倉端直太だって恋がしたい! 作:ひよちゃんLove
多分、こんな人達だっている。いたっていい
「はぁ……」
「大丈夫ですか?」
「いやまあうん、大丈夫っちゃ大丈夫だけどさ……」
あの騒動から一夜明けて、一応聞いた話によると学院に侵入してきた凶悪犯とやらは狩人と風紀班によって撤退したらしい。
アクアエデンからも撤収したって聞いたからその話を鵜呑みにして信じるなら平和が戻ってきたことになる。
まあ、あんなもの見たせいでそんな話1つも信じられる訳も無いんだが……って今はそういうことを考えてるような元気も無い。
「いっつも怪我するとは思ってたけどさ、まさか右腕が吹っ飛ぶとは思わないじゃん……」
「あはは……そうですね。私もびっくりしちゃいました」
「おかげで凶悪犯?は退治出来たみたいだから良かったが……」
原因はやっぱりまたしても佑斗だった。
骨折程度なら「またやりやがったな〜」と弄っておけるが、今回は右腕がちぎれたとか吹っ飛んだとか聞いたから気が気じゃない。
病院の目の前まで来てもやっぱりため息をついてしまう。
「あれ?あそこにいるのって……」
「え?……あっ」
さーてどうやって顔を合わせるべきかと思っていると、ひよ里の少し驚いた声が聞こえた。
ふと顔を上げると院内にどこか見覚えのある顔が2つ分見えた。
あれは……確か、この前ウチに飲みに来てた狩人の連中か。
それも先輩の方ではなくその後輩だろう2人。
聞いた話じゃ狩人は全滅して佑斗と布良さん2人で何とかしたというんだからビビったが、そうなるとあの3人も少なからず怪我をしたことにはなるんだよな。
……少しは分かってくれてたみたいだし、ちょっとだけ見舞ってやるのも悪くはないかもな。
「……佑斗のお見舞いの前に2人と話しとくか」
「時間はありますし、良いと思いますよ」
こっちにしたって狩人に偏見を持つのは良くないからな。
じゃあちょっとくらい歩み寄って行くのは吸血鬼側だってするべきだろうしな、ベンチに腰掛けて一休みしてる2人に近寄り腰を下ろして声を掛ける。
「……怪我、大丈夫そうか?」
「誰かと思ったらアンタらか」
「昨日は災難だったよ、それに風紀班にメインディッシュも奪われちまうし」
「お2人とも無事みたいで良かったです」
「……アンタらには結構迷惑掛けたな」
「悪かったとは思ってるよ。つーか心配してくれるんだな」
ところどころ傷が見えるが元気そうで少し安心した。
この人達とはちゃんと話したいと思っていたから、こうしてお互い会話出来ていることがなんだか嬉しい。
「まあそりゃな。一応顔知ってるし、考え方を改めてくれたからな。狩人と吸血鬼、少しでもお互い歩み寄れたらちょっとは世の中平和になると思ったし……悪くないって思ったんだ、狩人と吸血鬼がお互いを理解し合って平和にしようとする世界が。……なんて、ちょっとガラでも無いよな」
「……俺達にはまだそこまで吸血鬼を理解は出来ない。ただ、先輩なら或いは」
「つってもパイセンは大怪我しちまったからな。何にせよ俺達は少しずつ吸血鬼を知るところから始めるよ。ま、軽傷者はそろそろ本土に帰らないといけないけどな」
「じゃあ、今話せて良かったよ」
理解は出来ない、と言いつつもちゃんと向き合って話してくれて、対等な立場で言葉を交わし合うことが出来たのはかなり嬉しかった。
そろそろ本土へ帰るなんていうかなり忙しいスケジュールで気の毒だが、2人のことは応援したいと思えた。
「アンタらが先輩の部屋に行くかどうかは別として、いる部屋をメモしておいてやる。気が向くなら行くと良い」
「そんで良かったらメモをパイセンに渡してくれると助かる。んじゃ俺達はそろそろ行かないとなあ。はぁ……お上も無茶言うぜ、ったく」
「……ゆっくり話す時間があれば、もっと分かり合えたのかもな。その先輩のとこ、行ってみるよ。ちょっと寄っても大丈夫だよな、ひよ里?」
「はい。寮の皆さんより遅いお見舞いにはなると思いますが、面会時間としては問題無いと思います」
メモの一部みたいな紙を渡される。
そこには存外丁寧な文字でその『先輩』の部屋番号だろう数字と
「案外話しやすかったぜ、コイツら」
と書かれていた。
そんなものを見ると、やっぱりもう少しだけ時間があればと思わずにはいられなくなってしまう。
でもこの人達にとって狩人と言う仕事は大切なものだろうし、それで生きてるんだから仕方ない。
「分かった。それじゃ行くか」
「ですね」
「また会おう……というのは職業柄縁起が悪いからな。お互いもう会わないことを願っている」
「次会う時は敵同士かも知れないしな。ま、悪くなかったぜ。2人と話せたこと」
また会えれば……なんて思ったけど、多分2人の言うように会わない方がお互いにとって幸せなんだろうと俺も思う。
結局のところ、狩人をやっている以上仕事以外でアクアエデンに来ることは無い。
次ここに来ることがあるなら、それは狩人を管轄している上からの指示でアクアエデンの吸血鬼に何かしらのアクションを起こす時になる。
だからきっと、会わない方が良い。
返事を聞かずに去っていく狩人達の背中に、考え方を見直して見方を変えてくれたことへの感謝、今日話せたことへの感謝を無言で伝え、俺達も背を向けた。
「ここかな……って佑斗の部屋と近いなおい」
件の『先輩』の部屋に着いて思ったことは、良く良く考えると佑斗が泊まってる部屋と結構近いということだった。
一応表じゃ協力関係だったとはいえ狩人と吸血鬼の部屋が近くて良いのか……と言うのは一旦飲み込み、まずはせっかく来たのだからとノックをする。
『ん、誰だこんな時間に』
「あー、えっと、この前のBARで働いてた店員……って言えば伝わるのかな。さっきそこで、一緒に来てた2人と会って、よから見舞ってあげてほしいということで来たんすけど……」
『……あの時のか。分かった、入って良い』
あの日同様、割かし冷静で大人っぽそうな話し方なのが緊張をほぐしてくれる。
しかし一度会っただけの俺達を良く信じて入れてくれるよな……俺ならちょっと警戒しちゃうところだけど。
「失礼します」
「どもっす」
「わざわざ来てもらって申し訳ないが、俺は如何せん身体を起こせなくてな。前回のBARでのことを含め非礼を詫びさせてもらう」
「いえいえそんな、お怪我をされているのだから仕方の無いことですよ。こちらこそ突然尋ねて来てしまっていますし」
「BARのことも、結果として丸く収まってるから大丈夫ッスよ。それに、あそこで吸血鬼への見方を変えてくれたからこそ、今日話したいと思ってここまで来たんスよ」
この人は本来とても真面目な人なんだろう。
丸く収まったBARでのこと、そんでもって自分の責任どころか仕事で負った傷で身体が動かせないことを謝ってくる人ってのはほとんど見ない。
そこも含めて、やっぱり一番話してみたいとなっていた。
「……なるほどな。難しい話は省略するところもあるが……ちょっと語りたくなった。良いか?」
「むしろそれは助かるッスよ」
「私も、聞いてみたいです」
男はふぅ、と息を漏らすとぽつりぽつりと呟く。
今まで親しい人にしか伝えてこなかっただろう話を、1つ、1つと静かに話していく。
「……俺は吸血鬼狩りの一族の出でな。小さい頃から吸血鬼を狩ることを宿命として教育されてきた。でも、俺には良く分からなかった。もう昔みたいに狩りをしなくても良い時代だって言うのは現代社会に少しでも触れれば分かる話だ」
「だが、そんな時に俺の両親が殺された。吸血鬼狩りの、狩人の任務でアンナ・レティクルに殺害されたんだ」
……ああ、この人が吸血鬼に対してあんな態度を取っていた理由が何となく分かった気がする。
「確かに俺の親は厳しかった。だがそれ以上に俺に愛を持って接してくれていた、そんな親を殺されれば……誰だって憎悪の1つくらい浮かぶもんさ。
そして思った、アンナ・レティクルの愛している吸血鬼を狩り尽くすことが復讐になるんじゃないかって。それが俺の狩人としての宿命なんだって」
「でも、心のどこかでは分かってたんだ。彼女だって自分が殺される危険があるなら返り討ちにするだろうと。殺さないと自分が殺されるのだと。だから憎しんだって意味が無いと。
分かってても、止められる奴がいなかった。だから俺はこんなになるまで憎悪していた。
そしてあの日、俺より……いや、今まで会ったどんな存在よりも強いと感じたあの男によって止められた。彼は止めてくれたんだ、俺を」
「本当は、誰のことだって恨みたくなかった。狩人だって本質的には向いてないことくらい、最初から分かってた」
アンナさんが無闇に人を殺す訳がない、それは少ない時間って言っても何回か話したことのある俺でも分かることだった。
そしてこの人もそれを分かっていて、でも親を失った辛さと悲しさの方が上で、誰かに止めてもらいたかった。
それがあの日だった、ってことか。
本当は誰のことも傷つけたくないくらい優しい人なんだ、この人は。
「こんなこと話すの、あの2人以外だと君達が初めてだ」
「優しい人、なんですね」
「そうだろうか。俺はこれまでに何人もの吸血鬼を狩ってきた。それが正しいことなのだとしても、俺はヒトゴロシなのさ」
「いーや、やっぱりアンタ優しい人ッスよ。吸血鬼をちゃんと人とおんなじ立場で見てくれて、正しいことだって思ってても命の重たさを知ってる。そんだけでめちゃくちゃ優しい人じゃないッスか」
アクアエデンにすら、無意識に吸血鬼を下に見て来たり差別したりする連中は少なくない。
そんな中で、確かにヒトと同じ立場の命として扱ってこれで良かったのかと悩んでるのはそれだけでどういう心を持ってる人か分かる。
だから、ここは押し通したかった。
「そう……言ってくれるか。それなら、それなら……今までの俺も、少しは救われるのかね……」
ただそれを、俺達は無言で受け止める。
そこに何か言う権利を持っていないのもそうだけど、静かに流す涙に言葉は要らないと思ったから。
ただ、静かに。
それを見つめ続けた。