クラフト旅物語 ―螺旋の証と絆のキセキ―   作:ユゥイ

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「アブソル、ちょっと寄り道しよう。」

…そんな話を書くはずだったんです。本当です!
何と言えば良いのでしょうか。
そう、キャラクターが勝手に動き回る…!
書き上がってみると、私がはじめに考えていたものと結末が違うんです。今回に関しては話の大筋すら変わってきた気がします…。
他の方もこういう事あるんでしょうか?

しまいには、みなさんご存知の彼女となんか運命の出合いしてるし…。
彼女がレギュラーになる予定、なかったんです。

…本当になかったんですよ。小説って面白いですね。





第5章 会社見学に行こう(見学できるとは言っていない)

 

 

少女はトウカシティの広場のベンチに腰掛けて水筒を取り出した。そばではアブソルがのんびりと草の匂いを嗅いでいる。

 

ここに来るまでにいくつか道を間違えたが、まあ結果オーライだ。迷ったって進んでいればどこかには着く。

それが少女の旅のスタイルのようだった。

 

 

「カナズミシティに、すごい会社があるんだよ!」

ふと、近くで遊んでいた子供の声が耳に入った。

教えてあげる!と得意げに話す我が子を母親が微笑ましげに見つめている。

子供は誇らしげに言葉を続ける。

 

「デボンコーポレーション。モンスターボールとかポケモン用品を作ってるって、この前お兄ちゃんが教えてくれたの!」

 

「モンスターボール」

少女はぴくりと反応し、小さく呟く。

 

モンスターボール。それは数多のものづくりをこなす道具職人の彼女の代名詞とも言える道具。最もこだわりをもって作っている道具だった。

 

シンギ地方でモンスターボールは「ポケモンの家」「安心して暮らすための自室」と考えられている。

少女が最も極めたい道具であるモンスターボールにホウエン地方の人々はどんな工夫を凝らしているのか知りたくてたまらない。

 

「アブソル。ちょっと寄り道しよう」

 

少女はニッコリと笑った。滅多にみることのできない満面の笑みだ。アブソルは困ったようにため息をついてみせたが、どこか嬉しそうに隣を歩き出す。

目的地を定めたふたりの足取りは、その心を表すように軽かった。

 

 

しかし、やはり例の問題は付きまとうのだ。

 

案の定、迷い続けること3日。

少女は懲りることなく方向音痴を存分に発揮していた。

静かな森の中を歩き続ける。

この「トウカの森」を抜けるとカナズミシティに辿り着けるのだが…自力では抜け出せないのが、この少女だ。

 

そろそろ焦っても良い頃なのだが、自然豊かなシンギ地方で生まれ育った彼女にとって森は恐れる場所ではない。

山とは、クラフト素材の宝庫。つまり彼女にとっては『宝の山』である。

 

そもそも、彼女は人の手の入らない山野での採取に慣れている。

人の手で管理されているトウカの森での野宿などお手のものだ。

そして急ぐ理由のない旅をしている少女。

 

つまり、彼女は焦る必要も慌てる必要もない。

この豊かな森を存分に満喫していた。

 

崖が目の前に立ちはだかれば、岩盤や地層を観察し、サンプルにいくつか石を採取。

 

植生を調べながら歩き、薬草や木の実を見極めて摘み取る。

 

 

そんな調子の少女が三日目に森を抜けたのは、連日森で彼女を見かけていた地元の人のおかげだ。

いつまでも森の中にいる異国の少女。心配にならないはずがない。

 

そうして、仕事で森を出入りする地元の人に連れられる形でカナズミシティに辿り着いた。

 

目の前に広がるのは、整然とした街並みだった。

最西端の大都市カナズミシティ。石畳が美しい街だ。

 

目当ての場所までの案内を買って出てくれた地元の方に感謝を伝え、お礼に森で収穫した珍しい木の実などを渡す。

優しい笑顔でその人は「またトウカの森に遊びにおいで!…でも君は、1人で入ってはいけないよ?」と彼女伝えた。

 

アブソルがこっそりため息をついていたが、少女自身は彼が何を懸念しているのか分かっていないようで、少し不思議そうな顔をしつつ「ありがとう」と頭を下げた。

 

 

石造りの重厚な建物が、街の中心に静かにそびえていた。

少女は思わず足を止め、息をつく。

 

「ここが、デボンコーポレーション」

 

一歩、二歩と足を進める。

カナズミシティの中心部に位置するこの企業は、モンスターボールをはじめとしたポケモン関連製品で知られる大企業らしい。

 

ものづくりに誇りを持つシンギ地方育ちの少女は「新しい知見や技術を目の当たりにできるかも」と胸を高鳴らせていた。

 

そんな、珍しくテンションの高い少女に微笑ましげな視線を向けていたアブソルだったが…何かに気づいたように振り返ると目を細める。 

 

少女の足をアブソルがそっと突いた。

その赤い瞳が鋭く細められる。

危険が——すぐそこに迫っている。

 

その直後、途轍もない轟音が辺りに響いた。

 

「っ…、」

 

少女はアブソルに合図を送り即座に辺りを警戒する。

(どういうこと?何が起こったんだろう)

ここは街の中心地『デボンコーポレーション本社前の広場』であるはずだ。

なのに目の前にはたくさんの野生ポケモンたちの姿があった。

 

数え切れぬほどの野生ポケモンが街に侵入している。しかも、なぜか相当気が立っているようだ。

 

どのポケモンも己が傷付くことも厭わず、止めようとする警備員たちを振り払って暴れ回っているようだった。

あちこちで瓦礫が散らばっている。

 

「落ち着け!落ち着けってば!」

 

「誰かポケモンたちを抑えてくれ!」

 

人々の叫び声が飛び交う中、少女は躊躇うことなく動き出した。

 

「アブソル、安全確保!」

 

少女が声を上げた瞬間、アブソルが動いた。

一拍も置かず、前へ躍り出たアブソルが、迫りくるグラエナを「じごくづき」で牽制する。

その隙に少女が一般人を保護。技「まもる」を適宜使いさらに人々の安全を確保していく。

 

少女は手早く近くにいた子供を抱き上げ、後方へと退避させつつ考える。

 

(何が原因だろう?……ただ暴れているだけじゃない。この子たち、何かに怯えてる?)

 

技「未来予知」も活用して少しずつ暴れるポケモンたちを制圧し、的確にその動きを牽制して暴れるポケモンを1箇所にまとめることに成功した。

ジグザグマやオオスバメ、グラエナにタネボー、ハスボーにマリルなど。トウカの森に生息するポケモンたちのようだ。

 

ピクリと何かに気づいたように身を震わせるとアブソルは大きな声で吠えた。ただことではない。

 

少女はその意図を察し、新たに訪れる危機に対応するべくアブソルのそばに駆け寄る。

何が起こるのかまではわからない。

しかしふたりなら、乗り越えられるに違いない。

「……来る!」

 

まず現れたのは更なるポケモンたちの群れ。

周りを埋め尽くさんとするかのように押し寄せてくる。

現場はより一層、混乱を極めるかと思われた。

 

——そのとき。

 

「下がってください!」

 

凛とした声が響いた。

ふたりがその場を飛び退くと一体のポケモンがその場に立った。ノズパスだ。

そして先ほどの声の主である少女がツインテールを揺らし駆け寄ってくる。

 

 

「ノズパス、がんせきふうじ!」

岩を目の前に積み上げ壁を作りだす。

 

「このポケモンたちは、何かに怯えているだけのようです!不用意に刺激しないように!」

 

いままでほぼ一体で場を支えていたアブソルは、なんでもないように振る舞っているが確かに疲弊し始めていた。

それを見て機転をきかせたのだろう。

 

がんせきふうじは本来、岩石を相手に投げつける技なのだが、的確に指示を出し岩を積み上げて壁を作り出した。

技を応用して体制を整える時間を作り出したのではないだろうか。

 

「皆様、安心してくださいませ。カナズミジムのリーダーとして──私がこの場を引き受けます!」

 

彼女はツツジ。カナズミシティのジムリーダーだ。

信頼するジムリーダーの登場で、強張っていた住人たちの表情がいくらか明るくなる。

 

そして少し笑顔を見せつつ言葉を続ける。

 

「他の場所はジムトレーナーおよびトレーナーズスクール関係者が連携して対応にあたっています。ですので皆さん、まずは落ち着いて行動してください。」

 

まず、今のうちに体制を整える必要がありますわ。と言いながら辺りを見回す。

 

そして周囲を警戒しつつ、負傷者の手当てをしている少女を見つけ歩み寄る。

 

「先ほどまで戦ってくださっていたのはあなたですわね。異国の方、もう少しご協力願えませんでしょうか」

 

 

「……勿論、手伝います。」

(どんな場所でも、誰に何と言われても。私とアブソルは、歩いてきた)

チラリとアブソルに視線を向けると、彼女もこちらを見つめていた。

こちらを安心させる、迷いのない力強い瞳であった。

 

(大丈夫。どんな苦難も荒事も、アブソルと2人で乗り越えてきたのだから)

 

少女が口に出した言葉は簡素だったが、その間も避難時に怪我をした小さな子供の手当てをしている。

ツツジは、こちらを一瞥したきり動き回る少女を見て少し目を見張っていた。

不遜な人物と受け取られても仕方のない少女の態度。

しかしツツジは少女の瞳に強い意志と人々を案じる優しさを見た。

 

そして状況を的確に見極めて行動する、自分より幾つか若いであろう彼女に心から感心していた。

大人でも対応の難しいこの状況で前線に立ち暴れるポケモンたちに対応しながら人々を保護、さらに簡単な手当てとはいえ救護活動もしているのだ。

 

この場所は彼女の行動のおかげで被害を最小限に留めていた。

 

ツツジは必死なあまり態度が冷たく映るのであろう少女に、好意を込めた微笑みを向けた。

 

「では、ひとまずあなたのポケモンも回復しましょう。」

 

 

 

 

──混乱の渦中で、二人の少女はこうして出会った。

この縁が二人の今後を大きく変えることをまだ誰も知らない。

 

 

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