盗賊の少女とドロスの英雄 作:ヽ(´▽`)/
アグライアは苦悩していた。
それは、自らが育てている血のつながらない少女セファリアの行動についてだ。
彼女はドロス出身の少女であり、それ故なのか度々何処かへと盗みに入り、盗品を持って帰ってくることがあった。
それ自体も悩みの種ではあるが彼女の出身故の性質と考えられる点と、彼女なりの基準でターゲットを選んでおり無差別ではないという点から、アグライアはこの問題を棚に上げることにしている。
アグライアが頭を悩ませる問題は、彼女がその盗みの最中に傷を負って帰ってくること。
そしてその様子が、アグライアの知り合いであるドロス生まれの黄金裔を思い出させることだ。
「セファリア、あなたに会わせるべき人物がいます」
悩み悩んで、アグライアはそう切り出した。
それから、三日後の早朝。
アグライアはセファリアを連れ出して誰もいないバルネアへ連れてきた。
「……誰に会うの?」
「黄金裔の一人です。……彼は自己顕示欲が強いので、自己紹介の機会を損ねると機嫌も損ねることになりますから、私が言えるのはこれだけです」
「……」
アグライアから話を聞いたセファリアは、これから会う人物が本当に会うべきなのか疑問に思い始めながらもアグライアについて行った。
英雄のピュエロスまでたどり着いたその時、背後から自信を感じさせる張りのある声が響いた。
「かの金織様が直々にご招待してくれるとは……、そこまで惚れ込まれた手前断るのも心苦しいが、俺は生涯独り身のつもりなんで、そこんところ頼むぜ」
「そのような用事ではありません」
いつから背後にいたのか、黒いローブを着てフードを目深に被り、同じく黒い布で顔の下半分を覆った男にアグライアは冷たく返答する。
そして、警戒するセファリアをその背を撫でながら男の前に立たせる。
「この子は未だあなたの名を知りません」
そう言われただけで、男はローブを翻して大袈裟な仕草と共に名乗った。
「では、名乗ってやる。そう、この俺こそ!オンパロスを吹き抜ける風、比類なき詭術師にしてドロスの大英雄─────オルフェウス様だ!」
「………………ほんとに?」
疑わしい目でアグライアを見上げたセファリア。
アグライアはため息を吐きながら渋々といった様子で頷く。
すると、セファリアはあんぐりと口を開けて目の前の男を驚きの目で見る。
「あなたは自分のその趣味を子供ウケ重視だと言っていましたが、どうやら子供にも不人気なようですね?」
「あ〜?てめぇは老若男女にウケ悪いだろうが。人のこと言える立場か?」
どうやら二人は犬猿の仲のようだ、と幼いセファリアにも伝わるほど二人の間に険悪な空気が流れる。
それもそのはず、無私の人間であろうとするアグライアと大盗賊として名を馳せたオルフェウスではあり方が正反対なのだ。
オルフェウスはそれを自覚しているのか、一度咳払いをして話を切り替える
「それで?こんなちんちくりん連れてきて、マジで何の用事だ?」
「……彼女、セファリアはドロス生まれの少女です」
「へぇ、同郷。ってことは同業者か?」
「はい、その通りです。ですがセファリアはいまだその分野において未熟で、私は彼女に教えられるほど、盗みや詭術に関する知識がありません」
「そこで、大盗賊の俺にこいつの講師をしろって?」
「それ以外の部分は私が担当し、あなたに不便をかけることはないと約束します。お願いできませんか?」
ドロスの英雄から直々に教えを乞う機会に恵まれたセファリアは露骨に嬉しそうな表情を浮かべたが
「……ってもよぉ、俺はガキの相手は苦手なんだ」
オルフェウスの返答に、気を落としピンと立っていた耳が額につきそうなほどしなだれる。
「……そんな俺にわざわざ子守りをさせるんだ、報酬はあるんだろうな?」
「……!!」
「えぇ、約束します」
続く言葉とアグライアの返答に、セファリアの耳がピンと伸び、その表情には期待と喜びが浮かんでいる。
これが、この永劫回帰におけるセファリアとオルフェウスの出合いだった。