倉端直太だって恋がしたい!   作:ひよちゃんLove

36 / 44
chapter10-1『そう何もかも上手く行く世の中だったら苦労しない』

『最近吸血鬼が半ば無秩序に検挙され始めているから気を付けるように』なんて物騒な話が学院でも話題に挙がっている。

 ここ何日か佑斗が慌ただしく動いてたから何かあったのかと思ったけれど、なんでも不法滞在中の吸血鬼を検挙するという名目で吸血鬼をほぼ無秩序に難癖を付けて検挙しているらしい。

 

 でもなんか、開発地区の吸血鬼が一斉に消えた……なんていう都市伝説かそうでないか良く分からないことまで噂に聞くし、なんかもうみんなかなり何が嘘で本当かを見極めようとピリピリしている。

 

 そんな訳で学院じゃ数名のグループを作っての登下校で狩人達からの襲撃に備えて行動しろ、という連絡が来た。

 あの3人の狩人を見て少しは見方を変えようと思ったのに、結局大部分の連中は見たまんまの解釈でも良さそうっていうことになっている。

 

「おお、倉端、大房さん。悪いな一緒に行って帰ってもらうことになって」

 

「良いって良いって、今は助け合いが大事だろ」

 

「そうです。学院生誰1人とて欠けちゃいけないんです。みんな大事な方達なんですから」

 

「優しすぎる……」

 

 俺達のグループは俺とひよ里、それに友達の吸血鬼1人。

 ジダーノから避難する時にも話していた友達なんだが、帰る方角的に俺達の家が一番近いからということで一緒に帰ることになった。

 とはいっても、俺達の家からでも数百メートルあるからそこを中継地点にしてコイツの親御さんに迎えに来てもらうという感じにしているが。

 

 ……この際同棲してるのがバレるのは仕方ない、佑斗とあそこの寮のみんな以外だと一番信用してる友人でもあるしきっと秘密にしてくれるだろう。

 それよりもコイツが危険な目にあう方が心配でたまらない。

 せっかく出来た友達なんだ、守れるなら守りたいに決まってる。

 

「俺達が優しいのは今に始まったことじゃないだろ?……そこで1つ頼みがあるんだ」

 

「頼み?まあ俺に出来るなら良いけどよ」

 

「その……今から行く家についてなんですが、出来ればあまり他言してもらいたくないんです」

 

「はぁ……それくらいなら良いけど……なんで?」

 

「それは着いてから説明する」

 

「お、おう」

 

 今になって思うけど、良く探偵ごっことか後を付けられたりとかされなかったよなとしみじみとしてしまう。

 そんだけ他人のプライベートに首を突っ込まない良い奴らってことなんだろうけど、そのおかげで助かった……

 

 まあだからコイツに見せても大丈夫だろうって判断にもなった訳で。

 

「はいここ。『俺達の家』」

 

「…………ん?今なんつった?」

 

「俺達の家だよ」

 

「はい?え?俺達の家?つまりあれか?大房さんと倉端って……」

 

「同棲しています……あはは」

 

「な、なんだと……羨ましい……羨ましすぎるぞ倉端ぃ……六連に続いてお前までラノベの主人公みたいなムーブしてただなんて……よよよ……」

 

 本土にいた頃の俺が今の俺の生活を聞いたらこの隣で灰になりかけてるのみたいになってるんだろうなあと他人事みたいに思ってしまう。

 いやいやもしかしたらそれ以上だったかも、何せ是が非でも童貞を捨てたいが為に俺は最初このアクアエデンの地に降り立ったんだ、悲しき童貞の気持ちは週14になってしまった今でもこの魂にしっかりと刻まれているさ。

 

「大丈夫、心配するな。俺の中の童貞を想う気持ちは失われちゃいねえ。俺だってこっちに来るまではお前と同じだったんだ。希望を捨てるな、いつかお前にも良い彼女出来るって」

 

「く、倉端……」

 

「ああ……!」

 

「でもお前今童貞じゃねえじゃねえかよ!!」

 

「それは否定しない」

 

「ドウシテ……ドウシテ……」

 

 ただ、やっぱり分かるのは気持ちだけなんだよ、申し訳ない。

 もう分かち合うことは出来ない、俺は童貞をやめてしまって今や人生……吸血鬼生?バラ色だからな。

 

「あの、早く入りませんか?」

 

「あーごめんごめん、つい話が盛り上がっちゃって」

 

「ダメですよ、危ないんですから。あの、ちょっとしたおもてなしくらいしかできないと思いますが……」

 

「え?良いの?」

 

「その代わり、ここのことは……」

 

「なるほど、賄賂ってことね。了解了解、それなら喜んでもてなされるよ」

 

 家に入ると友人はなんだかテーマパークにでも来たようなテンションで家中を見渡していた。

 ……そこまで気になるのか、俺達の家。

 でもまあ、自分だけが知れる秘密の場所ってなるとやっぱり興奮するもんなのかね。

 

「なあ、なんか監視カメラみたいなのちょくちょく見るんだけど」

 

「それはひよ里の両親が付けたやつらしい。元々ここ貸し出してた家だったみたいでさ」

 

「へぇ、それで今は大房さんと倉端に貸し出されてると」

 

「まあ、そんな感じ」

 

 家に入るまでは表面ではギャグっぽいことしてても本当はかなり警戒はしてたけど、家に入っちまえば狩人もそこまではやって来れないし安心だな。

 

「お茶とお菓子の用意が出来ましたよ〜」

 

「ありがとうひよ里」

 

「……なあ倉端」

 

「ん?どうしたよ」

 

「倉端と大房さんって傍から見てるとなんか夫婦みたいだな」

 

「ふ、夫婦……ですか?」

 

「俺達そんな感じに見えるのか?」

 

「めっちゃ余裕あるというか、カップルって感じの場面もかなり多く見掛けるけどふとした時に見る2人って24時間カップルしてるってよりは、結婚して少し経って地に足着いたみたいな落ち着いた雰囲気が見える時がある」

 

 俺達が夫婦か……今から言われると少し自信になるな。

 無理をせず自然な感じで夫婦生活が出来る未来があるならそうしたいって思ってきただけに、そういう未来設計を建てなくてももうそんな雰囲気になれてるんだとしたらこれから歩む道に迷いも無くなる。

 

 何よりも佑斗とかみたいなほぼ身内に近い親友に言われるより、まだ仲良くなって日が浅い友人に言われたことで贔屓目無く言ってくれたのが分かってそこも良かった。

 

「そっか、まあありがとな。結構嬉しい」

 

「俺は素直な意見を言ったまでよ。悔しいもんは悔しいが、それは別として友人が幸せそうなのは嬉しいからな。お幸せに」

 

「あたぼーよ!」

 

 こんな平和な日常を早く取り戻す為にも元からいる風紀班には是非とも頑張ってジダーノのことをなんとしてでも解決してほしい、そう思ってお茶をグイッと飲んでしばらく話していた。

 

 

 

 

「そんじゃこっちもアレキサンド行くか」

 

「早めに行かないとお客さん、来ちゃうかもしれないですからね」

 

 しばらく雑談してた友人はその後親御さんが来て帰っていった。

 アイツに関しては仕事は今リモートって言ってたからそこは心配はしてないけど、こっちはそうも言ってられない。

 オーナーには出勤時間を少し遅くしてもらってはいるけど、それでもオーナーだけじゃ店は回せないからって俺達は半ば強引に出勤している。

 

 危ないのは承知の上だ。

 

「よし、手離すなよ。佑斗曰く吸血鬼と仲良くしてる人間も結構狙われてるって言ってたし」

 

「……なんで仲良くできないんでしょうか、吸血鬼と人間って」

 

「俺も最近まで人間側だったからそういうのは分かんないや。でもな、ひよ里や布良さん、それに学院にいる人間側の人達は吸血鬼と共に生きる道を選んだんだろ?だったら『仲良くできない』なんてことは無い。絶対にどっかに道はあるって!」

 

「そうですね、私がその架け橋になることもできるかもしれないですよね」

 

「そゆこと!」

 

 俺だって吸血鬼と人間がこんなことになっちまってるのを何とかしたくても、自分が何もできないことを悔しく思うことがある。

 でも、吸血鬼と人間でこうしてカップルになれてるってだけでもしかしたら『ほんの少しだけは何とかできてるのかも』と思えてくる。

 間違いなく、共に生きようと思ってくれてる人間はいる。

 隣にもいるし友人にもいる、学院にも沢山いることを知ってる。

 

 だから希望を捨てることはない、楽観的とか言われるかもしれないがそれでも俺は前向きに捉えていきたいと思ってる。

 

「げ、お前らかよ」

 

「……会いたくはなかったよ」

 

「狩人!?……ってその声と3人組ってもしかして」

 

「……はぁ、こんな再会の仕方はしたくなかったんだがなあ」

 

 前向きに生きていきたいとは言ったけど、よりにもよって和解出来たはずの3人組狩人と、狩人と吸血鬼としてまた出会うのはあんまりしたくなかったんだけどなあ。

 

「もしかしなくても、お仕事中……ですよね」

 

「だから会いたくなかったんだって言ってんだろ……あーやだやだ、だからこんな任務受けたくなかったのにさ」

 

「そんなことを言っても、上には逆らえないからな。どうしようもない。それを言えば先輩の方がそう思ってるはずだろう」

 

「あー……なんというか、お疲れ様?そっちもそっちで大変そうだなあ……」

 

「退職手続きが間に合わなかったばかりに駆り出されるとは……しかも出会いたくなかった奴らにも出会ってしまう。とことん尽きが無いみたいだな」

 

 それはあっちも同じだったみたいで、3人だけで行動してるっぽいのが不幸中の幸いレベルでげんなりとしていた。

 差別意識が無くなるとそれはそれで狩人としては疲れることが増えるのかもなあ。

 

 特に『先輩』は退職手続きが間に合わなくてまたこっちに来てるみたいだし、なんというか本当にお疲れ様としか言えない。

 

「……それで、どうすんのこの状況」

 

「あー良い良い、お前らは大丈夫だから見逃せってパイセン言ってたし。ちゃんとリストに目を通して不法滞在者だけしょっぴくように言われてるのもあるしな」

 

「少なくとも3人だけの時は手荒なマネは極力していない」

 

「そういう訳だ。上が来るといくら見逃したくても怪しまれないように捕まえないといけなくなるからさっさといけ」

 

 ……でもちゃんと見逃してくれるんだよな。

 というかしっかりとあれから差別じゃなくて仕事として真剣にやるようになったんだな2人も、それだけで少し嬉しくなる。

 ちょっとしたキッカケで人って変われるもんなんだな。

 

「悪い、助かる」

 

「怪我には気を付けてくださいね」

 

「有難く貰っておく」

 

 やっぱり、吸血鬼と人は仲良くできるって俺は思う。

 あの3人みたいな人間だっているんだからな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。