盗賊の少女とドロスの英雄   作:ヽ(´▽`)/

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第二十一話

ニカドリーは討伐され、その火種は創世の渦心に持ち帰られた。

これは、ファイノンが試練に挑んだ少しあとのこと

 

「よう、金織サマの賓客のお二方。……この度は火を追う旅への多大なる助力に、感謝の言葉もない───」

 

オルフェウスはわざとらしい声色で、仰々しく礼をするとそう言った。

一瞬、彼が本当に感謝をしているのかと考えた二人だったが、喉の奥からくつくつと響く笑い声にその考えは掻き消された。

 

「っははは!まさか、本当に生きて帰るとは思わなかった。素直に感心したぜ」

 

そう言う彼は、笑いながら手を叩く。

しかしその目元を見れば、顔の下半分を覆う布の下に笑みがあるとはとても思えない冷徹な瞳が二人を見つめている。

 

「だが、幸運と優しさだけで世界が救えるなら、とっくにオンパロスは黎明を迎えている。わかるな?」

「……つまり、実力を見せろと言いたいのか?」

「あぁ、その通りだ。この俺が直々に測ってやるんだ、感謝しろよ?」

 

オルフェウスから濃密な殺気が放たれる。

二人は即座に武器を取り出して構えた。

 

「聞け!」

 

彼のローブが風に靡き、突風が吹き荒れる。

 

「そして心に刻め……俺こそは、オンパロスの風!火を追う者……大英雄、ドロスのオルフェウスであると!」

 

風が逆巻き、巻き上げられた砂が空を覆う。突風が吠え、二人の身体を切り裂くようにすり抜ける。そして次の瞬間、風は嵐へと変わった。

 

「ほら、先手は譲ってやるよ。来い」

 

構えながらも攻撃に躊躇う二人に、彼は挑発するかのように両手を広げてじわじわと歩み寄る。

覚悟を決め、丹恒が踏み込んで槍を突き出す。

しかし、槍が届く頃には、そこに先ほどまで無防備に手を広げていた男はいなかった。

 

「遅いぞ」

 

背後から声が聞こえて、飛び込むように前に避ける。

背後を振り返るとナイフを突き出した姿勢のオルフェウスが立っていた。

 

「……っ!正気か!?」

「あぁ、正気だし本気さ。俺は今、これでも手加減してるんだぜ?そんな俺といい勝負も出来ないようじゃあ、お前たちは足を引っ張るお荷物にしかならない。残念だがお帰り願うしかない」

 

二本、三本とローブの中からナイフを取り出して弄びながらそう話すオルフェウス。

その側面から星が存護の槍を突き出すが、彼はのけぞってそれを避けるとまたもやその姿が掻き消える。

丹恒は直感に従い背後に向かって槍を突き出す。

すると、その穂先に強烈な衝撃が加わりよろけると同時に腹部に衝撃が走り、気がつけば丹恒は地面に吹き飛ばされて転がっていた。

 

「おい、そんなもんか?期待外れだな」

 

彼の声だけが響き、彼の姿が捉えられない。

星は存護の槍を強く握り直す。

瞬きの間に、星の正面に彼は現れた。

槍を突き出せばそれを避けてナイフが繰り出される。

それを避ければ追い討ちのように蹴りが迫る、一進一退の攻防だが丹恒が吹き飛ばされた時のような理不尽な速度まで加速しない交戦。

彼が手を抜いていることは明らかだ。

 

「……及第点以上ではある。だが、このままなら─────」

 

再びその姿が掻き消え、同時に風が強く吹き荒ぶ。

舞い上がる粉塵と強風に星が目を閉じた次の瞬間

 

「俺が勝る。そうだろう?」

 

耳元でその言葉が聞こえた、次の瞬間

 

「──ダメです!」

 

小柄な影が飛び出し、振り抜かれるはずだったナイフが星の喉元で止まる。

 

「……何のつもりだ、ヒアシンシア」

「──こ、この方々はアグライア様の賓客です!それに、私の目が届く場所で、あなたの手を血に染めるような事は許しません!」

 

自身に向けられた殺気に身震いしながらも、飛び出した少女──ヒアンシーはそう言い切った。

すると、数秒の沈黙の後に彼は躊躇いなくナイフを振り下ろそうとして、そして

 

「──、っ!?ぐ、がふっ……」

 

彼の口から、口を覆う布をすり抜けて黄金の血が地面へと滴る。

 

「っ!?オルフェウス様!」

「───触るな!」

 

駆け寄ったヒアンシーの手を弾き飛ばし、彼は姿を消した。

 

「オルフェウス様………」

 

遠くを見るヒアンシーに二人が近づく。

 

「先ほどは助かった。あなたは?」

「……はい!私は昏光の庭のヒアンシーです!グレーたんに、たんたん!はじめまして!」




はい、ヒアンシーさんの登場が早まりました。
必要と思ったのでそうしました。
以下補足になります。
今回のオルフェウスについて。
一向に開拓者たちを信頼せずむしろ敵対感の強いオルフェウスですが、彼は以前の永劫回帰と同じように既に火種を取り込んでいます。
そして、それによる代償は原作におけるアグライアのそれよりも重篤な状態です。
理由は単純にアグライアよりも長い間体内に火種を留めて擬似的な半神として活動しているから、そして本来ならば彼に半神となる資格がないからです。
その結果、彼の思考はほぼ人のものではなくなっており、彼がそうなる以前に定めた行動指針に則った行動のみを繰り返すようになっています。
なので、天外の人物というイレギュラーに対応できていないんです。

おまけ
フレーバーテキスト好きなので書いてみました。
好評でしたらまた書くかも

『殺戮、偽計、詭術の祖』
火を追う旅を守るモノ。
風を統べる主人であり、詭術の祖。
打ち滅ぼすことの出来ない絶望であり、倒れることなき希望。
黄金の血が枯れ果てようと、その詭術が彼の命を繋ぎ止める。
神速の殺戮者であり守護者。
彼は火を追う旅を守らねばならない、金の糸が無くともその目で見定め、法が無くとも自身を縛り、宴の声が止んだとしても鬨の声を上げなければ、──そのためにたとえどのような代償を払おうとも。
その手から幣が零れ落ちようとも、彼はその背を見届け続ける。
─────これより幕が上がる、英雄に喝采を
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