倉端直太だって恋がしたい!   作:ひよちゃんLove

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chapter10-2『狼煙』

「それで、キミの部隊も助太刀してくれると?」

 

「勿論。僕達も人間に迫害されていた吸血鬼の立場にある、狩人に仲間を何人も殺されていることもある。だとすれば今この時に立ち上がらずどうしてここに集ったか分からなくなってしまう。吸血鬼を救うこと、それが長年の目標なんですから」

 

 市庁舎。そこではアンナ・レティクル、扇元樹に加え先日協力を申し出てきた若い吸血鬼の姿があった。

 狩人側は既にアンナ・レティクルの命を奪わんとばかりに襲撃を仕掛けようとしている形跡がある、そんな中で不法滞在者の救出だけではなく戦闘にまで助力を申し出る彼にアンナと元樹は心強さを覚えていた。

 

「確か金 敘俊(キム ソジュン)さんだったね。まさか君のような優秀な吸血鬼がいるとは。名前からして、これまでは韓国で生活を?」

 

「ええ。ですがここしばらくは日本にも知り合いを作っていましてね、その関係で僕の部隊には日本人の吸血鬼も数多い。それにこの世界に不平不満を持つ者も多くいて血気盛んですよ、勿論僕が手綱を握っているので暴走はしませんが、エサを見つけてしまえばどうなる事やら、んふふ」

 

「極力殺し合いはしない、という我々の方向性は知っているね?そこは加味してくれたまえよ」

 

「充分言い聞かせておきますよ」

 

 ただ1点、男はアンナや元樹からすると諸刃の剣であった。

 明らかに吸血鬼としてかなり上の実力を持ち、積極的に助力するその一見すると献身的な姿は素晴らしく彼女らの部下からも頼りにされているほどだ。

 そして2人としても、最大戦力になり得ると確信している。

 だが男が何を考えているのか分からない。

 出生から生い立ち、どのような人生を歩んできたかを調べたものの何一つ彼についての記述は見つからず、金 敘俊という名前も在り来たりが過ぎるのか『彼』のことは欠片も見つけられなかった。

 何よりも、100年以上生きてきたアンナでさえ腹の内を読めないほどの常に飄々とし一定の声色や仕草で喋るその姿はある種気持ち悪ささえ覚えた。

 

 出生、育ち、思想、隙、感情、その全てが読めないこの男をどれだけ信用すべきか2人は測りかねていた。

 それでも助力を要請したのは、そうでもしなければ狩人に対抗し得る戦力を吸血鬼側が用意出来なかったからであった。

 

「でも良いんですかねえ、せっかく捕まえたライカンスロープの彼、六連佑斗、でしたっけ?逃げてしまったんでしょう?貴重なライカンスロープを逃がすなんて、貴方程の人間がまさかまさかそんなことをするなんて。こちらとしても真剣に助力しようって言ってるんですけどねえ」

 

「アンナ様、同志の内主だった者20名が集まりました」

 

「我々の他に、今や200名近い誇り高き吸血鬼が、アンナ様の指示をお待ちです」

 

「大義であった。時節の時まで良く耐えてくれた」

 

 金が痛いところを突いてくる……と言ったところで、アンナの部下らしき吸血鬼達が入室してくる。

 金の戦力の他に200名に及ぶ戦力が集まり、大規模戦闘が今にも起きかけているのは明白であった。

 

「我らの王たるライカンスロープの噂、お伺いしましたぞ」

 

「ですがあろう事か逃がしてしまった、そうでしょう?」

 

 鋭い指摘が金から飛ぶ。

 ザワりとにわかに室内がピリつく、しかしアンナはそれにも気を留めず冷静であった。

 

「それに関してはこちらの不手際だ、謝ろう。だがライカンスロープについては問題無い、元樹君がいるからな」

 

「アンナさん……あなた僕をハメましたね?」

 

「不本意でも役割は果たしてもらうぞ。なんと言っても、ライカンスロープの下りは君自身が描いた図面なのだからね。それに、ライカンスロープ役に君以上の適任者はいないだろう?」

 

「はは、貴方という人は……」

 

 そこには扇元樹もライカンスロープであり、簡単に代役を引き受けてくれるというある種の信頼関係があったからだった。

 それには部下達もそれなら納得だと言わんばかりに感嘆の声を挙げ、胸を撫で下ろす。

 

「ライカンスロープは吸血鬼の力を奪うことが出来る。我々が人間の血液を吸うように。だが我々は人間と同じ誤ちは犯さん。外敵を討つのはライカンスロープだ、それで異存あるまいな?」

 

「ふーん、それなら僕も納得かな。まさかそこの人もライカンスロープだったなんて意外と世間は狭いのかもしれないねえ」

 

 金は表情を変えずに納得した旨を伝える。

 相変わらず何を考えているのか分からない、とアンナは微妙な顔をするがそれで納得するなら最早どうでも良いと腹を括ることを決めた。

 

「さて、同志諸君には、近く必ずや起こるであろう人類との戦いに備えてもらいたい。最早このアクアエデンという器を護る必要は無い。我々吸血鬼は、人類と対等の立場を得る為の行動に移る!」

 

 士気が高まる。

 ライカンスロープは吸血鬼にとっては確かに敵だろう、だがそれを隠しながらもいつも吸血鬼を優しく治療していた扇元樹がライカンスロープで、味方になってくれると言うのであれば彼等はそれに身を任せることが出来た。

 

 ここから一気に攻め立てる……そう動こうとした瞬間、警報が鳴り響いた。

 

「何事だ」

 

「ど、どうした」

 

『し、侵入者です!武装した風紀班の……ぐぁっ』

 

「おやおや、どうやらお客様のお出ましと言ったところかな」

 

 報告していた吸血鬼の声が途切れる。

 間違いない、これは狩人が市庁舎へ襲いかかって来たのだと誰しもが気が付く。

 金以外の全員が厳戒態勢へと入る。

 

「特区管理事務局です!抵抗をやめてください!」

 

「クソォ!こんなところで!」

 

「首謀者アンナ・レティクル以下、主だった吸血鬼の領袖を確保します!」

 

「了解だ!」

 

「応戦しろ!1人も生かして帰すなぁ!!」

 

 一瞬で室内が戦場へと変わる。

 銃声、怒号、悲鳴、警報、その全てが響き渡る。

 

「アンナ・レティクル。貴方は逃走すべきだ。僕が手助けをするから隙を狙って逃げてもらえないかな。なに、ここはそれなりに被害を抑えて脱出しますよ」

 

「……済まない」

 

 その中で1人全く表情を変えなかったのはやはり金だった。

 それどころか冷静にアンナ・レティクルを逃がすという言葉を真っ先に彼女に投げかけた。

 

「キミ達もだよ。今回の要になるんだ、1人でも多く脱出するように」

 

「だがどうやって……」

 

「逃げられると思わないことです!」

 

「おっとそれはどうかな?ぽーいっ」

 

「なっ!?グレネード弾っ!」

 

 そして彼が狩人達に向かって投げたのはグレネード弾のような形をしたものであった。

 しかし一瞬でも冷静になれればグレネードなら吸血鬼も巻き込むと分かるもの。

 

「いや、そんなものではないはずだ!……やはりスモークグレネード!だったら……ぐっ!?」

 

「ほら、貴方は先に逃げて」

 

「分かった、この恩は必ずや返そう」

 

 だがそれは『分かっていても動けなくなるもの』だった。

 何が入っているのか、そんなもの最早吸血鬼サイドには関係ない。

 まずはリーダーであるアンナ・レティクルの脱出を成功させる、それに重きを置いているのだから当然だ。

 

「クソッ……」

 

 ニヤリと彼の口が三日月型に笑ったのに気が付いた者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、送ってくれるのは嬉しいんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「日に日にヤバくなってね?」

 

「……そうだなあ」

 

 学院からの帰り、市庁舎の方向から煙とかサイレンとかいろんなものが見えたり聞こえたりした。

 もう世紀末だよねここまで来ると。

 

「早く帰りましょう、私達もどうなるか分からないですし……」

 

「平和であってほしいんだけどなあ」

 

 もうこうなったら家から出たくない、この3人の共通認識だった。

 オーナーからも「こんな非常事態なんだから命優先!」ってメールが来てて仕事もしばらく無いだろうし、ほとぼりが冷めるまでは引きこもってたい。

 

「なに!?こんなところにも吸血鬼だと!」

 

「まあいい、どさくさ紛れに捕まえてしまえ!」

 

「ひぃっ!」

 

「マジかよぉ!」

 

「か、狩人……」

 

 そんな事考えてたら狩人と遭遇しちゃったんだけど、これどういうフラグなんだよ俺が悪いのか?

 なんでこうなるんだよ、本当に最悪すぎる……でもなっちまったからにはどうにかするしかない。

 

 不幸中の幸いは俺もコイツも事前に自己防衛のために血を吸ってたことだろう、だったら何とかなるはずだ。

 

「……お前、ひよ里を連れて逃げてくれるか?」

 

「ちょ!おいおいロクでもない事言うなよ」

 

「ダメです直太くん、1人で無茶なんて!」

 

「俺だってちょっと何とかしたらちゃんと逃げるから、信じてくれ……な?」

 

 俺だってオメオメと死ぬ訳にはいかない。

 でもここで対抗できる能力持ちは俺だけなんだ、俺が守らないと。

 

「……絶対死なないでください」

 

「だーもう!死んだら大房さんは俺が貰っちゃうからな!死ぬんじゃねえぞ!!」

 

「当たり前だろ?ひよ里の親御さんにひよ里を任された男だぞ?あとお前にゃ絶対やらねー!」

 

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえぞ!」

 

「逃げるな!化物が!」

 

「っと!そう簡単に通すかよ!」

 

 友人の能力、飛翔でどうにか離脱してもらう。

 飛んできた銃弾は……反射能力で!はじき返す!

 銃弾くらいなら問題無いならこれで牽制してる間に逃げれば何とかなるはず。

 

「なんだコイツは!?」

 

「反射系統の能力者か!?だったら力尽くでっ!」

 

「こんの脳筋共が!」

 

 そもそも今は市庁舎の方でなんかやってんじゃないのかコイツら、という言葉は飲み込んで多分街に溢れてきた狩人が無差別に吸血鬼狩りをしてるんじゃないかってのが俺の考え。

 だとしたら他の学院生とか寮のメンバーが心配だけど、今はそれより2人が逃げる時間を稼ぐために何とかあと30秒だけ稼がないと。

 吸血鬼の能力があるから逃げるだけなら簡単だけど、時間稼ぎなんてプロでもないのにやるなんて無理難題なんだってば!

 

 この能力、分かったことは何かしら特殊な能力があるならはじき返すことが出来るんだけど純粋な力とか刀とか銃弾は無理なんだよな。

 あの銃弾にはどうせ対吸血鬼用の何かしらが仕込まれてるんだろ、その方が都合良いなんてやってらんないね全く。

 

「クソッちょこまかと!」

 

「まともに戦う気ねえのか!」

 

「ある訳ないだろ!能力が無きゃこっちは一般吸血鬼だっつーの!っと!時間稼ぎ完了!退散!」

 

「テメェ待ちやがれ!!」

 

「やなこった!」

 

 まともにやり合う気なんて最初から無いに決まってる、何せ肉弾戦になったらさすがに勝てそうにないからな。

 時間稼ぎもしたし全力疾走でその場から立ち去る。

 

 ……家と方角違うけど、この際もう良いや。

 

 遠回りにはなるけど逃げ切れる方向で行く。

 なんか胸騒ぎがするけど……果たしてこれは危ないから行くなの警告か、行かないと後悔するの警告か、どっちなのやら。

 

 今は考える暇もなく、とにかく逃げるより他無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれしかし、まさか既に六連佑斗がジダーノの死体を突き止め僕の正体、ライカンスロープにも気付くとは……やはりあの時の、いるはずの無い場所にいたジダーノの違和感を拭っておくべきだったかな」

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