朝は途中から一緒に登校して、お昼は昼食を食べて雑談をしながらシエル先輩と過ごした最上の日。
全部の授業が終わった放課後。今日ほど学生として充実したのは中々になかった。青春最高!!
放課後なったので部活やら、友達とそのまま遊びに行くか、机に座って勉強と各々動き始める。
「お前今日一日にやけ面だったな。正直気持ち悪かったわ」
「シンプルな悪口酷くない?あーたに言われたくないんだけど」
シエル先輩に借りてたハンカチを返そうと鞄を持っていたら、隣の席の田中からまさかのシンプルな罵倒が飛んできた。
彼女から愛妻弁当貰って、授業中もニヤニヤとしていた奴がそれ言うか?おまんが言うか案件やぞ?
「それならどっちが気味が悪かったか競おうじゃないか!」
「いいぜ……!どうやって勝敗をつける?コイントスか、それともジャンケンか!オレはなんでも構わないぜ!」
「今回は運で勝敗を決めるものじゃない。ましては俺たちの私観で話せば堂々巡り、つまり第三者からの意見で決めよう。西九条、ちょっといいか!」
「……なに?」
田中が呼んだのはクラスメイトの西九条が嫌そうな顔をして近づいてくる。
彼女の名前は
というかRewriteで天王寺瑚太朗と関わりのある人物の1人。その西九条灯花さんだ。
俗に言う平行世界、所謂月姫の世界の西九条灯花。
今年クラスメイトの1人として遭遇した時はそれはもう驚いて開いた口が閉まらなかったもの。
Rewriteに登場する人たちは、てっきり現れないと先入観を抱いてたからさ。
「これから長居と予定があるんだけど?」
「西九条の力がどうしても必要だってさ。オレは忙しそうだからやめとけって言ったんだけどね?」
「さりげなく俺を売るのやめろ?」
「初めから天王寺の発言は信用してないわよ」
西九条から辛辣なお言葉ありがとうございました。ここでも人望のなさが発揮してしまった……っ!
あれれぇ?音楽の嗜好似てるし、そこそこ親しいと我ながら思ってたけど勘違いだったかなぁ?
教室の隅で体育座りしたいけど確かめなければならないことがある!まだだ……っ!まだへこまんよ!!
「と、とりあえず西九条に一つ質問があるんだ!」
「声震えてんぞ。おふざけの貴公子」
「う、うるせぇ!」
「……コントに付き合う暇はないんだけど?」
「ま、待ってください西九条様!今日一日中、オレと田中はニヤけてたわけなんだが……どっちが気持ち悪かった!?」
「両方だけど?」
「げほ……っ!!」
「ごふっ……っ!!」
予想外の答えが返ってきて2人で一緒に吐血して床に倒れ伏せる。
コイツら馬鹿なの?って、冷めた視線がすっごく痛いし!心というシールドブレイクされて辛い!!
「なんか楽しそうなお話してんじゃん。オレも混ぜてくんない?」
田中と一緒にダウンしてたら、それを楽しく戯れていると勘違いをした男。
ブラウンカラーの髪色に、サングラスのような眼鏡を掛けてノリの軽い性格。
彼も西九条同様にRewriteの登場人物であり、天王寺瑚太朗と縁がある人物。
今宮とは原作でも中学一緒だったので、こっちは見かけても自然と受け入れられた。
彼ともクラスメイトの1人としてそこそこな関係を築いている。親密と言われると首傾げちゃうが。……まぁ、中学時代の天王寺君と今宮は廊下でたまに見かける程度の関係に比べたらね?
「ふ、ふふふ……西九条に付き合うならオレと田中どっちが良いか聞いてたんだよ……」
「天王寺と田中でェ?んで?結果の方はどうだったのよ?」
「……両方ありえないって言われたのさ!」
流石田中だ!!オレの意図を理解してくれた!!
へぇー?とニヤけた面をする今宮。この話題へと興味を抱いた様子。
もちろん先の言葉は真っ赤な嘘!!かかったな!!
興味本位でオレ達の話題に入っていた以上、お前もその仲間に入れてやるってんだよ!!
「そんじゃオレはどうよ?そこのおふざけクンと、奇声クンに比べたらユーモア溢れる色男と思うけど?」
「なに言ってんの?今宮もありえないから」
「ぐは……っ!」
田中と悪どい笑みをしながらハイタッチ。やっぱ最高だぜ田中……っ!
西九条様からの辛辣なお言葉でもう1人様お案内でーす!
ノックダウンした今宮を見下ろして、馬鹿3人に付き合ってられないと呆れて西九条は去っていった。
なんだかんだで最後まで茶番に毎度付き合ってくれるだよな西九条サン。今宮に嘘教えたの特に訂正することもなくバッサリと切り捨てたわけだし。
さてさて満足したし、オレもそろそろお暇しようっと。シエル先輩を探しに行く大事な使命があるのよ。
「そろそろ部活行こっと」
「オレもシエル先輩探してこよっと」
「そこは男子の友情的なアレで慰めてくれないんですかねぇ!?」
「……悪いな今宮。また今度だ」
「お前は犠牲になったんだよ。犠牲の犠牲にな……」
この薄情ものめー!!っと今宮の叫び声に田中と2人で親指を立てて置いていった。
また明日!この教室で会おうな!!今宮!!
◇◇◇
今宮を教室に置いていき、シエル先輩にハンカチを返すために3年生のクラスまで向かった。
そこまでは良かったんだが、不肖天王寺瑚太朗は大事な先輩のクラスを思い出せなかった。
これはいけない。これはまずいと、学校の廊下を探し回ったんだが成果はゼロ!
何の成果も得られなかったし、用事もあったので明日きちんと返そうと学校を後にした。
わたくしは慕っている先輩のクラスを忘れた恩知らずのド外道でしたとさ……。
「邪魔しまーす……」
気分は沈んだまま癒しを求めるように、いつものオンボロの図書館の扉を開ける。
カウンターには頰付きし、退屈そうにテレビを眺めている司書さんの姿。
「邪魔するなら帰ってくれないー?」
「いいじゃないっすか。暇そうにしてますし」
「今から忙しくなるの。天王寺は大人しく同世代の子供と外で遊びに行きなさい」
今から忙しくなるって、閉館まで毎日のように居座ってるオレのこと皮肉ってますよね?
これぐらいの軽口合戦は、この人と顔を合わせたら毎日しているので大して気にしない。なんなら、やらないと本調子でないまである。
椅子の近くに学生鞄を置き、近くにあった本棚から適当な本を一冊を見繕う。
本のタイトルは『馬鹿でも分かる世界の神秘』ね。この本の作者、読者のことを馬鹿にしてない?
読んでも分からなかったら、出版社へクレーム付けないとな!!これは悪意ではなく正義だよ!
「……天王寺。変なのに巻き込まれたりしてないでしょうね?」
椅子に腰をかけてウッキウキで本を開いたら、司書さんが険しい顔つきで真っ直ぐと見据えてくる。
「……藪から棒にどうしました?わたくし、毎日を模範的な優等生として過ごしていますよ?」
こ、こ、怖い……っ!えっ!?この人の直感どうなってんの!?
超能力だって体液操作を使っただけで、身体を書き換えて超人になったわけでもないんですが!?
どうやって気づいたの!?不自然なところなに一つなかったはずでしょうに!?
「君から優等生ならさぞ問題児が多そうね」
「ははは!毎日が楽しそうっすね!」
「……それで?巻き込まれたんでしょう?天王寺君?」
「悪漢に襲われそうだった、仲のいい先輩を助けただけです!!」
ニッコリと微笑み、パキパキと腕を鳴らしてるのを見て、一昨日の出来事を呆気なく白状した。
無理だって!話すに決まってるじゃん!この人は殺ると決めたら殺る人なんだもん!!
拳骨痛いもん!痛いのは誰だって嫌でしょう!?
「……先輩、先輩ねぇ?」
「その疑ってる目はなんです!?オレにだって仲の良い先輩は1人や2人ぐらいはいるやい!」
「おーおー言う言う。なら、親しい先輩の名前5人ぐらいあげられるはずよね?」
「…………次回作にご期待で」
「人間関係の構築は前途多難なの相変わらずね。まっ、悪者から先輩を助けたことは信じましょう」
司書さんは立ち上がり、珍しく城にしているカウンターから出てくる。
腰まで伸びた赤い髪をたびなかせながら、靴音を鳴らしてオレへと近づいてくる。
「瑚太朗。立ちなさい」
「は、はい?」
「いいから椅子から立つ」
「イ、イエッサー!!」
凄みを利かせた声には逆らえず、敬礼をしながら椅子から立ち上がる。
ま、待って……?私は素直に答えた、貴女はそれを真実だと認めた!それで終わりでしょう!?
わたくしの名前を呼ぶぐらいに、怒りが頂点ってことなんですか!?
「親しい先輩の名前を言ってみなさい?」
「why?それって司書さんに関係なくないっすか!?」
「それを判断するの天王寺ではなく私なの」
「……し、シエル先輩って人と仲がいいデス」
「……
「んまっ……つぁ……ちょぎっ!?」
司書さんは見惚れそうな笑顔をしながら、オレの額を中指で強く弾く。
い、痛い……っ!!頭がぶっ飛んだかと思った!?
デコピンだよね!?デコピンというか、グーパンされたと言われた方が納得できる痛さなんですけど!?
「ほらほら。天王寺は帰った帰った。今日はもう閉館よ」
「いつつ……十九時にしては外明るいっすけど?」
「野暮用が今できたのよ。今度来た時一時間居座るの許してあげるから、今日は大人しく帰りなさい」
「……言質は取ったんで、この前は冗談とかなしっすからね?」
「約束するわよ。今日も一日休んでおきなさいよ?体調崩してるなら尚更ね」
こ、この人どこまで見透かしているのか……っ?
司書さんの言葉は素直に聞いておこう。この人なりに気にかけてくれてるのありありと伝わってるので。
「それじゃあ。また明日来ますねー」
「はいはい。それじゃあ気をつけて帰るのよ」
司書さんから図書館を急に追い出されるが、これは珍しいことではない。
気まぐれの時もあるだろうが、実際に用事を思い出したかのように帰れと言われるのもあったし。
「まあ。いいや。明日シエ——」
名前を呼ぼうとすれば、さっと自分の身体の芯が冷めていく感覚に襲われる。
頭が真っ白になる。なんで、今までシエルという人間に対して距離を置かなかったのか。
シエルという人物と関われば、平穏から遠ざかるのを知っていたというのに。
何から逃げるように家を目指して全速力で走る。
まずいまずい本当にまずい!!いつ?どこで?どのタイミングでオレは彼女と遭遇してしまった!?
必死に記憶を探る。最近起きた出来事を。
そうだ、一昨日。一昨日超能力を——
「……あの時、か……っ!」
一昨日。一昨日の女子高生。
あの時助けるのではなく、無視をするべきだった!
本物の天王寺瑚太朗ならどうすると悩んだのが、そのことに固執したのが仇となってしまった……っ!
あの後、疲労と誰かと助けられたことに浮かれて、全く気付かなかった自分が馬鹿らしい!
「……くそっ!」
第二の安全地帯である自宅に辿り着く。
呼吸を整えずに、鞄から鍵を取り出して開錠する。
誰も入ってこないように玄関の鍵を閉め、適当に靴を脱ぎ捨て、そのまま自室へと滑り込むように入る。
音を立てて閉めた扉を背を置くと、全力で走った疲労に襲われて立っていられず座り込む。
「……シエル」
シエル。またの名前をエレイシア。
月姫のメインヒロインの1人。異端狩りの組織『聖堂教会』。その教会の中でも機密部門。歩く武器庫とも呼ばれる『埋葬機関』に属している。
異端殺しの
それこそ今のオレじゃあ、彼女が逆立ちしている時に戦っても余裕で負ける。それだけの差がある。
彼女がこの街に居るということは、吸血鬼が潜伏しているのはまず間違いない。
街はすでに人外の手の内にあるが、彼女が居るので事件は必ず解決するとも捉えられる。
彼女と接触してしまったのは仕方がないと割り切り、これから距離を置けばいいのだから。
「……善意の行動が、裏目に出た……っ」
彼女に恐れている理由はもっと別のことだ。
彼女は異端の殺しの1人。目の前で超能力の一端を目撃すれば調べるのは当然の行為。
一昨日の件で見抜いてるはずだ。血のバットが砕けているのを見られていると考えていい。
特別な力を使えるから、それを異端であると難癖付けて命を奪ってこないが、もしもがある。
体液操作は最悪バレてもいい。所詮自分の血液を操るだけ。世界に仇す認定するには規模が小さい。
だがリライト能力は異端であると、世界に害なすものだと判決を下される可能性は充分にある。
あの力は自分を書き換えられる。望めば、それこそ吸血鬼になることだって夢じゃない……。
世界へ、人類に害する存在に進化できる者を生かしておく理由がどこにあるというのだ。
「……使えば、殺される。そう考えろ……」
吸血鬼の巣窟へと変貌していくこの街で、あの力無しにオレは生き残れるのだろうか……?
日常が少しづつ崩れていく気配に、オレはただ恐怖と不安に駆られて怯えることしかできなかった。