盗賊の少女とドロスの英雄 作:ヽ(´▽`)/
あれから半年の時が経った。
オルフェウスは鍵開けや相手の嘘を見抜く方法、スリの技や果てには相手に自分の言葉を信じ込ませる方法まで、その他様々な彼の知り得る手練手管を言葉でセファリアに教え込んだ。
そして今
「……勝った!」
「ようやくだな」
セファリアはババ抜きでオルフェウスに勝利した。
「これでお前の嘘は誰にも露見しない。サーシスだって見抜けやしないだろうさ」
「あっ、そういえばそういう話だったっけ?」
「忘れてたのかよ…。いいか?コイツはなぁ」
「ポーカーフェイスは詭術の基本、でしょ?」
「その通り、よく覚えてたな」
オルフェウスはセファリアの頭を優しく撫でるが、セファリアは彼の手を払いのける。
「一言くらい誰でも覚えられるから!」
「小さな一歩でも、未来につながる偉大な一歩だ」
「……ねぇ、本気なの?あたしがアンタの後継って」
「あぁ、本気さ。だが、お前は俺とは別の道を歩め」
「いっつもそればっかりだよね。アンタの背を追ってちゃダメなの?」
「もちろんダメだ。俺はオクヘイマじゃあ嫌われ者だからな」
乾いた笑いを浮かべたオルフェウス。
彼の柔らかな瞳が工房の老婦人のそれと重なって見えた。
それと同時にセファリアの脳裏に、彼と自身の関係をなんと定義づけるべきかの答えがぼんやりと浮かんできた。
浮かんだその二文字をセファリアはかぶりを振って頭から追い出した。
「……どうした?調子悪いか?」
「ううん、なんでもない」
「そうか、それじゃあ明日から少し遠出をしよう」
「……遠出?」
「そうだ。こっからオクヘイマまで、遠回りして二年くらいだな。のんびり歩いて行こう」
「え?アンタの力があればオクヘイマなんてすぐ──」
「わかってねぇなぁ?それじゃあ風情ってモンがねぇだろ?」
「ワケわかんないし、なんで遠回り?」
彼はニヤリと笑うと胸を張って
「これまで俺は、この家の中でできる範囲でお前に色々なことを教えてきた。これからは外に出て、実践編だ」
「じ、実践?」
「そう、久しぶりに、騙して盗んで楽しい旅をしよう」
そうして翌日、オルフェウスはサファリアを連れて彼の家から一番近い位置にある村にやってきた。
村といっても交易拠点となっているようで大変な賑わいを見せている。
そんな村の雑踏の中、オルフェウスは一人の格式高い格好の男と肩をぶつけてしまった。
「ちっ、おいお前!」
「なんだ?」
「肩をぶつけて謝罪の一つもないのか!」
「お互い様だろ?こんなに混んでるんだから仕方ない」
「いいから、謝れ!」
「はいはい、悪かったよ貴族のおっさん。詫びだ」
彼は男に向かってテミスを三、四枚手渡した。
男はそれを見て溜飲を下げてどこかへ去っていった。
「アンタが取られてどうすんのさ」
「……と、思うだろ?」
彼は懐からテミスがぎっしりと詰まった布袋を取り出す。
それは見るからに高級品とわかる布で作られており、明らかにオルフェウスの持ち物ではない。
「スったの!?」
「おう、やり方は教えたろ?」
「教わっててもわからなかった」
「そうか、んじゃあわかるようになるまでここらで練習するか。そら、お前の番だ」
そう言われて背を押された少女は、道行く人の足にぶつかる。
彼女はまだ背が低いのだから、それを利用して悪気がない風を装いながらつまづかせた。
転んだ婦人を助け起こし、落とし物を拾うふりをしながら一つのリンゴを懐に仕舞い込むと、再び熱心に落とし物を探して、婦人を案ずるふりをした。
そうして婦人はリンゴが一つ減ったことにすら気が付かずに去っていった。
「初めてにしちゃ上出来だな」
「ふふん、このリンゴはあたしのだからね!」
自慢げにリンゴを齧ったセファリア、オルフェウスはただ彼女を優しい目で見ていた。
そして、しばらくしてリンゴを食べ終わったセファリアが言う
「決めた。あたしがアンタを英雄らしい英雄にしてやる」
「は?……まぁ意気込むのは勝手だが、無理なんじゃないか?」
「この半年とちょっと一緒に過ごしてわかった。アンタはやっぱりすごい人だし英雄だよ。たとえそのやり方が
「……そうか。それはそれは、楽しみだ。頑張ってくれよ、小さな英雄」
「小さいって言うな!」
「ははは、じきに背も伸びる。背が伸びる頃には、お前は英雄になってるだろうさ」
オルフェウスはそういって、心底嬉しそうに笑った。