倉端直太だって恋がしたい! 作:ひよちゃんLove
-AnotherView-
寮の方向から銃声が聞こえ、駆け付けたが寮は無事だった。
何よりもアンナさんにも何も無く、とにかく今は真っ先に狙われるだろうアンナさんの避難が優先だろうと駐車場まで誘導している途中。
外に出ると後から追い付いてきたであろう梓の周りを装甲服を身に付けた人達が囲っているのが見える。
その中心にいるのは……確か楓って子だっけか。
「本当に、ここで吸血鬼を匿っていたんですね」
「な、なんのこと?」
「言えないならそれでいいです。魚が餌に食いつけば、それで充分ですから」
「おい、どういうことだ?あの銃声はお前達のものだったのか?」
案の定狩人の連中か、それにしたって吸血鬼と一緒にいるってだけで狩人はこんなにも敵対心を顕にするものなのか?
他の狩人達だってピリピリしてる連中が多いように思える。……いや、数人を除いて、ではあるが。
「はい、ジダーノが網に掛かりました。何発か撃ち込んだので、捕獲も時間の問題です」
「本当か?」
「当然です。我々は風紀班のようにのんびりとはしていませんから。あとは仕上げですが、梓姫の出番はありませんので」
しかしいくらジダーノを捕獲するためとはいえ、こんな住宅街で銃を撃つなんて危なすぎるにも程があるだろ。
これが枡形主任や風紀班の面々なら信頼しても良いかもしれないが、好き勝手暴れ回って吸血鬼に差別的な視線を向ける狩人の連中がこんなところで銃撃戦なんて信用出来るはずがない。
それに梓の苦労や気持ちも知らず良くもズケズケとものが言えたもんだ、なんだってこんな優しい子がそこまで言われないといけないんだ。
「待てよ、梓はなぁ……」
「待って佑斗くん」
しかしそれを遮ってきたのは他でもない梓だった。
興奮しすぎて出過ぎた真似をしただろうか、いやだがこういうお堅い奴にはビシッと言ってやらないことにはなあ。
「か、楓ちゃん……その、ありがとう」
しかし梓はよりにもよって礼を言った、そんなことを平気で言ってくるようなデリカシーの欠片も無い奴に。
ほんの少しだけ、楓が驚いたような顔をしたが……
「良いのか、あんな風に言わせておいて」
「でも、これでアンナさんも無事仕事に戻れるから」
「アンナ・レティクルだと!?」
「これだから布良の血縁は……」
「よくもまああんな悪魔の警護なんて出来ますね。あいつがこれまでに何人の狩人を……」
アンナさんの名前が出た途端、狩人が更にビリビリとし出す。
話から推測すると、あの人は狩人を逆に何人も倒してきた実績があるのかもしれない……だとするなら因縁があるのもおかしくはないのか?
「でも、この島にとって大切な人だよ」
「それにこれが俺達の仕事だ」
「吸血鬼は黙っていろ、我々は……」
少なくとも梓の言葉は聞くのに吸血鬼ってだけで俺の言葉は無視をされる、それがとてつもなく歯痒く思う。
昔はさておき、今は温厚な吸血鬼だって多いんだって梓はちゃんと語ってくれたのに。
「楓姫、緊急要請だ!B班が苦戦しているらしい!」
「あれだけ撃ち込んだのに、ですか?」
「ダメだ、連絡が途絶えた」
「急ぐぞ、布良の者なんぞ相手にしている必要は無い!」
「……そうですね」
俺と梓を置いて黒ずくめの男達が足早にワゴン車に乗り込む。
しかし最後尾の男達……3人だけは一瞬だけこちらに来た。
なんだ?まだ何か因縁を付ける気なのか?
身構える。
「……お前ら吸血鬼も、布良も、アンナ・レティクルも。もしかしたら。ちゃんと話せる機会があれば……」
「何をモタモタしているのです!行きますよ!」
「ハッ!……いつか、分かる日が来たら……」
しかし、一番年長そうな雰囲気をした男だけが意味深な言葉を残していそいそとワゴン車に最後に乗り込む。
そうだ、ビリビリとした空気の中あの最後に来た3人だけがこちらに大きな敵意を向けてこなかった。
疑念や小さい敵意こそは感じたが、様子を見ているというか、何かこちらの真意を覗いているような、そんな感じがした。
「なんだったんだ、今のは」
「……狩人達も、きっと全員が全員、24時間吸血鬼に差別意識を向けてる訳じゃないってことなのかもしれないね」
「だったら……少しは希望が見えるのかな」
もしも、俺達吸血鬼のことを理解しようとほんの少しだけでも歩み寄ってくれようとする狩人がいるなら。
俺も狩人への見方をちょっとだけ変えたって良いのかもしれない。
「それにしても……大丈夫かな?」
「あいつらが心配なのか?」
黙って頷く梓を見ると、俺も全面的には否定の言葉を思い浮かべるのはやめておこうとなる。
少なくとも最後にワゴン車に乗っていった3人に関しては、もしもこの先の未来で出会えるのであれば、ちゃんと話をしてみたい……そう思えたから。
肯定も否定もせず、話題を続ける。
「ジダーノは強かったな」
「そうだね……」
重たい空気が流れる。
「佑斗、布良さん、今主任から連絡があって……」
「ジダーノを追い詰めたんで、出動命令ってところか?」
その重たい空気を少し吹き飛ばしてくれる美羽の声に、ホッとしながらそう答える。
まあ十中八九そうなるのは目に見えてたからな。
「よくわかるわね。アンナ様の警護に1人残してあとは来いって」
「大方、アイツらの援護って言う感じか」
なんだか釈然とはしないが、ジダーノそのものはさっさと捕まえないとならないのは事実だ、ならそれに従って動くしかない。
それに奴らが追い詰めたのもまた事実だしな。
「悔しいが今回は連中のお手柄だな。誰が行く?」
「私はいいわ。布良さん、佑斗、お願いね」
しかしそれはそれとして、奴らが仕留めきれなかった場合のお手柄はこっちに回ってくる訳だ。
だとしたらジダーノへのリベンジと狩人達を出し抜くチャンスとして捉えて動いた方がモチベーションは上がる。
よし、いっちょやってやりますか。
「……良いのか?今ならジダーノを捕食することだって可能なはずだが」
「僕は美食家でね。吸血鬼の肉はあまり美味しくないから積極的には食べないんだよ、キミ、知ってて言っているだろう?よしてくれよ、僕レベルになるとあの程度の吸血鬼を食べたところで大した強化にもならない。扇元樹だって、ライカンスロープとしては凡レベルだ。ジダーノを食った程度じゃ少し強いライカンスロープってだけでこの世界の王たる僕には到底及ばないからね」
「はぁ……分かった。まあレナの肉をあれだけ不味そうに食ってたら強制も出来ないからな」
-AnotherView out-
「落ち着いて避難をしてください!侵入者は陰陽局が抑え込んでいるので焦らず、慌てず、順番を守って避難を行ってください」
「はぁ……なんなんだろうな、俺。最近いっつもツキが回ってきた!と思った直後にツキに見放されてるような気がするんだよ……」
「だ、大丈夫ですよ。その度に乗り越えてるじゃないですか」
「まあ……それはそうなんだけどさ。なんなんだろうな、この気持ち。俺なんか悪いことしたっけ?っていうのもあるんだけど、それよりもそろそろこの状況に慣れてきたのが俺としては一番怖いよ。うん」
今日は各クラスの風紀班がいない……と言うからなんだか嫌な予感はしていた、学院に来るよりも優先される仕事があるってことはそれだけ何かまずいことが起きてる証拠だからな。
とはいえ、とはいえだぞ、よりにもよってその元凶がまさか学院に突っ込んでくるとは思わないじゃないか!
おかげでなんの関係も無い俺達がこんな目にあってるし!
しかもなんならもう騒動に巻き込まれ過ぎて風紀班が追ってた凶悪犯が学院に侵入してきたと知ってるのに割と冷静にいられるというか、こんな不幸だの不憫だの言ってられる余裕が何故か出来てるし。
こんなのに慣れたくなかったよ俺。
「おいおい大房さん、倉端お前らよくそんな冷静でいられるな……」
「まあその、色々事件に巻き込まれてるんで……」
「お前が言うと説得力が増すから切ねえわ」
クラスメイトは青い顔をしながらそう突っ込んでくるが、俺だって一般人でいたかったよほんとさ。
「……ん?」
周りの喧騒なんて知らんぷりで、それでいてひよ里の手は離さず繋いだまま窓の外に目が何故か向いた。
暗がりの中でもやっぱり俺の目は良く見える、良く見えるからこそ、その違和感に気が付いた。
遠くの校舎に一瞬見えたのは明らかに満身創痍そうな大柄な男。
見るからに武装してるって訳でもなければ単独行動だし、周りに誰かいる気配も無いし陰陽局の局員とか狩人ってことは無さそうだ。
ってことは多分、陰陽局が追い詰めてるって言ってる例の学院に侵入してきた傍迷惑な凶悪犯なんだろうけど……
「直太くん?どうかしましたか?」
「ん?あーいや、なんでもない。行こうか」
「はい」
「悔しいけどお前と大房さん、ちゃんとお似合いだから祝福するしかないんだよなあ」
ひよ里に腕を引かれて窓を見るのを辞める。
もう窓を見ることはない、今は確認よりもひよ里を守ることが最優先だからな。
だが、もしもあそこにいるのが話に出ていた凶悪犯だとしたら間違いなくなんかおかしいぞ。
だってリアルタイムで『追い詰めた』って情報が入ってるのに、あんな満身創痍な姿で逃げられてるのは違和感しか無い。
俺のバカな頭で考えるんだとしたら……いや、何かピンとくることはやっぱり思いつかない。
ただ……
本当に『追い詰めている』ことも『あそこに満身創痍の男がいた』ことも事実なんだとしたら。
じゃあ『今追い詰められているのは誰なんだ?』
たった一瞬だけ見えた情報でどれだけ信用してもらえるかなんて分かったもんじゃない、なんなら全く信用されない可能性だって普通にある。
でも、こればっかりは伝えないとまずいと俺の頭の中が警告している、だったらどうにかして伝えないとならない。
……それに俺には、他のどんな関係者にも信用されなかったとしても佑斗がいる。
アイツに伝えられればきっと、可能性の一部としてすくい上げてくれる、そう信じている。
もう一度、ひよ里の手をギュッと握り締めた。