盗賊の少女とドロスの英雄   作:ヽ(´▽`)/

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第二話

サフェルがその男と出会ったのは、とある夜のことだった。

 

「はっ…、はぁっ……」

 

若きセファリアは夜の闇を必死に駆ける。

自身の嘘が招いた客は老婦人の工房を潰してしまったが、老婦人は拾った子供でしかないセファリアを必死に逃した。

セファリアは親代わりでもあった老婦人に何一つすることができずに逃げるしかなかった。

 

「いたぞ!あそこだ!」

 

背後から追手の声が聞こえた。

目の前には壁、逃げ場はもうなくなってしまった。

その時、セファリアは初めて老婦人から大昔に教わったことを思い出した。

そして初めて真摯に祈った。

どうか一陣の突風が吹き荒ぶようにと。

斯くして祈りは成った。

セファリアと彼女を追う追手の間に思わずよろめいてしまうような突風が吹きつけた。

追手もやはりドロスに名高い英雄の名を思い浮かべて一瞬だけ足を止めたが、そんな英雄が現れることなど無いと笑いながら再びセファリアへと迫る。

 

「おいおい、『突風が吹いたら一歩下がれ』って知らないのか?俺は気に入ってるんだが」

「誰だ!」

 

次の瞬間、蒼い光が一閃し追手の一人が倒れた。

追手が叫ぶ

 

「ま、まさか……本当に!?」

「そう、その通り」

 

セファリアがその眩い光に目を瞑った次の瞬間には、セファリアを追っていた者たちは皆縛り上げられて倒れていた。

その傍では、ちょうど黒衣の男が両手を払っているところだった。

 

「アンタが……オルフェウス?」

「あぁ、そうだとも」

「お願い!あっちの方で──」

「お前の世話をしてた婆さんなら助けてやったさ。ただ、あそこには戻らない方が賢明だな、アイツらの狙いはお前なんだから」

 

黒衣の男は、その目元以外を黒い布で覆って隠していた。

目元は鋭く狡猾さを感じさせ、まさにドロスにごまんといる詐欺師や盗賊を彷彿とさせた。

 

「じゃあ、どこに行けば?」

「そうだな、選択肢は二つだ。お前がやりたいように彷徨うか、俺についてくるか」

 

彼の言葉はどちらもなるべく同じように言おうと努めており、彼女自身の選択を優先しようとしているようにセファリアは感じた。

 

「じゃあ、アンタについてく!英雄なら金持ちでしょ」

「そうでもないぞ」

「わかってる、冗談」

「じゃ、目を瞑れよ。舌を噛む暇は無いが、目は乾くからな」

 

何の話かもわからないままセファリアが目を瞑った次の瞬間、セファリアはその体に鋭い風を感じた。

 

「よし、目を開けな」

 

目を開けるとそこは何処とも知れぬ民家だった。

 

「アレ?割とフツー…?」

「普通で悪かったな。事前に言っておくが、ここは都市国家からかなり離れた場所だ、無闇矢鱈に外に出るなよ」

「はーい」

 

セファリアがここまで素直にオルフェウスの元へとやってきたのは、窮地を救われたことによる信頼感もあるが、同郷の英雄が目の前にいるという高揚感が大きかった。

彼女たった一つだけ疑問があった。

老婦人にオルフェウスの話を聞いてからずっと

 

「どうして英雄なんかになったの?」

 

口を突いて出た問いは彼に直接会ってから膨らみ続けていたものだった。

オルフェウスの服装は体型を分かりづらくするやや大きめの黒い服に同じく黒色の口元から鼻までを覆う布、どこをどう見ても彼は盗賊の類だ。

ドロス生まれで人の目に映らないほどの神速の持ち主ならば、なぜ盗賊にならなかったのかとサフェルは聞きたかった、しかしその疑問は彼の服装を見て、なぜ盗賊が英雄をしているのかという疑問に変わった。

すると、オルフェウスはセファリアに呆れたような視線を向けた

 

「……お前、この権能さえあれば盗みなんて楽勝でやり放題だ、なんて思ってるだろ」

「うん」

「さっきの質問の答えは単純だ。飽きたんだよ」

「へ?飽きた?」

「おう、盗みなんざ二、三回やったら楽勝すぎて飽きた」

 

セファリアは顎が外れそうなほどポカンと口を開けた。

彼女は英雄の名を持つオルフェウスをもう少し高尚な人間だと思っていたのだ。

 

「盗みじゃなくたってそうだ。自分の力で楽勝にできることなんざ数日で飽きる。今の俺にはオンパロス全土を駆け回るくらいがちょうどいいってもんだ」

「全土?そんなに走り回ってるの!?」

「おう、なんせ俺は大英雄オルフェウス様だからな」

 

彼はわざとらしく胸を張って大袈裟に誇って見せた。

 

「アンタってもう少し高尚な感じだと思ってた……」

「高尚な英雄もいるとこにはいるだろうな、しかし、俺は()()だ。それで、どうする?今からでも旅に出るって言うなら───」

 

その時、ぐうぅぅぅ、という音が二人の会話を遮った。

 

「…………えっと──」

「まぁ、そりゃそうなるか、一日中走ってたもんな」

 

彼の体の輪郭が一瞬ブレたかと思うと、次の瞬間には机の上に湯気を立てる料理たちが置かれていた。

 

「好きに食えよ。俺も食う」

 

先ほどまでの話の一切を取りやめて椅子に腰掛けた彼に呆気に取られるセファリア。

すると、オルフェウスは一言

 

「早いもん勝ちだぞ」

 

そう言ってパンに手をつけたので、セファリアも焦って席に座り料理に手をつけた。

とりあえず食べれるギリギリまで食べようと机に置かれた料理を手当たり次第に手元に集めようとするセファリアにオルフェウスは苦笑いを浮かべ

 

「悪かった、冗談だ。もう少し余裕を持って食っていいぞ、待ってるから」

 

そう言って、セファリアが集めようとしていた彼女にとって四つ目のパンを横取りした。

 

「ほら、まずは手元のやつを食い切れ。あぁ……もう口元が汚れてる。ほら、拭いてやるから止まれ」

 

オルフェウスは、なんと言われても焦った様子で料理にがっつくセファリアに世話を焼きながら自分も少しずつ料理を口にする。

オルフェウスの食事量は少なく、セファリアがパンを二つ食べるとオルフェウスが半分のパンを食べ終わるといった具合だった。

やがて、食べたい分を食べ切って満悦した様子のセファリアを見るオルフェウスは少し疲れたような様子だった。

 

「……それで、どこで寝ればいいの?」

「俺の部屋の隣で悪いが、一室客室が空いてるからそこをお前の部屋にして良いぞ。足りない家具があったら言ってくれ、しばらく過ごすことになるだろうからな、できる限り都合する」

 

そう言って部屋の鍵を取り出したオルフェウスは心なしか嬉しそうな様子に見え、セファリアはそれを不思議に思いながらもその日は与えられた部屋で眠った。

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