盗賊の少女とドロスの英雄   作:ヽ(´▽`)/

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第二十話

「ニカドリーの征伐か。面白そうだな?」

「オルフェウス、今回はあなたを前線に送り出すつもりはありませんよ」

 

クレムノスへ向かう人員についての会議中、彼はいつものように突然現れた。

瞬間、アグライアがその表情が一気に険しくなる。

 

「おいおい、そんな邪険にしないでくれよ……仲間だろ?なぁ?」

 

顔の下半分を隠していてもなおニヤニヤと笑っていることがわかるようなような声色で、彼はアグライアに語りかける。

 

「……何故、今ここに?」

「さっきから冷てえなぁオイ、そもそも俺を呼んだのはお前だろ?」

「あなたを呼び出したのは、聖都の防御を盤石にするためです。ニカドリーの征伐とは関連がありません」

「だとしても、声くらいかけてくれよ。これから出発する英雄の見送りすらできねえとは、偉大なる先達の名が泣くってもんだろ」

 

すると、ファイノンが庇うように天外の二人とオルフェウスの間に立った。

 

「ついこの前まで二人を邪険にしていたのに、今度は見送るなんて……二人のことを信頼したと思っていいのかな?」

「あ?んな訳ねぇだろ。だが、一応協力するなら最低限礼儀ってもんがある。それに、クレムノスに行くってなら─────これが最後かもしれないしな?」

 

意地の悪い笑い声が、低く響いた。

じゃあ頑張れよ、天外の賓客サマ?その言葉だけを残して、またも彼は風の中に消えた。

 

「ああ、もう!オルちゃんはどうしていっつも、あんな感じなんだ!三人とも…ボクたちが代わりに伝えとく、今のはオルちゃんからの応援だぞ!とっっても昔、オルちゃんは戦うみんなの前にああやって出てきて、お酒や食べ物をご馳走したんだ!」

 

そこまで言って、トリアンはそのみんなとは誰だったのか、自分の手に差し出されたご馳走は何だったか、それを覚えていないことに気がついて言葉に詰まってしまった。

すると、アグライアが代わりにその言葉を続ける。

 

「つまり、少なくとも彼はあなたたちを共に戦う者であると認めたということです。今回のクレムノスでの働きによっては、彼から信頼を得ることも可能でしょう」

「そゆことだぞ!オルちゃんに認められるまで後一歩!頑張れ!」

 

星が丹恒の方に目を向けると

 

「彼の信頼を得るということは、このオンパロスの歴史を知る一助になるかもしれない。星、頼んだぞ」

 

そう言われて、星は珍しく素直にファイノンとモーディスと共にクレムノスへ向かった。

 

そして、クレムノスを戦いながらも歩き続けた三人は、その最奥にてニカドリーと相対した。

モーディスの拳が、ファイノンの剣が、そして星の存護の槍がニカドリーの神躯を貫く。

しかし、その身体は何度ボロボロになり倒れ伏そうとも、再生して再び立ち上がった。

不死と化したニカドリーは、自らの死をもってクレムノス上空に浮かぶ天罰の矛の剣先を研ぎ澄まし、オクヘイマを守るケファレの神体を貫こうと画策していたのだ。

ファイノンと星はニカドリーと同じように不死の体を持つモーディスをその場に残してオクヘイマへと帰ることとなった。

 

オクヘイマへと帰投した後、ファイノンとキャストリスと共に三相の神殿に赴き浮黎の一瞥を受けたと同時に謎の生物ミュリオンと邂逅した星。

キャストリスと星はこの謎生物ミュリオンの力を借りてクレムノスの過去の記憶を探る旅へ出発したのだった。

 

一方その頃、アグライアの元へ元老院の一人が訪れていた。

 

「くく…何にでも手を出したがるそのやり方がどこまで通用するか、見ものだな……」

「なら、お前たちが俺の目を掻い潜れるのか……見ものだな?」

 

元老院の女の名はカイニス。

同じ名と記憶を受け継ぎ続ける粛清者の一人にして、元老院の一人だった。

そんな彼女の前に現れたのはやはり、オルフェウス。

彼の声を聞いた途端、カイニスの目が見開かれ、体が強張る。

 

「……なぜ、このオクヘイマにお前がいる?」

「残念だが、俺の前に金糸は通用しない。コイツが反応するよりも俺の方が早いからな」

 

カイニスは睨むようにアグライアを見つめるが、アグライアもこればかりはと困ったようにため息を吐く。

 

「なぁ、覚えてるか?『女皇』ケリュドラの名を、『剣旗卿』セイレンスの名を。お前たちがアイツらを殺そうとした時、返り討ちにしたのは誰だったかを……。思い出せ、お前の過去の死に様を」

 

鋭い視線がカイニスを貫く。

歴代の粛清者たちはその役目に殉じ、黄金裔の命を代々狙ってきた。

しかし、その約半数はオルフェウスによって死んでいる。

()()の教訓を誰よりも深く心に刻んでいるのは彼らだと言えるだろう。

カイニスの脳裏には受け継がれた記憶の一部……突風と共に切り落とされて転がる首と弾け飛ぶ血、そして彼の冷徹な表情だけが思い起こされていた。

 

「そうそう、お前には感謝してんだぜ?俺を火を追う旅から除名し追放とする……お前の判決のおかげで俺は随分と動きやすくなった。もうコイツらの仲間じゃねぇんだから、俺がやりたいことを遠慮する必要もない。なぁ、何を言いたいかわかるか?」

「その話をするならば、お前はもうオクヘイマを追放されたはずだ!今すぐ出て行け!」

「おいおい、ちょっとは話を聞けよ。今の俺は、ただのオルフェウスだ。俺一人がどう暴れようが失うものは俺の名誉だけ。……そんなもの俺はとっくに全部捨ててきた。……今この場に、元老院と粛清者全員の首を並べてやっても良いんだぞ?」

「…………っ!このっ、薄汚い殺人鬼風情が!」

 

カイニスはそう吐き捨てて何処かへと消えていった。

後に残されたのはオルフェウスと、彼に庇われるような形になったアグライアだった。

 

「オルフェウス、あそこまでせずとも……」

「いいや、あそこまでやるべきだ。英雄に必要なのは相応の賞賛であって、虫ケラの罵倒じゃねぇ」

「しかし……」

「いいか?俺だっていい加減腹が立ってるんだ。俺はカイザーに仕えていた頃からあいつらと殺し合いを続けてきた。……そろそろ終わりにしなきゃならねえ」

「そうして血と恐怖の上に成り立つ平和は、オクヘイマの民が求める平和ではありませんよ」

「……知ってるさ、これは俺のエゴだ。そして…カイザーとの最後の約束だ」

 

それだけを言い残し、彼は再び風に消えた。

彼は誰にも……長年共に戦ってきたアグライアにすらその心内を全て明かすことはなかった。




今回は前回に続き、オルフェウスの関わらない部分を地の文で省略してみました。
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