盗賊の少女とドロスの英雄   作:ヽ(´▽`)/

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紡がれた物語をイメージして書いてみました。
脳内で主人公ボイスのナレーションを付けていただければ幸いです


第十三話

『いいか?今からこの英雄オルフェウス様の詭術を直々に教えてやる。一つ目の詭術は……──“我が名をその胸に刻め、ドロスの英雄と!”』

 

ドロスに君臨しようとした王の財産、その半分以上が消え去る事件が起こった。

男は激怒し、その下手人を探すために大部隊を編成した。

しかし、王の予想に背いてその下手人はあっさりと姿を現した。

 

『俺を今日中に捕まえられたなら、俺はこの首を落とすような仕打ちでも喜んで受けよう。その代わり、逃げるのに十秒だけ時間をくれ』

 

王はほくそ笑んでその提案に頷いた。

ドロスには彼の息のかかった人物が何人もいたからだ。

十秒が過ぎ、ドロス中の彼の手下に話が届き、よく磨かれた短剣を持った男たちが下手人を探してドロス中を練り歩いた。

しかし、男が見つかるどころか、手下の全員が手にしていたはずの短剣と財布を無くしてしまった。

王となるはずだった男は大半の財産を失った上、部下たちは恐れ慄いて逃げ出し、肩を落としてドロスから立ち去るしかなかった。

 

『二つ目の詭術。突風が吹けば、泣くのはお前だ』

 

ジョーリアを信仰する都市国家の某所で、天空の民の末裔である女性が身を寄せる場所を探していた。

 

“お前なんかに居場所があるかよ”

 

一人の男が意地悪に笑った。

泣き崩れる女の横に、フードを被った男が現れる。

 

『おいおい、エーグルの信奉者だぞ?下手に虐めて、エーグルの怒りを買ったらどうするつもりだ?』

“そんなこと、あり得るはずがない”

 

傲慢な表情で腕を組む男。

 

『なら賭けをしよう、エーグルの神罰が下るかどうか。負けた方が十万テミスでどうだ?』

“乗った!”

 

次の瞬間、突風が巻き起こり、傲慢な男の顔に泥をぶち撒けた。

男の顔についた泥が乾いてもなお止まらない風に、男がエーグルに許しを乞うと、その風はぴたりと止んだ。

勿論、賭けは男の負けだった。

 

『三つ目の詭術は……ドロスの英雄でも詭術のタイタンには勝てなかった。これでどうだ?』

 

それが、詭術のタイタンとドロスの英雄と名乗る男の出会いだった。

 

────────────

 

このオンパロスには、オルフェウスという名の男は存在しなかった。

オルフェウスという名は彼が作り出した英雄の偶像だ。

では、彼の本当の名は?

 

……そんなものは、最初から存在しない。

彼が生まれた村落は、彼に名を与える前に滅んだからだ。

だからこそ、オルフェウスというのは彼が持つ唯一の名であり、彼が紡いだ、生涯で()()()に偉大な詭術だった。

 

『一番目が何かって?そいつは、俺がいなくなった後に吹く…気まぐれな風に聞きな』

 

誰が聞いても、彼はそう言って笑うだけだった。

 

─────────────

 

彼が生まれたのは、常に春のような景色が広がるとある村落。

彼はその村落でオロニクスの司祭として暮らしていた。

彼には三つの秘密があった。

一つ目の秘密は、彼に名前がないこと。

二つ目の秘密は、彼がオロニクスの神跡を研究し続け自らの武器とした涜神者であること。

三つ目の秘密は、彼の今の地位とその時名乗っていた名前は全て、暗黒の潮の造物によって命を落としたオロニクスの司祭から受け取ったものであることだった。

……そして、その村落が暗黒の潮に襲われたその時、彼は戦えなかった。

彼にはその勇気も、力もなかったのだ。

 

“皇帝すら恐れぬ貴様が、勇気がなかった?にわかに信じ難いな”

『そうだろ?あんな過去を悟られないように、必死で取り繕ったんだ』

 

彼の話を疑わしい目で聞いて問いただした皇帝に、彼はそう答えた。

 

──────────────

 

彼の住む村落が暗黒の潮に襲われたその日、彼は思い知った。

オロニクスの神跡を我が物にしようとも、守るべきものが怪物へと姿を変えてしまったら、殺すしかなく、守ることなど夢のまた夢なのだと。

彼がそう気付いた時、村落に人は残っていなかった。

彼はその神速で村落を歩き回る怪物を殺し、その場から逃げ出した。

 

『これぞ神速!ザグレウスだって追いつけやしねぇ!』

 

若かりし彼は、村落から逃げ延びた後そう呟いた。

それが驕りだったのか、それとも胸に込み上げる虚無を癒すためだったのかは、分らない。

 

────────────

 

『詭術の火種を守ろう、相応しい後継者が現れるまで』

 

彼の体はすでにボロボロだった。

何度も時間を歪め、その度に周囲との時間の流れが軋轢となって彼に流れ込んだ。

しかし、最後の詭術に向けて、彼が妥協することは一切なかった。

 

『大丈夫。俺は一応は詭術の半神となるべき黄金裔だからな、火種を取り込むなんて負担にもならねぇよ』

 

これは、彼が初めてザグレウスを騙した瞬間だった。

資格なき彼の体は、しかし詭術の火種を受け入れ、その熱に内側から焼かれていく。

それを感じ取った彼は、ただ……してやったりと笑った。

 

────────────

 

最期の時、男は暁に向かって吠えた。

 

『手前が黎明なら、なぜ世界はこんな闇の中にある?……お前は太陽じゃない、火だるまの焼死体だ。燃え盛るうちに、自分を太陽と勘違いしてんだよ、可哀想にな』

 

“それなら、君もそうだ。英雄なんかじゃない、偽っているだけだ”

 

『そして、俺は役を演じ切り…お前は化けの皮が剥がれた。そうだろ?』

 

男は死の淵に立っても尚、嘲るような笑みを隠さず、目の前に立つ暁を睨みつけた。

しかし、火種が抜け出て維持する力を失った体は、端から灰となって崩れてゆく。

彼の表情に、初めて諦めの色が現れた。

 

『……ここらで年貢の納め時ってこったな。クソ、ツいてねぇや』

 

そう言いながら、彼は後悔していなかった。

友や家族、本来彼が持ち得なかったそれらに、彼は恵まれたからだ。

彼に剣を向けた彼女も、手向けに金糸で編んだ飾りを贈ってくれた。

彼女もまた、死に行く彼の決意を認めたのだ。

だから、彼に取ってこれ以上に幸福な最期はない、彼はそう考えていた。

 

『……なぁ、セファリア。俺は、真っ当な英雄になんか、なれやしなかったよ。──あとは頑張れよ、小さな英雄』

 

このオンパロスに詭術をばら撒いた男は崩れ去り、その後には小高い灰の山だけが残された。

彼が生きた証も、彼が偉大なる英雄であったという証明も、その場には残らなかった。




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