クラフト旅物語 ―螺旋の証と絆のキセキ―   作:ユゥイ

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違いって悪いことばかりじゃない。
そんな話です。


第3章 文化のズレ

 

 

カイナシティの陽気に包まれながら、少女は港近くの広場を歩いていた。

屋台や露店が並び、にぎやかな人々の声とポケモンたちの鳴き声が入り混じっている。

 

──ふと、広場の一角に人だかりができているのを見つけた。

 

中央には、困り果てた様子のトレーナーと、顔を背けるキルリアの姿があった。

 

 

「頼む、入ってくれよ……!」

 

トレーナーは何度もモンスターボールを差し出すが、キルリアはぷいっと顔を背けるばかり。

 

ボールに触れることすら嫌がる様子に見守る周囲もひそひそと話し始めていた。

 

「またかよ、ボール嫌い事件……」

 

「ちゃんと手入れしてないんじゃね? キルリアが嫌がるのも無理ないよ」

 

少女は首をかしげた。

(?……なんでそんなことで困ってるんだろう)

 

戸惑いながらも、少女はそっと声をかけた。

 

「…メンテナンスをしてもダメなら、ボールを替えればすぐ解決する」

 

あまりにも当然のように口にした言葉に、場の空気が凍りつく。

少女の中では常識。だが周囲にとっては、信じがたい禁忌だった。

 

「え……?」

 

「つまり、どういう意味だ??」

「一度逃して、ゲットし直すってことじゃない?!」

「そんなことできるわけ──」

 

ざわめきが広がる。

少女はきょとんとした顔で首を傾げた。

 

「できるよ。」

 

何が問題なのか少女には分からない。

ひとまず詳しく自分の意図を説明することにした。

 

「シンギ地方では相棒が望むなら一度ゲットを解除して、それから別のボールで捕まえ直すのは普通のこと。相棒との絆があれば何の問題もない」

 

(…もしかして、ホウエンでは違うのかな?)

周りを伺うと、広場にいる一同は口を開けたまま固まっていた。

 

──この子、何言ってるんだ……?

 

そんな言葉が聞こえるようだった。

周囲の空気に戸惑いながらも少女は言葉を続ける。

 

「……ポケモンにとってボールは安心できる“家”だから。居心地が悪いなら、新しく作り直してあげた方が…いいと思う」

 

彼女にとってそれは常識だ。

なんせ少女はモンスターボール作りの腕でクラフトマスターに認められた、その道のスペシャリスト。

オーダーメイドで各ポケモンに合わせた最高品質のモンスターボールを作ることができる。

 

そして彼女ほどの腕はなくとも、シンギ地方ではほとんどの人間がボールを自作できる。それほどモンスターボールという道具に対して造詣が深い。

 

だが、ここホウエンでは違う。

『モンスターボールはポケモンを捕まえる道具』

その事実以外の知識を持つ人間など一握りだろう。

 

こう聞くと…身近な道具について知識が少ないというのは、かなり浅はかだと感じるかもしれない。

しかし案外、道具について深く知る機会がないのは普通のことだ。

 

これについてはどちらが正解、とは言いたくないが…シンギ地方が特殊であるのは間違いない。

 

ゆえにシンギ地方以外の土地でボールの契約を解除する「逃す」という行為は、そのポケモンと縁を切る行動となる。

つまり逃すことは『ポケモンからの信頼を裏切る行為』とみなされるのだ。

 

少女の発言は一種の「タブー」に触れるものであることは明白だろう。

 

気まずい空気の中、励ますようにアブソルが静かに鳴いた。

 

「……でも、本当に困ってるなら。」

 

怯んだのはあくまで周りの人間の困惑を察してのこと。

 

「一度くらい、試してみてもいいと思う。」

 

静かに、はっきりと言い切った。

声にも瞳にも、迷いは一つも感じられない。何処までも真摯な言葉だった。

 

「──君とキルリアの絆が、本物なら。恐れることは何もないよ」

 

挑戦状を突きつけるような言葉と共に少女は真っ直ぐトレーナーの目を見つめた。

強制ではない。

ただ、提案として伝えられた言葉。

 

──トレーナーはしばらくじっと考え込んだ後、意を決したようにボールをそっと仕舞った。

そして、地面に向かって「ありがとう」と呟いた。

 

その後、あげた顔には決意が秘められているようだった。

「キルリア……また俺と、もう一度始めてくれないか」

 

差し出したのは新しいボール。

一同が固唾を飲んで見守る中、キルリアはふわりと微笑んだ。感謝を伝えるように少女を一瞥したのち、ふわりとボールに触れた。

 

ピシン──

 

音が響いた。

けれどボールは、揺れなかった。

それは、最初から答えが決まっていたような静けさだった。

 

「……!」

 

トレーナーは信じられないというような顔で少女を見た。

 

「──ありがとう。君のおかげだ」

 

嬉しそうにボールを抱きしめるトレーナーを見て、少女もほっと息を吐いた。

 

(やっぱり……絆があれば、大丈夫なんだ)

 

やはり、シンギ地方と他の地方では文化の違いが大きいらしい。

でも…通じるものもちゃんとある。

 

そんな手応えを胸に、ふたりは広場を後にした。

 

 

異国の地、ホウエン。

少しずつ──ほんの少しずつだけど、お互いを知り歩み寄れば。ここでもやっていけるかもしれない。

そんな予感が、胸の奥に小さく灯っていた。

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