“新エリー都 六分街 ビデオ屋 Random Play店内”
ガヤガヤと話すお客の話し声
テレビから流れる映像の効果音
黒猫のあくびの音
ンナンナワタワタと忙しなくも愛らしい声
お世辞にも決して広いとは言えぬ店内で続けざまに奏でられる色々な音。
「ありがとうございましたぁ〜」
そんな音の世界の中にまるでやる気の感じられない気の抜けた挨拶が1つ。
到底お客への感謝を込めているとは言えず、この世を舐め腐ったような巫山戯た挨拶を行った男がカウンターから気だるげに店内を見回している。
「ふわぁ〜あ....ねみぃ〜...」
勤務中に欠伸をし、それを取り繕おうともしないこの男の名は “ジャック”
このビデオ屋“RandomPlay”でアルバイト店員として働いている。
「腹減った...今日何時までだったっけ...」
そんな言葉と共にジャックの腹の虫が騒ぐ。
沢山の音が鳴るこの空間でも一際大きく鳴り響いたその音に、借りていくビデオを精査していた客達がなんだなんだと振り返る。突然視線に晒されたジャックはいたたまれなくなり思わず視線を横に逸らす。
逸らした視線の先には彼の事を呆れたように眺める愛らしい姿。
白と黒のベースカラーに緑がかった丸い瞳、チャームポイントであるオレンジ色のスカーフには18と刻まれている。
「そんな目で見ないでくださいよ、トワちゃん先輩...」
「ンナナ...(君はもう少し接客態度を改めるべきだと僕は思うよ...)」
このボンプの名は「18号」
この店で店長達と暮らすボンプでトワの愛称で呼ばれている。
主にカウンター業務を担当していて店長の不在時もレジを預かり、更には自分でビデオの販促まで行う凄腕である。
「これでも真面目にやってますよ。ただ暇になると心の余裕が少し口と腹から漏れやすくなるだけです。」
「ンナンナ...ンナナ!!(今日は人も多くないし、そこまで忙しくもないからね。でも頑張ったらアキラとリンに褒めて貰えるよ!!)」
「俺、ここでそこそこバイトしてますけど店長に褒められた記憶が数えるくらいしかないですよ...。褒めてください!ってお願いできるほど肝は座ってないですし。」
スマホ1台とインターノットさえあれば映画もテレビも見放題のこの時代、レンタルビデオを取り扱う店の需要は減りつつある。かくいうこの店も、そこまで繁盛している訳では無い。にも関わらずアルバイトを雇うのは店長の副業が影響しているのだが、カウンターで愚痴をこぼす彼には知る由もない話である。
「ンナナ?...(アキラもリンもとっても優しいから褒めてくれるし、撫でてくれるよ?)」
「そりゃあ愛くるしいボンプと生意気な人間のガキじゃあ対応も違うってもんですよ。」
ボンプの可愛さと人間の醜さまで話が飛躍しようとした時、入口の方から別の声がかけられる。
「驚いた、生意気だっていう自覚があったんだね。」
「別に言ってくれれば沢山褒めてあげるし、撫でてもあげるけど?」
「げ......アキラ店長にリン店長...、帰ってきてたんすか...。」
「ンナンナ!!!(アキラ!リン!おかえりなさい!!)」
2人に声をかけたのは中肉中背に銀色寄りの白髪と優しそうな笑顔を携えた男と、暗い青みがかった髪色に人好きのする笑顔が眩しい女の2人組。何を隠そうこの2人こそRandomPlayの店長であり、ジャックの雇用主でもある双子の兄妹のアキラとリンだ。
手にはビデオが沢山入った籠を抱えており、ビデオの仕入れから戻ってきたばかりだということが伺える。
「ああ、ただいま。」
「ただいま!トワ〜!!」
「思ってたより戻るの遅かったですね。なんかあったんすか?」
「いや、大した事じゃない。ただ仕入れから帰る途中で知り合いに会ってね、少し話し込んでしまったんだ。」
「またですか...。今日は誰と会ったんですか」
アキラから帰るのが遅れた理由を聞いた途端、明らかにジャックのテンションが数段落ちた。元々気だるげだった顔は更に気だるげに、暗かった瞳は最早光が感じられない程に。今にもため息をつきそうな顔をしているが、今日あったことを思い出すため話し合っている店長達はジャックの変化に気づかない。
「リン、覚えているかい?」
「えーっと...まず仕入れ先に向かう途中でお腹を空かせたニコ達に会ってルミナスクエアでラーメンを食べたよね。その後ルミナモールからたまたま出てきたルーシーとシーザーに会って少し話して、治安局の近くで朱鳶さんと雅さんがにゃんきち長官について揉めていたのを仲裁していたら、ヴィクトリア家政の依頼で近くまで来てたライカンさんとリナさんが手伝ってくれてそのまま仕入れ先まで送ってくれたよね。帰り道にクレタとグレースさんにあって少し話しをして、六分街についた辺りから後ろを付いてきてたビビアンをいなしながら帰ってきたって感じじゃなかった?」
「ああ、そうだったね。流石はリンだ。」
「へへ〜ん!!」
記憶力を褒められた事で気分を良くし、鼻を高くして威張っていたリンはその傍らでジャックが胃のあたりを抑えて小刻みに震えている事に気がついた。
「どうしたの?大丈夫?」
「ええ、ご心配なく.....。ただ少し胃が痛いだけですので...。」
「良くないものでも食べたのかい?もし酷いようなら今日は早めにあがって貰っても構わないよ。幸い、お客さんも今日はそこまで多くないし僕達とトワだけでも充分まわせるレベルだ。」
「まじすか...。ありがとうございます....、お言葉に甘えますわ...」
「ンナナ...(無理しないでね...)」
「ありがとうございます...お先に失礼します...」
その言葉を最後に、その場でエプロンを外し退店していくジャック。
その後ろ姿を心配そうに見つめる2人。この時彼が胃を抑えだした原因が自分達にあるのだと思い至るには、まだまだ彼らには時間と経験と察しの良さが足りていなかったのだ。
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バイト先からの帰り道をジャックはバツの悪そうな顔をしながら上着のポケットに手を突っ込んで歩いていた。勤務の途中からひっきりなしに来る通知で震え続けているスマホを知らないふりをしながら。
「はぁ〜〜〜〜.........。」
家に帰ってくるなり特大のため息をついたジャックはずっとポケットの中で震えているスマホを取り出し忌々しそうに眺めた。アラームのように震え続けるスマホはまるで、もう見て見ぬふりはさせんぞと脅してきているようである。
ジャックが恐る恐る画面をタップし、ノックノックを開いた。
通知を確認するとそこには....
『アキラ、アタシについてなんか言ってた!?!?アタシのことさりげなくアキラに勧めてくれたり、褒めてくれたりした!?当然してるわよね!!!』
『アキラ先生の今日の様子を聞きたいわ。できるだけ細かく、詳細にね。』
『なあなあ!!アキラのやつ俺様のことなんか言ってたか??今度一緒に出かけないか誘いたいんだけどどうしたらいいと思う!?』
『本日、アキラ様とリン様にお会い致しました。念の為ご報告を申し上げます。それはそれとして僭越ながらリン様と過ごす時間を頂きたく思います。ご都合のつく時で構いませんので貴方様からもお力添えを頂きたく。』
『アキラとデートがしたい。この身はまだ想い人とイチャイチャする修行中だ。予定を確認しておいてくれ。』
通知音とともに画面いっぱいに表示される甘ったるい文言の数々にジャックは顔を顰めた。バイト中に知り合ったたくさんの人達からの爆撃のようなメッセージに胃が急速に悲鳴をあげだし、ジャックはその場でへたり混んだ。そして訴えるように慟哭するのだ。
「なんで俺に言うんだよぉぉぉぉぉお!!!!!!」
このお話は、これから訪れるであろう修羅場を想像し涙目になっている彼の日常を覗き見るお話である。こわいね。
主人公の名前は適当に決めました。
意味なんてないです。強いて言うなら直前にバイオ7やった影響です。
気が向いたら続き書きます。