倉端直太だって恋がしたい!   作:ひよちゃんLove

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chapter10-3『ここは先に行けって言うのはやっぱりフラグなんだよな……』

「ひぃ……ひぃ……アイツら体力バケモンかよ……」

 

 正直いくら狩人でも人間は人間、一般吸血鬼でも逃げ切れると思って爆走してた……んだけど、イカれた連中はフィジカルもイカれてるのかまるで地の果て海の底まで追いかけてくる勢いで途中まで喰らいついてきてて恐怖を覚えた。

 何とか振り切って地獄の鬼ごっこを終えた俺は、とりあえず安全そうな裏路地に身を隠してひーこらひーこら言いながら腰を下ろしている。

 ちょっとくらい狩人も話の分かる奴らがいると思ったのに結局これとか笑い話にもなんねえな、やっぱり大多数は頭のおかしい戦闘狂というか吸血鬼絶対ぶっ潰すマンな連中だよ。

 

 出来ることなら二度と出会いたくない。

 

「って言ってもこの惨状だと出会わない方が無理があるよなあ……」

 

 遠くの方から銃声や怒号が聞こえる、絶対戦闘中だよなああっちも……こっちには誰もいないで欲しいんだけど。

 

 

「伏せろ!」

 

「梓姫!何をしているのです!」

 

 

「もー1番ややこしい人達じゃん絶対さあ」

 

 すぐ近くでも怒号と銃声が飛び交う。

 その声の主はアンナさん……と、布良さんと同じ巫女服を着た女の子?でもあの子は狩人側に着いてるし、布良さんのこと姫とか呼んでるし……どういう仲なんだ?

 分かんないが、あっちのやり取りに集中しててこっちに気付いてないのは不幸中の幸いか、バレてたらややこしさのミルフィーユで頭がおかしくなるところだった。

 

「蝿が……もう降りてきたか。梓も戻るんだ、私と話してると裏切り者だと思われる」

 

「そんな……あっ扇先生!?」

 

「アンナ様、こちらへ。道はソジュンが切り開いてくれましたので」

 

「まだこんなところにいたのか!?今は私より君の方が大事だと言うのに……!」

 

 おいどうなってんだよこれは!

 ややこしさの大渋滞起こしてるって!

 布良さんが狩人の裏切り者扱いも意味分からんけど、ここで扇先生が出てくるのも、扇先生がこの作戦の中核っぽいのも意味不明なんですけど!

 

 って今はそれどころじゃない!

 この状況間違いなく戦闘が始まる空気じゃねえか!この状態で1番に狙われるのは表の代表ってことになってる上に身体の弱いアンナさん!

 クソッ、さっきはともかくこんな人通りのある街中で反射なんて使ったらワンチャン俺のせいで死人出るじゃねえかよ……ああもう!迷ってる場合じゃねえ!

 

 

「喰らえッ!!」

 

「待って、楓ちゃん!」

 

 

「ああもう!」

 

 こんなとこで誰かが傷付く、そして下手したら死ぬのを黙って見ていろとか出来ないっつーの!

 思い切り足を踏み込んで全速力で銃口の向いてる方……布良さん……を守ろうとしたアンナさんを庇うように出てきて背を向ける。

 

 悪いなひよ里、多分俺……ひよ里にめちゃくちゃ泣かれた上でめちゃくちゃ怒られると思うわ。

 

 バンッという重たい銃声が響いたと思った瞬間、背中に突き刺さったような痛みと焼けるような痛みが同時に走る。

 

「がッあぁッ……ゲホッ」

 

「なっ!?」

 

「えっ……く、倉端……くん?」

 

「なんで君が……」

 

「はン……布良さんか……アンナさんか……どっちか知らねえけど……討ち取るつもりだった……ん、だろ……ざ、まぁ……オェッ」

 

 一応今回のことに加担してないのが確定している俺という一般吸血鬼を誤射した……という事実を突き付けられた楓?って呼ばれた子はかなり動揺してるみたいだ。

 吸血鬼に差別意識は持ってても、そういうところは見た目通り同年代っぽいんだなとボヤけ始める意識の中で他人事みたいに思ってしまう。

 

 あと、死にかけても煽りは忘れない。

 やっぱり全体的には狩人なんて大っ嫌いだからな。

 

「倉端くん!?倉端くん!しっかりして!なんで……」

 

「風紀班よ!貴方達……勝手なマネをするというなら今ここで風紀班と交戦でもしてみる?」

 

「チッ……覚えていろ……化物共……」

 

 ラッキーなことに矢来さんだろう声も聞こえる。

 

「矢来さん!負傷者です!少年が倒れています!しかもこの少年は……」

 

「美羽ちゃん!倉端くんが!倉端くんがアンナさんを庇って!そ、それで!退魔弾を背中に……!」

 

「なんですって!?今すぐ病院まで搬送して!手の空いてる人はその間に病院に急患の連絡を!」

 

「了解!」

 

「ぅ……あ、アンナさん……」

 

「なんだい?今はあまり喋るものじゃないだろう」

 

「ケ、ガは……」

 

「バカを言え、君が全て受けただろう。私も梓も無事だ」

 

「よ、かっ……た……ぐぅっ……」

 

 とにかく俺以外に怪我人はいないらしい、ギリギリ意識を保ってる中で何とか聞こえたその一言で安心する。

 

「寝ちゃダメよ倉端くん、絶対に起きてなさい」

 

「どうしよう、どうしよう……私のせいで……!」

 

「……め、ら……さん」

 

「な、なに?」

 

「だい、じょう……ぶ。おれ、が、やりたくて……やっただけ、だから。だ、から……ぜったい、に……へい、わに……」

 

「…………わかった」

 

 パニックになってた布良さんも何とか落ち着かせられたし……

 

「悪いが僕達はこの隙に退避させてもらうよ。……本当なら医者としての責務を全うしたかったんだけどね。行きますよ、アンナ様」

 

「分かった。……死ぬなよ、倉端直太」

 

 アンナさんも避難するみたいだし……なんか、なんか眠くなってきたかも……

 

 

 ほんと……ごめん、ひよ里。

 

 起きたら……絶対……説、教は……きく、か、ら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――俺は、吸血鬼にならなかったら何してたんだろうなあと思う時がそこそこの頻度であった。

 

 後から聞いた話、もしもパスポートを偽造していたら島外退去命令を喰らっていたと聞いたし、絶対にひよ里と出会うことは無かった。

 

 だとしたら俺は、親友が吸血鬼になったことを何も知らず、ひよ里と出会うこともなく、呑気に本土でいつものように友達と過ごして、たまに親友の顔を見にアクアエデンを訪れて、帰って。

 そんな生活をきっと送ってたんだろうな。

 

 俺は本土の生活は好きだった。

 ちょっと放任主義だけどそれ以外は普通の家族がいて、バカ騒ぎ出来る友達も多くいて、学園生活も満喫して、彼女欲しいって嘆いて、いつしかそうして大人になっていったんだろうな。

 

 そしてそんな日常なら、俺はこうして撃たれることもなく痛い思いもせずのんびりと人生を過ごせていたのは間違いない。

 どこまでも突き抜けて平和な毎日だっただろうさ。

 

 でも俺は、吸血鬼になったことも、本土から離れてしまったことも、差別される対象になってしまっても、痛い思いをしても、そこに後悔なんて何一つある訳がない。

 

 だってそれは全て自分が決断したことで、自分が選んだ道で、その道で最愛の彼女と出会って人生が今まで以上に楽しくなって、守っていくんだって豪語したんだ。

 だったらそこに一欠片の後悔だって、ある訳がない。

 

 そうであるなら、俺はこんなところで呑気に死んでる場合じゃないだろうが。

 やるべきことがあるだろうが。

 

 

「直太くんッ!直太くんッ!起きてください!!死んじゃ嫌です!!直太くん!!」

 

 

 大好きな彼女で、未来の奥さん泣かせたら大恥もんじゃないか。

 こんな声を聞いたら今すぐ起きるしか選択肢は残っていない。

 

 少しずつ意識が帰ってくるのを感じる。

 

 さあ倉端直太、お説教される準備は良いか?

 俺は出来てるぞ、だったらさっさと起きろアホンダラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 真っ暗だった視界が少しずつ白み始める。

 同時に感触も帰ってくる、身体中がふわふわしてる……きっと病室で寝かされてるんだろうな。

 

「直太くん……ぇぐ……直太くん……」

 

 それに遠くからしか聞こえなかった声も、今はちゃんと耳で聞こえてきて、しっかりと届いてる。

 

 ……と、意識が覚醒してくるのに合わせて激痛も帰ってくる。

 

 そういや撃たれたんだった俺ェ!

 

 

「イテテテ!!起きて早々これかよぉ!もうちょいカッコイイ起き方あったじゃん絶対さ!!」

 

「え!?あ、直太くん!?だ、大丈夫なんですか!?」

 

「おはようついでに心配掛けたことは後で説教受けるからとりあえずちょっとだけ待って!!」

 

 あーあ、ここで格好付けられる奴は感動の目覚めなんだろうにどうして締まらないのやら……しばらくそう思いながら悶絶するしかなかった。

 

 

 

「いやほんと、ご迷惑お掛けしたみたいで」

 

 あれから何とか痛みが引いてきたところで泣きじゃくってたひよ里の頭を撫でながら謝罪する。謝罪の対象は少し向こうにいる友人のクラスメイトも含まれている。

 

「ったくよぉ……絶対死ぬなって言って離脱した数十分後に風紀班の方からお前が撃たれて意識不明って連絡が来た時はマジで茫然自失になったんだからな。あと大房さんをどうやって慰めるかもな」

 

「いやほんとごめん……ひよ里も、お説教ならいくらでも聞くからさ」

 

「……お説教はしません」

 

「そっか」

 

「でも今日は、絶対、絶対、何があっても離れないです。これは直太くんへの罰です」

 

「分かった」

 

 安心したのか急に饒舌になる友人と、力いっぱい抱き締めてきて本当にテコでも離れないという意志を見せるひよ里。

 ほんと、めちゃくちゃ心配掛けちまったんだなと反省するより他ないんだろうな。

 

 ……さてと。それよりも一応聞いておかないといけないこともあるから気が緩められないのが面倒だよな。

 

「ところでさ」

 

「なんだ?」

 

「俺ってどれくらい寝てた?」

 

「え?えーっと……撃たれてから一夜も明けてない感じ?」

 

「マジかよ生命力高ぇな」

 

 何日寝てたか……と聞こうとしたところで、1日どころか数時間しか意識不明の時間が無かったってマジなのか。

 いやそれはそれで都合が良いんだが、だって俺退魔弾背中に直撃したんだぞどうなってんだそれは。

 

「それこそ数日寝込まれてたら俺が胃痛で死ぬわ。ほんと大房さんに心配掛けさせんなよ?見てるだけでこっちが可哀想で苦しくなってくる」

 

「……死んじゃったかって思ったんですよ?目の覚めない直太くんを前にした時」

 

「まあそりゃ、退魔弾直撃したからなあ。でも別に背中めっちゃ痛いだけで異常は無いように思えるんだよ。あ、強がりとかじゃなくこれマジの話」

 

 思えば背中が痛いのは当たり前としても、ヴァンパイアウイルスを破壊すると言われてるのにも関わらずそこまで影響があるとは思えない体調なんだよな。

 気持ち悪いとか倦怠感とか、そういう嫌な苦しさは無い。

 それよりも背中が痛いとしか言えん。

 

「そこも含めて、ちゃんと先生に症状を見てもらわないとダメですから!」

 

「んじゃ先生は俺が呼んでくるから、ちょっとでも2人きりの時間楽しんでてくれよ」

 

 何がどうなってるのか正直全く分からんけど元気ならまあ良いかと今は思っておくことにしよう。

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