ウマ娘 Shout of SOUL   作:D-ケンタ

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第六話

イギリスでのレースを終え、帰国したアタシは次の目標をジャパンカップへと定め、トレーニングを積んでいた。その間、驚くことがあった。

 

「あんだけの走りを見せられちゃ、私も負けていられないね!」

『デルタブルースがゴールイン!やった日本!!デルタブルースポップロック、何と何と、歴史的なワンツーを決めました!!』

 

あのデルタがオーストラリアへと遠征。メルボルンカップを制したというのだ。

クラシックの同期で、あの有マでも一緒に走った……ちょっと恥ずかしいが、大事な友人だ。そのデルタが制したと聞いて、なんだか嬉しくなった。

それだけじゃない。アタシのイギリス遠征の前の話にはなるが……。

 

「ワシだって、負けてられん!地方の、道営の意地!見せたらああああっ!!」

『コスモバルク!コスモバルクだ!!道営のエースが!世界の舞台で歴史的勝利を決めました!!』

 

コスモもシンガポールへ遠征し、シンガポール航空国際Cを勝利。地方所属ウマ娘が中央G1を制するのは前例があるが、国際G1を穫るのは初めての出来事だって、騒いでいたな。

アイツともクラシック三冠レース含め、幾度となく走ってきたな。

学園こそ違えど、その垣根を越えてお互い競い合っていたな……。

そして、コイツも忘れちゃいけないな。

 

「ハーツがあんな走りしてるのに、私が燻っているわけには……いかないのよ!!」

『ダンスーーっ!!ダンスインザムード!!4コーナー入り口で内にでたダンスインザムード!!見事マイル女王に輝いた!!』

 

新設されたG1、ヴィクトリアマイルにて、ムードが初代王者となったのだ。

チームの同期で、お互いに競い合って、トレーニングを積んできた……路線は違えど、大事な仲間であり、ライバルだ。

他にも、皐月賞ウマ娘のダイワメジャーが約一年六ヶ月ぶりにG1を制するなど、今年はアタシ達の世代にとって復活の年と言われた。

アタシも負けていられない。そう思っていた矢先……アタシは喉鳴りを発症した。

今思えば、兆候はイギリスからあったと思う。しかし、今さら気づいたところで遅い。

レースはもう間近、しかも今回はディープとの再戦となるレースだってのに……。

 

「……ちょうどいいのかもな」

 

その後、アタシはトレーナー室へと向かい、トレーナーと話をした。

 

「……本気か」

「ああ。アタシは今回のジャパンカップを、最後のレースにする」

 

ここいらが、引き際か……。

 

 

ジャパンカップ当日。天気は小雨が降っていたが、これがアタシの未練を洗い流してくれるような気がして、嫌には思わなかった。

 

「ハーツ!!」

 

不意に、コスモがアタシに声をかけてきた。

 

「おうコスモ。どうしたそんな顔して」

「お前……引退するって本気か?」

 

やっぱりその話だったか。

 

「ああ、本気だ」

「何でじゃ!?お前なら、喉鳴りが治ればまだまだやれるじゃろう!?ワシだって、もっとお前と走っていたいんじゃ!!」

 

拳握り、詰め寄るコスモに、アタシはどんな表情をしていたのだろうか?

 

「確かに、メジャーも喉鳴りの治療後にG1を制した。だけどそんなのは稀も稀、治療できても元の実力に戻らず相当数が引退に追い込まれている」

「じゃ、じゃがぁ……」

「……潮時なんだよ」

 

そうアタシが言うと、コスモは悲しげな表情を浮かべ、握っていた拳を緩めた。

 

「……わかった。そこまで言うなら止めはせん。ラストラン、せいぜい悔いは残さんようにな」

「……ああ、勿論だ」

 

コスモ……我の強い奴だが、それでいて情に厚い、いい奴だよな。

離れていくコスモの背中を見送ると、また見覚えのある奴に声をかけられた。

 

「Hearts.(ハーツ)」

「ウィジャボードか……」

「You're retiring too. I'm going to miss you.(君も引退か。寂しくなるな)」

「That's right……(そうだな……)」

「Hurricane Run, Electrocutionist... and you. All three of those who competed in the King George have retired…….(ハリケーンラン、エレクトロキューショニスト……そして君。あのキングジョージで競った三人が、そろって引退とは……)」

 

そう。あのキングジョージは、まさに激闘だった。アタシ含め全員が死力を尽くした……しかし、その代償は大きかった。

ハリケーンランはその後燃え尽きたように敗北を重ね、エレクトロキューショニストは心臓発作により、治療のためレースを続けられなくなり、二人共アタシに先駆けて引退した。

 

「You may be the only one watching, but I'll give you a memorable run.(君が見ているのは唯一人だろうが、ワタシも君の記憶に残る走りをしてみせるよ)」

「……Yeah. I'm looking forward to it.(……ああ。楽しみにしてるよ)」

 

あの時と同じく差し出された右手を握り返す。コイツとも妙な縁だよな。

昨年のジャパンカップにドバイシーマクラシック、そして今回のジャパンカップ……不思議なもんだよな。

 

(それも……これで最後か……)

 

雨の降る空を見上げてから、アタシはゲートに向かう。

間もなく、アタシの最後のレースが始まる。

 

――――――

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

アタシの最後のレース。結果は……ブービーの10着。調子は本調子でなかったとは言え、それでも出せるすべてを出した。それでもこの結果だ。

でも、これで踏ん切りがついた。

 

「ふぅー……」

 

息を吐き出し、空を仰ぐ。小雨が妙に心地良い。

観客席に目を向ける。今回も観客達の目は一着を獲った英雄様に釘付けだ。反応はあの時とは真逆だがな……。

 

「……あーあ。最後くらい、有終の美を飾りたかったな……」

 

そう独り言ちて、アタシはターフから降りた。

 

 

後日。アタシは記者達を集めて会見を開いていた。その理由は……。

 

「ハーツクライさん、引退されるというのは本当ですか?!」

「はい。喉鳴りや、かねてからの激戦の疲労もあり、自分でも満足のいく走りができないと判断したため、アタシは先日のJCを最後に、レースから引退します」

 

そう。これはアタシの引退会見だ。正直こんなの柄じゃないんだが、こんなアタシを応援してくれた人達への、せめてものケジメのつもりだった。

未練がないと言ったら嘘になる。だがもう決めたことだ……その筈だったんだがな……。

 

「―――と、言いたかったんだが……それを許してくれない奴がいるんでな。みっともねぇが、引退は撤回だ」

「そ、それはつまり!?」

「アタシは喉鳴りの治療後、ドリームトロフィーリーグへと参戦します」

 

そう宣言すると、記者達が一斉にカメラのフラッシュを焚く。

写真を撮られながら、アタシはJCのレース後のことを思い出した。

 

 

「ふん……」

 

これ以上ターフにとどまる意味もない。そう思い控室に戻ろうとした時。

 

「ハーツ!本当に引退しちゃうの!?ドリームトロフィーには!?」

 

その声に、つい足を止めて目を向けてしまった。そこにはディープではなく、アタシの方を見る観客達の姿があった。

 

「ああ、今日でアタシのレースは終わりだ。ドリームトロフィーにも行かない。完全に脚を洗うつもりだ」

 

そう告げると、観客達は悲しげな表情を浮かべた。

そして、次々にアタシに向かって言葉を投げかけてきた。

 

「辞めないでーっ!」

「俺の息子は、アンタの走りに勇気を貰ったんだ!」

「俺も仕事場で燻っていた!だけど君の走りを見て頑張ろうと思ったんだ!」

「頼む!もっと君の走りを見せてくれ!」

「ハーツっ!ハーツっ!」

 

なんだ、これは……なんでアタシなんかに……。

 

「……馬鹿野郎、こんなことされちゃ……」

 

未練、できちまうじゃねえか。

 

「ハーツクライ」

 

ふと背後からかけられた声に振り向くと、なんとあの英雄ディープインパクトが立っていた。

 

「……英雄様が、何の用だ?」

「……私は次の有マを最後に、ドリームトロフィーに移籍する」

「そうかよ。アタシには関係」

「決着は、ドリームトロフィーでつけよう。ハーツクライ」

 

その発言に、アタシは開いた口がふさがらなかった。

 

「何言ってんだ?決着ならついただろ。お前は1着、アタシは10着だ」

「ああ。これで1勝1敗だ。それに、今回の君はあの時と違い不調だった……こんなの納得できない!病を治し、本調子となった君に勝つことで、漸くあの時の雪辱を果たせる。……勝ち逃げは許さんぞ」

 

言うだけ言って、ディープは呆然とするアタシをよそに控室へと戻っていった。

全く、何なんだよ皆して……アタシはもう、引退するって決めたのに……。

 

「……っ!」

 

気づけば無意識に拳を握りしめていた。

 

「……王者ってのは、勝手な奴しかいないのかよ」

 

ため息を吐いて、アタシは控室へと戻る。その胸に、再び火がつくのを感じながら。

 

 

「……英雄様から直々のご指名だからな」

 

マイクに拾われないように小さく呟いた後、アタシはマイクを握り改めて宣言する。

 

「まぁ、そういうことだ。戻すのにどれだけかかるかは分からんが、アタシは必ずまたお前の前に立つ。先に待ってろ、ディープインパクト!」

 

そう告げると、記者達は一層騒ぎ、フラッシュを焚く。

ったく。ヒトが潔く幕を引こうとしてるってのに、余計なことをしやがってよ。

お礼はしてやるから、楽しみに待っとけよ。英雄様。

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