第五航空戦隊記   作:ジャーマンポテトin納豆

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南方へ

 

 

 

真珠湾作戦が大成功に終わり、本土へ凱旋する、とはならなかった。

 

「ウェーク島攻略支援、ですか?」

 

「うむ。攻略するにあたって陸戦隊を出すことになったが、少しばかり心許無い。そこで五航戦に支援を頼みたい」

 

「分かりました。陸戦隊の戦力はどれぐらいでしょう?」

 

「規模としては四個中隊だ。ざっくり六五〇名ほどだな」

 

「敵戦力はどれぐらいでしょうか?」

 

「正規兵が五〇〇ほど、それに軍属が一二〇〇〜一三〇〇ほど加わる。民間人もいるようだから気を付けてくれ」

 

「敵航空戦力は?」

 

「君達五航戦が沈めた米空母が運んできた戦闘機が一〇〜二〇機と言ったところらしい。やれるか?」

 

「問題ありません。支援方法はこちらに一任ですか?」

 

「うむ、全て任せる」

 

南雲さんからウェーク島攻略支援を命じられ、五航戦は舵を切った。

 

 

 

 

 

本土からの輸送船に乗った陸戦隊と護衛の駆逐艦と合流しウェーク島沖に展開する。

どうやら事前にクェゼリンからの陸攻隊が爆撃を加えていたらしく、偵察の結果飛行場は破壊されていた。

 

「どうされますか?」

 

「海岸線の防御陣地に爆撃と砲撃を加える。攻撃隊を編成しつつ、金剛、榛名、摩耶、鳥海は第六駆逐隊を伴い距離5000で砲撃開始」

「その前に、だ。民間人に避難勧告をせねばならないな」

 

「無線からラジオで呼び掛けますか?」

 

「そうしよう。安全地帯はウェーク島北部市街地内に限定する。それ以外の場所は全て戦闘地域とする旨を発信せよ」

 

「はっ」

 

ウェーク島が見える位置で遊弋しつつ金剛以下を分離。民間人の避難に十分な位置に付くと次々に射撃を開始した。

 

海岸線の陣地を軒並み吹き飛ばし、ダメ押しの飛行場への爆撃を加えた後、陸戦隊が輸送船から下された大発動艇に移り、体形を整えると海岸に向けて発信した。

この時、翔鶴と瑞鶴、金剛、榛名から四隻の特大発動艇が上陸戦に参加した。

 

艦隊からの援護射撃と航空支援を受けながら上陸第一波は無事に上陸に成功。

そこから一〇日間、戦いが繰り広げられる事となった。

 

「陸戦隊から米軍守備隊の降伏があったと連絡が来ました」

 

「分かった。負傷者の救護と収容を進める。各艦から一名づつ軍医を派遣して当たらせよ。敵味方は区別するな」

 

「はっ」

 

各艦から軍医一名と衛生兵三名をウェーク島に派遣し、負傷者の治療にあたらせる。

民間人も多いので、彼らの精神面での負担もよく見なければならない。

海軍では精神病の意識改革を五年前から進めており、少なくとも史実よりは遥かにマシな意識だ。

 

負傷者の収容を終えてから、艦隊は進路を取った。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

無事にウェーク島攻略支援を終えた我々は、今度こそ内地へ帰還することが出来た。ウェーク島から戻る時、捕虜となった米海兵隊員を輸送船に乗せてきている。

艦隊は補給と人員の補充の為に二週間の休養となり、五航戦は暫く平穏な日々を送る事になる。

 

そして私は米空母二隻撃沈の功を以て、中将へと昇進することとなった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「南方、ですか」

 

「そうだ。何か言いたいことがありそうだな?」

 

内地で訓練に明け暮れていたところ、再び山本長官に呼び出される。

赴くと次の作戦の為に南方へ征け、と言う事だった。

 

とても嫌な予感がする。

 

「南方と言うと、何処でしょう?既にラバウルまで制圧しています。それ以上の進軍は補給線への負担が余りにも大きくなり過ぎるのでは?」

 

「軍令部はそうは思っとらんらしい。寧ろ今が好機だそうだ。米空母二隻を沈め、こちらは六隻の主力空母に加えて君のところの瑞鳳、それに何隻かの軽空母が加わるからな。戦力で圧倒している今の内に、という訳らしい」

 

「ですが、目標はどこに?」

 

「ポートモレスビー」

 

不味い。

このままでは伸び切った補給線を叩かれ、泥沼の消耗戦になる。日本にそんな消耗戦を戦えるだけの国力は無い。

 

輸送船や駆逐艦の数はかなり余裕があるとは言ってもアメリカとの国力は雲泥の差だ。

それを遥か八〇〇〇kmも先で、となればより一層厳しくなる。どう考えても伸び切った補給線を維持出来るだけの力は我々に無い。

 

「……遠いですね」

 

「あぁ、だが上手くやれば米豪遮断が現実として見えて来る」

 

「アメリカは絶対に米豪遮断を許さないでしょう」

 

「だろうな。最悪、手元にある空母を全部太平洋に送り込んできてもおかしくは無い。その時は五航戦だけで数倍の敵と戦わねばならなくなる」

 

「ならば、目的を変えましょう」

 

「目的を変える?」

 

「はい。モレスビー攻略を餌に米空母を誘引しましょう。報告では既に二隻の米空母が太平洋に回航されているといいますし、しかもその拠点はオーストラリアやニューカレドニアと言いますから対決を挑むには良い場所です」

 

「なるほど。だが、モレスビー攻略はどうする?まさかやらないという訳じゃあるまい」

 

「やります。ただし敵の攻撃や補給が厳しくなったらすぐに兵を退いて消耗を最小限に抑えます。そうすれば軍令部の溜飲も幾らかは下がるでしょうから」

 

「ふむ……。ではそうしよう」

 

「それと一つ、ご報告が」

 

「どうした」

 

「どうやらこちらの暗号が敵に漏れているようです」

 

「なにっ!?……それは本当か?」

 

「はい。確証は得ておりませんが、どうもこちらの動きを読まれているとしか思えない状況が他方で報告されております。このままではどこかで致命的な事態になります」

 

「……分かった。軍令部には報告しとらんのか?」

 

「長官には申し訳ないのですが既にしました。ですが『我が暗号が敵に解読される訳が無い』『現場司令官如きが口出しをする領域では無い』の一点張りです。とてもではありませんが……」

 

「分かった。こちらだけでどうにか手を打たねばならんと言うわけだな?」

 

「はい」

 

「対策を考えておく。ともかく君はモレスビーに集中してくれ」

 

「分かりました」

 

「何か要望はあるか?」

 

「であれば、四航戦を追加で頂きたく。米空母が四隻も出て来る可能性がある以上、そうなってはモレスビーと豪州、敵艦隊の航空兵力と戦うことになります。そうなれば五航戦だけでは対処しきれません」

 

「分かった。手配しておこう」

 

隼鷹と飛鷹は既に空母としての改装を終え、第四航空戦隊として編制されている。

 

第四航空戦隊は空母隼鷹、飛鷹、祥鳳を基幹に長門、陸奥を添える形で戦力形成されている。

 

第四航空戦隊

 

空母

隼鷹

零戦二〇機 艦攻二〇機 艦爆十五機

 

飛鷹

零戦二〇機 艦攻二〇機 艦爆十五機

 

祥鳳

零戦二十八機

 

戦艦

長門 陸奥

 

重巡

愛宕 高雄

 

軽巡

長良 阿武隈

 

駆逐艦

十六隻

 

 

第四航空戦隊支援隊

水上機母艦 瑞穂

タンカー 四隻

輸送船 四隻

駆逐艦 六隻

 

 

第五航空戦隊を元にした編成であり、違う点と言えば秋月型防空駆逐艦が配備されていないことと潜水艦が無いことだ。

 

連合艦隊旗艦には大和が就任しているので、その代わりに手が空いた長門、陸奥の二隻が四航戦に組み込まれている。

四航戦に組み込まれる戦艦の候補としては伊勢、日向、扶桑、山城の四隻があった。しかしこの四隻は対空兵装の強化や電探の搭載を目的とした近代化改装に開戦後に入った為、暫くは戦線に出ることが出来ない。

そこで先んじて近代化改装を終えていた長門と陸奥に白羽の矢が立ったというわけである。

 

それに加えて隼鷹、飛鷹の二隻は最大速力が二十五.五ノットと些か足が遅い。

その点、長門と陸奥の最大速力は二十五ノットと足並みを揃えるには丁度良いのである。

 

長門、陸奥の主な改装は12.7cm高角砲を片舷四基、合計八基十六門、二十五mm三連装機銃二十二基、二十五mm単装機銃三十五挺に増設し、九四式高射装置四基、対水上電探と対空電探を合わせて六基を増設した。

他にも水雷防御を向上させる為に五層構造のバルジを備え付けた。

このバルジは第一層に装甲、第二層に木材、第三層にコンクリート、第四層に重油、第五層に空間装甲を設けたものだ。

材質と積層構造によっていわゆる複合装甲のようなものに仕立て上げたものだ。

木材は本来であればより浮力を得られるコルクなどを使いたかったのだが、入手が難しいという点から通常の木材を使用する事となった。

 

 

伊勢、日向、扶桑、山城は後々、建造中の空母が配備される艦隊に配備される。速力の違いはあるが戦艦が護衛に就いているか否かはかなり大きい。対空火力は駆逐艦や巡洋艦の比にならないほどに圧倒的だ。

三番、四番主砲塔を撤去して九四式高射装置、高角砲と機銃群、電探の増設をする。片舷六基、両舷十二基もの高角砲だ。

高角砲だけでもモノは違うが秋月型駆逐艦三隻分、機銃に至っては比べ物にならない。

これが護衛に付いているとなればとても心強い。

 

三〇ノットを発揮出来る高速戦艦は金剛型四隻以外にはないし、かと言って空母の建造に資材と人員、金、時間と全ての余力を全て注ぎ込んでいるので、高速戦艦を新造するだけの余裕は無い。ならば今ある使える戦力は全て使わねばならない。戦力を遊ばせておく余裕など日本には無いのだ。

 

 

 

秋月型駆逐艦、所謂乙型駆逐艦は今のところ十四隻が建造されているが、六一駆、六二駆、六三駆の三個駆逐隊に配備されている。

しかし六一駆は五航戦に配備され、残る六二駆は一航戦に、六三駆は二航戦に配備されている。なので四航戦に配備される分が無いのである。

 

残る二隻は本土で建造が進められている六隻と合わせてこれから配備される。

 

翔鶴型航空母艦の三番艦と四番艦と五番艦、装甲空母二隻で編成される二個航空戦隊にそれぞれ四隻づつ配備される予定なのだ。

なので四航戦に回せるだけの数が無いのである。建造数が今よりも進めば配備されるだろうが少なくとも1943年以降になるのは間違いない。

建造中の五隻の空母はそれぞれ第六航空戦隊、第七航空戦隊として編制される予定である。

これに配備出来る数が建造されてから、四航戦や三航戦への配備が進められる。

 

潜水艦の方も数が足りないということで欠員だ。

一応ブロック工法での潜水艦建造に目途が立ち、進められているので早ければ1943年には潜水艦と乙型駆逐艦の配備が成されるとされている。

 

第四航空戦隊は編成されたばかりの艦隊であるが司令官には角田覚次少将が任ぜられている。

彼は如何にも、と言った顔の猛将だ。顔からも漂う好戦的な性格は言わずもがなである。ただ、航空戦の知識はまだ浅く、すべてを任せるのには不安が残るという感じだ。

角田さんは顔が怖い。

 

 

 

 

五航戦、四航戦はラバウルを目指して出航。

九十九隻もの大艦隊となった我々はラバウル向けの物資や陸軍兵を乗せた輸送船二〇隻と、フィリピン沖でブルネイやパレンバン、バリクパパンから艦艇用、航空機用燃料をたっぷり載せたタンカー二〇隻と合流し、それを護衛しながらの道行きとなった。

 

軍令部曰く、どうせなら輸送船とタンカーを守りながら行ってくれ、と言う事らしい。

この四〇隻の輸送船とタンカーは後々荷下ろしが完了したら迎えに来る護衛艦隊と、五航戦、四航戦の支援隊と共に資源地帯を経由して物資や人員を積み込んでから本土へ戻る予定となっている。

 

海軍の保有する輸送船、タンカーは戦時運用を前提としたもので量産性を第一にした甲型、艦隊随伴や敵潜や敵機から逃げる為の高速性を有した乙型の二種がある。

 

甲型は最大速力十三ノットの五〇〇〇〜一万トン級として建造され輸送任務に用いられる。

乙型は最大速力二十二ノット、一万二〇〇〇トン級として建造され、主に艦隊随伴などに用いられる。

 

 

支援隊の方は本土から燃料と物資を運んできて再度合流、という流れになる。

これだけの規模の艦隊ともなると燃料事情というどうしても厳しいものとなって常に付いて回る。

 

艦艇乗組員は停泊しながらでも訓練が出来るから良いが、艦載機搭乗員達の方は燃料不足でマトモに訓練も出来ないとなれば流石に練度の方に支障が出て来る。

それを解決しないと作戦行動にも支障が出てしまう。

軍令部はその辺は考えているのか、ラバウル向けの補給にそれなりの余裕をもっての燃料を充てている。

 

ついでに言っておくと作戦開始まで、五航戦から一個駆逐隊を船団護衛任務に割くこととなる。

護衛艦隊があると言っても、四個艦隊だけで、しかも燃料や各種資源を日本本土に溜め込む計画も動いているので南方資源地帯との往復で大忙しだ。そこにニューギニア方面やトラックなどまでの補給を担当させられないというのっぴきならない事情があるのだ。

 

流石にこの状況が不味いという認識はあるようで、護衛空母二隻の建造が新たに進められている。

それでも戦力として稼働出来るのはやはり1942年11月~1943年1月頃となるので、それまで待たなければならない。

 

そのため、駆逐艦の数に余力のある五航戦から駆逐隊を割いて船団護衛任務に充てているのである。

 

 

 

 

 

艦隊は三月三日に到着すると、一旦錨を降ろした。

 

母艦航空隊は一時的にラバウルの飛行場を間借りすることとなった。

ラバウルには既に零戦二十四機、一式陸攻十二機が進出していたが、そこに母艦航空隊ともなると約三八〇機にもなる。

流石に現時点でラバウルにそれだけの航空機を受け入れられるだけの容量は無い為、ラバウルの飛行場を拡張、充実させるために米英軍から鹵獲した建設車両を一〇両ほど持って来ている。

これで一気に飛行場設備を整備し、大規模航空兵力の拠点とする。

モレスビー攻略作戦をやるのは五月上旬だから、それまでには大規模な飛行場を整備して母艦航空隊を間借りさせてもらうことぐらいは出来るだろう。

 

ラバウル向けの増援は今のところ四月までに零戦、陸攻をそれぞれ四〇機づつほどを最低でも揃える予定となっている。

合計八〇機なのでそこまで多数の航空機がラバウルに集まるわけでは無い。ただ着実に増強される予定ではあるので、飛行場や燃料タンク、倉庫を沢山作っておくに越したことは無いのである。

 

一週間ほど掛けて輸送船団は荷下ろしを済ませると、支援隊と十五駆と共に早々にラバウルを出港した。

 

 

残された我々は作戦準備と訓練を進める。

艦隊は湾内に投錨している。敵潜水艦からの攻撃を防ぐ為、駆逐艦で防潜網の敷設を進める。本来なら専任の艦艇がある方が良いのだが、こちらも都合を付けられずこうした形となった。

 

母艦航空隊は飛行場に陸揚げとなる。

流石に母艦航空隊全てを陸揚げすることは出来ないので戦闘機隊だけを陸揚げし、防空だけは出来る状態にする。残る艦攻、艦爆隊は交代で飛行場に駐留、空母に残留することになる。

停泊中でも四機づつぐらいなら兵装無しの状態であれば発艦出来るので訓練も出来るというわけだ。

 

「中将昇進、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「ご一緒出来て光栄です」

 

「そんなことはありませんよ。では、作戦会議と行きましょうか」

 

「はっ」

 

ニューギニア方面の地図を卓上に広げる。

 

「既にラエ、サラモア、カビエン、ツラギの攻略は完了しております。この方面は元々井上成美中将率いる南洋部隊と第四艦隊が担当していましたが米軍機動部隊の襲来が予想されることと、豪州本土からの米軍爆撃機の来襲があって、これら艦隊は我々五航戦と四航戦と交代する形で一時的に本土へ戻っております」

 

「どうせならそのままこっちに居てくれた方が戦力的には有難かったが、仕方が無い」

 

「我々の目標はポートモレスビーとなります。同地の攻略には陸軍から三個師団が担当します。我々は陸軍を乗せた輸送船団を守り、敵艦隊の脅威の排除、モレスビーでの地上戦支援任務が与えられております」

 

「敵情は?」

 

「情報分析によると、少なくとも空母三隻、軽空母二隻が豪州へ派遣されたようです」

 

「しかし、何故米軍はここまで素早く戦力を割いたのでしょうか?」

 

「我々が来ているというのもあるだろうが、一番の問題は港湾施設だろう」

 

「港湾施設?」

 

「我々は米海軍の太平洋における最大の根拠地、真珠湾を徹底的に破壊した。燃料も爆弾を放り込んで粗方燃やしたから真珠湾は港湾としての機能を数年は発揮出来ない。そうなると米海軍は別の場所に太平洋で活動する為の拠点を求める。それがオーストラリアだったというわけだ」

 

「なるほど、では我々が来る来ないの関わらず米海軍はこちらに機動部隊などの艦隊を送り込んできていたということですか」

 

「そうだろうな。いずれにせよ空母同士の大きな戦いは起きるのは必定だろう」

 

「どのタイミングで起きるでしょうか?」

 

「こちらがモレスビーの攻略に動いた瞬間に、だろう。モレスビーを失えば豪州への脅威がより直接的なものになる。何が何でも阻止したい筈だ。となれば輸送船団を伴って動いた瞬間に迎え撃って来る筈だ」

 

アメリカはオーストラリアの離脱だけは何が何でも阻止したい筈だし、そうなればあらゆる手段を使ってくる。

なけなしの空母だろうが、虎の子の戦艦だろうが幾らでも送り込んでくるだろうし、地上兵力だって多数送り込んでオーストラリア本土の防備を固める筈だ。となれば珊瑚海で米機動部隊との対決は避けられない。

 

「米空母は何処を根城に?」

 

「予想としては、ニューギニアに最も近いある程度整った港湾施設があるケアンズか、安全策を取って我々の攻撃圏外にあるブリスベン、或いはより遠くのニューカレドニアだろう。ブリスベンかニューカレドニアを拠点にしているのであれば流石に距離があるから潜水艦での索敵も難しいな」

 

「ですな。それに五航戦の潜水艦は既にモレスビーへ物資を運ぶ輸送船への通商破壊作戦に従事しているようですからな」

 

「楽に勝つならば兵糧攻めが最も有効だ。既に戦果は出ている」

 

五航戦指揮下の潜水艦にはモレスビーへ物資を運ぶ敵輸送船への攻撃、所謂通商破壊作戦を命じてある。

早い話が兵糧攻めをして、弱ったところに上陸してやろうという算段である。五月上旬に予定されているモレスビー攻略作戦開始まで二か月だが、どれだけの効果が出るかは分からないが、少なくともやった方が良いだろう。

 

「ラバウルから陸攻隊が定期的に爆撃も加えておりますが、どれほどの効果が出ているかは未知数です。何せ数が少ないものですから」

 

「それは仕方が無かろう。毎回の出撃で精々九機、全力出撃でも十二機が爆撃を加えるに留まるのだから大した効果が出なくても致し方あるまい」

 

一式陸攻は最大でも一トン程度の爆装しか出来ない。

対地攻撃ならば二十五番(二五〇kg爆弾)四発か、六番(六〇kg爆弾)十二発となるだろうが、一回の爆撃で最大十二トン程度の爆弾投下量になる。

これでは敵飛行場へ与えられる損害などたかが知れている。米軍やその支援を受けた豪軍は次の日には完全復旧させられる。

 

 

本来ならある程度戦力が集まるまで爆撃はやらない方が良い。

だがモレスビー攻略作戦が五月上旬を予定している為、二ヶ月しか期間が無いのだ。悠長に戦力が揃うのを待っている余裕は無い。

一応戦闘機隊も陸攻隊も四月までに四〇機づつほどにまで増強される予定だが……。

 

「通信量と偵察の結果を踏まえると、どうやら敵は空母四隻を派遣してきているのは間違いないようです。それに加えて軽空母が二~三隻ほど」

 

「となると、敵の正規空母はヨークタウン、ホーネット、ワスプ、サラトガということになるな。軽空母の方は、多分ロング・アイランドとチャージャーだろう」

 

「何故分かるのですか?」

 

不思議そうな顔で聞いてくるが、アメリカのラジオや通信を傍受していれば割と分かる話である。

 

「米国のニュースでエンタープライズ、レキシントンが撃沈されたという情報を得ている。米海軍が有する空母は先の四隻に加えてレンジャーのみだ」

 

「ですが、何故レンジャーは含まれていないと?」

 

「アメリカはドイツとの戦いもあるから大西洋に配備する空母を0にするわけには行かない。だから一隻は大西洋に空母を配備する必要がある。その点レンジャーは他の空母に比べて防御性能に劣る。空母の数で圧倒的に劣勢な太平洋に投入出来んだろうから大西洋に配備するしかないのだ」

「軽空母の方はそもそも元から米海軍が有するのはロング・アイランドとチャージャーの二隻だけ。建造していると言っても我々のモレスビー作戦には間に合わんだろうから、こう考えれば自ずとどの空母が今回の戦いにおいて我々の敵となるのかが分かる」

 

「なるほど。では数の上としては六対六、同数同士での戦いということですな。実際は正規空母の数で劣っておりますがまぁ、やりようはあるでしょう」

 

「あとは艦載機数だ。こっちは六隻全部合わせて三七四機。米空母は艦載機数に優れているから最低でも同数。もしかすると二〇~三〇機はこちらが不利となるかもしれん」

 

「そこまで差があるわけでは無さそうですな」

 

「問題は敵が露天繋止を使って機数を増やしてきた場合だ。正規空母二〇機ずつで考えると八〇機は増える。空母一隻分の戦力差は見過ごせん」

 

「どうされますか?本土に空母を一隻回して貰いますか?」

 

「それも一つの手だな。海軍の作戦の主軸は南方やニューギニア方面を主とすることが決まっているから、派遣してもらえるだろう。だが……」

 

「本土にはそのような空母は一隻もありませんからな。一航戦、二航戦はインド洋の方で作戦準備中ですし。あると言えば低速で機動部隊の作戦に追従出来ない、練習空母の鳳翔だけです」

 

「そうだ。ということは現時点で我々は現有戦力だけで敵艦隊を排除せねばならないということだ」

 

現在、一航戦と二航戦はインド洋方面での作戦準備中だ。

これに加えて龍驤率いる三航戦が参加して五隻の空母と、そこに護衛として比叡、霧島が加わっている。

 

インド洋作戦の目的はドイツ海軍との連絡線確保や南方方面の安定化など、幾つか理由がある。

私としては無理してやる必要は無いと考えていたのだが、軍令部は乗り気でやる気らしい。それならば南太平洋に戦力を集中させて残る米海軍を一気に殲滅してしまった方が良いと思うのだが……。

正直英海軍のインド洋、太平洋側の戦力はかなり薄いから一個航空戦隊を派遣しておけば十分だと思う。

戦艦が主力で空母は一隻、それも軽空母だ。わざわざ主力航空戦隊を二つも投入するほどでは無かろう。

 

「まず我々の基本方針としてはともかく敵の兵站線を叩くことに注力しつつモレスビーの敵兵力を干上がらせることに注力する。敵飛行場の稼働はラバウルからの爆撃で作戦前に封じてしまえば我々は敵艦隊との戦いに集中出来る」

 

「であれば、潜水艦の増強を要求するべきでは?」

 

「それも手だが、間に合うかどうかが分からない。ともかく十六隻を任務に充てつつ、そうだな……。瑞鳳と祥鳳か、それか編成されたばかりで練度に不安がある四航戦を輸送船狩りに投入しても良いかもしれんな」

 

「空母を、通商破壊にですか?」

 

「搭乗員にとって、特に配属されたばかりの若年搭乗員にとっては丁度良い実戦経験にもなるし敵の補給も断てる。一石二鳥だ」

 

若年搭乗員は飛行時間はなかなかだが何より実戦経験が無い。

そこをカバーしつつ、補給も断てると来ればやらないわけには行かない。

 

「しかし艦隊まるごととなると流石に燃料が厳しいのでは?」

 

「なに、四航戦と言っても全戦力を投入するわけではない。空母と護衛の為の駆逐艦八隻、ついでに指揮通信のために重巡一隻ぐらいでよかろう。戦艦まで投入するほどではあるまい」

 

「確かにそれぐらいなら燃料消費も少なくて済みますな。では四航戦で通商破壊、と行きますか?」

 

「そうだな。戦力は隼鷹、飛鷹、祥鳳の三隻に駆逐艦八隻、重巡一隻としよう。ついでにタンカーを二隻補給に添えれば長期の行動も可能だ。角田少将が希望するなら六一駆を貸すことも出来るが」

 

「そうですな……、では有難くお借りします。しかしラバウルに敵機が来た場合はどうされるので?直掩の六一駆が抜けたら五航戦が無防備になってしまうのでは?」

 

「なに、戦艦四隻に重巡三隻、軽巡五隻の対空火力がある。心配するな」

 

「分かりました。敵の空母が出てきたらどうしましょう?叩きますか?」

 

「この戦力だけでやり合うのは不利過ぎるから後退してくれ。索敵しつつ敵空母が海域に留まるなら五航戦と合流後にこれを叩く」

 

「分かりました。では我々は敵輸送船と敵潜水艦にだけ注力しておけばいい、そう言う事ですな」

 

角田少将に対して頷いて返す。

彼の気質的に戦いに出ている方が性に合うから、実戦とあって嬉しいのだろう、にんまりと笑っていた。

 

敵輸送船は一〇~十五隻ほど船団を組んで、これに駆逐艦三~四隻程度を護衛戦力として付けている。空母三隻による航空攻撃での船団攻撃は寧ろ過剰なレベルだが、空母一隻だけで行動させると真珠湾の時の米空母のように数隻の敵空母にタコ殴りにされる可能性がある。

だからいっそのこと四航戦の三空母を纏めて通商破壊に投入して、実戦経験を積んでもらおうというわけである。

 

 

会議の三日後、隼鷹、飛鷹、祥鳳は重巡一隻、駆逐艦八隻を伴い出撃。

四月までの間に二十七隻の敵輸送船を撃沈する大戦果を上げることになる。

 

 

 

 

 

 

「通商破壊作戦は大成功、だな」

 

「はい。四航戦と潜水艦を合わせて五十三隻の撃沈戦果となります。更に輸送機を八〇機以上撃墜。取り逃した輸送船や輸送機もありますがモレスビーに打撃を与えられたのは間違いないでしょう」

 

「我が方の損害は艦攻二機、艦爆三機の廃棄に留まります。間違いなく大戦果でしょう」

 

四航戦が挙げた戦果は大きく、我々は沸き立っていた。

四月中は敵も輸送船を用いてモレスビーへの補給を試みていたが、流石に損害が拡大し過ぎたと判断したのか、五月に入ってからはめっきり輸送船の姿を見なくなった。

代わりに豪州から輸送機を用いて補給を試みていたようで、敵輸送機であるダグラス社製、C-47スカイトレインやB-17の輸送機仕様と思われる敵機の撃墜数が八〇機を超えている。

 

「ラバウルの航空隊も零戦五十七機、陸攻四十六機にまで増強されました。翌週のMO作戦開始時に大規模な爆撃をモレスビーに対して行う予定です」

 

「陸攻隊による爆撃でモレスビーの飛行場を使用不能とし、我々は敵艦隊との戦いに注力出来ます」

 

参謀が地図を広げ、指揮棒で指しながら作戦概略を説明する。

 

「我々はモレスビーへの上陸作戦を展開する陸軍三個師団を乗せた輸送船団二十二隻を護衛しながらラバウルを出撃します。護衛には第四艦隊から軽巡二隻、駆逐艦七隻、水上機母艦一隻が派遣されておりますので我々から護衛戦力を割く必要はあまり無いでしょう」

 

「問題は敵空母がどう出て来るか、です。モレスビー上陸を阻止する為に出張って来るのは間違いありませんが、どこで我々を迎え撃つかです。ソロモン海でなのか、或いはルイジアード諸島を越え、珊瑚海に入ってからなのか」

 

「恐らく珊瑚海だろう。ソロモン海は我々が索敵、哨戒の網を張っているから必ずばれる。我々の索敵網が薄い珊瑚海で待ち伏せる筈だ」

 

「敵は必ず我々との戦いを挑んでくる。隼鷹と飛鷹は実際のところは置いておいても、ぱっと見だと主力空母に見える。敵には主力空母四隻が揃っているように見える筈だ。ならば我々のどちらかだけでも撃破さえ出来れば三ヶ月は戦線から離れざるを得ない。そうすれば今よりはマシな戦いになるからな」

 

米海軍は既に軽空母の大量建造を進めている。

クリーブランド級軽巡の艦体を流用したインディペンデンス級航空母艦だが、元が軽巡なだけあって速力は申し分無く、搭載機数も三〇〜四〇機は確保出来る。

流石にこれだけで空母同士の戦いは出来ないが、正規空母と組み合わせれば強力な手札になる。

 

我々の空母がどの程度の損傷を負うかにもよるが中破でも三ヶ月、魚雷を食らって大破すれば半年はドックから出れない。

空母戦力の逆転は難しいが、数の差を埋める事が出来るので米海軍からすればモレスビー防衛、豪州防衛を合わせて考えれば何がなんでも、だろう。

 

もしかすると数的劣性を無くす為に訓練途上のエセックス級航空母艦やインディペンデンス級を戦線に出してくるかもしれないな。

一応山本さんや南雲さん達に警戒するように言っておくか。

 

 

 

 

 

 

五月八日、我々は輸送船団を伴いラバウル湾を出航。

空母六隻、戦艦四隻から成る機動部隊はポートモレスビーを目指した。

 

五月十日。

ルイジアード諸島に差し掛かった辺りで翔鶴、瑞鶴、隼鷹、飛鷹より八機づつ三十二機の艦攻を索敵に出す。

 

「ラバウルからの九七式飛行艇より緊急電!我敵艦隊発見す!空母三、巡洋艦三、駆逐艦八を含む有力なる艦隊なり。以上です!」

 

「敵は空母を三隻づつに分けたようですな」

 

「となれば近くにもう一群、敵空母を含む艦隊がいる筈だ。我が艦隊からの索敵機は?」

 

「まだ折り返し地点に差し掛かっておりませんから、もう暫く待つ必要があるかと」

 

「よろしい。ならば先に発見した敵艦隊に対して攻撃を仕掛ける。何分で準備出来る?」

 

「三〇分頂ければ戦闘機隊は上げられます」

 

「では翔鶴、瑞鶴、隼鷹、飛鷹より零戦のみを制空隊として出撃させる。その後に第一波攻撃隊を出す」

 

攻撃隊の編成は以下の通り。

 

制空隊

翔鶴

零戦 十六機

 

瑞鶴

零戦 十六機

 

隼鷹

零戦 十二機

 

飛鷹

零戦 十二機

 

計五十六機

 

 

 

第一波攻撃隊

翔鶴

零戦八機 艦攻八機 艦爆十六機

 

瑞鶴

零戦八機 艦攻八機 艦爆十六機

 

隼鷹

零戦四機 艦攻八機 艦爆八機

 

飛鷹

零戦四機 艦攻八機 艦爆八機

 

零戦二〇機 艦攻三十二機 艦爆五十二機

計九十三機

 

 

第二波攻撃隊

翔鶴

零戦八機 艦攻十二機 艦爆六機

 

瑞鶴

零戦八機 艦攻十二機 艦爆六機

 

隼鷹

零戦四機 艦攻十二機 艦爆七機

 

飛鷹

零戦四機 艦攻十二機 艦爆七機

 

零戦二〇機 四十八機 艦爆二十六機

計九十四機

 

 

艦隊直掩戦闘機隊

瑞鳳 

零戦 二十八機

 

祥鳳

零戦 二十八機

 

計五十六機

 

 

合計百八十七機の攻撃隊となる。

瑞鳳と祥鳳の戦闘機隊は全て艦隊直掩に回し、他四空母の零戦は全て制空隊と攻撃隊の護衛とした。

やはり軽空母一隻分の戦闘機があるだけでやりくりがかなり楽になるな。

 

一航戦と二航戦にも近々軽空母が配備されるとかなんとか聞いているが、多分千歳、千代田の事だろうか。

あの二隻なら三〇ノット近い速力を発揮出来るから、一航戦と二航戦に配備されるのも納得出来る。

他にあるとしたら、つい一ヶ月ほど前に建造が始まった最上型重巡の艦体を流用した軽空母ぐらいしか思い付かない。

 

この軽空母は暫定的に伊吹型と呼ばれるものだ。

元々主力正規空母だけでなく軽空母の整備計画もあったが、一から設計するだけの余裕は無かった為、高雄型重巡か最上型重巡の艦体設計をそのまま流用して軽空母にする計画となった。

全長で見れば高雄型の方が二〇三.七六mと最上型より長く搭載機数的に有利に働くとされたが些か設計が古いのと、新型艦載機が1943年中に実用化出来る事から最上型の設計を流用することになった。

 

重巡では無いから砲撃戦に耐え得る装甲は廃して良く、基本的には水雷防御を念頭に装甲部を再設計したものだ。

速力は三十三ノット、航続距離は十八ノットで約五〇七五海里(九四〇〇km)となる。

島型艦橋と煙突が一体化した艦橋を持ち、搭載機数は四〇〜四十四機を予定している。

 

新型艦載機は戦闘機、艦爆、艦攻の三機種に加えて高速艦上偵察機を入れた四機種となる。

どれも速度性能向上と防弾性能の向上が成され、全機種に本格的な折り畳み翼を装備するので軽空母でも四〇機ほどは搭載出来ると、艦載機数を稼げる事になったのだ。

なので新しい方の設計を使おう、となったわけである。

 

建造数は四隻を予定しており既に一番艦と二番艦が起工済み。1943年中頃を目処に完成を予定している。

三番艦と四番艦は今年の九月に建造開始、1943年九月から十月にかけて就役となる予定となる。

 

これら空母の量産に伴い大和型戦艦の三、四番艦は建造中止。集められていた資材は空母建造に回される。

 

 

 

出撃した制空隊から三〇分遅れて敵索敵機に我が艦隊は発見される。

 

「敵攻撃隊が来ますな」

 

「全艦第一種戦闘配置。対空戦闘用意」

 

制空隊は一時間ほどで敵機の迎撃を受けた。

数は四〇機ほどらしいが、全て戦闘機の味方が優勢らしい。その三〇分ほど後に第一波攻撃隊が敵艦隊発見、ト連送を打った。

 

 

 

二十分に渡る攻撃で空母三隻に爆弾と魚雷を命中させたとのことだが、軽空母は撃沈、正規空母は撃沈には至らないだろうと言っている。

最初に攻撃を加えた敵艦隊の西二十五kmに、もう一つの敵艦隊を発見しているから、確実にトドメを刺すか、或いはこちらに攻撃を加えるか。

 

「電探に感あり!距離一五〇km、方位二四〇!高度二五〇〇〜三〇〇〇m!数はおよそ一〇〇機!」

 

「瑞鳳、祥鳳に零戦全機を迎撃に上げるように打電。艦隊、対空戦闘用意」

 

「了解。艦隊、対空戦闘用意!」

 

瑞鳳と祥鳳から零戦が次々に飛び立っていく。

ものの一〇分もしない内に全ての零戦が迎撃に上がる。

 

方や艦隊は敵機方向に向けて機銃や対空砲を指向する。

弾薬や砲弾が集積され、戦艦四隻、重巡四隻、乙型駆逐艦四隻は空母の周りをがっちり固める。

一機も通さぬ、という気概が感じられた。

 

三〇分ほど、零戦からの手荒い歓迎を受けた敵機はかなり数を減らしながらも三〇機ほどが攻撃を開始。

 

「敵は急降下爆撃機と雷撃機の二手に分かれる!」

 

「ドーントレス十三、デヴァステーター十六!我が翔鶴に向かう!」

 

「高角砲は敵急降下爆撃機を、機銃群は敵雷撃機を狙え」

 

「はっ」

 

見張り員が次々と敵機の動きを知らせてくる。

敵機に対して凄まじい対空砲火が撃ち込まれ、何機かのドーントレスやデヴァステーターが落ちていく。

しかし全てを落とせるわけではない。

 

「ドーントレス九機が我が翔鶴に急降下!」

 

「まだだ、本命は雷撃機!それさえ避ければ致命症にはならん!」

 

艦長である城島大佐が吠える。

実際飛行甲板の修理は簡単だが、被雷の損傷は修理するのに手間が掛かるし、何より爆弾より魚雷を食らってしまうと撃沈される可能性が高くなる。

 

「左舷より雷撃機十三機接近!」

 

「面舵一杯!」

 

舵を切る。

しかし全備排水量三万トンを超える巨艦は舵の効き始めが遅いのだ。

ゆっくり、ようやく舵が効き始めると翔鶴は右へ大回頭を始める。艦が右に傾くぐらいの急旋回だ。

 

その間に更に四機の敵機が機銃弾を多数受けて海面に突っ込んだ。

 

「敵機魚雷投下!数九!」

 

「面舵一杯そのまま!巻き込んで躱す!」

 

艦の指揮は艦長たる彼が担う。

 

「敵魚雷右舷通過!外れました!」

 

この時、一番右側の魚雷はかなり紙一重での回避だったらしく、右舷艦後部の機銃スポンソンの皆は足元を魚雷が通過するのを見て生きた心地がしなかったと言う。

 

「敵急降下爆撃機、二機突っ込んでくる!」

 

「舵そのまま!」

 

「敵機投弾!」

 

「間に合わん!総員衝撃に備え!」

 

その声のすぐ後。

翔鶴を大きな衝撃が襲った。

 

 

 

 

 

「火は既に消し止めました。飛行甲板中央に被弾しましたが、損傷は軽微です。穴さえ塞げばすぐにでも艦載機の運用が可能です」

 

「分かった。ひとまず攻撃隊は瑞鶴、隼鷹、飛鷹で収容。敵第二群に対する攻撃隊を準備せよ」

 

「はっ」

 

我々は最初に発見した敵空母に対して完璧に近い先制攻撃を与えたが、敵第二群からの攻撃を食らったわけである。

攻撃隊の損害は艦攻十一機、艦爆九機の損失。

 

搭乗員は潜水艦や水上機母艦からの救助を待っているようなのですぐに潜水艦と水上機を差し向ける。

機体を失っても搭乗員さえ生きていれば良い。

 

「翔鶴の飛行甲板の穴はどれぐらいで塞げる?」

 

「一時間頂ければ」

 

「攻撃隊の帰投にはやはり間に合わんな」

 

「申し訳ありません」

 

「あぁ、いや責めている訳ではない。別に空母三隻でも十分にやりようはあるし、戦いだから傷も付く。ともかく敵第二群を叩く。敵第一群は少なくとも戦闘行動は出来ないだろうから、船団を守る目的さえ果たせれば今はそれでいい」

 

「はっ。では攻撃隊を収容後、再出撃可能な機を選び、攻撃隊を編成します」

 

「頼む」

 

「攻撃隊の損害が集計されました」

 

「聞かせてくれ」

 

「零戦十四機、艦攻十七機、艦爆十一機を喪失。計四十二機となりました。他にも被弾損傷している機体が二〇機ほどです。撃墜戦果はF4F四十七機となります」

 

「損害が多いですね」

 

「いや、まだ少ないだろう。最初に制空隊を突っ込ませて敵戦闘機の脅威を排除出来ていたからこれぐらいで済んだ。出来なかったら、もっと増えていただろう」

 

「搭乗員は?」

 

「不時着、脱出をした者が多数居るようで、攻撃隊から救助要請が多数来ております」

 

「分かった。潜水艦隊と神川丸に捜索救助を命令。神川丸の護衛に十五駆を付ける」

 

「はっ」

 

撃墜された機は四十二機にもなるが、搭乗員が無事ならば問題は無い。

八十七名の搭乗員が撃墜された機体に乗っていたが、全員を一挙に失うのは余りにも痛手過ぎる。半分でも救助出来れば……。

 

その後、潜水艦隊と神川丸、十五駆は搭乗員救助に従事し、四十三名の搭乗員を救助した。四十四名が戦死となった。

敵第一群は空母を潰された時点で既に撤退していたらしく捜索救助中に敵からの妨害は無かった。

 

 

 

 

「第三波攻撃隊の準備が整いました」

 

「よろしい。攻撃隊発艦準備」

 

「はっ」

 

攻撃隊収容から二時間後、再出撃可能な機と修理を施した機を選び攻撃隊を敵第二群に向けて放った。

制空隊は六〇機とし、迎撃に上がってきた敵戦闘機を抑える。

 

第三波攻撃隊

翔鶴

零戦八機 艦攻八機 艦爆十三機

 

瑞鶴

零戦八機 艦攻七機 艦爆十二機

 

隼鷹

零戦四機 艦攻四機 艦爆八機

 

飛鷹

零戦四機 艦攻四機 艦爆八機

 

零戦十六機 艦攻二〇機 艦爆二十九機

計八十一機

 

 

第四波攻撃隊

翔鶴

零戦四機 艦攻八機 艦爆六機

 

瑞鶴

零戦四機 艦攻八機 艦爆六機

 

隼鷹

零戦四機 艦攻一〇機 艦爆六機

 

飛鷹

零戦四機 艦攻九機 艦爆七機

 

零戦十六機 艦攻三十五機 艦爆二十五機

計七十六機

 

 

艦隊直掩機

零戦五〇機

 

 

 

攻撃隊は一時間半の道のりの後に敵艦隊に到達、攻撃を開始した。

敵戦闘機は制空隊に阻まれ役割を果たせなかったようで、敵戦闘機によって墜とされた機は居なかった。

 

第三波、第四波攻撃隊はそれぞれ十五分ほどの間に攻撃を終わらせ、見事に敵空母一隻、軽空母一隻を撃沈。

残る一隻にも中破、或いは大破の損害を与えた。

 

入れ違いになるように、敵第二群が放った攻撃隊が五〇機ほど来たが、直掩隊に阻まれ遁走。

ただ、上手くすり抜けた艦爆が三機、翔鶴に急降下爆撃を仕掛け見事に一発が命中。

これで翔鶴は一時的に戦線離脱、日本本土での入渠を余儀なくされた。

 

我々の第三波、第四波攻撃隊の損害は零戦九機、艦攻八機、艦爆十一機の損失。

二十七名の搭乗員を救助し、二十八名が戦死。

 

全体の損失としては廃棄と判断された機体も含めて八十一機となり、搭乗員七十二名を損失。

翔鶴が中破。

 

対して戦果は空母一隻、軽空母二隻を撃沈。空母三隻撃破となった。

損害から見れば海戦に於いての勝者は間違いなく我々五航戦と四航戦に間違いなく、大勝利と言っても間違いはない。

 

救助された搭乗員はラバウルへ送られ、治療が必要な者と艦攻、艦爆の搭乗員は本土へ、戦闘機隊はラバウルで機体を受領し作戦終了までラバウルで待機となった。

言わば束の間の休息、というやつである。

 

これで敵艦隊の脅威は無事に排除され、輸送船団はモレスビーへ舵を切った。

 

 

 

モレスビー攻略は海戦の翌日に取り掛かる事となった。

我々は先んじて前進し、艦載機と艦砲を用いて沿岸部や飛行場周辺に設けられた敵防御陣地やトーチカを潰して回る。機銃掃射も加え、敵地上兵力に打撃を与え続ける。

基本は艦載機による攻撃に任せ、心理的圧力を与える為に41cm砲弾や35.6cm砲弾を時折叩き込む。

 

陸軍部隊の上陸は砲撃と爆撃が始まって二日後となった。

丸二日間に渡る砲爆撃で、航空偵察で事前に分かっていた分のトーチカや防御陣地は粗方吹き飛ばしてある。

飛行場にも何発かの砲撃と、二〇発ほどの爆弾を放り込んでおいたし、修理しようとすれば上空をぐるぐると飛び回る零戦や艦爆、艦攻に攻撃されるので修理されて稼働する心配も無い。

 

「上陸前に、艦砲射撃を行ってほしいと陸軍から連絡が来ております」

 

「良いだろう。ただ、敵艦隊の夜襲が懸念されるから撃ち過ぎるな」

 

「はっ。では戦艦と重巡を支援に出します」

 

空母を叩いて敵艦隊がエアカバーを失ったとは言っても夜間は別だ。

夜間であれば水上打撃部隊を編制して殴り込みを仕掛けてくることだって可能だ。無理を承知で、モレスビー攻略を阻止することだけを頭に入れれば、重巡、軽巡、駆逐艦を主体とした艦隊を編成してこちらに向かって、帰り道の分の燃料も一切考慮せずに殴り込みを仕掛けてくれば、こちらの輸送船団を壊滅させることも出来るかもしれない。

勝ったらタンカーを送り込んで燃料補給をすればいいだけなのだから。

 

合理的な米軍がそこまでの策を採って来るとは思えないが、追い込まれた人間が何をするかは分からない。

 

「夜間は沖合で敵の夜襲に備える。敵が起死回生の逆転を狙って巡洋艦を主力とした夜襲部隊で仕掛けて来る可能性が無くは無いからな」

 

「承知しました。ですが戦艦は出てこないと?」

 

「あぁ。十中八九出てこない。出て来るなら最初の海戦で敵艦隊にその姿が確認されているからな。それに米戦艦は真珠湾で軒並み沈んだし、新型戦艦もまだ実戦投入出来る段階では無かろう」

 

空母に随伴可能な二十七ノット越えの速力を持つ戦艦はノースカロライナ級が二隻だけ。サウスダコタ級はまだこの時期は訓練中だか入渠中だったはずだ。

しかし姿が確認されていない事に加え、情報分析でも少なくともこの二隻は南太平洋方面、現在我々が警戒するソロモン海と珊瑚海方面には姿を現していない。

 

と言う事は、可能性としてあるのは、順当に戦艦はいないか、敵が徹底的に情報を隠匿し存在を我々に悟らせないようにしているかの二択だ。

 

いないならいないで良い。居るならばそれはそれでこちらの情報収集能力が敵の防諜能力に劣るということの証左であることが分かるし、仕掛けて来るならこちらは長門、陸奥、金剛、榛名の四隻で二対一の状況で戦えばいい。それに四航戦はまだしも、五航戦は危険を承知で夜間雷撃をやれる者が少数ながら存在する。

なので来るなら来い、というスタンスである。

 

 

 

 

 

結局、敵艦隊は来なかった。恐らく戦力の温存を図ったのだろう。

これ以上損害を食らうのを嫌ったのだろう。ただでさえ空母三隻を失っているのに、夜戦で戦艦二隻を失ったとなればそれこそ米海軍は凄まじい痛手を被ることになる。

 

モレスビー攻略は無事に終わり、五航戦と四航戦は飛行場が修理され稼働状態になるまでの二週間を近海で過ごし、飛行場に零戦四〇機が進出したのを見届けてラバウルで物資を一度補給した後、本格的な修理と整備、補給や補充を受ける為に本土へ戻った。

本土到着後、翔鶴はすぐさま入渠し一ヶ月で修理を完了させると戦線復帰することになる。

 

 

 

 

 

「帰還早々に呼び出してすまんな」

 

「いえ、そういう時勢ですから。それで、用件と言うのは?」

 

「ミッドウェー島攻略作戦について話を聞きたい」

 

「なるほど」

 

「で、早速で悪いが、ミッドウェー、どう思う?」

 

長官は椅子に深く腰掛けながら聞く。

一度、氷を入れて冷えた水をぐっ、と飲んでから話す。

 

「そもそも、ミッドウェー島攻略の目的はなんでしょうか?」

 

「ハワイ攻略の為の足掛かりだ。君も知っているだろう」

 

「勿論知っております。ですが良くお考え下さい。今のハワイに攻略するほどの価値はありますか?」

 

「攻略するだけの価値?」

 

「はい。今現在のハワイは我々の手で徹底的に破壊されました。多数の艦艇が攻撃によって湾内に沈んでいるか座礁しており、それの解体と湾内に大量に流出した重油の除去を行わねばなりません。戦略上重要拠点として再び活用するには、それらの作業を全て終えて、そこから燃料タンクや飛行場の修復、港湾設備の修理や復旧となります。ですが偵察の結果、真珠湾の復旧作業は遅々として進んでいないことが判明しています」

 

「うむ」

 

「そんな状態のハワイを獲って、我々になんの益があるのでしょう?」

 

「む……」

 

「あのアメリカですら復旧するのにこれだけ手古摺る、下手をすれば数年もの間使えない状態になるものを、我々が手に入れても使えるようにするのに一〇年単位の年月を必要とします。活用するどころか補給などを考えると凄まじい重荷にしかなりません。そんなハワイを攻略する為に、ミッドウェーを獲る必要がありますでしょうか?」

 

「むむむむむ……」

 

山本長官は腕を組んで目を瞑って唸る。

長官の対米戦観はハワイを占領してそこを拠点にアメリカ西海岸に圧力を加えて早期講和に至る、というものだ。だが現状のハワイの価値ではそれはどうやったって成し得ないのである。

となれば獲ったところで米国は痛手にすらならず、寧ろ我々に多大な労力と負担を強いることが出来る。

多分、こちらの動きを察知して民間人、地上兵力を根こそぎ避難させて、持って行けないものは全部爆破なり燃やすなりして我々が活用出来ないようにする。

それどころか港湾設備やら飛行場やらにも爆弾爆薬を仕掛けて吹き飛ばして破壊して行くだろう。

 

そんな場所を占領しても意味は無いのだ。

 

「確かに君の言う通りだ。だが、ではどうやって戦争を終わらせるというのだね?」

 

「何も方法は一つではありません。現状の目標を新たに設定しましょう」

 

「新たな目標?なんだね、それは」

 

「敵を減らすことです」

 

「敵を減らす?」

 

そうして説明をすることになった。

 

 

 

 

「そりゃぁ、君、それが出来れば敵は減るだろうが……」

 

「現状の日本は四方八方に敵を抱えて、しかもその内の七方向ぐらいとは全部戦争中という状況にあります。その内の一つでも減らすことが出来れば、対米戦に割く余力が出来て西海岸に進出することだって可能になるでしょう」

 

「そうすれば講和、というわけか」

 

「はい。米国の主敵はドイツです。我々との戦争を長引かせるよりもさっさと終わらせて対独戦に注力したい、という考えを持たせることが出来れば勝ちです。そうすれば講和のテーブルに着くでしょう」

 

「……分かった。確かにミッドウェーやハワイを獲ったところで意味は無い。君の考えを元に戦略と作戦を練ろう」

 

こうして今後の事が決定されたのである。

 

 

 

 






第四航空戦隊

空母
隼鷹
零戦二〇機 艦攻二〇機 艦爆十五機

飛鷹
零戦二〇機 艦攻二〇機 艦爆十五機

祥鳳
零戦二十八機

戦艦
長門 陸奥

重巡
愛宕 高雄

軽巡
長良 阿武隈

駆逐艦
十六隻


第四航空戦隊支援隊
水上機母艦 瑞穂
タンカー 四隻
輸送船 四隻
駆逐艦 六隻





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