盗賊の少女とドロスの英雄   作:ヽ(´▽`)/

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二十三話

トリアンとキャストリスと共に神悟の樹庭へとやってきた星。

しかし、二人が道すがらに語った様子と違い沈黙に包まれた樹庭を見て、星はミュリオンと共にこの地に残された記憶を探る。

彼女たちが見つけた記憶の残像は二つ。

樹庭の学者アナクサゴラスのものと……オルフェウスのものだ。

 

『ここは俺が引き受ける。お前らはオクヘイマの金織にこの事態を伝えて増援を呼べ。……ぁ?うるせェ、行けっつったら行け!』

 

彼の体は記憶の残像越しのぼやけた姿でもわかるほど深い傷を負っているが、それでも以前に星と丹恒と対峙した際のような気迫を持って誰かの前に立ち塞がっている。

それは星が初めて見た、彼の英雄らしい一面だった。

しかし

 

「え?オルちゃんが……?でも、ここはそんなに強い風は吹いてないぞ?」

「えぇ、ここで彼が戦っているのなら、ここは暴風に見舞われ、折れた枝が散乱していてもおかしくないはずです」

 

オルフェウスについて聞かされた二人はそんな反応を返した。

少しの話し合いの末、キャストリスと星の二人は樹庭の中を進み、トリアンはアグライアから渡された紡錘を持って樹庭の状況を偵察することになった。

道中、神悟の樹庭に風は吹かなかった。

 

「紡錘を使っても、オルちゃんの気配は……、きっとみんなをオクヘイマに運んでるんだ!さすがのオルちゃんでも、樹庭のみんなを運んでるから時間がかかってるんだと思う!」

 

トリアンは自らの不安を掻き消すようにそう言った。

三人は、七賢人のカリュプソーと名乗る女性に導かれ啓蒙の玉座を目指した。

 

そして三人は啓蒙の玉座にて、黒衣の剣士と対峙した。

啓蒙の玉座に座るアナクサゴラスと三人の間に立つ黒衣の剣士。

 

「……一」

 

その言葉と同時に、身構えたキャストリスへ黒衣の剣士の分身が迫り彼女の鎌の具現化を阻止した。

 

「……二」

 

同時に、トリアンへもう一人の分身が迫る。

 

「三手で、十分」

 

風圧で吹き飛ばされた二人と星へと剣を向けて構える黒衣の剣士。

その直後、三人の後方から激しい風が吹き荒れた。

 

「トリスビアス、門は使うなよ!」

 

その言葉が風に乗って届くとともに、銃弾のような速度で数本のナイフが黒衣の剣士に迫る。

黒衣の剣士がそれを剣で弾きながら後退すると、剣士と星たち三人の間に立ち塞がるようにもう一人の黒衣の人物が姿を現す。

 

「……よぉ、さっきぶりだな木偶の坊。あの甘っちょろい一太刀で俺を殺せたと思ってたんなら、とんだ誤算だな?ほら、第二ラウンド開始だ」

 

同時に彼の姿が掻き消える。

風が粉塵を巻き上げてその場の全員の視界を遮ると、オルフェウスはその隙間から飛び出してすれ違いざまに剣士を斬りつけ、また粉塵の霧の中へと消える。それを何度も高速で繰り返し剣士を翻弄する。

 

「ッハハハ!神速の英雄に、正面から勝てると思うなよ!」

 

彼の笑い声が霧の中から木霊する。

剣士は何度か攻撃を防ぐことができているものの、防いだ回数よりも傷の数の方が勝る状況だ。

その様を見たキャストリスと星は勝利を確信したように表情を明るくした。

しかし、この中でトリアンのみが心配そうにその様子を見ている。

彼の力が長期戦向けでないと、この中では彼女のみが知っているからだ。

加速するたびに彼は酷く体力を消耗するため、彼は常に不意打ちによる短期決戦を戦術としてきた。

だが、現在の彼はその背後にいる三人を守るために、剣士が三人の元へ向かわないよう足止めしながらの戦いを強いられている。

 

すると、突然風が止みオルフェウスが姿を現す。

 

「テメェ……今、この俺を()()たな?チっ、ここは逃げ一択ってとこだな。おい、()()の、一秒でいい。時間を稼げ」

「……─────ッ!?」

 

直後、アナクサゴラスの腕が剣士の胸を貫き魔法陣が辺りに広がる。

剣士はすぐさま飛び退き、立ち上がったアナクサゴラスを見つめる。

 

 

「くくっ──一撃では無理か。……だが、これで十分か?」

「あぁ、足りてる」

 

その言葉と共にオルフェウスはアナクサゴラスに意識を向けたままの剣士へと肉薄する。

しかし、剣士はまるでそれがわかっていたかのように振り向きざまに剣を振り下ろした。

その剣は正確に彼を捕らえ、その肩に剣が突き刺さる。

 

「……っ!ハっ、捕まえたぜ木偶の坊──ッ!」

 

危険を感じた剣士が剣を引き戻そうとするが、オルフェウス自身がその剣を掴み離さない。そのまま剣を持つ自分ごと無理やりに剣士に横を向かせ、その背後に何もなくなったことを確認するや否や

 

「奥の手だ!開け、百界の門よ!」

 

その叫び声と共に剣士の背後に百界門が開く。

開いた百界門は紫の光を放ち、まるでバトルズが扱う次元の裂け目のように見える。

 

「ほら──っ、ブッ飛べ!」

 

オルフェウスの蹴りがトドメとなって黒衣の剣士は百界門の中に消えた。

 

「……ふぅ、なんとかなったな?」

 

いつものように軽口を飛ばそうとするオルフェウスだが、突然咳き込むと同時に地面にボタボタと黄金の血が垂れる。

見れば、胸元には逆袈裟に切り裂かれた傷があり、そこから血が流れ続けている。

 

「さて、あと一仕事だな。……目ェ瞑って口閉じてろ」

 

星たち三人とアナクサゴラスがそれに従うと、次に目を開けた頃には四人はオクヘイマに居た。それが彼の力によるものだと全員が気がつくまでに数秒、そして全員が気がついたその時、背後からドサリと倒れ伏す音が聞こえて全員が振り返った。

オルフェウスは地面に倒れ伏し、仰向けに倒れたまま動かない。

近づこうとした四人を彼は右手だけを上げて制する。

 

「俺はいい、お前たちは……ついさっきのことをアグライアに、伝えろ」

 

言葉は息も絶え絶えで、苦しそうな喘鳴が聞こえる。

 

「いいから、行ってこい……、俺一人とオンパロス全土の命、どちらが重要かはわかるだろ?」

 

そう言いながらも、彼は体を動かすことすらできそうにない。

仕方なく、四人はアグライアの元へ走り、アグライアを通じてヒアンシーにオルフェウスの元へ向かうように知らせるのだった。




補足
彼は本来百界門は使えません。
これは詭術によるものです。
彼自身が発した言葉によって、周囲の人間が「彼は百界門を扱える」と認識したので発動出来たわけです
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