倉端直太だって恋がしたい!   作:ひよちゃんLove

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chapter11-3『王の器』

「これで全員かい?」

 

「ああ。総勢20人、全員狩人の出だそうだ」

 

「そうかい。なるほど、どいつもこいつも見慣れた顔だね。忌々しいくらいに。……しかしそうか、これで一旦全部か」

 

「ん?どうかしたのか」

 

「いいや、独り言さ」

 

 ソジュンの拠点にしている開発地区でも一際大きな廃倉庫、そこに倒れ伏した狩人達を全員運んでいた。

 拘束された狩人は全員がその目が殺意に満ちており、中でもリーダー格と思しき少女、山端楓は拘束されていなければ今にも飛び交ってきそうな程のものを持っていた。

 

 だがソジュンはそんなものには目もくれない。

 彼には狩人らの殺意は気にするほどのものですらない、取るに足らない雑兵未満だと感じているからだった。

 それよりも彼は気になることがあった、それは『アレキサンドで出会ったあの3人の狩人』のことである。

 部下の偵察により3人ともまたここに上陸し、任務を行っているものの度々無実の吸血鬼を逃がしていたり作戦に参加しないと言った山端楓に非協力的な姿勢を見せているのが観測されている。

 

 では今回はと言うと、今回も20名のリスト上にはいなかった。

 ソジュンは不覚にも、人間であるにも拘わらず今回の騒動に参加しなかったあの3人に胸を撫で下ろしてしまったのである。

 全人類を吸血鬼化させるのであれば3人もいつかは吸血鬼化させるのだが、ここにいるゴミクズのような狩人と比べれば同じ扱いなんてしたくもなかったのは当然なのかもしれない。

 

 そうした面から、本来無条件で恨むべき対象に情を抱く、それもキッカケは自らが作ったことだと自覚しているソジュンはその感情を『気のせい』とし誤魔化し、取り繕ったのだ。

 

「しかし無様だねえ、漁夫の利でも狙って突入したんだろうけどたった2人に鎮圧されて本当の漁夫の利は僕達にされてしまうんだ。そもそもキミ達は何の非も無い吸血鬼まで検挙していたと言うじゃないか、いくら陰陽局の権力で虎の威を借る狐をしてもそれはいけないことなんじゃないのかな。何せ今までこのアクアエデンで信用を勝ち取ってきたのは風紀班じゃないか、その信用を地に落とす行為はいくら僕がそのサイドにいないのだとしても完全な愚行、足を引っ張る行為、無能な働き者としか言い様が無いね。ただキミ達のやりたいことも分かるさ、ずっと昔から吸血鬼を狩って来たのだから吸血鬼が如何に害を与える生物か教育されてきたんだろう。でもそんな教育は古臭いだけだよ、吸血鬼の僕に言われるなんてとんだ屈辱だと確信しているけどね。そしてキミ達の多くは無害だと伝えてもそんなことお構い無しに捕らえてしまう、やはり人間は害ある生物だと僕にキミ達は言外に伝えてしまったんだ。だから僕はまず真っ先にキミ達を捕らえて、痛め付けて、痛め付けて、徹底的に痛め付けて、その後で強制的に吸血鬼にする屈辱を味わわせてあげるよ。僕にはその権利があるからね、何せこの世界の王となる存在なんだから」

 

「お前らごときに、我々は屈しない!」

 

「それはおかしいよ、だって今までは僕達吸血鬼こそが平和に生きたいだけの存在含めて全てを狩人が屈させてきたんじゃないか。これが悪事を働く吸血鬼だけなら寛容で寛大で器の大きい僕は捕らえる順番を後回しにしてあげたのに、仕事なのは分かるよ、分かるけど仕事なら何をしても許されるとは思わないことだよ。罪の無い吸血鬼まで苦しめた罪はその身を持って痛みを知って懺悔して罪を償うべきだ。全ての人間は潜在的に吸血鬼を蔑み罵倒し差別する生き物だから今度は僕が全ての人類を屈服させ、地べたに這わせ、無様な姿を晒させ、浄化させる。そしてその為に僕はその権利を行使しているに過ぎない、王の権利を持ってね。……はぁ、仕方ない、やって良いよ」

 

「了解。まずはムチ打ちからだ」

 

「ハッ!」

 

 ソジュンは自分自身は理路整然と言っているつもりでいるのだが、狩人サイドは全くもってそれを聞き入れようとせず怒りや恨み、殺意の炎は消えなかった。

 それにつまらなさそうに溜め息を吐き出したソジュンは一言、側近にそう伝えるとソファに腰掛け、テーブルの上にあったグラスを持ち上げる。部下がおずおずとワインを注ぐとまるで自宅にいるかのようにあくびを漏らし寛ぎ始める。

 まるでこれから始まるテレビ番組を暇潰しに眺めていようとする、そんなように。

 

「ぐっ!……うっ!……ぎッ!」

 

「ふぁ〜あ、キミ達も気合い入れ過ぎないようにね。戦力なんだから腕とか肩痛めたら元も子も無いよ。拷問なんて長ければ長いほど美味しいんだからじっくりコトコト、自分が楽しめる範囲でやってね」

 

「承知しました!」

 

 彼は部下に対して非常に寛容で寛大で器の大きい男だ。

 ミスをしたらじっくりとどこをどう理解できなかったのか、またはケアレスミスをしてしまったのか等を本人と実証や話し合いを行い、また拷問に対してもあくまでも仕事ではなく自分が嗜虐趣味として行える範囲でやるようにときっちり伝えている。

 彼は純吸血鬼と元人間ではかなり差別しているような口振りをしているものの、その実ではそこまで対応が変わっている様子は無い。

 側近や幹部格こそ純吸血鬼で固めてはいるが、元人間の吸血鬼も今はやる気と喜びに満ち溢れた顔でムチを狩人に対し振るっている。

 それが何よりも彼、ソジュンのリーダーとしての才覚を示しているのだと言外に伝えているのだ。

 

「いやしかし、実に心落ち着く光景だね。だってそうだろう?これでもうカリーナさん達我々を受け入れてくれた開発地区の吸血鬼達が理不尽に平和を脅かされることはないんだ、これでまた1つ世界が平和になっていく。僕も、キミ達も、この世界を統治する存在として正しい行いをしているんだ。今まで何も出来なかったと嘆いていたキミも、会社をクビになって絶望していたキミも、ニートで社会の底辺と言われたキミも、全てに裏切られて生きる気力を無くしていたキミも、正義の名の元に人間を裁けるんだ。そして選ばれしキミ達はこの先僕の忠実な直属の部下としての地位を得られるんだ。吸血鬼だけの世界でその『王の下僕』という地位を賜えるのさ、何があっても僕はキミ達を見捨てない。キミ達はなんたって吸血鬼なのだからね」

 

「リーダー……!」

「どこまでも着いていきます!」

「俺達だってリーダーを裏切る訳がない!何があったって!」

「吸血鬼最高!」

「リーダー最高!」

 

 今正に拷問が行われているとは到底思えない喝采がムチ打ちをしている部下から飛び交う。

 彼らも人間だった者が半数程度だが、人間社会に絶望し生きる道を無くしていた、言わば人間に迫害された存在だった。

 そこを運良くソジュンに拾われ、人間として生きることを辞め彼の部下として今を生きている。

 

「さてと、あんまりやり過ぎて殺さないようにね。それと最低限の衣食住はちゃんと与えること。なるべく健康体のまま、長く長く拷問したいからそこのとこは頼んだよ。忠実なこの王たる僕の部下なら言わずとも分かっているとは思うけどね」

 

 彼はワインを飲み干すと一旦満足したのか、席を立って優雅な足取りで廃倉庫の外へと歩みを進める。

 

「ああ、外の露店で色々と買ってくるから後で好きなの選んで良いよ。頑張って楽しませてくれているお礼も兼ねて、そしていつもお世話になってる開発地区の方々にもお金を落としてこないといけないからね。特に栄養補給にチョコバナナは手軽でとても良いんだ、全員分買ってくるから楽しみにしててよ」

 

 ムチの乾いた破裂音に近い音をバックに、彼は今日も飄々とした表情を変えることはなかった。

 

-Anotherview out-

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ひよ里はさ」

 

「なんですか?」

 

「みんなに会いたいって思う?」

 

「……そうですね、やっぱり少しくらいは会いたいなって思う時はあるかもしれないです。今まで普通の学生をして、働いて、お友達と過ごして、最近では布良さんともとても仲良くなれてきていて」

 

 テレビからバラエティ番組の音が聞こえる。

 映像も付いてるんだろうけど、俺は今は見る気になれなかった。

 アンナ派閥や狩人から逃げて早1週間、俺は本当にひよ里をここに連れてきて良かったのか分からなくなっていた。

 自分の意志で着いてきたのは分かってる、でも今まではこんなことに巻き込まれる事の無かった普通の、ちょっと吸血鬼に詳しいだけの女の子だったはずだ。

 だったら、この暮らしは苦痛なんじゃないかって感じてしまう。

 たまには陽の光に当たらないといけないはずの人間だし、あまり広くない家と呼べるかどうかも怪しい場所。

 勿論オーナーが用意してくれた場所なんだから不満は無いけど、家と呼ぶには窮屈なのは事実なもんで。

 

 だから迷ってしまったんだろうな。

 このままで良いのかって。

 いや、正確には後先考えず突っ走って目を付けられた俺の隣にいても良いのかって。

 

「俺が後先考えずに突っ走ったからこうなっちゃったワケでさ。それに巻き込んで本当に良かったのかって嫌でも考えちまうんだよ」

 

「でもそんなおバカな人に救われて、好きになって、愛しているのは私なんですよ?確かにみんなに会えないのは少し寂しいですけど、それよりも直太くんの傍にいられない方が何倍も寂しくて苦しいんです。だから気負わないで、自分を責めないで。あなたの傍にいられるなら後悔なんてありません」

 

「ひよ里……はは、ありがとう」

 

 でもひよ里はそんな俺を優しく抱きしめてくれた。

 そして認めてくれたんだ、そんなバカな行動を。

 少しだけ気持ちが軽くなる気がした。

 

「あ……電話。ごめんひよ里、ちょっと出る」

 

「あ、はい」

 

 ここから良いムードになっても良かった……んだけど電話が掛かってきた。ここにいる時専用のケータイだから掛けてくるのはオーナーかオーナー代理の人かくらいだけど……

 

「もしもし」

 

『倉端くん?私、萌香よ』

 

「オーナー?どうしたんですか?」

 

『アンナ派閥と狩人の抗争が終わったわ』

 

 それは突然の報告だった。

 長引くと思ってただけにかなりあっさり終わったみたいで今までの悩みが吹き飛ぶ気分だった。

 

「抗争終わったってほんとですか!?よ、良かった……これで平和に……」

 

『でももっと大変なことが起こったわ』

 

「はい?」

 

『……自称《この世界の王》を名乗る吸血鬼とその配下達が狩人を中心に《人間》を次々に拉致しているの。……詳しくはまたそっちに行ってから話すわ』

 

 だが……それは新たな『始まり』に過ぎなかったことを、俺はまだ知らないでいた――

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