倉端直太だって恋がしたい! 作:ひよちゃんLove
「……や、やったのか」
「みたいだね。……いくら敵でもこういうことは本当はしたくなかったけど」
「仕方ないよな」
退魔弾を当ててしばらくジタバタともがいていた扇元樹は、他の吸血鬼が息を飲んで一歩二歩引いて見守る中遂に動かなくなった。
肌の色が赤く染まっているのはヴァンパイアウイルスを破壊した時に見られる象徴的な症状だ。
最初に撃ち込んだ吸血鬼の方は一か八かでわざと直撃させず掠めさせるに留めたからヴァンパイアウイルスが破壊された症状は見られず、ショック死するまでの激痛もギリギリ与えず今は腰を抜かしながら引いている。
「梓、伏せろ!」
「きゃあっ!?」
「くっそ!まだいるのかよ!」
屋外から打ち込まれた銃弾が部屋の中を弾け飛ぶ。
やっと穏便に済ませられそうな空気になったってのに今度はなんなんだよ!援軍かなにかか!?
窓から外を見ると、黒い装甲車から真っ黒な戦闘服に身を包んだ連中がバタバタと降りてきてこちらに向かってきているのが見える。
「アイツら狩人かよ!!本当にややこしいことばかりしやがって!」
「とにかく今はここにいる吸血鬼さん達を守らないと!」
「ああ!ところで待機命令はどうなってる?」
いくら敵とはいえ、もう戦意喪失してる相手を見限ってみすみす殺される訳にはいかない。
それに思想が違ったとしても同じ苦しみや葛藤を抱えた吸血鬼であることに違いは無い、そういう人達にもしかしたら違う道を示せるかもしれない。
そういう希望があるんだから、絶対通す訳にはいかない。
というか待機命令はどうなってるんだよ、枡形主任があれだけ頑張って手に入れて陰陽局に指示させたってのにこれじゃ台無しじゃないか!
「今美羽ちゃんに確認するね。……うん、分かった。ありがとう。待機命令は解除されてないみたい」
案の定かよ、なんだっていつもいつも狩人は余計なことばかりしてくるんだ……増援が聞いて呆れる。
これじゃ余計な仕事が1つ増えただけじゃないか、しかも吸血鬼を守りながらだから負担がデカいったらありゃしない。
「だったら尚更、ここは俺達がどうにかするしか無いってことだな」
「だね」
「模擬弾と麻酔弾、あるよな?」
「準備万端だよ!いつでも行けるからね」
「……出来ることなら説得で引き返してもらいたいんだが、それはどうなんだ?」
「それが出来てたらこんな準備進めてないよ……引き返してって何度頼んでも聞いてくれないみたい。やるしかないのかなあ、さっきみたいに」
「だろうな、仕方がない……」
こうなってしまった以上は全員何としてでも無事でいてもらわなくちゃ、実質扇元樹だけ戦闘不能にした意味が無くなる。
少しでも指示を出して助かる可能性を増やさないと。
「見ての通り、狩人が本来使う弾は吸血鬼に直撃したら致命傷だ。分かっているだろうがアンタ達は伏せていてくれ」
「ここは風紀班にまかせてください!」
見た感じザッと10人以上、ここにいる吸血鬼の数に比べれば少ないが連戦でこの数は骨が折れそうだ。
「また10人以上っぽいぞ、しんどいだろうがいけるか?」
「もー佑斗くんってば。誰に言ってるの?」
「それもそうか、すまん」
ただ、それはあくまでも銃撃戦に不慣れな俺単独での遂行であったなら……の話になる。
梓がいるなら、2人でなら、鎮圧出来るはずだ。
「麻酔弾は佑斗くんが使って。パウダーだから武装してても顔を狙えば大丈夫だし」
「梓は?」
「私は模擬弾の方が慣れてるし、だいじょうぶ」
「はは、頼りになるな」
まったくもって、この子はやっぱり俺の師匠だなと思わされる。
こんな状況でも顔色1つ変えずに冷静に状況分析して、役割分担して、最適解を導き出す。
そんな『師匠』の頼りになる姿に思わず笑みがこぼれる。
「それじゃ、せーので行くよ!私が右、佑斗くんは左!」
その瞬間、ガタンと大きな音が鳴る。そしてそれとほぼ同時に左右から狩人達がなだれ込んでくる。
「突入!内部の吸血鬼とライカンスロープを無力化します!」
「おおっ!」
だが、俺達のコンビネーションなら問題無いはずだ。
一瞬ニヤリと2人揃って笑い合い。
「せーのっ!」
「せーのっ!」
声を、合わせた。
「内部状況はどうやらかなり六連佑斗が優勢みたいだね」
一方その頃、遠くでは既に離脱していたソジュンが扇元樹の突入部隊に紛れ込ませた部下の取り付けた盗聴器によって内部状況を把握していた。
20名程の吸血鬼を守りながら狩人達を鎮圧していく様は正に彼にとっては美しく芸術的、そう呼ぶに相応しかった。
「本当は僕の手で傷付けたかったんだけど、ここは楽に持ってく為だからね。……六連佑斗もボロボロだったら布良梓も簡単に回収出来たんだろうけど、仕方ない。今回だけは見逃すとしようかな……んふふ、これは報酬みたいなものだよね、何れは彼女も人間だから遅かれ早かれ狩人達と同じようになるって言うのに報酬なんて哀れだよね。でもそれもまた一興、人間の滑稽な姿を拝むのも僕には必要不可欠な栄養になるんだから当然だよね。ただ、僕の配下になる六連星佑斗には少し酷なことをしてしまうかもしれないかな。でも吸血鬼の強靭な回復力を持ってすれば人間の時より長い時間共にいられるんだから幸せに決まってるよね、彼も僕に感謝をすべきだろう。っと、どうやら中の鎮圧は無事終わったみたいだね。そろそろ行ってこようか、顔合わせってことでね」
しかし静かになったことで鎮圧が終了したと彼は直感したのか、輝かせていた目は一瞬で何も映さなくなり濁った目は不気味な笑みを浮かべる。
「はぁ……おしまいっ」
「けっこう自信あったんだけどなあ……はぁ、梓にはまだまだ遠く及ばないって感じだな」
「みんなやっつけたのに、どうして元気無いの?」
和やかに話をしているらしい、と感じ取ったソジュンは足取りを緩めることなく悠々と拍手を送りながら入室した。
「なっ!?誰だ!」
「また敵!?」
「おやおや物騒だねえ、せっかくその芸術的な鎮圧ショーに喝采の拍手を送ったって言うのに……そうだろう?風紀班所属の六連佑斗くんと布良梓さん?」
「どうして俺達の名前を……いや待て!お前はさっき突入してきた吸血鬼部隊にいた1人!?なんでここにいる!?」
「なんで?そんなの決まってるじゃないか。吸血鬼の為の世界を創造する為だよ……知ってるかい、六連佑斗?人間という生き物はどこまでもおぞましく醜い生き物なんだ。たとえ一度信頼してもいつか必ず裏切る生き物なんだよ、それがどれだけ信頼してる仲間であろうと、家族であろうと、最愛の人であろうとね。言ってる意味が分かるかい?六連佑斗。つまり人間という生き物は滅ぼさないといけない、だから僕がやるのさ。どうせ扇元樹ではそこまで出来ないというのは分かっていたからね、どちらにせよこのタイミングで離脱して僕がこの世界の王として君臨する為に君達2人を残して戦力が居なくなった今を狙って出てきたのさ」
彼の思想は一貫している、どこまでも真っ直ぐに狂っている。
人間は必ず裏切るから滅ぼさないとならない、そのあまりにもストレートな言い回しに佑斗や梓のみならず周りの吸血鬼や意識の残ってる狩人も彼のおぞましさを前に恐怖を感じてしまう。
「そ、ソジュンさん!?我々を裏切るのですか!?」
「裏切るなんて滅相も無い。逆にあなた方の夢を叶えて差し上げるのですよ、人間に迫害されることの無い、人間が1人もいない吸血鬼だけの楽園、王国を作り上げる!それこそが僕の掲げる夢!平等に戦い争い合える、理不尽の無い王国を僕が作り上げる!」
「それで人間を滅ぼす?ふざけるな!俺は綺麗事を言うつもりはないがな、大切な『人間』が割と結構いるんだよ!友達だったり、親友の彼女だったり、仕事仲間だったり……梓だったりな!」
六連佑斗は彼の言葉に真っ向から反抗する。
それは彼が人類博愛主義者だからではなく、本土にいる友人、クラスで仲良くしてくれた新たな友人、親友が吸血鬼として充実した生きる道を手に入れることが出来た要因である大房ひよ里、自分の生きる道を手助けしてくれたり仕事のヒントをくれた仕事の仲間や上司、そして何よりも最愛の人がいたから、その人達を守りたいという気持ちの元の発言だった。
その覚悟ある発言に、ソジュンは思わず拍手をしていた。
「素晴らしい、実に素晴らしい、その仲間想いの正義感は何よりも美しいものだよ六連佑斗。だから僕の発言の意図を教えるのと……今回はその布良梓は見逃してあげるよ」
「なに……?どういうことだ」
「簡単なことだよ、人間を殺してしまうとそこら中に死体が散乱して面倒じゃないか。それに僕は人間が屈辱に染まった上で今まで迫害していた存在がどう苦しんでいたかを体験させて仲間にしたいと思ってるんだ。だから……『全人類を吸血鬼化させる』。吸血鬼の血を飲ませることによってね。その過程で10億人くらいは死んじゃうかもしれないけどね、吸血鬼の血に耐えられなくて」
「なっ……!?」
「それに僕の部下の半分程度は本土から集めてきた元人間でね。人間に強い恨みを持っていたり人生を諦めていた者達が今は生き生きとしている。なんて素晴らしいんだろうか、彼らはすっかり吸血鬼なんだよ」
「そんな……」
「良いかい?だから動かないでよ?今は狩人の回収だけで済ませてあげるって言ってるんだから。……さあみんな、始めよう」
彼が指を鳴らすとぞろぞろとどこからともなく彼の部下と思しき吸血鬼達が入室し、有無を言わさず1人1人狩人を回収していく。
六連佑斗は黙っていたくなかった……しかし、圧倒的なソジュンの威圧感に足がどうしても動かなかった。
「足が……動かない……!?」
「六連佑斗、次回会う時は布良梓をちゃんと渡してくれると助かるよ。彼女も吸血鬼になるだけなんだ、殺そうなんて微塵も思ってない。ただ僕は、人間という醜く腐り切った生き物に生きる意味を与えてあげるだけなんだ。その過程で死ぬんだとしたらそれまでというだけなんだから、芯の強い布良梓はきっと平気さ」
「絶対に渡すもんか……!人間という生き方を、冒涜させて良いはずが無い……!」
「良いよ、キミの可能性を是非とも魅せてくれたまえ。僕が王となる為の催しとしては最上のお祭りになるだろうからね」
「お前は絶対俺が止めてみせる!絶対に!」
ソジュンはそうして部下と共に闇夜へと消えていった。
ここに新たな戦いが始まったことを、全員が予感していた、