盗賊の少女とドロスの英雄   作:ヽ(´▽`)/

10 / 23
第十話

黎明の崖にて、集められた市民たちの目の前でオルフェウスを指差してカイニスが大声を張り上げる。

 

「あの男は!先日に十八名の元老院議員を殺害した!これは明確な殺意と悪意の元に行われた殺人だ!そんな男が黄金裔の中に潜んでいたのだ!そして、金織はそれを知りながら隠匿を続けていた!彼らは火を追うつもりなどない、ただ自らの利益を追い求める犯罪者の集団だ!」

「……オルフェウス、彼女の発言に異議はありますか?」

 

アグライアに問いかけられたオルフェウスは暫しの沈黙の後、突然肩を震わせて笑い始めた。

 

「……は、ハハハ!あると思うか?アグライア!俺はただ、邪魔だったから殺しただけだ。何が悪い?」

「──な、貴様!自分が何を言ったのかわかっているのか!?」

 

哄笑するオルフェウスにカイニスが怒鳴り声を上げる。

すると、その笑いが唐突に止まった。

 

「……五月蝿ぇな、老害がブツブツほざきやがって」

 

彼の手から白銀の光が反射した。

それは、彼の手に得物が握られている事実を示している。

それと同時に彼の姿がブレた、次の瞬間

 

「……テメェ、アグライア!邪魔してんじゃねぇ!」

 

張り巡らされた金糸がカイニスの眼前で、視認できない速度で振るわれた得物──首を一閃できる長さの短剣──を辛うじて受け止めていた。

オルフェウスが背後へ飛び退いたその時、カイニスやオルフェウスよりも大きい声が黎明の崖に響き渡った。

 

「オルフェウス──!」

「……セファ……今はサフェル、だったな?」

「あたしはあんたを信じてたのに!あんたが本物の英雄だって思ってたのに!──それがなに?邪魔する奴はみんな殺すって?そんなの、英雄じゃない!紛争(ニカドリー)の眷属と何が違うの!?」

「はっ、知ったことじゃねぇな」

 

サフェルがオレンジ色の光を纏い、その姿が掻き消えたかと思うと次の瞬間にはオルフェウスが吹き飛ばされ地面を転がっていた。

オルフェウスの神速も、詭術の火種がもたらす神速には及ばなかったのだ。

 

「……テメェ、誰が育ててやったと思って──ぐ、かはっ──」

 

オルフェウスは咳き込み血を吐き出す。

彼の口元から溢れた血は、()()()()()()()()()()

その場に集められた市民、黄金裔、その全員が息を呑んだ。

 

「……あんた、ソレ──」

「……ハハハっ、バレちまったらしょうがねぇ。せっかく楽しくなってきたとこだったってのに、勿体ねえ。なぁ、そう思うだろ?」

「黄金裔ですらなかったなんて──」

 

その時、どこかの市民が呟いた

 

「黄金裔のサフェル様が、このオクヘイマに潜んでいた悪を暴いた」

 

同じような言葉が群衆の中で木霊する。

そして、それは一人の名前を呼ぶ喝采へと変わっていく。

 

「サフェル!」「サフェル!」「サフェル!」

「静粛に!」

 

皆がサフェルの名を讃える、いよいよ混沌としてきた黎明の崖をアグライアの一声が制した。

 

「この者、ドロスのオルフェウスの罪、詭術により黄金裔としての身分を偽り、黄金裔十名と元老院十八名を殺害した咎と彼の黄金裔としての働きを加味し、彼をオクヘイマより追放します」

 

こうして、黄金裔であった男がオクヘイマを去った。

 

───────────────

その夜、サフェルはアグライアの元にやってきた。

 

「ライア……気づいてたの?あいつが──」

「彼は黄金裔です」

「え?……でも、あいつの血は」

「あれこそ彼の詭術、彼曰く最後にして最大の詭術です。火を追う旅を再開するにあたって、元老院からの圧力は避けられず──」

 

『それを押し除けるためには黄金裔への信頼が必要になる』

 

アグライアは在りし日の会話を思い返す。

 

『そこで、俺が考えた案は単純明快だ。俺が全部背負う』

『……どのように?』

『まず事実として、俺は元老院派閥の粛清者を何人か殺してる。それをわざとらしく開き直って、そっから俺が黄金裔じゃなかったってオチにする。お前は俺に怒り心頭なフリをして俺を追放すればいい』

 

そして、彼は最後に思い出したように

 

『その代わり、俺の義娘をよろしく頼む』

 

それがアグライアとオルフェウスの最後の会話だった。

アグライアは彼の最後の望みだけは伝えず、それ以外をサフェルに伝えた。

 

「なにそれ、なんであたしに何も言わないで……」

「あなたにそれを言えば、あなたは彼に協力しようとする。彼はあなたを巻き込みたくなかったのではないですか?」

「……ほんと、身勝手なやつ」

 

サフェルは少し鼻が詰まったような高い声で、そう言った。

しかし、彼女は表情を悲しみに染めることはしなかった。

それは義父から教わった技の一つであり、人前では常にそうしていろと習ったからだ。

アグライアは静かに彼女に寄り添い、彼女が元気を取り戻すまで彼女を優しく抱きしめていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。