クラフト旅物語 ―螺旋の証と絆のキセキ―   作:ユゥイ

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第一章で登場したオリキャラ、主人公の弟が再登場です。
シンギ地方の謎が少し深まる?そんな回です。
今回はシリアス成分ゼロかなと思いながら書いていたのですが。
家族と仲良く話をするだけの、ほっこりするハートフルな話になるはずだったのに…。
ちょいちょいシリアスの影がちらつきます。




9章 始まりの風、心を結ぶ旅へ ②

〈第2節 初めての連絡〉

 

 

会議から三日ほど経ち、ようやくツツジは仕事の引き継ぎなどがひと段落ついた。

そんな日の昼下がり。アマネの元を訪ねると、彼女はテーブルに向かって手元を睨みつけていた。

 

「アマネさん?何をしていらっしゃるの?」

 

「……ツツジさん。これ、どうやって使うの?」

 

困り果てたような表情で振り返るアマネ。その手には、デボン社から贈られたポケモンマルチナビ(…長いので今後こちらもポケナビとよぶ)があった。

 

「まあ……使い方が分からないのですか?」

 

「うん……たくさん機能があるみたいで、どう操作したら良いか」

 

ツツジは少し目を見張る。モンスターボール作りの腕は「至高」と評されるのに、最新機器には手こずるという意外なギャップ。

 

(こういう抜けたところがあるからこそ、アマネさんのことを放って置けないのかも知れませんね)

意外に自分は面倒見が良かったのか。という思考が頭をよぎるが、今はそんなことより彼女を手助けしなくてはと気を取り直す。

 

「では、お教えしますわね。まず、この電源ボタンを……」

 

ツツジは丁寧にポケナビの使い方を説明していく。

通話機能、地図機能、緊急連絡先の登録方法まで、一つ一つ確認しながら。

 

「なるほど……こうやって」

 

アマネは真剣な表情でツツジの説明を聞き、慎重にボタンを操作している。

その集中ぶりは、まるで精密なクラフト作業をしているかのようだった。

 

「上手ですわ!もうすっかり使えるようになりましたね」

 

「ありがとう、ツツジさん」

お礼を言いつつ、彼女の手は止まることなく操作を続けている。

何やら様子がおかしい。

 

「ところでアマネさん……先ほどから、何をしているのですか?」

 

そうこうしているうちに、アマネは手を止めた。ポケナビをしきりに眺めては満足げに頷いた。

 

「これでよし」

「お願いです。説明してくださいませ!」

 

「この通話機能を拡張してテレビ電話にした」

 

画面とインカメラも付いてるから、いけると思って。と得意げな彼女に唖然とする。

 

……それって少しいじるだけでできることなのかしら?

 

やっぱりシンギの職人は侮れないと思い直したツツジだった。

ちなみに、ちゃっかりツツジのポケナビも同じように改造した。

 

これで、はぐれても顔を見て話ができるね。と控えめに微笑むアマネにほっこりする。

 

無言の改造を注意しきれないツツジはアマネに相当甘い。

アブソルからは、「それで良いのか?」という言葉が聞こえそうなジト目を向けられた。

 

ツツジにはその視線がとても痛かったが、あんなに嬉しそうにされては、特に困ってもいないので強くは言いにくい。

 

「……あ」

 

2つのポケナビを並べて喜んでいたアマネが、ふと何かを思い出したように固まった。

 

「どうかしました?」

 

大層気まずげな様子だ。

一体何があったのか。

 

「……家族に、連絡してなかった」

 

その言葉に、ツツジは目を丸くした。

 

「え?まさかホウエンについてから……一度も?」

 

「……旅に出てから、ずっと」

 

アマネが故郷を出てからひと月は経過している。彼女がいつものように淡々と答えるのを見て、ツツジは天を仰いだ。

 

ちょっと気まずいな。くらいにしか思っていないに違いない。

 

ツツジは大きなため息をついた。

「……むぅ」

「そんな顔しないでください」

 

アマネはシュンと萎れている。反省はしているようだ。

 

「アマネさんの居場所を特定できない以上、あちらから連絡する手段がない状況です。相当心配しておられることでしょう。早く連絡した方が良いと思いますわ」

 

「……うん。これの試しにもなるし、使ってみよう」

 

そういえば、弟は携帯端末を持っていたな。番号は暗記している。

友人の多いあの子のことだ、きっと持ち歩いているだろう。

それに双子の弟から友人たちの近況も聞きたいし、家を飛び出した親不孝な自分だ。

 

両親に直接電話する勇気は、まだ持てない。

 

アマネは少し躊躇いながらも、暗記していたコウキの番号を入力した。

呼び出し音が数回響く。

 

ツツジは画面に映り込まない場所に腰掛けて静かに見守っている。

 

『……もしもし?』

 

聞き慣れた声が画面越しに響いた。コウキだ。

 

「……コウキ?私」

 

『姉さん!?』

 

画面に映ったコウキの顔が、驚きで目を丸くしている。

少し大人びた顔つきになっているような気がした。

 

『姉さん、どこにいるの!?元気だった?』

 

「うん。元気だよ。今はホウエン地方のカナズミシティにいる」

 

『ホウエン!?……ジョウトに行くものとばかり思ってたよ』

 

「……ジョウト行きの船に乗った」

 

『うん』

 

「着いたらホウエンだった」

 

『船、間違えたんだね』

 

「………むぅ」

 

しばしの沈黙の後、コウキの明るい笑い声が聞こえた。

 

『その迷子っぷり!やっぱり、姉さんらしいや』

 

 

『でも、元気そうで良かった。みんな心配してたんだ』

 

「……ごめん」

 

『ううん、母さんは"便りがないのは元気な証拠"っていってたよ。姉さんのことはオレ達ちゃんと分かってるから。…それより、ホウエンってどんなところ?』

 

「うん……とても綺麗な街。石造りの建物が多くて、人も優しい。それに」

 

アマネは少し照れたように俯く。

 

「友達が、できた」

 

『友達!?』

 

コウキの声が一気に明るくなった。画面の向こうで目を輝かせている。

 

『本当に!?姉さんに友達が!』

 

「……そんなに驚かなくても」

 

『だって姉さん、今まで僕たち以外とは……』

 

コウキの言葉が途中で止まる。きっと、故郷での辛い状況を思い出したのだろう。

 

「大丈夫。その話は……またいつか、直接会って話そう」

 

『……うん。で、その友達って!どんな人?』

 

「ツツジさんっていう人。とても優しくて、聡明で……まっすぐ芯の通った人」

 

『へえ……姉さんがそんなふうに誰かのこと話すなんて、初めて聞いたかも』

 

コウキは嬉しそうに笑っている。

 

「ぁぅ……」

 

『?ねえ、今なにか…ひとの声がしたような?…姉さん、もしかしてその人といま一緒にいるの?』

 

「うん。隣に座ってる」

 

アマネがポケナビを動かしながら隣を見ると、ツツジが慌てて手を振った。

 

「あ、アマネさん…流石に恥ずかしいです」

普段言わないような言葉で、本人を目の前に褒め倒したのだ。赤くもなろう。

 

『あー、聞いてましたよね?』

 

「……勝手に話を聞いて、すみません」

 

ツツジが恥ずかしそうに画面の端に映り込む。

 

『…わあ、本当にいた!って、そうじゃない。いえ、それは姉さんが許可してのことでしょう?気にしないでください。』

 

『ゴホン、では気を取り直して…初めまして!僕は姉さん、の……あ』

 

コウキが一瞬言葉を詰まらせた。

ふっと気づいてしまったから。先ほど彼女は姉のことを「アマネ」と呼んだ。

もしかして姉さん…名前を伏せている?

 

コウキは冷水をかけられたような心地がした。

言葉を詰まらせ、視線を逸らす。

目の前の姉の笑顔が、どこか遠く感じた。

 

…ああ、そうか。

いつぶりか思い出せないほど久しぶりの、明るい姉の笑顔に…自分の心は舞い上がっていたようだ。

ふと現実に引き戻されてこのザマだ。

 

——。姉さんの心には、やっぱりまだ……雨が降っている。

 

弱まっているかもしれない。でも止まない。そんな苦しみと悲しみが…ずっとその胸にあるのだろう。

 

そしてその理由のひとつは。

ーー姉さんのせいだ!!

間違いない。あの日…考えなしに発した、心無い僕の言葉のせいだ。

 

(姉さんは誰よりも優しくて、誰よりも遠い)

その優しさからくる行動を、あの日の僕は受け止められなかった。

もう遅いかもしれない。でも、もう間違えないと決めている。

 

 

 

 

『……僕は、双子の弟のコウキです。姉さんがいつもお世話になっています』

 

画面の向こうでコウキは少し複雑な表情を見せたが、それはほんの数秒。すぐにいつもの明るい笑顔に戻り丁寧にお辞儀をする。そんなコウキに、ツツジも慌てて頭を下げた。

 

「こちらこそ、アマネさんにはとてもお世話になっていますわ。素敵な方です」

 

『そう言ってもらえて嬉しいです。姉さんが良い人に出会えて本当に良かった』

 

空気を変えるように手を打ち、明るい声でコウキは言った。

 

『そうそう、家族のこと話しておくね。母さんと父さんは元気だよ。父さんは相変わらず工房にこもりっきりで』

 

「ふふ、変わらないんだね」

 

『お祖母ちゃんも元気。でも最近、姉さんのことをよく話してる。「あの子は必ず戻ってくる」って』

 

アマネの表情が少し和らいだ。

 

「お祖母ちゃん……」

 

『あ、そうだ。カズキとナナミからも伝言があったんだ。「困ったことがあったらいつでも言ってほしい」って。特にナナミは「あの子、ちゃんとご飯食べてるのかしら」って心配してた』

 

「みんな……ありがとう、と伝えて」

 

『うん。でも姉さん、本当に大丈夫?一人旅って大変でしょう?』

 

アマネはツツジを見て、小さく微笑んだ。

 

「大丈夫。今は一人じゃないから」

 

その言葉に、ツツジは胸がいっぱいになるのを感じた。コウキも安心したような表情を見せる。

 

そんな2人を置いてアマネはのんびりとした調子で話題を変えた。

 

「いろいろあって、携帯端末を持つことになったの」

 

また連絡するねとアマネは言葉を続けた。

 

『これでいつでも連絡が取れるんだね!わかった、この番号を僕も登録するよ』

 

『それと……姉さん』

 

コウキの声が少し真剣になった。

 

『無理しないで。何かあったら、いつでも連絡して。家族だから』

 

「……うん。ありがとう」

 

『じゃあ、今日はこの辺で。ツツジさん、姉さんをよろしくお願いします』

 

「はい。任せてください。またお話ししましょう。」

 

通話が終わると、部屋に静寂が戻った。

アマネはしばらく画面を見つめていたが、やがて小さく呟いた。

 

「……家族って、あたたかいね」

 

「ええ。とても素敵なご家族ですわね。」

 

ツツジはアマネに笑顔を向ける。

 

ツツジは優しく微笑んだが、同時に気にかかることがあった。

姉弟の掛け合いの中に時折混ざる違和感。

弟は過剰とも言えるほど、姉を心配していたようにも見えた。

 

そうして思うのはアマネが本名を隠していること。

 

アマネの名を呼ぶたびに、ふと感じる違和感があった。

それが彼女の「過去の痛み」から生まれたものだと、ツツジは直感していたが今の姿を見て確信した。

 

名前と辛い過去をイコールで結んでしまっている。

そして、それは弟も一瞬で理解できるほどの「何か」なのだ。

一体、彼女を深く苦しめているものは何なのだろう。

そしてそれは、ツツジが想像する以上に重い理由なのかもしれない。

 

 

隣を見ると少し気の抜けた様子のアマネがいる。

初めの頃の、どこか張り詰めたような儚さは感じない。

 

今はこのままでいい。

少しずつ共に進んでいこう。

まだ知り合って2週間ほどなのだ。

私は、慌てずに打ち明けてくれるのを待っていればいい。それが彼女の支えになると信じてる。

 

(私はいつ、あなたの名前を知ることができるのかしら?)

 

ツツジは彼女の名前を呼べる日を心待ちにしている。

 




(小話?)通話を終えたコウキと…?↓



「コウキ!今のは…あいつだよな、な?!」

「ねえ、あの子…笑ってた?痩せてなかった?」

通話が終わった途端、詰め寄り質問攻めにしてくる2人にコウキは深いため息をつく。

「2人とも落ち着いて。姉さんは元気だよ!…顔こそ見てないけど、会話は聞こえていたでしょう?それに」

寂しそうに、けど確かな安堵を込めてコウキは微笑んだ。

「友達ができたって。…もう、1人じゃないって。…そう自分から言ってくれたんだ、よ」

「…そう、だな。」
「………。」

「ねえ、顔を見せて声をかけてあげればよかったのに。姉さんは2人のことも気にかけていたじゃないか」


「うぐっ、」

「そうだけど…」

気まずげに2人は視線を下げる。

「わかっているだろ、コウキ」

「俺とナナミはあいつと今、話すわけにはいかない。」

「…私達職人があの子と連絡をとってはダメ。とくに私達は、だめなのよ。…貴方も知っているでしょう?」

そう、コウキも知っている。クラフト協会の会議に出ていた父が、深く落ち込み部屋に篭ってしまったことを。


「…そうだったね。何でだろう?どうしてシンギは」



「…クラフト協会は!姉さんを追い詰めるのかな」


「俺たちに今、出来るのは時間を稼ぐことだろう。あの子の夢が1日も長く続くように」


「シンギがあの子を壊さないように、守る準備を進めよう」
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