ツルギミコさんが猫の顔出し着ぐるみをつけられて戦うのみてみたいですっ。(お題箱より)
「…どうしてこうなった」
ヒミコは大きくもふもふした赤い猫の顔出し着ぐるみに詰められた状態でどこかに立っていた。
頭には「ニ」と書かれた鉢巻きを巻いて両手両足にはヒミコが普段着けているさらしや巫女袖の大きいサイズを着けている。首には同じく大きい勾玉が付いた白い首輪をしていた。
両目は大きなボタンで大きく開いた口は丸ごと顔出し穴になっている。大きすぎて中のヒミコの首まで見えており、もう少しで鎖骨も見えそうだ。
「作者がケジメ付けるためお題だけでもやっておきたいって言うから仕方ないだろ」
青髪に大きな狐耳と尻尾を生やした女性的な顔立ちの少年…『獣人王子と死神戦記』の主人公、リーフが言う。
「僕だって順当に書かれてれば死に別れた姉さんと天寿を全うした後の最期の夢の中で結婚式挙げてたのに…せめて鎌ぐらい振らせてほしかったよ」
リーフは寂しそうに言う。服装はなぜかミニスカサンタ姿だ。
「まあでもリーフは仲間のアリサの立ち絵と音声があるからいいよ。私の友達のセツ姉とヒナちゃんなんか声はあるのに結局見た目が描かれる事も小説に出る事もなかったんだから」
そう言いながら振袖を着た茶髪の少女…『Electro Saga』の主人公、カンナが言った。
「お前ボカロ曲の世界を巡るヒーローっていう美味しすぎる設定に加えてポムニの声優さんまで配役されたのに結局1話しか書かれなかったな。ボクは一応2話あるのに」
「うーん…まあこれ以上書いてもいつかボカロ界隈の人に怒られてただろうからこれで良かったのかもしれないね」
「おいお前ら」
黙って聞いてたヒミコが口を開く。
「これで最後なんだから2人ともさっさと着替えろ、これ以上作者のやらかしを列挙したら読者が帰るだろ」
「はいはいわかりましたよ…どうせ依頼主ぐらいしか読んでないだろうけど」
リーフは渋々自前の着ぐるみに潜り込む。
「もうこっから先はそういう発言禁止な」
「はいお待たせ」
リーフはヒミコが着ているものに似た着ぐるみを着ていた。違いとしては耳や尻尾、カラーリングがリーフ仕様になってもふもふの胸毛が生えアクセサリーの類は身に付けてない点だ。
「こっちも準備できたよ」
一方でカンナは看板娘のフロ子が着ていたフロビットの着ぐるみをそのまま着ていた。実際に小説内でも着る予定だった衣装だ。
「全員揃ったな、じゃあ始めるぞ」
ヒミコは可変する剣『クサナギ』を、カンナはエレキギターに変型する大剣『チューンブリンガー』をそれぞれ着ぐるみを着たまま構える。リーフは残念ながら素手のようだ。
「泣いても笑ってもこれで最後だからな」
「たくさん人を傷付けた分、せめて依頼してくれた人には笑ってもらおうね」
3人の最後の戦いが、幕を上げた。
「「「うおりゃあああ!!!!」」」
ぼふっ。
3人がお腹からぶつかり合い、柔らかい衝突音が鳴る。
「はあっ…はあっ…」
「えへっ…なんかみんな…かわいいね…」
かわいらしいゆるキャラ3人が口から女の子(1人男の娘)の顔を出してじゃれ合っている光景。作者の性格さえ悪くなければ着ぐるみ好きにはたまらないだろう。
「カンナ…お前だけ手足がタイツだし出すための穴も空いてるから腋とかオマタとかくすぐり放題なんだよな」
リーフが意地悪そうな表情で言う。
「えっいや…何言ってんの!?私全年齢向け作品の主人公なんだけど!?ていうか君お姉ちゃん以外に欲情できないんじゃなかったっけ!?」
「それはそれこれはこれだ!」
リーフは魔法で高速移動し一瞬でカンナの背後に回り込み、両腕を出すための穴に両手を無理矢理突っ込む。
「ヒミコ!いけ!!」
「おうよ!!」
ヒミコはカンナのしましまタイツに包まれた左足を担ぎ上げ、右手を下半身を出すための穴に突っ込んだ。
「や…やめてっ!!」
カンナはチューンブリンガーの刃を展開しながらブンブン振り回して抵抗するがリーフの着ぐるみの右耳が切れたぐらいで本体にダメージは入らなかった。
「「せーのっ!!」」
ヒミコとリーフはもふもふの着ぐるみに包まれた手でカンナのタイツ越しの急所を一心不乱にくすぐった。
「きゃははははははははは!!!!」
カンナは耐えられず大声で笑い出す。とても子供達のヒーローとは思えない無様かつ滑稽な姿だ。
「ひっ、ひいっ!もうらめっ!ギブ!!ギブアップ!!!」
涙を流しながらカンナが言う。
「よしいい子だ。よくやった、あとは休んでろ」
リーフは穴から両手を引っこ抜き、カンナを近くで寝かせる。
「はあっ、はあっ、はあっ…まだ熱いよぉ…」
顔と手足の付いた雪だるまが大の字になって寝転がった。
「それじゃ、第2ラウンド始めるか」
「お前とはここじゃない舞台で戦いたかったけどな…まあ言っても無駄か」
ヒミコはリーフのパンチを回避しつつスライディングキックを放つ。着ぐるみを着たまま器用なものである。
「この武器の優位性を教えてやるよ!!」
ヒミコがリーフの着ぐるみの腋腹に剣を突き立てると、そのまま薙刀形態に変型させパイルバンカーの要領で貫通させる。
「うぐっ」
絶妙な位置調整のおかげで中のリーフには一切当たっていないが、武器で串刺しにされ身動きが取れない。
「おらあッ!!」
そのままヒミコが薙刀を振り回すとリーフの着ぐるみが破れ、半分ほど素肌を晒したまま宙に投げ出された。
「うわあっ!?」
「悪いがこれで決着を着けるぞ…」
クサナギの刀身に走る溝が割れ、刃が鍔のように展開される。
その間に収まった柄の中心から、真紅の光の刃が形成される。
「ムソウノ…ツルギィィィィィィッッッ!!!!」
ヒミコが放った必殺の斬撃、ムソウノツルギによってリーフの着ぐるみがズタズタにされていく。
「いやああああああっ!!!!」
斬撃の嵐が鳴り止むとそこに座り込んでいたのは、着ぐるみの残骸で大切な部分を必死に隠すリーフだった。
「俺の勝ちだ、それにしてもやっぱすごい体型してんだなお前」
リーフの体型は小柄かつ非常に細いが筋肉はしっかりと付いていた。どことなく艶めかしい。
「うう…最後の最後までこんな扱いだなんて…」
リーフは涙目になりながら言った。
「でもまあ…最後にいい思い出が作れてよかったよ」
そう言いながらリーフはヒミコに抱きつく。まるで遊園地のマスコットキャラクターにハグしてもらう子供のようだ。
「それはよかった、俺ももう悔いはないからな」
ヒミコもリーフを強く抱きしめた。
「それにしても…なんか直に当たってねえか?色々と」
ヒミコは違和感に気付いた。
着ぐるみ越しに抱いているにしては感触が硬くなってきたのだ。
「ん?あ、本当だ。僕達いつの間にかいつもの服に戻ってるぞ」
「えっ!?」
気が付くとヒミコは露出度の高い巫女服、リーフは黒基調のジャケット姿に変化していた。
「私もなんか…いつもの服になってる」
汗だくで寝転がっていたカンナも、初音ミクをイメージしたいつもの衣装に戻っていた。
「これってもしかして…」
「…最後ぐらいはいつもの格好でお別れしろって事だな」
「ああ、違いねえ」
いつもの服装に戻った3人は横一列に並び、こちらを見る。
「今までこんな作者の小説を読んでくれて、本当にありがとう」
「たった数話で終わっちゃったけど…もし嫌じゃなかったら思い出の中にしまっててほしいな」
「もう会う事はないだろうけど、俺達は確かに生まれて生きた。もし生まれ変われるなら、次は誰も傷付けない優しい創作家に書かれたいもんだ。例えば…この小説を最後まで読んでくれたあんたとか、な」
そう言って、一斉に頭を下げた。
「「「今まで本当にすみませんでした、そしてありがとうございました 本作品をもってシマムラテツカネの小説は終了とさせていただきます」」」
言い終えたあと、どこか寂しそうな笑顔で透けるように消えていった。
おしまい