クラフト旅物語 ―螺旋の証と絆のキセキ―   作:ユゥイ

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7章はほのぼのした日常回を目指しました。
元ののんびりふんわり路線がしばらく続きます。
時々、唐突に謎なシリアスが入るかもしれませんが。
主人公の過去が少し重たいが故です。その辺りが話に出てくるのはまだ先の予定なのでふわっと読んでくださいませ。

ひとまずこの章は運命の出会い?をしたツツジさんと主人公の交流を描きます。
かなり私の解釈が入ったツツジさんです。(おまけにゲーム時間軸の数年後と設定しているので、人によっては相当に解釈違いあるかも…)
「まあひとまず、読んでみようかな」という心の広い方、ありがとうございます。
楽しんでいただけると嬉しいです。



第7章 交わる歩幅、石の声 ①

〈1節 友情の始まり〉

 

 

あのポケモン暴走事件から数日。

カナズミシティにはまだ戦いの爪痕が残っていたが、人々の手によって復興しつつある。

少しずつ元の活気を取り戻していくこの街に少女はアブソルとともに留まり続けていた。

 

聞くところによると、あの様子のおかしいヤルキモノの身体に食い込んでいた『謎の石のかけら』はツツジの手によってデボンコーポレーションへと託されたそうだ。

現在、専門家による本格的な調査を行っているという。

 

そして、ことを重く見たホウエンリーグのチャンピオンも動き始めているらしい。

 

寝起きでぼーっとしていると、部屋の戸をノックする音が聞こえた。

 

「おはようございます、『アマネ』さん」

 

少女のもとを訪ねてきたのはツツジだった。

相手への敬意を忘れない口調。しかしその声と表情には、茶目っ気を感じる柔らかさがあった。

 

寝ぼけた少女の脳裏には、ツツジと交わしたあの日のやりとりが通り過ぎていた。

 

 

――

 

 

──事件終息の直後まで、少し時を遡る。

 

事件が解決し、そっと立ち去ろうとする少女を呼び止める声があった。

 

「待ってください!」

 

事件解決のために共闘したジムリーダーのツツジだ。

 

「自己紹介もせず、失礼いたしました。わたくしはツツジと申します。あなたが居なければ、どれほどの被害が出ていたことか。街を代表して御礼申し上げます」

 

深く頭を下げるツツジに少女はワタワタと動揺するばかりで言葉すら出てこない。

これほど丁寧に感謝された経験は過去一度もないのだから当然といえよう。

 

「今回のお礼も兼ねて、ご迷惑でなければ宿の手配や町の案内をいたしますわ。…その前に、あなたのお名前を教えていただけませんか?」

 

その言葉を聞き、少女は周りの人が「ツツジさん」「ジムリーダー」と呼ぶことから名前を知っただけであることに気がついた。

 

お互い自己紹介をする暇すらなく、出会ってすぐに共闘していたのだ。

 

つまり今の二人は、内心どれだけお互いを好ましく思ったとしても『たまたま居合わせた人』という関係でしかない。

 

人間関係とは、名を名乗り挨拶を交わすことから始まる。

しかし、少女は言葉に詰まってしまった。

そんな自分に動揺してしまう。

 

なぜ、自分の口は動かないのだろう。

そう思いながら少女は少しだけ目を伏せた。

名乗るだけのことなのに、妙に躊躇してしまう。

 

そして気がつく。旅立ってから今まで一度も人に名前を名乗っていないことに。

 

クラフトマスターであることは伏せようと決めていた。少女は色々な意味で故郷では名が通りすぎている故に。

10代でマスターランクは自分しかいない。ここが他地方とは言え、調べる方法はきっとある。

そうすれば直ぐに自分の素性が分かることだろう。

だから隠すと決めたのだ。

 

では、名を名乗ることはどうだろう?

過去に故郷で経験したいくつかの出来事が脳裏をよぎる。

 

名前を聞いた瞬間に笑顔が凍りつき目を逸らされる。快い反応をする人は自分を知らない人だけだった。

騙されたと言わんばかりの冷たい目。

ただ「異質な存在」として扱われた日々。

 

ホウエンの人々にはきっと関係のない事情だ。

ここに人はそんな反応はしないと頭では分かっている。

それに、出会ったばかりだが彼女の誠実さは伝わってきた。

…なのに。

どうしても、名乗る勇気が持てなかった。

 

でも、目の前に立つ彼女の澄んだ瞳が…どこまでも真っ直ぐで。

 

(この人に嘘はつきたくない)

少女は、ふとそう思った。

 

……本当の名前はまだ言えない。

あの名前には、あまりにもたくさんの痛い記憶が結びついているから。

 

「……アマネ、で。今のところは…そう呼んで」

 

「わかりました」

 

ツツジは何かを察したようだったが、問い詰めるようなことはしなかった。

 

「アマネさん、どうぞよろしくお願いいたしますわ」

 

ただ、「知りたい」よりも「信じたい」が先にあるような、優しい笑みを浮かべていた。

 

 

 

ツツジは事件の事後処理のために手早く最低限の手配を済ませると、少女…アマネに声をかけた。

 

「さ、行きましょう」

 

「もう、ここを離れて大丈夫…なんですか」

 

不思議そうな顔の少女にツツジはキョトンとするも、すぐに言葉の意図を察した。

 

「ええ。私達はたくさんのポケモンと連戦ののちに、あのヤルキモノとバトルをしましたもの。ポケモンたちを休ませる必要がありますわ。」

 

ですので、ここからは他の皆様方が引き継いで場を納めてくださいます。と言葉を続ける。

 

「では行きましょう」

 

ツツジはそう言うと少女の手を引いて歩き出した。

 

 

 

 

ツツジは自分に手を引かれ瞳を丸くする少女をみる。

そして彼女に気づかれぬように少し困ったような笑みをこぼした。

 

彼女はあまり人と関わったことがないのだろう。

このようなちょっとした接触や言葉に困惑していることもそうだが、まずこちらの行動の意図にまるで気づいた風がない。

わかりやすく振る舞った自覚があるので少し驚いた。

 

落ち着いて考えてみれば分かることだと思う。

いくら自分が生真面目なたちといえど、大きな事件の対処に協力してもらったとて『ジムリーダーとしての責任感』で宿の手配などの世話までは焼かない。

 

ひとえにツツジ個人が少女と仲良くなりたいと思ったが故の行動だ。

…なぜ彼女がこんなに気にかかるのか。

 

ツツジ自身も己の心の全てがわかっている訳ではない。

ただ、思ったのだ。

「彼女の見ている世界を知りたい」と。

彼女の瞳は、こちらを見ているのにどこか遠くを見ているような、不思議な澄んだ色をしている。

その瞳の奥に見える深い優しさ。そして孤独の影が見えるような気がした。

だからだろうか。彼女を知りたいと、そう思ったのだ。

 

 

 

 

家族以外の人に手を取られる経験もほぼなかった少女は、その後もしばらく挙動が不審なままであった。

 

そんな二人を微笑ましげに見つめながら、アブソルは後を着いて行く。

 

 

 

ツツジの案内でカナズミシティの街を歩く。整然とした建物を横目に石畳の道を歩きながら、少女はキョロキョロと辺りを見回していた。

 

機能的な設計の街だ。どこをとってもシンギ地方とは大きく違う。

 

そして初めの目的地、「ポケモンセンター」の前で少女が小さく首を傾げた。

 

「……ここ、病院?」

 

「いえ、こちらは『ポケモンセンター』ですわ」

 

「?」

 

コテンッと首を傾げて固まる少女にツツジも困惑を隠せない。

 

「ポケモン専門の治療施設ですのよ。…ええと、まさか知りませんでしたか?」

 

「うん。私の地元では、ポケモンも人も病院で診てもらう。お医者さんがどっちも診るのが当たり前だから」

 

驚きのあまり、丁寧語が抜けた言葉遣いで話す少女を見つめてツツジは小さく微笑む。

 

少女の様子を見て少し冷静になれたようだ。

それに、少女の言葉遣いがフランクで仲良くなれたように感じられて嬉しかった。

 

「まあ……人間とポケモンを分け隔てなく、ですか。それはとても素敵ですわね」

 

ポケモンと人との垣根が低い。より密接に結びついて営まれる社会なのだろうか。それはなんて…

 

「なんだか、ちょっと羨ましいくらい。素敵なことだと思います」

 

 

…ところで、ポケモンセンターを知らないのであれば…

(ホウエンに来てから今までどうやってポケモンの回復をしていたのでしょう?)

 

とても気になったが…きっと自分の常識の斜め上の返答が返ってくるのは間違いない。

ちょっと今はまだ、聞く勇気が持てないツツジだった。

 

 

もしやと思い、次は道具屋であるフレンドリーショップにやってきた。

やはり少女は少し戸惑った様子だった。

 

「……売ってるんだ。みんな、こういうの“買う”んだ」

 

「ええ。もちろん、自分で作る方がいないわけではないと思いますが……」

 

「……不思議だな。ここに並ぶ物、シンギ地方なら大抵の人が自分で作れるから。お店で売るって聞いたことがない。…たぶん、わたし達の方が変なんだと思う」

 

 

あまりの文化の違いにショックを隠せない少女。

そんな彼女にツツジは己の考えを伝えるべく、迷いなく口を開いた。

 

「いえ、“違い”は“変”とは限りませんわ。どちらが間違っていると言う問題ではないとわたくしは思いますの」

 

その言葉に少女はそっと顔を上げてツツジを見る。

すると真摯で真剣な眼差しが見えた。

 

「アマネさん、お互い知ることから始めましょう。わたくしはとても興味があります!貴女の故郷の文化について、ぜひ教えてください」

 

言葉が響くというのはこういうことなのだろう。

少女は心が暖かくなるのを感じていた。

 

 

 

宿については、ポケナビという機械で既に連絡が入れてあるのだそうだ。

日が暮れるまでに部屋の準備ができるというので、早めの夕食を共に摂ることにした。

 

食事の場で、ツツジの願いに応えるため故郷の話をすることにした。

簡単にだが、シンギ地方の文化について説明をする。

 

主にクラフトに関する話と1人1相棒制という文化についてを話した。

 

シンギ地方の人々はポケモンバトルはあまりしない。素材採取などのフィールドワーク時に野生のポケモンと戦うくらいである。

代わりにポケモンと協力して行う「ものづくり」を好み、それを中心に営まれる生活というのは、ツツジにとって興味深いものだった。

 

話が一段落すると「そういえば聞いても良いかしら?」とツツジがつぶやいた。

 

「なに?」

 

「わたくしは十六歳なのですけれど……アマネさんは?」

 

「十五。……薄々思ってはいたけど。歳、近いんだ」

 

少しだけ、少女の声が明るくなる。

他人にはわかりづらいが瞳が輝いている。少女の足元で伏せているアブソルにはわかる。

ツツジといる時間はとても楽しいのだろう。年も近いと知れてより一層嬉しいに違いない。

 

少女の頬がわずかに緩んだのを見て、尾を静かに揺らした。久々に聞くその明るい声に、胸の奥がほっと温まるのを感じながら。

 

 

そんなふたりに、ツツジもまた微笑んでいた。

 

 

 

気がつけば、夕暮れ。

二人はまったく同じ歩幅で歩いていた。

ほんの数時間前まではただの共闘者。けれど今は、少し違う名前が浮かび始めている。

 

 

「友達と呼ぶには、まだ早いかしら?」

 

「……いいよ、友達。少しずつって、感じなら」

 

そう答えながら少女はツツジを見つめる。普段あまり変わらない少女の顔は、淡いながら確かに微笑んでいた。

 

 




(小話)ポケモンセンター前でのやり取りの後↓




「とにかく、まずは頑張ってくれたポケモンたちを回復させましょう」
ツツジのその提案に頷き、共にポケモンセンターに入る。

「こんにちは!ポケモンセンターです」

笑顔のお姉さんにツツジは笑顔で挨拶を返し、少女は控えめに頭を下げた。

「身分確認のためトレーナーカードをご提示ください」
ツツジは迷いなくカードを提示して手持ちのポケモンを納めたモンスターボールを差し出す。

「お預かりいたします。では、掛けてお待ちください」

そしてクルリと振り返り、ポカンと固まる少女と目が合った。
凄く、嫌な予感がした。

「…どうしたのですか?アマネさん」

「………。トレーナーカードって、なに?」

(あ、そこからですか。)
そう言いかけたが心のうちに留める。そしてひとつ思い直した。
自分は彼女の地元について何も知らない。きっとトレーナーカードとは全く違うものを身分証としているのだろう、と。
軽はずみに批判すべきではない。

「…そうですわね。ポケモンと共に生きる人の身分証、と言ったところでしょうか。」

そしてふと思う。ほぼ他地域と交流のない土地の身分証。
それが、ホウエンで使えるものだろうか?
使えるとしても、そんな場面はかなり限られているに違いない。
ポケモンの回復を待つ間に行く場所が決まった。

「役場に行きましょう。トレーナーカードは複数所持は違法ですが、通称の使用は広く認められています。問題なく『アマネ』という名前で取得できますわ」

逆に大会やジムチャレンジの際は登録名を使用しなくてはいけないのですけれどね。と、つけ加える。

「!、そうなんだ。」

「手続きは直ぐにできるはずです。アブソルさんのためにもいますぐ行きましょう!」

「ありがとう」

ポケモンセンターのスタッフに手短に事情を伝えると、ツツジは少女の手を握りしめて走り出した。





※役場がポケセンから近かったので無事、ツツジの手持ちポケモン(ノズパスとイシツブテ)の回復が終わる前に戻りアブソルも回復できました。

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