カンナとインモラルにいちゃつく話   作:33z

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ホワイトデーに書いたやつ。
本当はさすらいの絵師の絵があってこそ完成した話。自分が描いた絵じゃないから載せられないのが口惜しい。
キーワードだけは(分かってる分は)乗せとくので、後は心の目で見て下さい。


これがホワイトデーのお返し、ですか?

 ”どう? 痛かったりきつかったりはしない? ”

 

「ええ、まあ。自分でも驚くくらいに痛みは感じません。……動きが制限されている、という点でのきつさはありますが」

 三月十四日。ホワイトデー。

 深夜のシャーレに存在するのは、いつもの通り先生と。そして私。

 夜遅くのこの場所に人がいるというのは、当番のまま夜遅くまで仕事をしてしまったある意味普段の光景でもある。

 

 ただし。私の身体が縄で拘束されていることを除いては。……つまるところ、いわゆる「緊縛プレイ」の真っ最中、という訳だった。

 ──これが「お返し」とは、あまりに倒錯的すぎる。

 

【後手縛り+梯子縛り】

 肩から胸の上を通り背後へ回す縄の一部。

 胸の下から背後へ回り、……上の縄と挟み胸を強調するような形で、二本の腕を拘束する縄の一部。

 腰から足首までを、一息に縛り上げる縄の一部。

 

 先生の手ずから、丁寧に全身に縄が回される。体に縄が這わされる時、好きな人の体温が縄に移っていて。それが私の身体の奥に伝播する。

 ──疼く。知識として知っている言葉が、今私の身体に現れている。

 思わず漏れそうになる言葉を飲み込もうとして、一緒につばを飲み込む。

 喉が動く音が、やけに大きく響いた気がした。

 

 何もかもが慣れない感覚。身を捩ればぎしりぎしりと縄が音を立て。ああ、今私は拘束……緊縛されているのだなと、強く実感が湧く。

 ───

 ──

 ─

 ”さて”

 がらりと雰囲気を変えた先生が私の耳元に顔を寄せて囁いた。

 この瞬間からじゃれあいではなく。その先へ進む為の。前段階の戯れが始まったのだと。一瞬前までと何も変わっていないのに、それでも確かに空気が変わった。

 

 肌で、拘束されいつもと違う状態に置かれて鋭敏になった感覚がそう告げる。

 

 唇が耳に触れてくすぐったい。吐息も熱を持ち、相手の興奮が伝わってきて。そこを起点に体の奥の疼きが、次は耳から脳を侵していく。同時に体に這った縄を引かれ。

 

「んっ……」

 

 縄が私の躰を擦り上げ、普段の人の手で、大きく骨ばった異性の手で行われるそれとは違った感覚が肌を撫ぜる。

 肌と肌の触れ合いではなく、けれどその目的は同一。もっと昂「ぶる」為。もっと昂「らせる」為。

 ただ手段が違うだけ。

 一度縄を上に引かれ、それに合わせて刺激が走る。漏れ出る声は抑えられず……抑えない方が気持ちが良いと。知っている。

 

 私を拘束する縄の下、擦れた肌が熱を持ち。疼きが昂ぶりに、昂ぶりが熱に変換されて。抑える気を無くした声音は「求める」声色へ。自分でも出せるとは思わなかった。いや。思っていなかった。ぐずぐずに溶けて崩れた、握りつぶしたマシュマロのような、そんな声。

 

 けれど私は知っている。

 

 私はこういう場面でこういう声を出すのだと。自分でも知らなかった自分を既に、脳裏にも躰にもしっかりと刻まれているのだから。

 甘みだけをかき交ぜた声が、縄の動きに合わせて引き結んだ口から漏れる。……当然口を引き結ぶのだってポーズでしかない。

 

 抑える気は既にないが、それでも「抑えた上で抑えられない」ことが。更に躰を熱くさせる。

 先生が楽器でも弾くかのように縄を弄び、その動きに私の躰はいいように翻弄されて。まるで楽器でも弾くかのように私の喉が嬌声を奏でる。

 

 先生の目を見上げれば、瞳の奥に欲の色が灯っていた。

 ……他の誰にも向けられず、しかし私にのみ見せる秘密の色。

 

 これを向けられるのが私だけ。そんな麻薬めいた思考は毒の如く。脳から発せられ興奮として心臓に届き、血流に押されるかのように全身に巡る。

 耐えられなくなって身じろぎをすれば、それを阻む全身の縄。

 

 ぎしりぎしりと音を上げる拘束が更に私達の昂ぶりに艶を与えていく。

 ああ、明日は寝不足だな。

 そんな最後のとりとめのない思考は、自身の喉から奏でられた悦びの声でかき消されて。

 

 ──長い夜が、始まった。

 

【閂+首輪(ネクタイ)

 

 後ろ手にした二の腕に縄を通し、正面の中心、胸のあたりに結び目を作って。……ご丁寧にもネクタイを一度私の首へひっかけ、縄で潰さない様に。

 うわずる声をどうにか整えながら外しますかと聞いてみれば、後で使うから、との事。

 

 それに私が緊縛への知識が薄いからそう感じるだけなのかもしれないが、どうにも胸を強調するような縛り方をされている気がする。

 

 縄を這わせる手つきは丁寧で、しかしお互いの情欲を煽るような。縄を通す目的のみなら触れる必要のない場所へも、ゆっくりと指の腹でなぞられる。不規則に立てられる爪の刺激が、脳髄をちりちりと甘く痺れさせていく。

 

 縛られ始めてからどのくらいの時が経ったのか。随分と楽しみながら完成させた縛り方は『(かんぬき)』と言うらしい。

 

 ”よし。こんなものかな”

 

 そうして先生は後ろ手の結び目を縛り終えると、私から一歩だけ距離を取って、正面右の床へと座り込んだ。

 胡坐をかいて、膝に肘をつき。

 背もたれの無い椅子に腰かけ縛り上げられた私を、私の躰を。下から睨め上げる様に。ただしその瞳に宿るのは憎悪の感情では無くて、男性としての欲情の色。

 

「……?」

 

 不自由にされた私を触るでもなく。縄を引くでもなく。ただじっと。

 

「……あの、先生?」

 

 ”……”

 

 耳には届いてる筈の私の問いかけを意図的に無視して、それでも視線を私に送るのを止めない。自然と視線の先を追えば、今は私の脚へと注がれていることが分かる。

 タイツに覆われた足指。踝。アキレス腱。ふくらはぎ。それらの部位(パーツ)を一つ一つ。殊更に時間をかけて存分に。

 流石に恥ずかしくなって身を捩ろうとすれば、私に施された『閂』に阻まれる。

 

 そこで気づく。

 

 今はこれが目的なのだと。触れるでも無く呼びかけるでもなく、ただ視線だけで。私を舐ることこそが。

 

 思い至った瞬間、拘束されている脚をどうにか視線から外させようと身をひねって、同時に響く縄の軋む音が耳を侵す。その姿さえ、私の下から射抜くように見つめる視線で脳が侵される。

 

「せっ……んせっ……これはっ……」

 ”……”

 

 またしても無言を返され、そして視線は止まらない。

 下から見上げていけばその先は。たった今まで意図的に視線を外していたという事は後から脳が認識するが、この瞬間はそこに目を向けられる羞恥と興奮で麻痺して思考が回らない。

 

 そういう関係である以上見せることも見ることもやぶさかではないが、それは恥ずかしくないという事を意味する訳では無い。

 ましてや不意打ちのようなこの形で。表情にはしっかりと浮かぶ羞恥は、私の言葉と同じように無視されるのだとぼんやり思考する。

 

 羞恥が興奮に変わり、息が上がり、自分が昂っていく。

 

 先程まで私の脚に注いでいた時よりさらにゆっくりと。鈍重とも呼べるような速度で、視線が移動していくのが分かる。

 視線に温度なんてない筈なのに、でも視線の先が熱を持って。じわりじわりと上がっていている。

 

 膝、(ひかがみ)を通り、太ももを抜けて、藍色のスカートの、中へ。

 

 熱を、感じた。

 

 ”……準備は、万端みたいだね? ”

 

「~~ッ」

 

 先程までとは一線を課す痺れが脳裏を駆け巡る。呼応して漏れ出る声にならない音をどうにか口の中でかみ殺そうとして、失敗して。

 立ち上がった先生はゆっくりと左手の小指から人差し指を私の太ももにあてる。そして体の線をなぞるように腹、胸を経由して指を運ぶ。

 脳裏への痺れが指の動きで追加されて止まらない。自分が意味のある言葉を発生しているのかどうかさえおぼつかないような興奮の中。

 私のモノでない左手がネクタイを掴み、引っ張られる。自分の意志とは無関係な動きを強要されているのに、なぜこんなにも吐息が熱を持つのか。

 

 強制的に上を向かされた私の顔、その右へ先生の顔がよせられ、耳元で小さく、けれど力強く囁かれる。

 

 ”じゃあ次、行こっか”

 

 私の常用するスカートは、普段。ここまで深い藍色をしていただろうか。

 興奮がはじけ続ける私の頭で考えられたのは、そんな愚にもつかない思考だった。

 

【舌(なぶ)り】

 ”さあ立って、カンナ”

 

 右手で首元を一撫でされ、その動作の中で爪を立てられて敏感になった肌が甘く粟立つ。反対の左手では、掴んだいつもの先生とは違う乱暴な手つきで首元をネクタイを引かれて、直立を強要される。

 不自由な両足でどうにかバランスを崩さない様に立ち上がれば、腰、より少しだけ下で体を支えられていることに気が付く。日常生活であれば触れられることのない場所を、私が抵抗出来ない形で。そういえば先生はそこ「も」好きだったなあと。興奮の外での冷静な思考。なにより。

 

 その方がお互いに興奮すると分かっているから。

 

 いいようにされることにどうしようもない興奮を覚えながらも、同時に私を「いいように」することに目の前の人が興奮を感じているという事実が燃料としてくべられて更に昂るのだから、我ながら始末に負えない。

 

 その証拠のように感じる水気を意図的に無視してどうにか立ち上がれば、いつの間にかネクタイを離した左手が私の頭を撫でる。

 

 ”よくできました”

 

 その手つきだけは昼間の貴方と全く同じで。

 

「……んっ」

 

 一動作だけで即座に思い浮かぶ昼間の姿と、今ここで私を劣情のままに縛る夜の、私しか知らない姿。そのギャップでこちらの欲情が煽られる。

 

 緩急と言うのか、抑揚の付け方が私では太刀打ち出来ない差を感じて。

 

 そのまま一つ二つと私を、子供をあやすように撫で繰り回し。まるで子供でもあやすかのような、そんな手つき。

 行為とはまた別の所で気恥ずかしさを覚え始めて、抗議の為に口を開こうと。

 

「……あの、あまり撫でられるのは流石に──っ!!??」

 

「──んえぅ?」

 

 左手で撫でることを止めないまま。……むしろそちらはそちらで上の耳の耳朶をカリカリと引っ掻いたり内側の柔らかい部分を撫でたり揉んだりとやりたい放題に弄んでいるのは感じるが。あくまで手慰み程度なのだろう。なぜなら先生は。

 

 空いた右の手で。私の舌を。摘まんだ。

 

「ゃの、しぇんしぇえ……?」

 

 人差し指で舌の裏側を大きく支え、親指で舌の腹を。まるで左手で私の頭を撫でる動きと連動させる様に。

 

 一撫で。

 二撫で。

 

 と。ゆっくりゆっくり撫で繰り回す。

 当然私は呂律など回しようもなく、飲んだことは無いが酔っ払った人間はこのように喋るのではないか。そんな舌っ足らずな声でしか発声できないのにもかかわらず。

 

 それこそが見たかった姿、だとでも言わんばかりに左手で頭を撫でる強さが増す。

 

「……しょの、くぉれは……」

 ”……”

 

 いつもの通り話す事の出来ないもどかしさと、みっともない発声が喉から漏れる恥ずかしさに身を焼かれながら。撫でられる。

 左手で頬を軽く撫でて、そのまま右の手では舌を摘まんだまま。

 

 舌の先を擽るように。

 舌の右際を撫でるように。

 舌の腹を味わうように。

 頬の内側をいたわるかのように。

 

 咥内を縦横無尽に蹂躙する全くの異物感と未知の刺激。

 それでも抗えなくて、応えたくて、味なんてしない指に甘さを確かに、脳髄で味わって。その味にしゃぶりつくように私の舌が踊る。

 

 擽りに吸い付いて。

 撫ぜに噛みついて。

 味わい返して。

 刺激を与える様に甘噛()みついて。

 

 舌と舌での交わりとは別の快感。その時間を思う存分に愉しむ。

 

 ”いい子だね”

 

 不意に咥内から指が引き抜かれ、あっと声を漏らす間も無く。

 別のもので口を塞がれる。指とは違う熱と()()()を感じて、しかしある種いつも通り安心と興奮がない交ぜになる刺激が。

 

 

 私と彼の距離を零にしたまま、滴りが橋になるまでの時間を数える余裕なんてなかった。




【後手縛り+梯子縛り+珈琲】

 ”お疲れ様。はいコーヒーどうぞ”
「ええ、ありがとうございます……」

 隙間の時間。一度小休憩を挟もうという話になって、先生が飲み物を取ってくるからと席を外してすぐに戻ってくる。
 片手にはいつものマグカップ。ただし湯気が出ていないところを見るに、アイスコーヒーなのだろう。
 ……先生はマグカップを私の前に差し出すばかりで、私の縄を解くそぶりはない。カップを見れば、そこには当然とばかりにストローが。

「……」
 ”……? ”

「あの、解いて頂かないと飲めないのですが……」
 せめてもの抵抗とばかりに一言述べてみるも。

 ”大丈夫だよ。ほら”

 笑みを浮かべてストローの飲み口を私が飲みやすいように、位置を調整されてしまえば。抵抗の余地はない。いつもであれば恥ずかしさを覚えるところだが、今日はもう観念している。

「いただきます……」
 ”美味しい? ”

 カップを口元へ運ぶのではなく口をカップへと近づける。首を前に出し口を窄めて、行儀が悪いとは思いながらもストローへと口を付け、一口、二口と喉へ運ぶ。
 口の中に広がるコーヒーの香り。普段は飲まないアイスだからか、ほんの少しだけ味が違う事に気づく。苦みが抑えられた代わりに、滑らかになった絹のような口当たり。

「はい。たまにはアイスコーヒーも悪くないですね」

 ”そっか。それは良かった”

 ひと時だけ流れる、いつものやり取り。あまりにも非日常かつ背徳的、そして官能的だった時間から一転、緊張の糸がほぐれ。……たのはいいのだが。

 ……。
 …………。

「あの、なんでじっとこちらを見ているのでしょうか」
 ”普段は見られないカンナだからさ。今のうちにじっくり見て目に焼き付けておこうかと思って”

 普段と違う可愛さがあるよねー、などとさらっと。

 直球で言葉をぶつけられることに慣れたとはいえ、気恥ずかしさは感じるというのに。
 先程までとは違う、いつも通りの優しい笑みを浮かべる先生を見やりながら、また一口コーヒーをすする。
 ブラックのはずのアイスコーヒーはなぜか、少しだけ甘い。

 これもまた感情いかんによるものなのか、あるいは。なんて思考と共に息を一つ。

 そんな隙間の、小休止。
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