”特別な使用許可……ねぇ? ”
まだ真昼の時間、場所はいつものシャーレの執務室……ではなくヴァルキューレ警察学校内の更衣室。
戦闘水泳訓練や海警任務で常用される深い青のビキニ。
胸に「安全」と大きく記載された、何とも奇……人目を引くデザインの赤のビキニ。
全身をほぼ覆える、ウェットスーツタイプの水着。
そして白と黒を基調にした、競泳水着タイプの物。
それらを並べた椅子の前でどれを着るかを悩む私と。その後ろに立つ先生。意味深に私の言葉を復唱し、含みのある目で私と水着を交互に見比べているのが、肩越しに見えた。
「……何か? 異性である貴方が更衣室に足を踏み入れるのですから当然の事かと」
多少の思うところを誤魔化すかのように口早に言葉を並べ立てる私は、果たして平静を保ててはいない。
今日先生をここへ招くために、予め申請していた特別な使用許可。
そもそもが寝耳に水な状態でライフセーバー任務に放り込まれた私。だからこそ、それに必須な水着を選ぶ為に先生をここに招く為の……という、至極自然極まりない許可申請。
だから当然この時間は。
いつもの場所とは違う、ヴァルキューレ内。
私と先生の二人きり。
”いや? ただ、どのくらいの時間を取ったのかと思ってさ”
「……──間ほど、です」
普段水着を選ぶという行為そのものをしない自分なら、
申請書に予定時間を書く際の、私の胸の内にある思い。……本当は分かっていた。慣れていないとはいえ、無数の選択肢から選ぶのではなく、数着の中から自分に合ったものを選ぶだけ。いいところ三十分、移動時間やその他もろもろを加味しても一時間も要らないだろうという事は。
だから、そんなのただの言い訳でしか無く。
せっかくの二人きりの時間を少しでも長く。
そんな想いが。私のペン先を躍らせたのだ。
……そして、我々のような関係にある二人が、更衣室で。二人きりになって、水着を選ぶという行為が。どこに行きつくかだなんて考えるまでもない。
その時の期待がいよいよ今、私の言葉に籠って熱として帯び。顔だけを振り向かせて投げた視線にもきっと、同じだけの温度が宿る。
「二時間、ですよ。先生」
肩越しに交わった視線にも当然、同量の熱がある。……だなんてことはそれこそ。考えるまでも無かった。
”そっか”
”わざわざ非番の日に。更衣室の特別な使用許可を”
”二時間も取ったんだ? ”
先生が私の言葉をなぞる。炎とさえ思えるような熱を帯びた視線。冷房が隅々まで行き届いた部屋の中で、隔離されたような温度を浴び。
「ええ。だって、貴方も期待を、していたでしょう?」
顎を気持ち引き、角度を付けて。お返しとばかりに私も同じくらいの熱で
知っているんですからね。貴方がどれだけ私に夢中か。私が貴方にどうしようもなく参ってしまっているのと同じくらい、私に参ってしまっているのだと。
文字通り、身を持って知っている。だってほら、貴方の熱がこんなにも。吐いた言葉に導かれるように彼が手を伸ばして私に触れる。
なぜだか汗ばむ私の肌と、彼の体温がよく交ざり。
漏れる息に宿る色は最早、夜より濃く。日常と非日常の境目に、豊かな彩りをもたらした。