第五航空戦隊記   作:ジャーマンポテトin納豆

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第五航空戦隊結成

 

 

1935年某月某日

海軍省に呼び出された私はイマイチ用件が分からず赴いていた。

 

「急な呼び出し、すまないね」

 

「いえ、構いません。それで用件と言うのは……」

 

「ふむ。その前に、君はこの先の日本がどうなるか、率直な意見を聞かせてもらえるか」

 

「このまま軍が政治を握っているのであれば、国は滅びるでしょう」

 

「国を守るべき軍隊が国を滅ぼす、か」

 

「はい。我が国の国家予算の内、半分程度が軍備に充てられ、本来経済成長や産業基盤の醸成に回されるべき金が軒並み軍事予算に割かれている状態です」

 

「戦争には勝てぬ、と?」

 

「無理でしょう。戦争とは言わば国家の総力を以て行うもの。総力の中には科学力、基礎工業力など全てが含まれます。それを疎かにする国が戦争に勝てますか?」

 

「だが日露戦争では勝ったではないか」

 

「あれは勝つ為にあらゆる努力を行ったからであり、最初から国家存亡を掛けて腹を括って戦争をやりました。ですが腹も括らずなんとなく、なぁなぁで始めた戦争に勝ち目があるでしょうか?否、ある訳がありません」

 

なんだろうか。

まさかどこかと戦争をやる気なのだろうか?

 

「では、君はどうすべきだと?」

 

「戦争をしないのが一番です。しかし相手が仕掛けてくるならばやらねばなりません」

 

「具体的には?」

 

「今からでも遅くはありません。基礎工業力や科学力の底上げを図り、組織や仕組みを効率化するぐらいしかやれる事はありません」

 

「効率化とは?」

 

「工業製品の規格や品質の統一ぐらいはやらねばなりません。同じ部品でも製造する工場によって規格が違うから使えない事はザラにあります。「例えば、A社が製造した飛行機には様々な下請け会社が作った部品が山ほど使われています。しかし戦時ともなれば部品製造に携わる下請け企業は膨れ上がりましょう。この時に規格統一、品質管理や品質統一が出来ていなければ、使えないものが大量に積み上がるだけになるでしょう」

 

「確かに。部品ごとの大きさが少しでも違うだけで動かなくなるな」

 

「そしてそれらを管理、流通させる為の物流の仕組みも整えねばならないでしょう」

 

「内地から戦地に物資を送るからな、当然だろう」

 

「であるのならば、その洋上に広がる物流網、海上輸送航路を守る為の手段は必要不可欠です。戦時に無防備な輸送船を碌な護衛も無しに行き来させるのはかなり不味いかと」

 

「どうなる?」

 

「先の大戦でばイギリスはドイツ海軍潜水艦部隊による無制限通商破壊によって飢餓地獄一歩手前まで追い込まれました」

「我が国もイギリス同様、島国です。ましてや太平洋で戦うとなれば太平洋上に散らばる小さな島々を巡る戦いになるでしょう。必然的に補給線は長大かつ細いものになるでしょう。それを十分に守らねば前線将兵は飢えと渇き、病で戦う前に斃れます」

「陸軍将兵や陸戦隊員を、戦う前に飢えと乾き、病で死なせたとなれば海上輸送航路の維持防衛も任務である海軍の末代までの恥です」

 

「確かにその通りだ。どれだけ航空機を送り込んでも、燃料や部品、弾薬が届かねば意味が無い」

 

「その通りです。ですから正面戦力とは完全に独立した海上輸送航路を守るための戦力と戦術を早急に整えねばなりません。欲を言えば搭載機数30機ほどの護衛空母を通商護衛艦隊に数隻配備したいところです」

 

「空母か?」

 

「広い範囲を索敵出来て、尚且つ防空や対潜攻撃もより柔軟に対応出来ます。護衛空母1隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦8隻ぐらいの護衛艦隊を4つほど編成、配備すれば敵潜水艦相手ならば艦載機と合わせて戦えば群狼戦術を取られても十分に戦えるでしょう」

 

「そこまで多くはないのだな」

 

「はい。それに護衛空母ですから対潜爆弾や対潜爆雷、機銃弾さえ搭載出来ればいいのです。大型空母のように魚雷や対地、対艦爆弾を搭載する必要はありませんから、それらに関わる装備や設備を一切省けますから構造を簡略化出来ます」

 

「なるほど、確かにそれなら魚雷調定室なんかは丸ごといらなくなるし、短期間で建造、配備出来そうだな」

 

「駆逐艦も同じです。対空砲と対空機銃、対潜装備に兵装を絞って魚雷を搭載しなければ短期間かつ安価に建造が可能です」

 

「水雷屋が騒ぐぞ?」

 

「構いません。彼らのメンツやプライドで勝てる戦争なぞありません。魚雷発射管製造能力に限界がある以上、それに固執して口の数を揃えられないのは本末転倒です」

 

少なからずやらねばならないこと、と言うのはかなり多い。

正直この時代の日本は科学力、工業力において欧米より数歩は遅れている。

そこをどうにかしない限りはかなり厳しい。

 

「それで、だ」

 

「はい」

 

「つい最近新型の空母が建造される事が決まったが、君はどう思う?」

 

「③計画のことですね?確かに性能は良いかもしれませんが、2隻と言うのは数が少ないですね。もう三〜四隻は欲しいところです」

 

③計画というのは、かの有名な大和型戦艦の建造が決定された海軍軍備計画のことだ。

他に空母二隻を含む計六十六隻の建造計画となるものだ。

 

凄まじい予算を使うものであり、大和型戦艦だけでも二隻で約二億八〇〇〇万円という建造費になる。

なので③計画で建造される空母の、だいたい三隻分ぐらいの値段だ。

 

「何故だ?六隻なら十分だろう」

 

「我が海軍の保有空母は建造中のものを赤城、加賀、飛龍、蒼龍の四隻と合わせて6隻の正規空母となります」

「しかし実際は飛龍と蒼龍は規模としては中型空母。搭載機数に不安があります。少なくとも③計画で建造される正規空母をもう3隻、欲を言えば4隻は揃えておきたいところです」

 

「そんなに必要か?」

 

「戦いになれば空母にも損害や損失が必ず出ます。その時になって慌てて建造しても遅い。ならば最初から幾らか余裕ある戦力を保有しておくべきです」

 

「それならもっと建造するべきでは?戦いは数的有利があればあるほど良い」

 

「出来るならばそうしたいのですが、我が国の建造能力の問題があります。大型艦艇の建造が可能な造船所や工廠、ドックはあまりありません。既存艦艇の改装も考えればどうやっても3〜4隻が限界なのです」

 

「確かに。解決策はありそうかね?」

 

「幾つか。一つ目は単純に造船ドックと造船技術を持つ工員を増やすこと。二つ目は艦艇建造期間の大幅な短縮です」

 

「一つ目は分かるな。一挙に作ってしまえば数を揃えられる。だが二つ目は?」

 

「ドックの建設、それも空母を作れるだけの大きなものとなれば建設期間は数年、予算も数億は掛かります。流石にそれだけの時間も金もありません」

「ならば今ある設備だけで数を増やす以外に手段はありません。そこで建造期間の大幅な短縮をするのです」

「今の艦艇建造は駆逐艦ですら1年は掛かります。それを半年に短縮出来れば単純計算で一つのドックで一年に2隻の駆逐艦を建造出来る、と言う事です。工期を四ヶ月にすれば3隻、三ヶ月にすれば4隻、と増えて行くだけの話なのです」

 

「しかし可能か?」

 

「可能です。最初に引かれた図面通りに作るだけで良いのです。今の艦艇建造は現場からの意見を取り入れ過ぎて建造中に手を加え過ぎなのです。それを無くすだけでもかなり変わるでしょう」

 

「だがそれだと現場の意見は無視、と言うことになるだろう」

 

「建造中の艦に改良を施すのではなく、建造が始まっていない段階で図面に改良を加えれば良いのです。それに限れば建造期間を伸ばす必要はありませんから」

 

「ふむ」

 

「あとは、ブロック工法などがあります」

 

「ブロック工法?」

 

「早い話が、例えば駆逐艦であれば船体を5分割、更に煙突、艦橋、とあちこちに区切って製造して、それらを1箇所に集めて一気にくっ付けて建造をする方法です」

 

「どんな利点がある?」

 

「各部を製造を担当する部署は割り当てられた部分だけを作れば良いので大量生産が可能になります。なので駆逐艦や軽巡、輸送船のような沢山建造するタイプの艦艇を建造するのに向いています」

 

「潜水艦には使えんか?」

 

「使えるとは思いますが我が国の技術的に可能かどうかは分かりません。潜水艦は潜ってしまえば潜航進度にもよりますが、常時全方向から水圧に晒され続けます。ブロック工法でそれに耐え得る潜水艦を建造出来るかどうかはなんとも」

 

「今は使えなくても、将来的には使えるようになるのだな?」

 

「はい。科学技術はトライ&エラーです。数十、数百、数千という途方も無い失敗を重ね続け、成功に繋ぐのです。今は出来なくても必ず出来るようになります」

 

「他には何かやるべきことはあるか?」

 

「人材集めと、その教育を見直すべきですね」

 

「何故だ?」

 

「はっきり言えば、今の新兵教育は効率が悪いのです。搭乗員などは士官教育のように数年掛けて行っておりますが、戦時にそんな余裕はありません。空母や基地航空隊を大幅に拡張、拡充するのならば大量の人手が必要になります。ですから教育を効率化、短縮化するべきです」

 

「そうだな。搭乗員に関しては育成期間を1年ぐらいまでには短くする必要があるだろうな」

 

「はい。時期も問わずに募集を掛けておけば間断の無い補充が可能になります」

 

以降も数多くの話を行い、少なくとも艦艇の建造に関しては以下のことが後日決定された。

 

 

・現在建造中の正規空母の同型艦を翌年より4隻、追加建造する

・護衛艦隊の設立

・工業規格の統一

・ブロック工法による駆逐艦、軽巡洋艦の大規模建造

・輸送船の大規模建造

 

他にも技術開発において八木博士が開発したレーダーの開発や、早期実用化など多数が決定された。

 

 

 

護衛艦隊については規模は護衛空母1隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦8〜10隻から成るとされた。

護衛空母の構造は簡略化が図られ、魚雷を搭載しないことからそれに関わる艤装は一切廃された。

 

その分、搭載機数の増加やレーダー、通信装備などをより十分に搭載可能となり、護衛艦隊の司令塔として機能することが可能となった。

運用上の観点から昇降機は前部と後部に、将来的な機体の大型化、重量増加に耐えられるように15m×13mのものが2基設置される。

 

全長160m、全幅25m、飛行甲板長170mとなる。

小型の護衛空母にしてはかなりどっしりとしつつ広い飛行甲板を備えている事になるが、飛行甲板を広くしたのには艦載機運用能力を高める事が目的として存在する。

艦の全長より前後に5mづつ長い飛行甲板は、艦首と艦尾から迫り出しており、より多数の艦載機を同時に運用可能としている。

外側に迫り出すように島型艦橋を持ち、艦橋は煙突と一体化してスペースを無駄無く使えるように工夫している。

 

武装は12.7cm連装高角砲4基、25mm3連装機銃10基、25mm単装機銃30挺を備える。

 

搭載機数は32機。

20機を戦闘機とし、艦攻か艦爆を12機搭載し、対潜哨戒攻撃機として運用することとなった。そして対潜攻撃用に対潜爆弾250発を備える。

対空電探1基、ソナー6基を装備する。

 

艦載機はとりあえずのところ、九六艦戦と九七艦攻、九九艦爆を充てつつ一線級部隊に新型戦闘機が行き渡るのを待ってから配備となる。

 

護衛艦隊創設は上手く行った。

あとは輸送船と駆逐艦の数を揃える事に注力するべきだな。

潜水艦はブロック工法での建造研究に取り掛かったばかりだから1940年頃にならないと成果は得られないだろう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「はっ、五航戦司令官ですか」

 

駆逐艦や輸送船の大規模建造指揮や規格統一、技術開発であっちこっちを奔走していたところ、急に山本長官に呼び出され、命じられたのはまさかの辞令である。

 

「うむ。まぁ本音を言えばこっちで我々と戦略を練って欲しいところだったんだが軍令部の連中がうん、と言わなくてな。ならばと言うことで無理矢理五航戦の司令官にねじ込ませてもらったんだ」

 

「しかし階級が足りないのでは?私はまだ大佐です。戦隊司令官を拝命出来る階級にはありませんし、今やっている事もあります」

 

「階級に関してだが問題無い。君は来月付で少将になるからな。そして現在君が指揮を執って進めている事も詰めの段階だと君自身が言っていたじゃないか。ならば大丈夫だろう」

 

「なるほど、そういう事でしたか。承知しました。謹んで拝命させて頂きます。しかし今現在指揮を執って進めている事に関しては私の副官を後任に据えて頂きたい。彼が私の次に分かっております」

 

「分かった、そうしよう。で、だ。本題はここからでな。君を今日呼んだのは五航戦の実際の編成をどうするか、と言うのを話し合いたかったからだ」

 

「編成、ですか?」

 

「そうだ。翔鶴、瑞鶴の二隻を基幹とするのは決定事項だが、それ以外の具体的な編成がまるで決まっておらん。だからどうせなら司令官になる君に具体的にどれぐらいの戦力で編成したいか、を聞いてしまおうと思ってな」

 

航空戦隊はだいたい空母二隻、駆逐艦四隻を護衛として編成されていた。

しかしそれでは作戦をやる場合に事あるごとに水雷戦隊や各戦隊から戦力を借りて来なければならず、中々面倒臭いところがあった。

訓練の都合も付け辛く、中々時間が取れないとか、連携が、とかが起きていた。

 

そこで空母を基幹として纏まった戦力を航空戦隊として丸ごと編成してしまってはどうか、と提案したのである。

 

今までは航空戦隊と言えば、空母二隻、駆逐艦四隻、だったところを戦艦なら巡洋艦やらも纏めて航空戦隊所属として組み込んでしまう形に変えたのだ。

こうすれば航空戦隊には纏まった固有戦力が配備されて戦力のやり取りをしなくて済むし、時間短縮に繋がるし、何かあっても纏まった戦力ですぐに動ける。

 

「ですが、良いのですか?」

 

「構わん。君のおかげで駆逐艦や輸送船の数にも余裕が幾らか出てきたからな。駆逐艦や輸送船なら幾らか色を付けてやれるぞ」

 

「分かりました、ありがとうございます。では遠慮無く」

 

「で、どれぐらいの戦力が欲しい?勿論対米戦をやるとなったら、を考えてくれよ。最近はますます情勢が怪しくなってきたからな」

 

「そうですね……、翔鶴と瑞鶴の二隻以外に足の速い軽空母を一隻か二隻頂けますか?」

 

「ふむ……、一隻なら都合を付けられるな。空母に改装中の瑞鳳で構わないか?」

 

「問題ありません。それと瑞鳳の艦載機は全て戦闘機でお願いできますか」

 

「全部戦闘機?」

 

「はい。戦闘機の数が多ければ制空、防空とやりくりが楽になります。翔鶴と瑞鶴の二隻に関しても艦載機の半分を戦闘機にしたいのですが」

 

「うーむ……、瑞鳳だけならなんとかなるが翔鶴と瑞鶴までも、と言うのはすぐには無理だな」

 

「分かりました。では瑞鳳だけでもお願いします」

 

「分かった。他には?」

 

「金剛型戦艦を二隻、重巡二隻、軽巡二隻、水上機母艦一隻。駆逐艦を二〇隻。潜水艦十六隻。これとは別に現在建造中の乙型駆逐艦(秋月型防空駆逐艦)を一個駆逐隊分頂けますか」

 

「駆逐艦までは分かるが、潜水艦かね?」

 

「はい。救助と索敵の為です。対米戦となれば広い太平洋で戦わねばなりません。陸地とは違って撃墜されれば自力で帰ってくるのはまず不可能になるでしょう。その時の為に水上機母艦と潜水艦で救助の網を広げておきたいのです」

 

「なるほど分かった。なんとかしよう。他には?」

 

「可能であればタンカー四隻、輸送船四隻、護衛の駆逐艦を数隻頂ければ」

 

「足は遅くなるが構わないか?」

 

「構いません」

 

輸送船とタンカーをお願いしたのは、単純に五航戦単体で補給までを自己完結出来るようにしたかったからだ。

補給の手配を可能な限り簡略化しておきたいし、いざとなったら八隻の輸送船団を戦艦、空母含む強力な艦隊で守りながら輸送任務だってやれる。

 

こうして第五航空戦隊の編成が正式に決定されたのである。

 

第五航空戦隊

空母 

翔鶴 瑞鶴 瑞鳳

 

戦艦

金剛 榛名

重巡洋艦

摩耶 鳥海

 

軽巡洋艦 

天龍 龍田 由良

 

駆逐艦 

第六駆逐隊

暁 雷 電 響

第七駆逐隊

朧 曙 漣 潮

第八駆逐隊

朝潮 大潮 満潮 荒潮

第十五駆逐隊

黒潮 親潮 早潮 夏潮

第六一駆逐隊

秋月 照月 涼月 初月

 

潜水艦

十六隻

 

第五航空戦隊支援隊

 

特設水上機母艦

神川丸

搭載機 零式水偵 九機

 

タンカー四隻

輸送船四隻

駆逐艦四隻

 

支援隊を含めて計59隻の立派な陣容の艦隊となった。

 

第七駆逐隊と第六一駆逐隊は主に空母直掩を担い、側から離れる事は無い。

それぞれの空母には四隻づつの駆逐艦が常に護衛に就き、残る二個駆逐隊は戦艦や重巡と行動を共にする場合もある。役割分けをしたのだ。

 

摩耶、鳥海、天龍、龍田、由良の五隻は防空艦としての改装を施される。

魚雷を降ろし、その代わりに対空砲と対空機銃を増設するのである。

 

摩耶と鳥海は第三主砲塔を撤去し、12.7cm連装高角砲を左右に二基づつ増設し、計八基十六門に。

25mm三連装機銃も艦首、艦橋、煙突、艦尾に四〜五基づつ増設され、25mm単装機銃もびっしり増設される。

 

 

天龍、龍田、由良の三隻は14cm主砲と魚雷を全て撤去し、代わりに12.7cm連装高角砲を四〜五基を主武装に、25mm三連装機銃、同単装機銃を多数備える防空軽巡洋艦に改装された。

防空艦に改装するに当たり、新開発の九八式対空電探と九四式高射装置を二基づつ搭載する。

対潜兵装は無し、対潜ソナーを装備するに留まる。

 

九八式対空電探は三年間の開発期間を経て形になり、1938年に正式採用された対空電探だ。

性能はドイツ製やイギリス製のものに比べて劣るが、100機ほどの編隊に対して探知距離200kmほどの性能を発揮する。ざっくりながらも高度も算出することの出来る初めての物にしては中々良い性能だろう。

 

電探の開発は1935年から開始されている。

最初に開発されたのは試製一号対空電探、試製一号対水上電探だった。

この二つはとりあえず『電探』というものがなんなのか、というのを理解するのと、電探開発のノウハウを積む為に開発されたものだ。

なので性能は正直言って悪く、対空電探は100機編隊に対して探知距離30kmほど、対水上電探もいないものがしょっちゅう映ったり誤作動、誤探知、稼働しないが多発するレベルであった。

 

そこから試製二号、試製三号、試製四号と順々に開発していき、六代目となる、ようやく正式採用となったのが九八式対空電探と九八式対空電探改、九九式対水上電探、九九式対水上電探改である。

 

改との違いは、回転式か否かである。

空母や戦艦、重巡に搭載されるのは改であり、駆逐艦や軽巡にはノーマル型が搭載される。

 

どちらとも生産数はまだ少なく、巡洋艦以上の艦艇と秋月型防空駆逐艦に搭載するに留まる。

しかしながら生産数は徐々に拡大しつつあり、全艦艇に搭載する計画だ。

新しく建造中の駆逐艦や巡洋艦には最初から搭載されている。

 

 

既に摩耶と龍田の二隻は改装工事中であり、鳥海、天龍、由良の三隻も順次改装を受ける予定だ。

駆逐艦に関しても、対空兵装と対潜兵装の強化を目的とした改装工事を順次受ける予定だ。

改装後の兵装は摩耶と龍田と同様となる。

 

 

三空母の搭載機は以下の通りになる。

翔鶴 搭載機八十二機

零式艦戦 三十二機 

九七艦攻 二十八機 

九九艦爆 二十二機

 

瑞鶴 搭載機八十二機

零式艦戦 三十二機 

九七艦攻 二十八機 

九九艦爆 二十二機

 

瑞鳳 搭載機三十六機

零式艦戦 三十二機 

九七艦攻 四機(対潜哨戒用)

 

 

零式艦戦 九十六機

九七艦攻 六〇機

九九艦爆 四十四機

合計 二〇〇機

 

ぴったり二〇〇機であり、補用機を廃して常用機のみで固めていることから艦載機数が増えている。

神川丸に関しては撃墜された機体の搭乗員の救助を目的として編成に入れた。

護衛には駆逐艦三隻がタンカーと輸送船用に別途派遣されるので神川丸の護衛も兼任し任せつつ五航戦指揮下に入る形だ。

完璧とまでは行かないが、補給までを五航戦内で自己完結能力を持つことが出来たのはかなり大きい。

正式に編成されているが、後々になって引き抜かれるとかは割と有り得そうではある。

 

 

こうして第五航空戦隊は編成された。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

1941年に入ると、第五航空戦隊所属全艦が揃い踏みとなった。

燃料の関係で中々全艦での艦隊運動訓練は出来ないが、それでも十分な訓練時間と練度を確保している。

 

航空隊は、特に戦闘機隊に新しい戦術を叩き込んでいる。

従来の3機1組の編隊だと熟練搭乗員達は連携を取れるから問題無いが、損耗が重なった時に若年搭乗員だと連携に難がある。

そこで戦闘機隊の小隊を4機編隊に変え、それに適応し編隊空戦をやれるように叩き込んでいるのだ。

 

「良いか、米軍は我々より数で常に勝る。その時に単機で戦うのは愚の骨頂。編隊を崩さず、僚機や味方機と緊密に、十分に連携を取って戦え」

「君らは投網漁の投網だ。編隊で連携して上手く敵を誘い込み、ここぞと言う時に撃墜する」

「敵機を墜とす時、落とした時が最も自分も墜とされる時だと心得よ」

「共同撃墜や撃破に関しても新たにスコアとして加算出来るようにしてあるから、誤認戦果や戦果重複には気を付けよ」

「君達は我が海軍が誇る貴重な熟練搭乗員だ。そう簡単に死ぬことは許されない。例えどんな状況であろうとも生きて帰ってきて、再び戦うことを考えよ」

 

 

訓練を行いながら、護衛艦艇に関しては防空戦闘と対潜戦闘訓練に時間を割いている。

 

対空戦闘に於いては、主に戦技開発に集中している。

と言うのも現時点の対空砲の命中率や敵機撃破率は実際のところあまり良くない。それをどうにか出来ないか、という目的の下で行われているのである。

今のところ、マニュアル化されたのは所謂弾幕射撃に加えて、敵機が飛んでくるであろう空間を丸ごと切り取って射撃するというものである。

 

具体的にどういうことなのかと言うと、今までは敵機に対して対空射撃を行う場合、敵機という点に対しての射撃であったがこれを敵機が飛んでいる空間丸ごと狙って砲撃する、という方式である。

空母や戦艦だと片舷だけで対空砲四基だったりする。それが数隻固まっているのだからそれを活用しない手は無い。

この戦術の肝は対空火器を指定された空間に全て叩きつけられるように各艦同士が十分な連携を取れることだ。

このためにローカルではあるがデータリンクシステムのようなものを構築したのである。

 

対潜戦闘訓練においては指揮下にある潜水艦十六隻を訓練標的として行うのである。

潜水艦乗組員達からは何隻もの駆逐艦や航空機に追い掛け回され、爆雷の雨が降ってくるから『生きた心地がしない』という言葉を貰ったので訓練の甲斐があったと言えるだろう。

聴音手には『魚の群れを聞き分けられるようになれ』という標語を設けている。

 

私は五航戦司令官をやりながら、技術系であちこちに出向しては問題解決に奔走している毎日だ。

ここまで忙しいとなると五航戦司令官を降りた方が良いのではないかとも思うが……。

 

 

 

 

 

 

 

こうして1941年中を訓練に費やしつつ、1941年11月22日。

第一航空艦隊は択捉島単冠湾に集結することとなった。

 

五航戦は本来ならば、『赤城』『加賀』と交代して一航戦となる予定であったが開戦秒読みとなり叶わなくなった。

なので我々五航戦はそのまま引き続き五航戦を名乗ることになる。

 

第一航空艦隊は主力空母七隻となり、それを守る為の戦艦四隻、重巡四隻を合わせた中核戦力として単冠湾に集結している。

第一航空艦隊司令官は南雲中将である。

 

山本さんが赤城を訪れて激励をしたりし、11月26日に艦隊は単冠湾を出港することとなった。

 

 

 

12月8日午前一時三〇分に赤城より攻撃隊発艦始め、の号令が各空母に達された。

 

我々五航戦からは第一波攻撃隊として以下の通りが出撃した。

 

翔鶴 

零戦十二機 艦攻十二機 艦爆十二機

 

瑞鶴

零戦十二機 艦攻十二機 艦爆十二機

 

瑞鳳

零戦十二機

 

零戦 三十六機 艦攻二十四機 艦爆二十四機

 

計八十四機

 

続いて第二波攻撃隊として、

 

翔鶴

零戦十二機 艦攻十二機 艦爆一〇機

 

瑞鶴

零戦十二機 艦攻十二機 艦爆一〇機

 

瑞鳳

零戦十二機 

 

零戦三十六機 艦攻三十二機 艦爆二〇機

計八十八機

 

以上が出撃した。

 

 

これとは別に真珠湾周辺に五航戦指揮下の潜水艦十六隻と他にも多数の潜水艦が展開し、航空攻撃終了後周辺海域の敵船舶への通商破壊作戦を命じてある。

 

米太平洋艦隊は確かに強大ではあるが、実像としては燃料問題と言う足枷を嵌められた巨人なのだ。

あれだけの数の艦艇を動かすとなると凄まじい量の燃料が必要になるが、真珠湾にはギリギリの量しか存在しない。

備蓄分と、真珠湾へ燃料を運んでくるタンカーを一隻でも沈めることが出来れば米太平洋艦隊は丸々半年は全く行動が出来ないレベルで麻痺する可能性がある。そんな簡単に沈められて大きな効果を齎す戦略目標を逃す訳には行かない。

 

「余っている艦攻を全て索敵に出す」

 

「第三波攻撃を編成されないのですか?」

 

「我々は敵空母に備える。その為には周囲に敵艦隊が居るかどうかを確かめなければならん。運が良ければ近くに米空母がいるやもしれん」

 

「はっ、どの方面を索敵されますか」

 

「……ミッドウェー島方面と、ウェーク島方面だ。偵察でこの方面に米空母が度々足を運んでいる。多分、航空機輸送任務なのかもしれない。真珠湾に米空母が存在せず、ならば存在するであろう場所はその二方向だな」

 

「南雲司令に報告されますか?」

 

「いや、大丈夫だ。こう言った行動について事前に協議してあるし、我々五航戦が敵空母に備えるのも作戦の内だ。南雲司令もご存知だから心配しなくて良い」

 

「はっ、では索敵機を上げます」

 

「頼んだぞ」

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

作戦開始前、岩国航空基地で最後の打ち合わせが行われた際に、

 

「少将、君から何かあるか?」

 

「真珠湾に米空母が居なかった場合、どうされますか?」

 

「その時は真珠湾の米軍施設への攻撃に全力を挙げるべきだろうが、その口振りだとどこに行くか掴んでいそうだな?」

 

「確かな事は申し上げられませんが、3つの可能性があります」

 

「ふむ、教えて貰えるか」

 

「一つ目は米空母がフィリピンへ移動している可能性です」

 

「だが、フィリピンは米陸軍の一大航空拠点だ。陸軍機が多数配備されている上に態々海軍から空母を派遣するかね?」

 

「山本長官の仰られる通りです。なのでこの可能性は除外してよいでしょう。二つ目が米本土へ退いている可能性です」

 

「我が国との戦争が始まるかも、という時にか?」

 

「敵も有能な者がいます。我々の作戦を察知している可能性もあります。しかしこの可能性も除外して宜しいかと」

 

「それは、何故かね?」

 

南雲司令が訪ねて来る。

確かに敵が来ると分かっていれば、空母を一旦退かせて戦力温存の上で反攻の機会を伺うという戦術は理に適っているからだ。

 

「米本土との距離の関係です」

 

「距離?」

 

「あぁ、確かに」

 

「はい。長官がお察しの通り、米本土とハワイへの間には島がありません。なので航空機をハワイやそれよりも西側の島へ配備しようとすると必ず船舶輸送が必要になって来るのです。米軍はそれに空母を用いているわけです」

 

「確かに空母を使えば、港湾施設が貧弱でも空母からそのまま発艦させて飛行場に着陸してすぐに配備、実戦投入が出来るな」

 

「そうです。だから開戦するかもしれない、という情勢下に於いて空母を米本土へ下げるという選択肢は取らないでしょう」

 

実際、ミッドウェー島やウェーク島の港湾施設はかなり貧弱で、荷揚げ用桟橋の設備が存在しないのである。

だから輸送船で航空機を分解して運んで陸揚げして、という作業が出来ないのだ。となれば、空母を用いる方がいい。空母を使えば分解して荷揚げして、組み立てて調整して、という工程を丸々スキップ出来る。

 

空母から発艦して、飛行場に着陸してしまえばすぐに実戦投入可能状態になるし、何よりエンジンの調整などの整備兵に負担が掛かる作業を丸ごと省略することが出来る。これはかなり大きい。

 

「では三つ目は?」

 

南雲司令が聞く。

 

「米空母が航空機輸送任務に従事している可能性です」

 

「ふむ……、先程の話を合わせて考えると確かに有り得るな。どこに運ぶと思う?」

 

「可能性として高いのは、ウェーク島かミッドウェー島でしょう」

 

「理由は?」

 

「中部、北太平洋に索敵網を広げられるからです。双発機やB-17ならばかなりの距離を索敵出来ます。我々がハワイへの上陸、占領を企図していると考えればこの二箇所は前線基地として絶好の位置にあります。我々の攻略目標になり得る位置でもありますから航空機を輸送しているのでしょう」

 

「確証があるのかね?」

 

「事前にご報告しました通り、潜水艦による偵察で度々米空母がウェーク島、ミッドウェー島方面に向かっています。ですので可能性としてはかなり高いかと」

 

「では真珠湾に米空母が居なかったら、どうするべきだと?」

 

「米空母は航空機輸送任務に就いています。真珠湾攻撃時にも同様の任務に就いていると仮定するならば、輸送用航空機を載せる為に固有の艦載機部隊を降ろしているか、或いは自衛用に若干の戦闘機と対潜哨戒用の機体を搭載しているに留まるでしょう。であればこれほどの好機はありません。索敵をして、発見次第攻撃を加えて沈めるべきです」

 

「真珠湾だけでは不足であると?」

 

「米海軍は現在七隻の空母を有します。その内の二隻を沈めることが出来れば米海軍が有する空母は五隻になります」

「大西洋に配備する分を除けば、太平洋には少なくとも三〜四隻の米空母が配備されるでしょう。となれば1942年の末には戦力化が可能となる翔鶴型航空母艦の三番艦、四番艦を合わせて我々は八隻の正規空母を有することになります。という事は敵に対してざっくり2倍の数的有利を得られる訳です」

 

現時点で建造中の翔鶴型航空母艦の三番艦と四番艦は1942年の五~六月ぐらいに完成し、習熟訓練に入る。

とすれば二隻が六ヶ月の習熟訓練を終えるのは1942年12月頃になる。そこまで我々が空母を失わなければ正規空母八隻を揃えることが出来る。

 

そして新たに建造を進めている翔鶴型航空母艦の五番艦、六番艦、七番艦は1943年末に、そして装甲空母として建造が進められている航空母艦二隻は同じく1943年末に実戦投入可能となると報告されている。

となれば数隻を失ったとしても、八~九隻程度の空母を我々は有することが出来るわけである。

 

ここで二隻の敵空母を沈めることが出来るかどうかで、かなり変わると言っていいだろう。

 

「ここに龍驤や祥鳳、瑞鳳、千歳型、隼鷹型と言った空母も合わせれば実数値での戦力差は三倍〜四倍に開くでしょう」

「米海軍が現在建造を進めている新型空母が完成し訓練を終えて配備され、戦線に投入され始めるのは早くても1942年の末から1943年の春頃に掛けてと見積もられております。となれば甘く見積もって一年、現実的なところだと半年ぐらいは空母の数で有利を得られると考えます。ですから纏まった数になって手に負えなくなる前に、我々は戦力を集中して敵には寡兵状態を強要し追い込みつつ戦う為に、今の簡単に叩けるうちに叩くべきです」

 

「確かにその通りだ。だが真珠湾はどうする?二隻、或いは三隻の空母を米空母の警戒に回しては真珠湾攻撃用の兵力が少なくなって中途半端な、二兎を追う者は一兎も得ず、になってしまうぞ」

 

「最初は7隻の空母で全力で真珠湾を叩きましょう。最初の一撃で飛行場を全て潰せば少なくとも迎撃機は上がって来れません。そのあとは二個航空戦隊で真珠湾を継続して叩き、残る一個航空戦隊は米空母を索敵し備えます。敵空母は発見次第全力を以て叩きます」

 

「逆では駄目か?」

 

「構いませんが、第二次攻撃隊を送り出して攻撃を加える頃には米軍は対空砲などの反撃手段を整えているでしょう。それに対して一個航空戦隊だけでは不足するかと」

 

「艦載機の数が少ない米空母一隻づつが相手なら空母二隻で十分、そう言う事か」

 

「はい。ただ、二隻を同時に発見した場合は全空母を割くべきです。真珠湾は動きませんが空母は動いて逃げ回ります。見失えばかなりの痛手です」

 

「確かに。では君の言うように作戦に修正を加えよう。で、敵空母に対する備えだが……、言い出しっぺの君達、五航戦がやってくれるね?」

 

ーーーーーーーーーー

 

 

という経緯があって我々五航戦は敵空母に備えているのである。

 

「トラ・トラ・トラ!我奇襲ニ成功セリ!我奇襲ニ成功セリ!」

 

「よぉし!」

 

「よくやった!」

 

攻撃隊からの一報に翔鶴の艦橋が沸く。

 

「神川丸と潜水艦にハワイ周辺海域で搭乗員の救助活動をするように送れ」

 

「はっ」

 

搭乗員の救助は最優先事項の一つだ。

九七艦攻が撃墜されれば三人、九九艦爆で二人、零戦でも熟練戦闘機乗りを一人失う。アメリカに比べて人的資源に劣る日本は人的損耗は極力抑えなければならない。

五航戦に水上機母艦と潜水艦を配備して貰ったのは、『索敵網を広げる為』、『通商破壊戦を行う為』、『そして搭乗員の救助を広範囲に行う為』という三つの理由からだ。

 

神川丸には九機の零式水偵が搭載されているが、これは索敵に参加していない。理由は搭乗員の救助任務に全力を割かせる為だ。

実際に敵空母の索敵に参加させたのは翔鶴と瑞鶴の九七艦攻八機だけとなる。

 

神川丸から飛び立った零式水偵はハワイ周辺海域を飛び、不時着水した搭乗員を見つければそれを潜水艦に知らせる。

搭乗員は発煙筒を持っているからエンジン音があれば発煙筒を使って位置を知らせ、水偵か潜水艦に助けてもらうのだ。

主に潜水艦となるが、救助されたらそのまま本土へ一旦戻り、新しい機体を受領してから母艦へ復帰、となる。

流石に戦闘中や敵潜水艦に襲われる可能性があるから、救助された搭乗員を外洋で受け取る訳にはいかない。

 

「攻撃隊の収容準備始め。我々は敵空母に備えるぞ」

 

「はっ。敵空母は出てくるでしょうか?」

 

「居るのは確かだ。正確な位置は分からんが、運が良ければかなり近くにいるやもしれん」

 

幾ら輸送任務帰りと言えども油断は出来ない。

艦載機が少なくなっている可能性があるとは言え、エンタープライズは少なくとも50機は搭載している筈だ。

レキシントンも同じぐらいだと仮定しておくべきだろう。

 

となれば我々は最大で二隻の米空母と100機以上の米艦載機と渡り合わなければならない。

五航戦は三隻の空母で二〇〇機の艦載機がある。真珠湾攻撃で撃墜される機や再出撃不可の機体が出たとしても、180機は確保出来るだろうか。数的有利がある状態とは言い難いが、敵より多いのは間違いない。

米空母は搭載機数が多いから、定数だったら艦載機の数の上では互換ぐらいだったかもしれない。

 

 

 

「瑞鶴三番機敵空母発見!ハワイ諸島より西方一六〇海里、空母一隻、巡洋艦二隻、駆逐艦数隻を伴う!以上!」

 

攻撃隊がパラパラと帰投し、翔鶴、瑞鶴、瑞鳳に着艦し始めた頃、伝令兵が艦橋に駆け込んできて大きな声で報告する。

敵空母を発見するタイミングが良い。攻撃隊が帰投し始めたタイミングだからすぐに攻撃隊を編成すれば一時間ぐらいで纏まった攻撃隊を放てる。

 

「司令、敵空母です!」

 

参謀が顔を紅潮させて大きな声で私の顔を見ながら言った。

言外にやりましょう、と訴えて来ているのはすぐに分かった。

 

「これより五航戦は第一航空艦隊より分離、西方の敵空母を全力を以て叩く!その旨を打電!」

 

〔我、ハワイ諸島ヨリ西方一六〇海里ノ洋上ニテ敵空母発見セリ。コレヨリ全力ヲ以テ叩ク〕

 

「はっ!」

 

「敵空母からの攻撃に備えて上空直掩機を出す。電探も稼働させろ。航空参謀、帰投する翔鶴、瑞鶴機にすぐさま対艦攻撃用兵装を施し攻撃隊を編成せよ」

 

「はっ、では私は格納庫に降ります。完了次第ご報告します」

 

「頼んだ。第一波には戦闘機を多くして制空権を確実に握れるようにしてくれ」

 

「承知しました」

 

航空参謀が格納庫に降りていく。

暫くして三空母所属の艦載機が全て帰投した。結果は被撃墜機無し、五航戦は一機の損失も、一人の犠牲も出さずに真珠湾攻撃を成し遂げたのである。

 

 

 

「諸君。すでに聞いていると思うが敵空母を西方160海里の洋上で発見した。我々の新しい任務はこの米空母を確実に葬ることだ。疲れているところ申し訳ないが、すぐに攻撃隊を発艦させる。準備が整うまでの少しの間、食事と休息を取り、再出撃に備えて欲しい」

 

「この一戦で今後の戦争の趨勢が決まる!敵は決して侮れないが各員は必勝必殺の心意気で挑め!」

「帰り道は心配するな。不時着しても水偵か潜水艦か、或いは私が直接空母と一緒に必ず迎えに行く!」

 

「掛かれッ!」

 

「「「「「応っ!!」」」」」

 

出撃準備を整えた第一波攻撃隊が甲板に並べられ、一〇分ほどで全機が飛び立つ。

続いて第二次攻撃隊が飛行甲板に並べられていき、こちらもまた10分ほどで飛び立った。

 

第一次攻撃隊

翔鶴 

零戦十六機 艦爆十二機 艦攻八機

 

瑞鶴

零戦十六機 艦爆十二機 艦攻八機

 

瑞鳳

零戦八機

 

零戦四〇機 艦爆二十四機 艦攻十六機

 

合計八〇機

 

 

第二次攻撃隊

翔鶴

零戦八機 艦爆一〇機 艦攻一〇機

 

瑞鶴

零戦八機 艦爆一〇機 艦攻一〇機

 

瑞鳳

零戦八機

 

零戦二十四機 艦爆二〇機 艦攻二〇機

 

合計六十四機

 

 

直掩に32機の零戦を残している。

敵空母が一隻なら三十二機もいれば敵空母が放った攻撃隊を問題無く防げるだろう。

それどころか多かったかもしれない。もう少し攻撃隊に付けてやればよかったな。

 

 

「攻撃隊、全機発艦完了しました」

 

あとはミッドウェー方面の空母を発見するだけだ。

そう時間は掛からずに見つけられるだろうが、今日中に攻撃を仕掛けられるかどうかは未知数だな……。

 

「司令、ミッドウェー方面にも敵空母はいるでしょうか?」

 

「恐らくいるだろう。真珠湾を監視していた味方からの事前情報によれば真珠湾から二隻の空母が別日にそれぞれ出航している。わざわざ別の日に出航という事は目的地が違うのだ。ミッドウェーとウェークにそれぞれ向かったと見るべきだな」

 

ミッドウェー、ウェークに必ず向かったとは断言出来ないが、偵察情報を合わせて考えると十中八九、当たっている。

 

「では索敵から帰投した艦攻を再び索敵に上げますか?」

 

「そうしよう。一航戦と二航戦にも可能であればミッドウェー方面に索敵機を放っておいて欲しい旨を伝えておいてくれ。勿論暗号でな」

 

「はっ」

 

索敵気が多い事に越した事は無いが、五航戦だけでは八機の艦攻を偵察に出すので精一杯だ。

それ以上索敵に割り当ててしまうと攻撃兵力が少なくなってしまう。

 

索敵から無事に帰還した艦攻を燃料補給をしてミッドウェー島方面に対して再び索敵に出す。

 

「司令、ミッドウェー方面とウェーク方面の敵空母が合流する可能性はあるでしょうか?」

 

「いや、無いだろうな」

 

「それは何故でしょう?」

 

「一つが距離の問題だ。ミッドウェー方面の敵空母の正確な位置が分からないから確かな事は言えんが、下手をすれば二五〇海里は離れている。二〇ノットで航行しても半日以上は掛かる距離だ。今から合流を目指しても後の祭りにしかならんよ」

 

「連携を取ってくる、などは?」

 

「それも距離の関係で難しかろう。仮に共同攻撃を仕掛けてくると考えても、距離が離れている以上それも現実的とは言い難いからな」

 

実際、合流すると言う事は無いだろう。

ここに第三の新たな空母が出て来たりすれば話は変わるが、少なくともそのような様子はない。

可能性として全く無い訳では無いが、今の状況を考えればまず無い。

 

だから我々は二隻の敵空母を各個撃破出来る状態にある。

これほどの好機はこれから先も訪れないだろうから、この機会に確実に二隻の米空母を葬っておきたい。

 

多分、どちらも兵力としては空母一隻、重巡二〜三隻、駆逐艦十数隻、と言ったところだろうから、空母を沈めてしまえばエアカバーを剥がされた敵艦隊を殲滅することも容易だ。

近海の敵艦が合流したとしても空母の数は増えないだろう。

というのも、太平洋にいる米空母はエンタープライズ、レキシントン、サラトガの三隻だけで、他の四隻は全て大西洋にある。

しかも太平洋に存在する空母の内、サラトガはサンディエゴのドックに入っている。

太平洋には稼働状態にある戦える米空母は二隻だけなのだ。

 

しかし航空機輸送任務の為に送って来たから格納庫はすっからかん、或いは少なくなっているとくれば、こんな好機は無い。

だから何がなんでも今、二隻を沈めておきたい訳である。

 

「攻撃隊が敵機の迎撃を受けたようです」

 

「状況は?」

 

「我が方が戦闘機の数で勝っており、攻撃隊には一切手出しはされていないようです。第一次攻撃隊に護衛の零戦を多く付けていて正解でしたね」

 

「あぁ、上手くいって良かった。あとは敵空母への攻撃だが、しっかり固められた敵艦隊への攻撃は初めてだ、どうなるかな」

 

「彼らなら必ずやってくれます」

 

「そうだな、信じよう。それと、水上機母艦を呼んで撃墜や不時着した搭乗員の救助準備に入るように伝えてくれ。戦闘機は寄せ付けていないとのことだが、対空砲や対空機銃で比べ物にならない被害が出るかもしれないからな」

 

敵機の迎撃を受けている旨の電文が送られてきてから更に三〇分ほど経ってト連送が発された。

 

攻撃隊はまず主に空母を守る艦艇を急降下爆撃で叩く。

護衛艦艇が撃ち上げる対空砲火はかなり脅威となる。なのでその対空火力を急降下爆撃で一時的に抑え、その隙に艦攻と一部の艦爆が敵空母に攻撃を仕掛ける。

 

教本では、

 

1.敵空母を守る艦艇の対空砲火を急降下爆撃により一時的に抑える。

2.敵空母に対して急降下爆撃を仕掛け、飛行甲板に損害を与える。

3.対空砲火が弱まったタイミングに合わせて敵空母に雷撃を仕掛ける。

 

以上の三手順となる。

 

 

十五分ほどで第一次攻撃隊が攻撃を終え、その二十分後に第二次攻撃隊の攻撃が開始された。

こちらも十五分ほどで攻撃を終えた。

 

「第一次攻撃隊より戦果報告電が上がっております。敵空母に魚雷五及び爆弾二を命中、撃沈と認む。重巡一隻、駆逐艦三隻に爆弾一~三発の命中を認む。撃沈ならず。以上です」

 

「司令、やりましたな!」

 

「これで米空母一隻を叩けた。攻撃隊の損害は?」

 

「現在集計中とのことです」

 

「宜しい。では攻撃隊に艦隊の位置を知らせよ。撃墜機や不時着機の位置を知らせるように。水上機母艦は捜索救助開始せよ。搭乗員は一人でも多く助けるのだ」

 

「はっ」

 

その後の損害集計では零戦七機、艦爆六機、艦攻七機の計二〇機が損害となった。

しかしながら撃墜機の搭乗員四〇名の内、最終的に脱出後に二十三名が救助され即座に戦線復帰可能、他に七名が重軽傷となる。

最終的な戦死者は一〇名となった。

 

その後、母艦帰投後に修理不可として艦攻二機、艦爆二機がスクラップに、零戦三機が燃料タンクに穴が空いていると言う事で直掩隊に回されることとなる。

 

 

 

ミッドウェー島方面に対して索敵を放ち、翌日12月9日。

真珠湾は一航戦、二航戦による継続的な攻撃を受け、艦艇、工廠設備、飛行場、燃料タンクに大損害を食らって、燃料に引火、大爆発を起こした。航空燃料、重油タンクが次々に引火爆発して真珠湾全体が大炎上しているという。

実際に重油が燃える禍々しい黒煙はかなり離れた五航戦からも薄らと確認することが出来るほどであった。

 

「我翔鶴五番機。カウアイ島より北西約110海里にて敵レキシントン級空母発見す。重巡三、駆逐五を伴う。以上です!」

 

「二つ目だ。すぐに攻撃を仕掛けるぞ」

 

「はっ。すぐに攻撃隊を飛行甲板に並べます」

 

搭乗員達には一夜、しっかり休息を取らせた。

機体の修理も整備員達が夜通しやってくれた。準備は万端である。

 

12月9日午前八時二十五分。

攻撃隊発艦始めの信号旗が振られた。

 

 

 

 

我が五航戦から出撃した攻撃隊はレキシントン率いる米艦隊を攻撃。

敵機の迎撃も殆ど受けないまま攻撃を開始。見事にレキシントンと重巡二隻を撃沈、重巡一、駆逐二を撃破せしめた。

 

被害は艦攻三機、艦爆四機に留まり、搭乗員十一名を救助。六名が戦死となった。

 

この報告に五航戦司令部だけでなく、第一航空艦隊司令部や連合艦隊司令部ですら歓喜の渦に巻かれたと言う。

五航戦は全体を通して機体三十一機、搭乗員十六名を失った。

 

我々は空母二隻、重巡二隻、タンカー1隻の撃沈戦果を引っ提げて内地へ帰投することとなった。

 

 

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