倉端直太だって恋がしたい!   作:ひよちゃんLove

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chapter8-4『情報と開戦の匂い』

「なんというか、あの人達にも色々あるんだなって気持ちにさせられたよ」

 

「そうですね。……少しでも幸せになってくれることを願ってます」

 

 病室に一礼して出ていった俺達は、一度近くの椅子に腰を下ろして聞いた話を振り返っていた。

 現代社会を見て狩人の在り方が古過ぎると思っていること、元々狩人になることへのモチベーションはそんなに無かったこと、両親を殺されてその悲しみと怒りから狩人になったこと、でも本当は誰も悪くなくて傷付けたくなかったこと、そんな優しい人の話を。

 

「それに、まさか吹っ切れるとは思わなかったよ」

 

「狩人をやめる、と言うとは思いませんでした……」

 

 そして語り尽くしたあと、静かに涙を流したあの人はしばらくして息を付くと憑き物が落ちたような顔でこう語った。

 

「本土に帰ったら俺は狩人をやめるよ。心の奥底ではずっとやめたくても、そのきっかけが無かっただけなんだってやっと分かったからな。家族もいないし、アクアエデンで今まで見ないふりしてきた吸血鬼のことをちゃんと見てこの都市を支えられることが出来れば良い。そう思ってる」

 

 復讐心や怒り悲しみだけで動いていただけで、それ以上のモチベーションはもう無いんだって語っていた。

 後輩2人には泣き付かれるだろうけどなんとかして説き伏せて来る、とも言っていたっけか。

 

「でもまあ、向いてないって言ってたくらいだしな」

 

「こちらに来るのでしたら、またお話も出来そうですしね。ところで、最後に渡されたメモの内容はどんなものなんですか?」

 

「あー……これに関しては渡した俺すらあんまり見ちゃいけないような内容っぽい。多分佑斗……というか風紀班宛の内容だと思う」

 

「なるほど……」

 

 ところで、最後の最後にはお互いメモを交換した。

 俺の方は『後輩』2人から渡してくれと頼まれていたもので、それを見た『先輩』は静かにフッと笑っていたのが印象深かった。

 そして俺が渡されたものは、正直言って俺が見て良いものでは無い……と直感出来るものだった。

 

 本当にこれを俺に渡して良いのか、そう聞き返してしまうくらい。

 

「本当は渡しちゃいけない内容なんだが、今回はあのガキの吸血鬼が頑張ってくれたから俺達が無事だった訳だからな。その礼に何としてでもこの『可能性』は伝えてやらなくちゃならない」

 

「あれ?俺達と佑斗が知り合いって伝えてましたっけ?」

 

「ああ、あの吸血鬼と知り合いなのは個人的に調べて知ったことだから気にしなくて良い。どういう経由で調べたかは秘密だがな」

 

 なんて語っていたから、多分大丈夫じゃないんだろうけど。

 というかどっからどうやって俺達と佑斗の関係性を調べ上げたのか知りたいような知りたくないような……

 

 とりあえず、このメモは佑斗に必ず渡さないといけないってことだけはバカな俺でもしっかりと伝わったけど。

 

「んじゃ行きますかね」

 

「その、メモを渡す時私は外していた方が良いんでしょうか……」

 

「うーん、多分大丈夫だと思う。俺達がいる前で今回の仕事の話って佑斗も布良さんも矢来さんもしたことないし。多分預かるだけ預かって風紀班に持ち帰ると思う」

 

「……それなら大丈夫そうですね」

 

「あ、でも1つだけ個人的に秘密で伝えたいことがあるから。それだけちょっと」

 

「分かりました」

 

 佑斗は迂闊なところはあるけど、本当に大事なことはちゃんと線引きして考えてるから大丈夫なはずだ。

 特にこんな大事なこと、いくら親友相手とはいえ風紀班に関係無い奴相手に大っぴらに話せるはずがないからな。

 

 

 ……だとしたらなんで俺がそのメモを佑斗に伝える役目にされたんだろうな、本当にさ。

 

 ただ、それとは別に俺もちょうど『この事』で伝えないとならないことがあるからタイミングが良いって言ったらそうなのがなんとも言えない気持ち悪さを覚えた。

 俺の見たものと直感が当たってたとしたら、俺にとってはかなり都合が悪いしなあ。

 

 

 

 

「よう佑斗、元気そうだな」

 

「お見舞いに来ました」

 

「直太に大房さん。みんなと一緒にいなかったから今日は来ないものだと思ってたぞ」

 

「わりわり、ちょっと寄り道してたもんで」

 

「寄り道?」

 

「ああ」

 

 佑斗の病室のドアを開けると、そこには右腕はギプスでガッチリ固定されて左腕も針とチューブ?に繋がれた親友の哀れな姿がハッキリと見えた。

 いや良く考えるとそれだけボロボロになってもピンピン出来るくらい吸血鬼は頑丈なのか、そう考えると恐ろしいな吸血鬼の生命力。

 

 っと、とりあえずまずは忘れない内に託されたとんでもない内容のメモを渡さないと、だな。

 

「ちょっと知り合いになった温厚な狩人からこれを預かっててな」

 

「温厚な狩人?……まさかあの3人の内の誰かか?いや、分かった。これだな?」

 

「お前の言ってることが何の話かは知らないけど、渡すものはそれで合ってる」

 

「分かった。……なに?これは本当にその『狩人』に渡されたもので合ってるんだよな?」

 

 やっぱりというべきか、佑斗はかなり動揺した様子になった。

 それは全く知らなかったというよりはどこか身に覚えがあることが繋がったような感覚で動揺した……みたいな感じで、俺としてもその反応をされると色々と察しがついてしまう。

 

「それで合ってる。風紀班で本格的に捜査したいって言うならその時に病室に案内するぞ、しばらくは身体が動かせないくらい重傷だからな。……それと、俺からもちょっと話したいことがあるんだ。ひよ里、悪いけど」

 

「分かりました、それじゃあ私は飲み物を適当に買ってきますね」

 

「ごめん、ありがとう」

 

 そんでもって、これで俺の見たものとの整合性?とやらも合っちゃうのがとてつもなく嫌なんだよな。

 ひよ里に一度、それとなく席を外してもらって佑斗と俺と2人だけの時間を作ってもらう。

 コイツと話すのがこんなにも嫌というか、気分が乗らない、話したくないと思うのは人生で初めてかもしれない。

 

 でもせっかく2人だけの場を作ってもらったんだから話さない訳にはいかないんだよなあ。

 

「それで、話ってのは?」

 

「正直言って信ぴょう性があるかどうか自分でも微妙なことだからさっさと言うけどさ、学院に陰陽局が追ってるって言うやべーのが侵入してきて避難してる時に2階から見たんだよ。窓越しに別棟にいる不自然な男を。ボロボロなのに1人でいるし、周りの情報だともう侵入者は追い詰められてたって話だろ?」

 

「……そうだな 」

 

「なのに追いかけてるような人間の気配も無くて。数秒しか見れてないからこれが証言として通るかどうか分からないけど、間違いなく『このメモに書かれてる内容と辻褄が合う』じゃん?」

 

 メモのおかげで少しだけ信ぴょう性が上がった、俺が目撃したあの日のことを伝える。

 こればっかりはひよ里にすら伝えられない、正確性も何も無いのに巻き込んだら後悔してもしきれないくらい後悔する。

 

「ま、待てよ。つまりそうなると……」

 

「少ない可能性だけど、佑斗の考えてることはありえるんだろうな」

 

「マジかよ……」

 

「ほんと、可能性の話だけどなどっちも」

 

「それでもだ。この話は必ず風紀班に通さないといけない、そうなると直太、お前にも事情聴取が来ると思うが」

 

「覚悟が無かったらこんなこと言ってないっつーの。そんじゃ俺はひよ里呼んでくるから」

 

「ああ。本当に助かった」

 

 出来れば、今のこの時間が無駄であってくれた方が平和なんだけどな、と思いつつ一旦病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よりにもよって、一番嫌な仮説を持ってこられるとはな」

 

 1人になった病室で頭の中に入れ込んだ情報を整理する。

 件の狩人が誰かはさておき、その狩人が仕入れた情報と直太の情報でかなり脳みそが疲れることになっている。

 

 

『本土にいた頃の経験、知識と間近で見たジダーノの身体的特徴を加味するにあの時の奴は薬物を使っているとはとても思えなかった。更に言動や挙動もまるで別人としか言い様が無かった。杞憂で済めば良いが、あれが本当にジダーノだったかに付いてもう少し慎重に捜査すべきだろうな』

 

『2階から見たんだよ。窓越しに別棟にいる不自然な男を』

 

 

「信ぴょう性そのものは確かに低い、低いが……」

 

 まさかそんなことが、と一蹴するのは簡単だ。

 だが、実際にジダーノと二度対峙して違和感を覚えたのは事実。

 明らかにクスリでも使ってないと言い訳不可能なほどのハイテンション、これは最初対峙した時かなり冷静沈着だったから特に思っていることだ。

 そして記憶の混濁、俺のことを覚えていないような発言をしていたのは妙に気になっていたところだ。

 何よりも、ヴァンパイアウイルスを破壊するような銃弾を何発も撃ち込まれていていくら吸血鬼の中でも相当強靭な側に位置するあの男でもほぼ無傷レベルでいられる訳が無い。

 

「はぁ……これはあってほしくないんだけどな。こういう時に限って『ある』から困るんだよ」

 

 どうしたものかと憂鬱にならざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦は滞り無く進んでいるようだね」

 

「ええ。ですが不可解なことが一点だけ」

 

「おや、用意周到なキミが不可解というのは珍しいね。一体どうしたんだい?」

 

 暗闇の中で、メガネを掛けた男と車椅子の女が話す。

 どちらも計算高く用意周到、並大抵の人物では騙すどころか騙されるのがオチという中で『不可解』そう呼ばせるものがあった。

 

「ジダーノのことですよ」

 

「彼がどうかしたのか?確か記憶はキミが引き継いだはずだろう」

 

「ええ、そこは問題無いんですがね。彼は予定とは違う場所にいたんですよ。それもあのボロボロの状態でそんなに移動出来るとは思えないくらい別の場所に、追手も振り切ってね」

 

「……ほう。それはそれは、中々に興味深い話じゃないか」

 

「そうでしょう?彼曰く、意図しない介入によって能力で転移させられた可能性が高いと話していましてね。そうなると、こちらのやることがバレている、もしくは勘づかれている可能性もあります」

 

 外部干渉、それは彼等が今最も警戒すべきことだ。

 極秘で行っていることのために今回の騒動を起こしたのだから当然、それがバレているとなれば全てが水の泡。

 それだけは何がなんでも避けねばならない。

 

「分かった、こちらでも何とかして原因を探ってみよう」

 

「そうしてくれると助かりますよ。不穏分子は排除するに限ります」

 

 果たして思惑が勝つのは、どの陣営か。

 

 それはまだ、誰にも分からない。

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