ちょっとチヤホヤされたいだけなのに、ボディがつよつよ美少女すぎる   作:ウメー

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1 小市民な女神様

 ――転生して最初に目にしたのは、白磁のように美しい自分の手だった。

 慌てて近くにあった水面に顔を映すと、そこには誰もが目を見張るような美少女がいる。

 それが、私の異世界転生における始まりだった。

 はっきり言うが、私は小市民だ。

 目立たずに生きていきたい陰キャでありながら、私が好ましいと思う周囲の人物からの評価は欲しい。

 そんな俗な願いを抱えて生きる、どこにでもいるつまらない人間である。

 

 もちろん、そういった自分を変えたい欲求もある。

 しかし現実の社畜生活とソシャゲとスマホだけで浪費されていく生活の中で、自分を変えようという考えはなくなり。

 異世界転生のような、他人任せの変化を求めるような人間だった。

 

 だからこそ、本当に異世界に転生してしまったとき、最初に感じたのは興奮だ。

 新しい世界と、きっとあるであろうチートを使って人生をやり直すのだ、と。

 しかし、待っていたのはちょっと想定をはるかに超えた面の美少女である。

 

 美しい銀髪と、触れれば折れてしまいそうな細い二の腕。

 背丈は小柄で、しかし出るところはかなり出ている。

 というかでっけぇ、一部がだいぶでっけぇ。

 そんなスペシャルなボディに、私は生まれ変わってしまったのである。

 

 とはいえ、まだその時点ではワンチャンあった。

 私のチートはその美貌であり、それ以外の部分はそこまで大したものではない、と。

 しかし、何かできることはないかと片手をかざして。

 

 炎よ。

 

 そう口に出したとき。

 

 

 天へと上るほどの逆巻く灼熱を目にしたとき。

 

 

 あ、これは無理だな。

 と私はあきらめの感情に包まれた。

 

 

 〇

 

 

 私、ユウ・シノノイの朝は早い。

 せめて見た目にふさわしい生活をしようと、規則正しい起床を心掛けているのだ。

 女子の身だしなみが、そこらのS級魔物よりも厄介極まりない難物であるという事情もある。

 もうこの体になって何年もたつというのに、いまだに手間がかかることに変わりない美貌と悪戦苦闘しつつ。

 朝食や身支度を済ませて宿を出る。

 その時に、宿屋のご主人に挨拶は忘れない。

 

「行ってくるね、レベッカさん」

「あら、おはようユウちゃん。今日も朝早いわね」

「レベッカさんこそ、一日頑張って」

 

 正直、美少女過ぎてたまに同性にすら告白されるこまったチートボディだが、こと日常的なコミュニケーションという点においては非常に有効だ。

 何せ挨拶するだけで、「あの子は愛想がいい」と評判になる。

 

「相変わらず今日も美人だね、ユウちゃん」

「ありがとう、ダグさん」

 

 挨拶の基本は、相手の名前を呼ぶこと。

 その点においてもこのボディは優秀で、前世では顔と名前がほとんど一致しないダメ人間だった私が一発で名前を覚えられるまでに至っている。

 

 それもこれも、私がこの町に溶け込むために重要なファクターである。

 私のモットーは周囲の人間からほどほどに認められること。

 顔がよすぎる今の私だと、それはなかなか難しいことなのだけど。

 普段から挨拶を欠かさずに行うことで、何とか私の評価を「顔のいい素朴な人間」まで落ち着けることに成功していた。

 少なくとも、こうして挨拶を始めてから周囲の人間に愛の告白をされなくなったので、成功はしていると思う。

 それはそれとして、前世では評価されることが目的だったのに、今の人生では評価されすぎないことが目的の挨拶なのだから。

 人生ってのは、わからないものだ。

 

 ――しばらく町の人とあいさつをしながら歩くと、今の私の職場である冒険者ギルドがやってくる。

 冒険者。

 異世界に転生したオタクなら、誰もが冒険者になろうとするだろう。

 それがテンプレというものだからだ。

 私も例にもれず、冒険者として日銭を稼ぐ者の一人である。

 

 朝の冒険者ギルドは、そのイメージに反して意外と静かだ。

 多くの冒険者はもう少し遅い時間に出てくるからで、私はどちらかといえば勤勉な部類に入る。

 しかし今日はどういうわけか、やたらと人の出入りが多い。

 すでに多くの冒険者がギルドに集まって、話をしていた。

 私はあまり人込みを好まないタイプなので、こういう賑やかさは正直好ましくないのだけど。

 その代わり何やら事件が起きているようで、私に対する注目は普段よりは薄まっていた。

 

「――リファさん、リファさん。おはよう」

「あ、ユウさん。おはようございます」

「すごい人の数だね、これ、どういう集まり?」

「ああ、ユウさんは昨日お休みでしたものね」

 

 私は早速、知り合いを見つけて声をかける。

 ゆるふわブラウンの髪が特徴的な、おっとりしたギルドの受付お姉さんだ。

 普段から私はこのお姉さん、リファさんと懇意にさせてもらっている。

 

「王都からS級冒険者がやってくるらしいですよ?」

「あー、S級? 何か事件が起きてるんだ」

「詳しいことはわかりませんけどね。でも、なんとそのS級冒険者が昨日、パーティ募集を行いまして!」

「そりゃ人が集まるわけだ」

 

 なんで懇意にさせてもらってるかといえば、こういう私がいないときのギルドでの噂を教えてもらうためだ。

 それに、こうやって親しくさせてもらってる人からのお礼や称賛は、私にとって冒険者をやっていて一番良かったと思える瞬間だ。

 

「S級冒険者、あこがれちゃいますよね!」

「私は……やっぱりいいかな、()()()()()()()()より日常的な事件をこつこつ解決するほうが好きなんだ」

 

 さて、さっきから話題にしているS級冒険者。

 異世界転生ものだとよくある称号だけれど、この世界で冒険者がS級になる条件は簡単。

 世界を救うことだ。

 

「ユウさんらしいといえば、らしいですけど。冒険者になったからには、一度はすごい事件を解決して名声を得たいと思わないんですか?」

「私は、冒険者の根無し草でもやっていける気楽さが好きなんだ」

「ユウさんみたいな美貌があれば、一度くらい()()()()()()()もおかしくないと思うんですけどね」

 

 この世界の人間は「運命に選ばれる」という表現を時折使う。

 それは本当に文字通りの意味で、まるで運命に導かれるかのように事件へ巻き込まれることがあるのだ。

 中でも、そういった経験を何度も重ね、ついには世界を救った人間。

 そんな特別な存在を――

 

 

「あら、この町の冒険者はずいぶんと勤勉ですわね」

 

 

 ――ただそこにいるだけで、世界を支配してしまうような存在を、S級冒険者と呼ぶ。

 一人の、豪奢なドレスと鎧を組み合わせたような装備を身にまとった少女が現れる。

 背丈は小柄な私よりもさらに低く、足元まで伸びているのではないかというもこもこな金髪が特徴的な少女だ。

 その真紅に染まった瞳には、まるで煮えたぎるような意志の塊が宿っている。

 プライドに満ちた笑みと、その口元から鋭く伸びる犬歯。

 多くの冒険者が、一瞬で釘づけにされてしまうそのプレッシャーは、まさに彼女がS級冒険者であることを物語っていた。

 

「それに、静かで……躾がなっていますわ。うふふ、嫌いではありませんわよ、わたくし」

 

 一歩。

 また、一歩。

 少女がギルドへ足を踏み入れる度。

 多くの冒険者が息をのみ、その姿に圧倒される。

 

「――ミラスタシア様だ」

 

 誰かがぽつりとこぼした言葉。

 彼女という存在を、この世界に知らしめるその名を誰かが口にする。

 ミラスタシア・ドラクルリア。

 それが、彼女の名前である。

 私はそんな彼女に圧倒される周囲――リファさんをしり目に、ひっそりとホールからギルドの奥へと向かう。

 一応、リファさんに声はかけたけど、あれは聞こえていないだろうな。

 さて、この時間なら図書室は誰もいないはずだ。

 ミラがやってきた今日は特に、ひっそりと静かで、誰かと二人きりになるにはぴったりだろう。

 

 

 〇

 

 

 周囲が一斉に視線を集めるS級冒険者ミラスタシアは、ホールを一瞥して笑みを浮かべる。

 ”彼女”の姿を目にとめたからだ。

 まさか、こんなところで”彼女”に出会うとは思わなかった。

 運命の導きに感謝しつつ、自身の一部を切り離して陰に潜ませる。

 それから、今回の事件解決に必要な”この町のことをよく知る人物”を探すために、品定めを始める。

 

 一方そのころ、切り離された一部はとある場所で()()()()()()()()()()()となった。

 夜の王、吸血鬼の姫として、霧になったり蝙蝠になったりして一部を切り離し、分身を作るのはミラスタシアの得意技だ。

 そうして現れたもう一人のミラスタシアが見たのは、この世の神秘ともいうべき光景だった。

 

 

 美しい女神のごとき少女が、そこにいる。

 

 

 図書室の窓を一つ開け、風を浴びながら横目に街を眺めている。

 それ一つが、世界の何よりも美しい絵画のような。

 世界は彼女が生まれてくるために存在していたという言葉が、あながち冗談ではないような錯覚を受ける。

 そんな少女に、ミラスタシアは声をかけた。

 

 

「今は、ここで冒険者をしているんですのね、――ユウお姉さま」

 

 

 この世界の冒険者は、世界を救えばS級となる。

 しかし、一度世界を救えば、もう二度と直接的に世界を救うことはなくなるという。

 ほかの誰かが世界を救うことを助けることはあっても、S級冒険者が世界を救うことはない。

 曰く、S級冒険者は運命に導かれるのではなく、運命を導くものになるのだ。

 そんな中で、ただ一人の例外。

 世界を複数救ったことのある少女が、目の前にいる。

 

「久しぶり、ミラ。元気そうだね」

 

 ユウ・シノノイ。

 ここではないどこかから来たと称する彼女は、世界を二度救った。

 その時に、そんな彼女をたたえるにはどうするべきか。

 その問いに対して――人々は安易にSの数を増やせばいいんじゃね? と考えた。

 結果――

 

 

 SSSSS級冒険者ユウ・シノノイが、そこにいる。

 

 

 このバカみたいなSの数どうするんだ、と。

 多分まだ増えるぞ、と。

 ユウもミラスタシアも、思いながらも。

 彼女たちは運命に導かれて再開する。

 

 ――これは、ささやかな日常を望みながらも、いろいろなものがかみ合って世界を救う「女神」となってしまった一人のTS転生者の物語だ。




小市民でありたい女神のような冒険者が、悪を成敗したり日常を謳歌するお話。
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