第三の進化体系”に繋がるかもしれないというのに!この事実から目を逸らすというのか!」

 

会議室の空気が徐々に熱を帯び始める中、アマネは無言のまま俯いていた。

 

…部屋に入った時から感じていた、どこか胸を締めつけるような“響き”

 

スクリーンに映し出された地図。その横にある発見現場の地表へ露出した地層…“トウカの森の崖の写真”

 

これらによってアマネは理解せざるをえなかった。今回の事件のきっかけとなったのは何であったのか。

 

いや、“誰”だったのか──を。

 

忸怩たる思いを胸に、アマネは静かに瞑目した。

 

指先に、震えが走る。

喉の奥からせり上がるものを感じながら、それでも飲み込んでしまいたくなる。

でも──

これを飲み込んだら…もうきっと、私は立ち上がれない。

 

「っ、わ……私…が…。」

 

それでも、アマネの唇は震えるばかりで言葉を紡ぐことはできなかった。

 

 

ツツジはひとつ息をついた。

アマネの様子がおかしいことにはとうの昔に気がついていた。

彼女はまた苦しみに囚われかけているのだろう。

彼女に理解してほしい。人が1人で超えられぬものを乗り越える方法を。

それをすでに手に入れている事実。

自分が今、独りでは無いということを。

 

 

 

ぐっと、強く手を握られたのを感じた。

「ツツジ、さん」

 

隣に座るツツジはしばらく何もいわなかった。

しかしその瞳は…「大丈夫」と言っているようだった。

 

そして静かに、しかしはっきりとアマネの背を押した。

 

「……アマネさん。あなたの言葉を、聞かせていただけませんか」

 

静かな問いかけに、アマネはついに顔を上げた。どんな現実がこの先待つのだとしても…今、逃げてはいけない。

 

何故だろう。今なら声を上げられる気がする。 

 

「私!」

 

部屋いっぱいに響いた少女の声。

喧騒と化していた声がやみ、視線が集まる。

怯みながらも、アマネは言葉を紡いだ。

 

「わ……私、あのとき……森で……あの鉱石に触れたかもしれません。もしかしたら、わたしが……」

 

 

「──その現象の、きっかけだったのかもしれません」

 

その言葉に、会議室が静まり返る。

誰かが息を呑む音がやけに大きく耳に響いた。

 

 

 

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