倉端直太だって恋がしたい! 作:ひよちゃんLove
「……うーん」
「どうかしたんですか?」
「いや、ちょっと考え事を……気にしないで。ううーむ……」
「は、はぁ……」
正直、気楽に行こうと言ったところで結局考え事が増えちまうのは仕方ないことだって思ってる。
『そうだったね。レナ・マンリエッタ・リエラ……彼女はかなり悪名高い犯罪組織の幹部に属して敵対組織もいたみたいだからね。遺体が上がってくることそのものは不自然じゃない。ただやっぱり、その状態があまりにもただの殺害とは言えないものだった』
『確かに可能性は低いながら無いとは言い切れない。状況証拠だけとは言ってもあまりにも当てはまるからね、用心するに越したことはないだろうね。でもあくまでも状況証拠だけだ、肩肘を張りすぎるのも良くない』
レナ・マンリエッタ・リエラ……という吸血鬼は俺が吸血鬼になっちまった元凶になったあのパックに入った血の持ち主だった。
しかもそいつは死体として発見されたって話で、血が全部抜き取られてて左腕はまるで切り取られたように無くなっていた。
そりゃ、可能性が低いと言われてもありえない話じゃないって言われたらどうにかしてひよ里を守れないといけないと考え込むのは当然のことのはず。
とは言ってもライカンスロープなんて吸血鬼の王とか言われてるくらいだし、そう簡単に俺が対抗出来るはずないんだよなあ。
はぁ、どうすりゃ良いんだろうか。
「むぅ」
「ん?どうした?」
「どうした、じゃないです。せっかくお休みの日2人きりなのに難しい顔ばっかりするんですから……」
「うっ、そ、それはごめんなさい……全面的に俺が悪いデス……」
でもそれだけに集中して彼女をほっとくのはもっとアウト。
この子と幸せになるためにどうやってこの生活を守っていくか考えてるのに、それで不満を溜めさせちゃうのはあまりにも間違いがすぎるってもんだ。
そんでもってそれで意地張るのは絶対違うしちゃんと謝る、今回やらかしたのは100%俺なんだし謝る謝らないで仲悪くなるなんてくだらないって。
でもそうだなあ、ちょっと考え事しすぎてたかなあ。
思い詰めすぎなのかね。
「何を考えているのかは私には分からないですし、きっと大事なことなんだと思います。でも、そればかりは寂しいです」
「ほんっとごめん、俺ほんとこういうところダメだなあ」
「あ、ご、ごめんなさい……そういうことを言わせたかった訳ではなくて……そ、そのっ、だったら気晴らしにデートっしませんかっ?」
「デートか……そうだなぁ、難しく考えるだけなのも良くないもんな。それに大事な大事なひよ里をほっとくなんてこと、したら過去と未来の俺にどつかれそうだからな。よーし!今日はもう難しいこと考えない!デートだデート!」
「はい、エスコートはよろしくお願いしますね?」
俺なんて元々バカなんだから下手に考えるよりこうやって過ごしてる方が絶対やりやすい。
守るべきものが出来て、決意もがっちりと固めて、それでちょっと肩肘の力が入りすぎてたのかもしれない。
だからこうして入りすぎた力を緩めてくれて、女の子らしくワガママ言って甘えてきてくれるひよ里がいるのは凄く救いになる。
それに俺だって大好きな女の子と2人きりでしっぽりデートなんてしたいに決まってる、だって男の子だもん。
そうと決まれば難しいことなんてかなぐり捨てて全力で楽しむ!
デートは他ごと禁止で楽しんでやるぜ!
「いやー楽しんだ楽しんだ!やっぱりデートって最高!」
「そう言ってくれると私としても嬉しいです」
「ゲーセン行って映画館行ってショッピングして、そういえばこう言う『定番』ってした事なかったよなあ。新鮮な気持ちだった……」
あれから何時間か。
ゲームセンターではUFOキャッチャーに2人でするシューティングゲーム、リズムゲームにエアホッケーと楽しんで映画はちょっと背伸びして今後の参考になるかも?と見た恋愛映画。ちょっと大人なシーンもあって恥ずかしかったけど普通にストーリー良かった。
あとはひよ里の服選びに付き合って、どれが似合うかーとかこれも良さそうだーなんてあれこれ盛り上がって。
「UFOキャッチャーの景品、本当に全部貰って良かったんですか?」
「いーのいーの、10割くらいひよ里が好きそうだな〜って思って狙ったやつだし」
「10割って……全部じゃないですか、もうっ」
「でもそれは俺が一番楽しいって思えるからやったことだし?」
「私も楽しかったですよ」
UFOキャッチャーは本土でも結構ハマってたのを思い出すなあ。
友達と放課後ゲーセン行ってギリギリのお小遣いでどうにかこうにか取れるようにってアホみたいに上達してたのが懐かしい。
おかげで今日は大量にひよ里へのプレゼントが出来た。
「それより映画の方がちょっと失敗したかなーなんて思ったりしてるケド。ちょっと背伸びしちゃったような気がして」
「そんな事ないですよ?確かに私達みたいな高校生が対象ではなかったかもしれませんが、ストーリーはしっかり楽しめました。……ちょっとえっちなシーンはさすがに恥ずかしかったですが」
「あ、ですよねー……俺もあそこまで大胆なシーンがあるとは思わず……」
普通にCMもやってた恋愛映画だったからなあ、大胆なシーンがあるなんて思わなかった。
そこはちょっと気まずかったけど全体的には楽しめたのでヨシ!
「でも私達……思えばあれよりその……だ、大胆なことを……ししし、していて……」
「ちょ、それは本当に恥ずかしくなるやつだって……」
「あわわっ、そ、そのその……」
楽しめたから良いけれど、それによって思い出してこうなるのはちょっと予想外だったかなぁ!
俺達確かに大人の階段登ってるし割としてることしちゃってるけど!まだまだウブなうら若き10代なんです!慣れるなんてこと早々無いんです!勘弁してください!
ええいこうなったら話題を変えるために何か気を逸らすことを……
「ってアレ?佑斗と布良さん?」
「えっ?あ、お2人ともお仕事中ですかね?制服を着てますし」
「だな、あんまり邪魔するのも良くないか」
そこにラッキー、佑斗と布良さん出現!
2人とも風紀班の制服……布良さんの場合巫女服だけど、を着てるから多分仕事中なんだろう、だったらあんまり声は掛けられないよな。
話し掛けられればもう少し気を逸らせただろうけど、そこは仕方ないってことであとは何とかするか。
「お、直太と大房さん」
「あれ?2人ともデート?」
でもまあ、見つかっちゃうなら話は変わってくるよな。
無視するのもダメだろうし、あっちから話しかけてきたってことは多分話しても大丈夫なくらいにはちょっと緩い感じで急ぎの仕事はないってことだろう。
だったら少しくらい話しても大丈夫だな、多分。
「はい。まあ、そんなところです」
「へへ」
「仲が良いみたいで何よりだ」
「ってそういう佑斗と布良さんは仕事中か?俺達と話してて大丈夫?」
「ああ、今は仕事と言ってもそこまで重たいものでもないからな。梓の知り合いに吉報が届けられるって感じだ」
「そそ、だから一応風紀班としてのお仕事って体で佑斗くんと行くんだ」
「なるほどなあ……ん?」
確かになんか布良さんが書類を持ってるけど、これが布良さんの知り合いへの吉報ってところかな、なんなのかは知らないけど嬉しそうで何より。
いやいや、それよりも、それよりもだ。
今お互いを『梓』と『佑斗』って呼んでたよね!?
聞き間違いなワケ無いし、いつの間に進展したんだこの2人……
「あの、お2人とも名前で呼び合うようになったんですか?」
「え?あ、あー……うん、まあ……わ、私達お仕事でペア組んでるからねっ!な、名前で呼んだ方がやりやすいかなー……なんて」
「そんなところだ。まだ少しだけ気恥しいけど慣れると思う……多分」
「おやおやおやぁ〜、いつの間にかそんな仲に進展してるとは……うんうん、確かに2人とも息ぴったりだもんなあ。いやー良かった良かった」
「あんまりからかっちゃダメですよ?」
「ちょっ、そんなワケ無いって!」
ひよ里に咎められはしたけど実際めちゃくちゃ良い雰囲気なんだからそういう風に自然と見ちゃうんだってば。
この前まではギリギリ『息の合うコンビ』ってだけでも通じたけど、だってモジモジしながらお互いチラチラ見たり目を逸らしたりしてさァ!そんなの見せられたら甘酸っぱいってなるだろ!
「ま、まあなんだ。俺としては嬉しいって思ったのはホントーなんだからな!そこだけは信じてくれよ!」
「はいはい、分かってるよ。そんでもってお前と大房さんのラブラブもご馳走様」
「あはは、嬉しいって思ってくれてるのは伝わったから大丈夫だよ」
「ら、ラブラブ……やっぱり布良さんと六連くんから見ても私達ってそう見えますか?」
「まあ、遠くからでも分かる程度には」
「幸せそうだな〜とは思うよね」
しかもなんかカウンター喰らってるし。
でも俺は気にしないもんね、ラブラブなのはいつものことだし、幸せなのも事実だし、常識の範囲内でラブラブしてるから迷惑も掛けてないし、度の越えたラブラブは家の中でしかしないし!
ひよ里の評判下げることなんて出来る訳がないだろ!俺が!
「ふ、ふふふ……俺達はなんたって世界一のカップルだし?」
「そうは思ってますけど少し気恥しいです」
「……俺も恋人出来たらあの気持ちが分かるようになるのかね」
「うーん、それは作ってみないことには何とも言えないよねえ」
それからしばらく話して2人は去っていった。
去り際に布良さんが
「あ、良かったら今度2人に紹介したい人がいるんだ。チョコバナナの露店しててとっても良い人だから!」
って言ってたけど、吉報を届ける相手ってその人なんだろうなあ。
「んじゃ、帰ろっか」
「そうですね。……気分転換になりましたか?」
「ん、そりゃもちろん。やっぱ俺はこういうことしてる方が向いてるわ」
「それは良かったです……きゃっ」
さて、あとは帰ってしっぽりイチャイチャでもしようかな……と考えてたところでひよ里が誰かとぶつかってしまったみたいだ。
気が緩んでたかな、俺が気を付けるべきだったな。
「おっと済まない、怪我は無いかな」
「い、いえ大丈夫です」
「そちらも大丈夫すか?」
「僕も問題ないさ、不注意で申し訳ない」
「わ、私の方こそ……」
「謝らなくて良いよ、僕の不注意は事実なんだから。それじゃあ、夜道には気をつけてね。お嬢さん。それと……キミも。お嬢さんを守ってあげるんだよ」
「う、うっす」
爽やかな男だった……なんか負けた気がした。
でもなんか、なんかあの男見た事ある気がするんだよな……気のせいか?うーん……ま良いや、難しいことは俺苦手だし。
「じゃあ今度こそ、離れないように手繋ごっか」
「……ですね」
そう、きっと大丈夫。
少しだけした嫌な予感を振り払いながら思い直すのだった。