倉端直太だって恋がしたい! 作:ひよちゃんLove
「それで……狩人が攫われたって話とかこの世界の王とか色々訳の分からない話を聞かされたんすけど……これって詳しく話してくれるんすよね?」
「勿論、今日はその為にリスクを負ってまで外に出てきたんだから知ってること全部話すわよ。……これは特にひよ里ちゃんの身に関わる話でもあるから」
「私がですか」
「ええ」
電話から数時間後。
ここに連れてこられた時にも見たボディーガードの陰陽局員2人を連れてここにやってきたオーナーは、俺とひよ里と向かい合っていつもの和やかな口調の比にならないくらい重々しい口調でそう告げた。
つまりこれから話す内容に間違いは無い上に、言葉をそのまま受け取るんだとしたら今度は俺じゃなくてひよ里の身が危ないってことか……どうしてこう、平和にならないのかなあここは。
「まず最初に、電話口でも話した通りアンナ派閥と狩人による抗争はどちらの派閥も六連くんと布良さんのコンビが鎮圧したわ。それももう何日も前の話だけど」
「何日も前?んじゃその変な男が現れたってのは?」
「その鎮圧した1分くらいあと、六連くんと布良さん、アンナ派閥の吸血鬼約20名にはその時は危害を与えなかったけどその場にいた戦闘不能になった狩人を全員、総勢20名程、配下総出で連れ去ったそうよ。直後に来た風紀班も何処に消えたか分からず追えなかったと聞いてるわ」
「もしかして、その方は狩人に相当な恨みを持っていたんですか?」
まず言いたいのはあの2人凄すぎない?って話。
アンナ派閥吸血鬼と狩人合わせて40人くらい相手にして2人で鎮圧しきるってどうなってんだよ、チートかよ。
ただ、その2人を持ってしても何も出来なかった連中って一体何者なんだ……何が目的なのかも分からない。
ストレートに読むならそれこそひよ里の言ってるような理由が100%になるんだろうけど……
「半分正解、半分不正解ってところね」
「と言うと?」
「首謀者は『全ての人類は皆等しく吸血鬼を潜在的に侮辱し蔑む生き物だから、この世全ての人類を吸血鬼に変える。その時に出る数億数十億の犠牲は淘汰に過ぎない』のだと語っていた……と、六連くんと布良さん、そしてあの場にいた吸血鬼達からの証言で判明したわ。とてもじゃないけれど看過出来る出来ないの次元に無いレベルの犯行声明としか言えない、どこまで実現可能なのかは分からないけれど少なくともこのアクアエデンには彼の言う思想に賛同する吸血鬼も複数現れている。止めないとアクアエデンはまず陥落してしまう」
最早これがドッキリだと言ってくれた方が笑って終わらせられる話しなんじゃないかと思ってしまうくらい、意味不明な話だった。
俺がバカとか頭が良くないとかそういうの抜きにしてもそんなのを信じろと言う方がおかしい、どんな思考回路とか生い立ちしてたら人間は滅ぼさないといけないなんて言う発想に行き着くんだこの首謀者。
人間を恨んでるとか嫌いって言う奴はアクアエデンにもいる、それこそ佑斗が最初に巻き込まれたあの事件の犯人の1人だったりとかもそうだしひよ里が吸血されたあの事件の高野もそう。
なんなら学院にだって人間にかなり根深い恨みを抱いてる吸血鬼はいないことはない。
ただ
「全ての人間が揃って悪という訳ではない」
という結論に行き着く吸血鬼が大半だし、そう思わなかったとしても犯罪者になって適当に自分の身の丈に合った暴れ方をするだけだ。
いやそれもめちゃくちゃ迷惑なんだけど、とにかく
「吸血鬼の為の世界を作る為に人間を滅ぼそう!」
なんて言う誰かの為にこういう思想を持つ奴は間違いなく危ない。
何が原因か知らないが、行動力があるのは確か。
だとしたら本気で人間を滅ぼしに来たっておかしくない、実際狩人はもう連れ去られてるしある程度実行に移すだけの実行能力や指揮系統はあるってことだ。
笑い話には絶対出来ない。
「そんな……」
「本気で人間滅ぼしに来てるって考えて行動しないとダメか……」
「そうね。だからあなた達には引き続きここにいてもらいたい。ここなら外からは入口が分からないから見つかりにくいはずよ」
「まあ……そうだよな。ところで佑斗達はその首謀者って奴に抵抗はしなかったのか?多分できなかったんだとは思ってるが、いくら敵対してた狩人って言ってもみすみす攫われるのを見てただけなんてアイツや布良さんはしないと思うし」
取り敢えず聞き出すのは、佑斗と布良さんがどんな状況で狩人達を持ってかれたか、だよな。
あの2人は絵に描いたようなお人好しコンビだから、いくら暴走しまくってた狩人って言っても「はいそうですか」で無抵抗で渡すはずがないのは前提で話してた。
だからこそ、どんな状況でそれが起こったか聞き出せるならちょっとくらい特徴も分かるんじゃないか、対策や人物像が見えてくるんじゃないかってのが俺の考えだ。
「なんでも『とんでもない威圧感で足が動かなかった。少なくとも荒神市長並の実力者なのは間違いないと思う』って佑斗くんは話していたわ。それと布良さんは人間だからいつどうやって攫われるか分からないから動かないようにって指示を出してたそうよ」
「とんでもない威圧感……いやまさかな」
「直太くん?どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。ちょっと考え事してたけど多分気のせいだろうから気にしなくて良いぜ」
一瞬浮かんだのはアレキサンドで見た、あの人の良さそうな俺達と狩人とを仲裁してくれたあの吸血鬼の顔だった。
名前は知らないけどあれから騒動が始まるまで定期的にアレキサンドに通ってくれてて、いつもニコニコと酒を飲んでてくれたあの吸血鬼が何かやるはずは無いんだが……
それも仲裁した後は狩人とも和やかに話をして、ゆっくり酒を飲んでいたじゃないか。
狩人は全員人間だ、吸血鬼を狩るんだから当然だ。
そんな人達とも和解出来ると信じて話して、対等な立場になって話を交し合えるそんな存在が果たして今話してたようなとんでもない思想のテロを起こすのか?と言われるとどうしても信じられない。
信じられないんだが、1つだけ引っかかったことがある。
それが『とんでもない威圧感』と言う佑斗の証言した言葉。
あの日狩人を仲裁したのは間違いなくあの吸血鬼だけど、それと同時に記憶に深くこびり付いてるのは仲裁した瞬間に出ていたあの足が竦むような、空気がビリビリとするような異様な威圧感。
あれは本当に驚くくらいの恐怖を覚えた、俺やアレキサンドの人達に向けられていなかったのにも拘わらずだ。
だからそこだけがどうしても気になった、だがとてもじゃないけどやっぱり疑う訳にはいかないという気持ちが勝ってしまうのが悩ましい。
「それなら良いんですが……大丈夫ですか?あまり考えすぎたらめっ!ですからね。私もいるんですから、1人で考えずに一緒に考えることだって出来るんですから」
「そうだな。それじゃ頭の整理が付いたらちょっと相談したいことがあるから……良い?」
「もちろんです」
「ありがとな」
だから1回だけだ。
1回、もう少し俺の中で今回のこととか今までのことの整理がちゃんと脳内で終わったと感じられたらひよ里に相談する。
俺の中だけで終わらせていい問題じゃない、俺だけが巻き込まれるならまだしも今回はひよ里が危ないんだ。下手に自分だけでどうにかしようと甘えちゃいけない。
「それじゃ悪いけどもう少しだけ頼むわね」
「分かりました」
悪い予感が当たらないようにと、密かに願った。
-Anotherview-
「……しぶといねえ、まだ屈服しないなんて。さすがは狩人だよその執念と根性だけは僕も認めてあげようじゃないか。尤もキミ達に残された尊厳はそれくらいでもう他の尊厳も地位も名誉も権利も権力も財産も奪って今は僕の足元に跪くのが精一杯だけどね。言わなかったかな、僕達はキミ達を痛め付けて、痛め付けて、徹底的に、執拗に、緻密に、ひたすらに、根深く、根気強く、長く、長く、長く痛め付けて遊んで何もかもの尊厳を無くしてから吸血鬼にしてあげるんだよ?だから耐えるってことは僕の掌の上で踊ってると同義なんだ、この意味がキミ達に伝わるかい?まあ愚鈍で愚かで醜くて薄汚い人間に伝わってるとは思わないけどね」
ソジュンの足元には肩で息をしながらもそれでもまだ自我を保ち続け拷問に耐え続ける楓等狩人達の姿があった。
そしてその近くには新たに捕らえてきた人間達の姿もあった。
「人間共、見ていると良いよ。これは見せしめだ。吸血鬼を迫害し殺し続けた一族の末路だ」
「……だとしたらなんで俺達をここに加えねえんだ。俺達は狩人の一族だぞ」
「そうだ、何故俺達は別なんだ」
「まあ拷問されないだけ良いけどよ……」
しかしそれに声を上げる男達がいた。
それはかつてソジュンという吸血鬼と出会い頭と肝を冷やし自分達の生き方を見直したあの3人の狩人達だった。
ソジュンは彼等を見やると一瞬だけ悲しそうな顔を浮かべ、気のせいと言わんばかりにいつもの飄々とした笑顔でこう答えた。
「一時的でも考えを改めて吸血鬼に歩み寄ろうとしてくれた礼さ。人間は潜在的に愚鈍で愚かで吸血鬼の敵に必ずなってしまうからキミ達も何れは吸血鬼化させるけど、一時的でも他の狩人とは違い立ち止まってくれたから扱いは分けさせてもらう。キミ達の尊厳、地位、名誉等は守れるだけ守って吸血鬼化を行わせてもらうからね」
「……その拷問とか、吸血鬼化とかは辞めてくれないのか」
「それは無理な相談ってものだよ。分からないかもしれないけど人間は何よりも汚らわしい存在だからね。キミ達だってまたいつか考えを変えてしまうのは人間の本能なんだ。でも吸血鬼になれば真の和解が出来るんだ、それまでもう少しだけ待っててよ。そうしたら僕らは本当の友達になれるから」
彼は笑う、嗤う。
まるでそれを信じて疑わない無邪気な子どものように。
それでいて何か深い闇を隠すかのように。
彼はただただ、嗤っていた。
-AnotherView out-