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時の流れはあっという間で現在は中学二年生。総耶区のある中学生の生徒として在籍中。現在区の図書館で見聞を広めている真っ定中だ。
さて、この世界に産まれ落ちて(?)手に入れた幾つかの情報を纏めて語るとしよう。
一つ目。この世界はRewriteの世界ではなかった。
幼少期にテレビが放送していたニュースを見た後に我が家の文明の利器を真っ先に使った。
Rewriteでは環境保護団体マーテルとは歴史も深く、知らない人なんていないビッグネーム。こっそりと母上のパソコンを使って名前を調べたら該当する名前はまさかの0件。似たような名前は無いかと探しまくったが結局見つかることはなかった。
念には念を物語の舞台となる風祭市も検索したが、こちらも不発で該当都市は見つからず。
オレは人類存続のために、原作の天王寺瑚太朗と同じ生き方をする必要がなくなった。
それを理解したオレは心の底から歓喜した。
数日間上機嫌で絆スキップで歩き、満面な笑顔でママン、ナシむいてくれよ!!っと恥じらいも捨て年相応に生活していたぐらいにね。
なんたって天王寺瑚太朗の末路は死。孤独の少女に’ "良い記憶"を見せるために多くのモノを失う。
家族、幼馴染、戦友、恩師、孤独の少女も、そして自分自身すらも投げ捨てる。
それを耐えられる?無理っす。私には無理です!痛い思いとか、率先して死にたくなんてないもん!!
——閑話休題。
人類のためにこの命を犠牲しなくていいので、こうやって呑気に生活しているわけなのさ。
持っている超能力。リライト能力の方は一度も使わず周囲へ上手に溶け込んでいる。
本来の瑚太朗君は小学生の頃にリライトを使い高校生レベルの身体能力を手に入れた。
その後体力測定で驚異的な記録を叩き出してちょっとした騒ぎに発展し、以降従来の性格もあり人付き合いが上手くいかなくなっていくのだ。
それは両親も含まれていて、実の親とも折り合いが悪くなっていき最後は家出を決意するぐらいに。
この世界母上と父上との関係は良好だけどね。マーテルが無いので普通の仲睦まじい一般家庭だ。
「今日も熱心に本を読んでるようだけどそろそろ帰りなさい。時間迫ってるわよー?」
熱心に本を読んでるフリをしてたら閉館の時間が閉まっていると司書さんが教えてくれる。
さっき声を掛けてくれた司書さんとは通っている内に仲が良くなっていった。
豪快な性格の人で、特徴的な真っ赤な長髪の髪色してるわけだから司書とは真逆だと度々思っている。
ちなみに名前は知らない。というか聞いたら色々とマズイと直感が囁いて聞いていない。
本人曰く知り合いに頼まれて暫く引き受けていると言っていたので一時的なんだろう。
図書館って言ってるけど規模も小さいし、個人経営している古本屋みたいな感じだし。
近い内に無くなるんじゃねえかなぁと感じている。この人以外司書さん見かけないわけだし。
「もうちょい駄目っすかー?」
「そう言って一時間ぐらい居座った坊ちゃんは誰だったかしらー?」
ニッコリと笑っているが目が笑っていなかった。というかパキパキと指を鳴らしてるのこわっ!!
この人さっぱりしてるから歳下だろうと容赦なく拳骨下すんだよなぁ……しかもめちゃ痛いのよこれ。
まぁ。司書さんの言った通りこの前閉館しても彼女の厚意で一時間居座ったことがあった。
理由は特にない。今家に帰るのめんどいなーと、そんな思春期の子供あるある。
更に居座ろうとしたのでいい加減家に帰れと、頭に拳骨落とされ蹴飛ばされたってわけ。
「最近なにかと物騒なんだから。家まで送ってあげるほど暇じゃないのよ」
「なんやかんや多忙そうっすもんね」
「オホホホホ。やっぱ拳骨いっとく?」
「うわぁ理不尽……」
「その軽口を減らせば相応の扱いしてあげましょう。帰宅路は明るい道を選びなさいよー」
ひらひらと手を振りながら、大人として最低限の責務は果たしたと言わんばかりに煎餅を齧り始める。
時計の針は十九時を指していた。
自宅から古臭い図書館まで距離はそう遠くはないが言いつけ通り退散しましょうかね。
あの人と話すの楽しいし居心地が良いからついつい居座っちゃうんだよな。いかんいかん。
(日課のランニングしないと。1日休んだら、3日はかかるってよく言うしネ!)
見慣れた風景。通り慣れた帰り道を、鞄を片手に持って欠伸を噛み締めながらつき進む。
さて。途中で遮られたが二つ目。
この世界月姫の世界線の可能性が高いということ。
こちらも不思議なことにある程度知識がある。
簡単に説明すれば、とある殺人鬼が非日常にへと巻き込まれて吸血鬼とラブロマンスするお話。
その舞台が東京都にある街、総耶区。
この区で、人と人外の殺し合いの幕が、回避できない運命が待ち受けているということ。
(街一つで収まるって考えれば規模は小さく見えるだろうけど……)
吸血鬼同士の争いが始まっても、それが原因で人類が滅びるみたいな展開は流石に起きない。
しかし、しかしだ。人類滅亡はなくとも、突然と巻き込まれる可能性が高いのは断然こっちだったり。
Rewriteでも組織同士の衝突はあったが、一定の場所に近づかなければ巻き込まれることは殆どない。
ガイアが操る魔物が一般人に襲う展開もあったがそれは聖女派の企みが順調にいった限りだ。
というか天変地異が起きて死ぬ。最後は光になって人どころか生命ある生物が消えるし……。
ここからは大きく話がズレるので戻るとしよう。
端的に言えば、この世界夜に帰宅してたら吸血鬼が血を吸って産まれた
タチが悪い事にあっちから近づいてくる。誰が食屍鬼と街角でごっつんこ!したいっちゅうねん。
胸のドキドキが恋ではなく、恐怖でドキドキだよ。物理的に食べられて終わりじゃないですかやだー。
ちなみに運が悪いとその生みの親の吸血と遭遇する。その場合一般人はまず逃げられない。
親愛なる隣人ではなく、理不尽な隣人はこの世界の方が圧倒的に強い。
物語が始まる前から主人公たちから距離を置いてようとこの街にいる限り命の保障がないのです。
知人だろうと、他人だろうと運が悪かったら待っているのはデットエンド!!……ほんとさぁ!!
なのでこの世界がヤバいと察してから、品行方正な生活を、よく動き、学び、遊び、食べて、休む。
運が尽きないよう、善行を行い、徳を積む生活を心がけてきた。
(ふふふ……平穏な生活。平穏の重要性平穏の重要性!!)
ここで司書さんの言葉を思い出してもらいたい。
『最近なにかと物騒なんだから——』
最近物騒。最近物騒!!!!
最近行方不明の人がチラホラ出てるんですよね。
日本では1日で平均20人ぐらい行方不明でるらしい。だから数日に一回に行方不明のニュース出るとか珍しくないよね!気のせいに決まってますよね!物騒だなぁ!!怖いなぁ!!
「ただいまー」
理不尽に襲われないかとビクビクと恐怖に怯えながら我が家に到着。
リビングには誰もいない。オトンとオカンは共働きなので、まだ帰ってきていないらしい。
もっと帰る時間早くした方がいいと訴えたいが、その理由を話すわけにもいかず歯痒いというもの。
(まぁ
我が家のマイルームに鞄を下ろして、勉強机の棚を引き出しを開けて十徳ナイフを取り出す。
吸血鬼やら、その眷属の影に怯えているが、人の理から外れた存在と直接出会ったことはない。
あくまでその存在が潜伏しているかもしれないっと、推測を立てて勝手に怯えているだけ。
「いても、いなくても関わるつもりはないし」
制服から動きやすい服装に着替える。
机の上に置いていた十徳ナイフと携帯をズボンのポケット入れて玄関へと向かう。
既にこの区に吸血鬼が潜んでいようと率先して関わるつもりもないし、関わろうとも考えちゃいない。
2つの超能力が扱えようとも、使命感を抱かず無辜な一般市民を装うだけ。命あっての物種ですよ。
外に出て軽く準備運動をして身体をほぐす。小学生に進学してから続けている。日課のトレーニング。
世界救う必要が無くなっても身体は鍛えてきた。
厄介ごとが向こうから襲ってきた時に全力で逃げ切るために。決して立ち向かうためとかじゃない。
超能力が扱えようと英雄願望は持ってない。
世界を救う、人類に希望を託す使命から解放されたんだから平穏な暮らしを選んで何が悪いのよ!
「タイマーもセット。いつもの走り込みタイムだ」
携帯でタイマーをセットする。30分間自宅周辺の道路を走り込みタイムのお時間です。
一定のペースを保ちながら脚を動かす。肌で感じる風が涼しい。身体を動かすのは好きだ。身体を動かしてる時は何もかも忘れてこっちに集中できる。
走る。ただ、ただ、がむしゃらに走る。
頭を空っぽに。風に身を任せて。無我夢中で必死に地面を蹴り上げる。
ランニングする時に稀に通っているルートに、小さなトンネルへと差し掛かる。
横幅は狭くせいぜい2人が並んで歩けるぐらい。
灯りも天井に最低限埋め込まれてるだけ。このトンネルに入れば昼でも夜じゃないかって錯覚してしまいそうになるぐらい。
歩いていても5分もかからず通り抜けられ、走っていればすぐに通過できる短いトンネル。
そのままトンネルの入り口へと踏み入れようとした瞬間に——オレは脚を無理矢理止めた。
「……なんだ?」
トンネルの中に人がいるのはおかしくない。通過できる道なのだから人がいるのは当然だ。
だがそうじゃない。何かが違うと本能が訴える。なによりトンネルに悪臭が漂っていた。
まるで生ゴミのような臭い。このトンネルに大量のゴミでもポイ捨てされたのか?
呼吸を整えて暗黒へと眼を凝らす。注意深く中を見落とさないように息を潜めながら。
「……っ」
暗いトンネルを照らす小さな光が、闇の中を蠢く何かを映し出す。
体格は成人男性ほど。酒に酔っているかのようなふらふらとしたおぼつかない足取り。
酒に溺れて正常な判断が出来なくとも、この異臭を放つトンネルに長居をしたいと思うか?
健全者でも鼻を抑えたいというのに、アルコールに酔った者がこの悪臭の中で嘔吐を堪えられるのか?
「引き返そう。知らないフリだ……まだ、間に合う」
ここから先は踏み込んではいけないと理性が囁く。
ただの酔っ払いだトンネルが異臭を放っているのもチンピラが大量の生ゴミを捨てた。
そうだ。そうに違いないのだ。気がついた誰かが通報とか、それこそ酔っ払いがどうにかするさ。
オレは見て見ぬフリをして去ればいい。酔っ払いが目指している通行人からも眼を瞑って。
(……関係ない。関係ない。オレには、天王寺瑚太朗と無縁の人じゃないか……)
何度も何度も無関係だと言い聞かせてるのに、この身体は踵を返すことなく留まり続ける。
ははは……いや、だって無関係でしょ?あれは酔っ払いで、その酔っ払いから絡まれる。それだけ。
ちょっとしたトラブルに発展するだろうが、そこに命に関わるような事件は起きないさ。
顔も見知らぬ誰かを助けるほど、オレも天王寺瑚太朗もお人好しではない。
(天王寺瑚太朗は……っ)
……本当に?天王寺瑚太朗はお人好しではない?
青年は捻くれていた。生きることを窮屈だと、息苦しいのだと悩み嘆いていた。
なのに不良に絡まれた見知らぬ少年を彼は助けた。顔も知らない男の子の為に財布を取り返した。
戦場で汚い大人に利用されていた見知らぬ子供へと手を差し伸べて命を助けていった。
青年は綺麗事で人類を守ったわけじゃない。手段のために人を殺したことだってある。それでも足掻いて、足掻いて前を向いて希望を託してみせた。
「……オレは」
——これはオレの
理不尽に襲われる他人を救うか、見捨てるか。
下衆に成り下がるか、善人で在りつづけるか、どちらを選ぶのかと誰かに突きつけられている。
ポケットの中に入っていた十徳ナイフへと触れる。護身用にしては頼りないが血液を出すには充分すぎる
「いっちょ書き換えてみようか……っ!誰かの理不尽ってのをさ!」
ポケットから十徳ナイフを取り出して、そのまま前腕の表面を勢いのままに斬った。
斬った部分から血が流れてくるがそれが目当て。
内側から外へと流れてきた血を操作してナイフを土台にして加工していく。
痛い。カッコつけて書き換えるとか言いながら、自分の腕の皮を斬るとか後悔してる!!
「……できた」
加工して出来た物は長さが役70㎝。金属バットをイメージして作り上げた血液で出来た棒。
外装が立派なだけで、その中身はスカスカで。一度でも殴ればぽっきりと折れてしまうだろう。
不意打ちに一度使えれば充分。
今からするのは戦いではなく、見知らぬ誰かと一緒に逃亡するのだから。
「……行くぞっ!」
死が蔓延している内部へと一歩踏み出した。
あれだけ躊躇っていたのに、いざ踏み込んだら軽い足取りで前へと進んでいく。
なるべく足音を立てずに。それでいて急ぎ足で。
暗がりの中で成人男性に近づくほど異臭は強烈になっていく。トンネルの通路には渇いていない血の痕。その痕跡は目の前の屍へと続いていた。
(動きが遅いのが唯一の救いだな……っ!前方の人はまだ気づいていないよな!?)
この異臭の中で気づいていないのどれだけ図太いのか……それとも天然で気づいていないのか!
奥にいる人影は遠目だから詳しくは分からないが、身長と体格から察するに女性っぽいな?
ワンチャンフラグ建設とか……いやないな!!起こるわけないよね!!
(あと8メートル。5メートル……3メ——っ!?)
順調に背後から近づいていたと思っていたら、首を180度向けてソイツの生気を失った目がオレを覗く。
まさに人のカタチをしたナニか。動く肉の塊。頭から血を流して、青い顔をした
「お、おぉぉぉ!!」
異形に睨まれて臆した身体と精神を吠えて動かす。
両手に力を込める。そしてそのまま血のバットで頭部へめがけて身体全体を使って水平に振るった。
ぐちゃりと、肉が潰れる感覚。頭部を殴った衝撃に耐えきれずハリボテ当然のバットが砕けた。
化け物は地面へと倒れ込む。脇目も振らずにオレは振り返って眼を見開いていた女性の腕を掴む。
「ちょっと失礼!」
「——あ、あの!?」
何か色々と抗議されるが耳を傾ける余裕なんてあるわけなくがむしゃらに走った。
トンネルを抜けて、少し距離が離れた場所でその女性の腕を離す。
「……はぁはぁ。ここまで来れば大丈夫か……?」
コンクリートの上だろうとお構いなしに座り込む。
い、いや、疲れた……っ!めちゃくちゃ疲れた!
ランニングしてた上に、そのまま全速力で逃亡劇とか素人には疲れるぞこれ……っ!?
「……大丈夫ですか?」
倒れ込むように座り込んだオレの顔を、助けた(?)女性が心配するかのよう目線を合わせてしゃがむ。
青髪のショートカットに、学校帰りなのか制服を着ている女性。多分、年上なのかな?
トンネルの時はそんな余裕はなかったけど……めちゃくちゃ可愛いなこの人!?直視していたら恥ずかしくなってきてつい眼を逸らしちゃう……!
「立てそうですか?手貸しますよ?」
「い、いやいや、大丈夫!これぐらい1人で立てれるんで!」
手を伸ばしてきたので、これぐらいはなんとでもないと飛び上がるように立ち上がってアピール!
こんな可愛い人を助けられたんだから、あの決意は無駄ではなかったんだ……!!
「先ほどは助けてくれたんですよね?ありがとうございました」
「偶然だったというか、男として当然のことをしたまでというか……!!」
「偶然だとしても勇気を出して立ち向かったことには変わりませんから。感謝のお礼は素直に受け取るのがいいんですよ?」
「は、はい……」
なんというかこの人先輩っぽいのが似合うな。ウインクしてやんわりとアドバイスをしてくれたりとか。
本当にちょっと惚れちゃいそ……っ!ロマンティックに口説く方法とかないかな!?助けてくれよ!ロマンティック大統領!!
「……その左腕さっき怪我したんですか?」
「あっ!これは全然違うんで!さっきとは無関係!学校の部活で怪我をした、みたいなぁ!?」
「学校の部活ですか?」
「そうそう!部活!オカルト研究!略してオカ研って部活に入ってて!ツチノコ探してる時にいたの間にか腕切ってたみたいなんっすよ!」
十徳ナイフで斬った左腕の傷をなにやら怪訝な顔で見られたので必死に誤魔化す。
ついさっき怪我をしたはずなのに血が止まってるのは不自然だから、夕方に怪我をした事にしないと!!
「東京なのにツチノコ探しですか?UMAの存在は否定しませんが……」
「いいや!いますよ!!ツチノコは絶対にこの街でもいるはず!河川敷にいる可能性はゼロじゃない!」
部活に入っているの真っ赤な嘘。
オカルト研究こと、オカ研は原作の天王寺瑚太朗が入部していた。オレはただの帰宅部なんだよ!
ついさっき怪我をしたはずなのに血が止まってるのは不自然だから、夕方に怪我をした事にしないと!!
必死に弁明してたら、なんか若干引かれてるような気がするが……キノセイダヨネ!!
「怪我の理由は分かりましたが治療もせずに放置しているのは駄目ですよ?傷口から菌が入り、その怪我が悪化することだってあるんですから」
「は、はい!次からはきちんと治療します!」
「ふふふっ。次からはそうしてくださいね?約束です。なので今回はこれで応急処置です!」
彼女はスカートのポケットから青いハンカチを取り出して、自傷した怪我に丁寧に結んでくれる。
感情バグりそうなのでやめてくれまへん?うっかり惚れちゃいそうになるからおやめになさって!!
「これでヨシっと!本当はちゃんとして心を込めたお礼をしたいのですが時間も時間ですからね……また後日、でもいいでしょうか?」
「そ、それはもちろん!可愛い先輩と会えるなら喜んで!」
「ふふふふっ。冗談が上手なんですね。それなら君の名前教えてもらってもいいですか?」
「天王寺瑚太朗っす!」
「天王寺瑚太朗。それでしたら天王寺君と!最近は物騒なので天王寺君も早く帰るんですよ?」
「知り合いにも口煩く言われたんで気をつけます。先輩こそ気をつけてくださいね?」
「これでも強いんですよ?実は私用がありまして……今日はこれで失礼しちゃいます!それでまた会いましょうね。天王寺君。」
にこりと微笑んで手を振りながら彼女は去っていき、その後ろ姿を口元を緩ませて見送った。
後日会うのか!?後日遊んじゃうのか!?というか連絡先交換すればよかったなー!
「あっ……名前を聞くの忘れてた」
怒涛な展開に、そして美人な歳上の高校生と知り合えた事に浮き足立っていてすっかり忘れてた。
ま、まぁ、後日会いますしぃ?その時に連絡先と名前を聞けるでしょう!!
こうしてはいられない!今から女子高校生の好みを文明の利器で調べなければ!!
——目指せ!!称号ロマンティック大統領!!
◇◇◇
「見失うと焦りましたが……」
天王寺瑚太朗と別れたはずの女子高生は、先ほどのトンネルへと戻ってきていた。
彼女の視界には横たわっている1人の
生きてはいるが少年の強襲が響いているようで、両手足を虫のようにバタバタと動かすのが限界の様子。
絶命寸前の人ならざるものに、冷え切った視線で顔色ひとつ変えずに彼女は見下ろす。
制服の内側から鍔を取り出す。指の合間に挟むと何もなかったはずの刀身が生えるように伸びる。
黒鍵と呼ばれる三本の護符を屍へ向けて躊躇いもなく投擲した。
「——主よ、この不浄を清めたまえ」
肉体へと深々と突き刺さった瞬間に、その身体かを燃やし尽くすように突如として炎が着火する。
完全に燃えるまで、灰になるまで監視するかのように目を離すことはなく見届けた。
「おや、これは……」
完全に異物を処理をした彼女に、天井の照明に照らされ光り輝くものが目に止まる。
惹かれるように手を伸ばして拾えば、それはなんの変哲もない十徳ナイフ。その落とし物に彼女は心当たりがあった。
鋭い何かで腕を怪我していた少年。血で濡れたナイフは渇いておらず時間がそう経っていない証拠。
あの切り傷は間違いなくこのナイフを使って付いたものと結論付けるには充分だった。
ナイフは無我夢中で逃げる時に落としたのだろうと、ハンカチで丸めて丁重に保管する。
「……少し調べる必要がありますね」
悪漢に襲われると勘違いしたのか、それとも先ほど焼いた存在を知っていたのか。
どちらにしろ彼が使っていた能力。
あの赤い血のような棒を魔力を使わずに、どのようにして用意したのか調べなければならない。
「——天王寺瑚太朗、ですか」
その勇気を称賛しながら、無謀だと苦言であると咎める必要がある少年の名前を言葉にして——
——闇の中へと消えていった。