倉端直太だって恋がしたい! 作:ひよちゃんLove
車に揺られる。
本当ならもっと和やかに話したりしていたかったんだけど、やっぱり状況が状況なのかそうは言わせてくれないらしい。
ひたすらに無言で、重たい空気が流れる。
だが全員が全員俺達を想ってくれているのが分かる、そのために集まってくれているんだから当然なんだが。
まず、俺は結局のところ佑斗に電話をしてから1日も経たない内に強引に退院を申し出た。
先生からはさすがに引き止められたけど、アンナ派からも狩人からも場所そのものはバレてる以上早めに、それもほぼ不意打ちも同然で姿を消さないといつかは必ず狙われてしまう。
だから背中の痛みを引きずりながらオーナーに連絡を取り、オーナーが信頼を置く陰陽局員2人をボディーガードに付けて運転はオーナー自身がしている。
勿論、外から俺達が見えないようにもしている。
全員が俺達を想ってくれているのは分かっている、分かっていて尚こういう空気は苦手だとボヤきたくなる。
本質的に倉端直太という人物はシリアスが大の苦手だ。
重たい空気、ビリビリとした感じ、息苦しい雰囲気、全部全部まったくもって耐性が無い。
だと言うのに最近はアンナ派の吸血鬼と狩人との抗争に巻き込まれてシリアス続き、もういい加減にしてほしいもんだ。
平和に生きさせてくれませんかね、俺は無害な吸血鬼だって言うのにどうしてあれやこれやと色んなものに巻き込まれないといけないのかと溜め息を吐き出したくなる。
ギュッと横で寝ている最愛の人の手を握ってそんな気持ちを落ち着かせる。
「さ、着いたわ」
「ふぅ……ひよ里、着いたって」
「むにゃ……はっ!?つ、着いたんですね……」
着いた先は開発地区、そこの比較的孤立した場所にある倉庫。
そこの奥の部屋をオーナーが改造していて、いざという時の隠れ家として使う予定にしていたらしい。
電気も水道もガスも通ってて電波もあるって話してたけど本当にちょっと小さい一室なのを除けばただの家だよなそれって。
「この奥の部屋がそうだから」
「……こんなただの倉庫の奥が完全などこかの家の一室みたいになぅてるの、正直違和感が凄すぎる」
「電気も水道もガスも電波も通ってるなんて……オーナーってやっぱり凄い人なんですね」
「まあね、こう見えて陰陽局ではそこそこの立場にいるから。その分恨みも買いやすくてね、融通も通しやすいからこうやって逃げ道を準備させてもらっていたのよ。まさかそれを貴方達に使うとはさすがに思ってなかったけどね」
何の変哲もない倉庫の先に広がってるのは、正に「どっかの家にいる?今?」と言わんばかりの快適な部屋。
確かに何年も住むには狭いかもしれないが、数ヶ月程度避難するために住むのであるならむしろ快適過ぎるくらいだろう。
「……テレビや電話も付いてるとは思いませんでした」
「テレビ、冷蔵庫、洗濯機とかはちょっと型落ちなのが申し訳ないけれどね」
「それでも付いてるだけすげーっすよ」
しかも型落ちとはいえ大体の家電もテレビもしっかり付いてる。
ここ避難場所なんですよねオーナー?やってることが強すぎませんかね……
「ふふ、ありがとう。……それじゃあ私達はこれでそろそろ行くわ。これは鍵だから無くさないようにね。何かあったら緊急じゃない場合は非通知で掛けてきて。食材の調達に関してもメールを貰えれば調達してお届けするから」
「ありがとうございます、オーナー。……本当は直太くん1人のところを押しかけても許してくれて」
「良いのよ。貴方達の仲はよく知っているし、だから私だって断らなかったのよ。倉端くん、ひよ里ちゃんを頼んだわよ」
「当たり前ッス。何があっても絶対守るんで」
「うん、お願いね」
さて……ここからしばらくは直接誰かと会えるどころか連絡だって直接出来るのはオーナーしかいなくなるワケだ。
結構辛いけどそれもこれも全部全部この抗争が終われば元通り、またみんなで笑って平和に暮らせる。
そう、それまでの我慢なんだこれは。
きっと何とかなる、きっと。
-Anotherview-
「元樹様、準備が整いました」
「欠員は?」
「1人もなく」
「みんな死ぬつもりで?」
「光栄であります」
「だよね……それじゃ行こうか。僕らの世界を作るために」
某所に集まった吸血鬼の集団、その全員が今回の抗争の片割れの一派であるアンナ・レティクル派閥の吸血鬼達だった。
アンナ・レティクルそのものが命を狙われていることで表立った指揮からは外れているものの、全員が全員これからの未来で吸血鬼、自分達の子孫や仲間が平和に生きるために死地へ赴くことを恐れず何だったら光栄とさえ感じている。
何よりもライカンスロープである扇元樹の指揮と戦闘能力があれば道を切り開けるのではないかと感じている吸血鬼も多い。
「ソジュンさん、貴方も僕と来てくれますよね?」
「んふふ、今更僕を疑うのかい?嫌だなあ、僕だって狩人には恨みがあるんだよ……」
「ええ。野暮なことだったね」
ただ、金敘俊にだけはやはり彼は警戒をしていた。
金の考えていることは未だに読めない、本当に仲間なのか、本当に狩人に恨みを抱いているのか、何故手助けをしているのか、最悪の場合狩人と共に金とも交戦になる可能性を考えないとならない……最大戦力であると共に一度裏切られたら取り返しが付かなくなるのは明白であった。
「目標は彼……六連佑斗で?」
「そうだ。彼はライカンスロープであると共に協力を跳ね除けて人間の側に着いた裏切り者だからね。まずは彼を始末しないと」
「……ライカンスロープ、か」
「どうかしたか?」
「いえいえ、なんでも」
第1の標的は明確に吸血鬼……アンナ・レティクルサイドを裏切った六連佑斗になった。
正確には裏切りと呼ぶには加担してい無さすぎるのだが、同じ吸血鬼である以上アンナと元樹の言葉を突っぱねたのは彼らからしたら裏切り行為に他ならなかった。
「場所は既に把握している。寮だ、寮に戻ってきているはずだ。どこからも逃げられないようまずは取り囲め」
「了解しました」
「ええ」
そして場所は、扇元樹も良く知る彼の住む寮である。
彼がこのタイミングで恋人である布良梓と共に帰ってきているのを観測していたのだった。
元樹と金含む20人程の吸血鬼が寮を目視するや否や静かに取り囲み、殺気を撒き散らす。
吸血鬼の未来の為の正義を突っぱね拒否し、あろうことか人間との共存を選んだ……と感じているこの集団には既にこの2人は実質的に抹殺対象となっていた。
「そろそろだな、行くぞ」
「ははッ!」
静かにそう告げる元樹。
無言で殺気立っていた吸血鬼達が一気に動き出し、躊躇なく家中の窓ガラスや出入口を破壊し侵入してくる。
普段平和の象徴だった六連佑斗の住まう寮は皮肉にも、一瞬で戦場と化したのだ。
「やはり来たのは貴方か、扇元樹!」
そして真っ先に辿り着いたのは他でもない扇元樹。
彼がライカンスロープであるなら、対抗手段は同じライカンスロープである元樹になるのは妥当な立ち位置だろう。
「六連くん、やはり君を放置出来なくなった」
「それは俺も同じだ。借りがあるみたいだからな!」
「相手は2人だ、一気にかかるぞ!」
「女は殺すな!」
「梓にも用があるのか?」
「いや、君に本気になられると厄介だ」
狭い寮内で約20対2、間違いなく六連佑斗と布良梓は窮地に立たされている……だが、彼らの目は絶望していなかった。
「……あんまり使いたくはなかったが、仕方ないよな、梓」
「仕方ないよ。だから……生きて帰ろう」
「ああ」
「何をごちゃごちゃと……ぬがぁっ!?」
痺れを切らした吸血鬼が飛び交る……が、突然の破裂音と共に悲鳴を上げて地に落ちる。
「あがっ……あああああああ!!」
「な、なに!?……六連くん、君は一体何をしたんだ?」
「俺も自分の命が懸かってるんでね。悪いが退魔弾を撃ち込ませてもらった」
「貴様……!!そこまで人間の手に落ちるとは思わなかったよ!!」
正体は六連佑斗の放った退魔弾だ。それが吸血鬼を掠め、激痛を発生させている。掠っただけでもヴァンパイアウイルスの破壊はさておいてもとてつもない激痛を発生させることを彼らはよく知っている。
その言葉に他の吸血鬼は悲鳴を上げたり息を飲んで震え上がる。
退魔弾は幾多もの吸血鬼の命を奪った忌々しき凶器だ、そんなものをライカンスロープが持てばどうなるか……それは、誰が何を言わなくても分かりきった話である。
「RIOT!」
「うぐっ」
しかしその言葉を呟いた瞬間、佑斗の顔が歪む。
これは元樹の仕込んだ『タネ』、自分のライカンスロープ因子を少しずつ侵食させていくことでこうして『自分の言葉』によって記憶を操ったり、暴走させる。
「佑斗くん!」
「梓……ぐっ、そうだな。俺達2人なら、なんだって出来る!」
「バカな……乗り越えたって言うのか!」
「悪いがアンタの愛よりも、梓との愛の方がよっぽど深かったみたいだからな!行くぞ!」
「うん!まかせて!」
だが今の佑斗は『事前に準備する時間があった』。
倉端直太、そしてとある狩人からの目撃証言によりジダーノが別人である可能性が早期に浮上しこうして不意を突かれても問題無いように銃の常備、強化、そして元樹の『声』に対するある程度の身構えが功を奏したのだ。
「ふざけるなッ!こんなところでッ!」
「さてと、勝手に陥落してる間に僕はさっさと作戦を開始しないとね。この時を待っていたんだから。一番僕へのマークが薄れて尚且つ狩人が漁夫の利を狙いそうなこのタイミングを、ね」
『リーダー、準備が出来ました』
「仕事が早いね。さすが」
そんな中、シレッと戦線離脱している吸血鬼が1人。
それが金敘俊だった。
彼は元より加担はしても最後まで共にいる気など毛頭無かった。
そして自分の作戦が一番成功する期を見計らい、虎視眈々と狩人をおびき出していたのだ……この抗争全てを使って。
「やっと始められるよ。僕がこの世界の王として君臨する、その幕開けが。アハッアハハハハハハハハ!!」
闇夜に響く笑い声は、遠くから響く銃声にかき消されていた。