ニューカレドニア島攻略作戦が成功に終わって五航戦、四航戦、三航戦は本土で休養を取りつつ補充と補給を済ませていた。
一航戦と二航戦はラバウルに錨を降ろし、南太平洋への睨みを利かせている。
1943年七月。
建造が進められていた翔鶴型航空母艦三番艦『慶鶴』、四番艦『紅鶴』、五番艦『白鶴』と大鳳型航空母艦の一番艦『大鳳』と二番艦『龍鳳』が就役して習熟訓練に入った。
訓練は日本本土近海に加えて、燃料が豊富なブルネイ沖での訓練を実施している。
それぞれ翔鶴型三隻と大鳳型二隻で戦隊を組んでいる。
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第六航空戦隊
空母
『慶鶴』 艦載機数九十二機
烈風四〇機 天山二十八機 彗星二十四機 彩雲四機
『紅鶴』 艦載機数九十二機
烈風四〇機 天山二十八機 彗星二十四機 彩雲四機
『白鶴』 艦載機数九十二機
烈風四〇機 天山二十八機 彗星二十四機 彩雲四機
烈風一二〇機 天山八十四機 彗星七十二機 彩雲十二機
計二八八機
戦艦
扶桑 山城
重巡
妙高 那智
軽巡
阿賀野 酒匂
駆逐艦
秋月型防空駆逐艦四隻
駆逐艦十六隻
第六航空戦隊支援隊
特設水上機母艦 宏川丸
タンカー五隻
輸送船四隻
駆逐艦四隻
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第七航空戦隊
空母
『大鳳』 艦載機数六十四機
烈風四〇機 天山十二機 彗星十二機 彩雲四機
『龍鳳』 艦載機数六十四機
烈風四〇機 天山十二機 彗星十二機 彩雲四機
『千代田』 艦載機数四十四機
烈風二〇機 天山十二機 彗星十二機 彩雲四機
『千歳』 艦載機数四十四機
烈風二〇機 天山十二機 彗星十二機 彩雲四機
烈風一二〇機 天山四十八機 彗星四十八機 彩雲十六機
計二三二機
戦艦
大和 武蔵
重巡
足柄 羽黒
軽巡
矢矧 能代
駆逐艦
秋月型防空駆逐艦 四隻
駆逐艦 二〇隻
第七航空戦隊支援隊
特設水上機母艦 相良丸
タンカー五隻
輸送船四隻
駆逐艦四隻
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六航戦には扶桑と山城の二隻が配備されている。
二隻は開戦後から一年ほど、速力向上と三番、四番主砲塔を撤去してそのスペースに対空兵装搭載、対空対水上電探装備、電探と連動可能な射撃指揮装置の装備、新型測距儀装備、対五〇〇kg爆弾防御力獲得、水雷防御向上、対潜索敵能力向上を目的とした大改装を行った。
この大改装は艦橋など全ての上部構造物と甲板を丸々剥がして新しい機関に入れ替えるもので、『第三次近代化改装』と呼ばれる。
速力に関してはこれにより最高速力は二十七ノットにまで向上し、高速戦艦とまではならないものの、空母に護衛として随伴しての作戦行動が取れるようになった。
防御力は、それまで対五〇〇kg爆弾防御力に不安があったが、十分な防御力を獲得するに至った。耐水雷防御に関しても多層装甲バルジの装備などによって大幅に強化されている。
付随して指揮通信能力も大幅に向上している。
外見上で大きく変わったのは艦橋の形である。
今までは増築を重ねた為、特徴的な艦橋が扶桑、山城だったがこれを新しいものに置き換えたのである。がっしりした大和型戦艦の艦橋に似た物に変えられた。
対空兵装に関しては、
十二.七cm連装高角砲 両舷八基十六門
一〇cm連装高角砲 両舷六基十二門
対空砲だけで十四基、二十八門を装備する。
艦中央の三番、四番主砲塔を撤去し、この場所に対空砲を集中配備している。九四式高射装置も装備し、対空電探と連動して諸元を入力出来るようにされている。
四〇mm四連装高射機関砲は片舷四基、計八基が備えられ、連装砲架のものが艦首に二基搭載されている。
25mm機銃も三連装、単装を多数装備している。
電探や射撃指揮装置、測距儀も丸々最新のものに置き換えられている。
だからハード面に於いては扶桑、山城の二隻は海軍の中で最も優れている訳だ。大和や武蔵よりも良いものを使っている訳だからな。
装甲に関しても、水平装甲(甲板)を九五〇mmに増厚し、主砲天蓋に関しても九五〇mmへ増厚している。
これは五〇〇kg爆弾の急降下爆撃に十分耐えられるようにする為の措置だ。
対水雷防御に関しては多層装甲バルジの増設で対応している。
三〇ノットには到底及ばないが、以前の二十二ノットより遥かにマシだ。
空母は翔鶴型航空母艦なので特筆すべき点はあまり無い。
強いて言えば、最初から四〇mm四連装高射機関砲を装備していることや設計、内部構造が簡略化されて量産性に重きを置いた設計に手直しされているぐらいだろう。
一応、翔鶴型航空母艦は追加で六番艦、七番艦の計二隻の建造が予定されているが、建造開始が1943年末からなので完成し、訓練を終えて実戦配備されるのは1945年以降となるだろうから戦争に間に合うかどうかはかなり未知数だな。
他に大鳳型航空母艦三番艦の建造が計画されているが、こちらも建造開始は早くても1943年末、遅ければ1944年初めになる。
だからいずれにせよ戦力化となるのは1945年だな。
日本の資源事情や建造能力的に、どうしても五隻以上の大型艦艇を同時建造するのが難しいのだ。
先日まで翔鶴型航空母艦三隻、大鳳型航空母艦二隻、他にも軽空母や巡洋艦、駆逐艦を建造していた訳だから、これ以上はどうにもならないのである。
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七航戦は装甲空母二隻に加えてこちらも同時期に空母への改装が完了した千歳、千代田の二隻を入れて艦載機数を補っている。
この第七航空戦隊に大和と武蔵の二隻を配備した理由は、単純に大鳳と龍鳳が驚くほどに目立つからだ。
大鳳型航空母艦の全長は大和型戦艦より三mほど短い260mほどとなる。この全長は翔鶴型航空母艦よりも数m長いものだ。どれぐらいかと言うと今まで日本海軍の中で最も大きいとされていた赤城と同じぐらい大きい。
全長もさることながら全幅も大きく三十三.六mにも達する。これは赤城より二mほど長い数値になる。
それに加えて、通常空母の飛行甲板と言うのは日本海軍に於いて特に何も理由が無ければ木甲板、所謂木貼りのものになるが大鳳に関しては飛行甲板に五〇〇kg対艦徹甲爆弾の急降下爆撃にも耐えられるように重装甲を施してある。
その装甲甲板の上に耐熱性、対弾性と耐火性、耐破片性を備えたラテックス、所謂積層ゴム張りになる。飛行甲板の色は灰色だ。
他の空母が木甲板である中で、二隻だけ灰色の飛行甲板と言うのは物凄く目立つのである。
それに加えて護衛に付けられる戦艦が大和と武蔵しか都合が付かなかったというのもある。
金剛と榛名は五航戦、比叡と霧島は一航戦、長門と陸奥は四航戦、伊勢と日向は二航戦、扶桑と山城は六航戦と決まっており、これ以外の戦艦となると大和と武蔵しかいないのである。ということで連合艦隊旗艦の任を建造された、指揮通信能力に秀でた大淀型軽巡洋艦に譲り、大和と武蔵を前線に出すことになった。
大淀型軽巡洋艦は艦隊通信能力を向上させ統括する、いわば司令塔としての機能を持たせるために建造された軽巡であり一番艦『大淀』と二番艦『仁淀』が建造された。
連合艦隊旗艦として、大和や武蔵より適任と判断された。
それに我々には大和、武蔵と言えども遊ばせている戦力的余裕は無いのだ。
編成には千歳、千代田の二隻を加えられている。
理由は装甲空母故の搭載機数の少なさを補う為である。
大鳳型航空母艦は確かに装甲空母としての抗堪性能は高いが、分厚い装甲を施したことでどうしても艦載機数が少なくなってしまう。
元々の編成案としては、『千歳』『千代田』で一個航空戦隊を編成し、龍驤ともう一隻、軽空母を加えて編成し、『使い易い艦隊』にする予定があった。
しかし『大鳳』、『龍鳳』の艦載機数が少ないことを考えると、二隻だけで編成した場合一二八機にしかならない。この数は他の航空戦隊の半分にしかならない。
これではエセックス級一隻とどっこいどっこいにしかならないわけで、まともに戦えない。そこで千歳、千代田を入れて編成することになったのである。
四隻で二三〇機ちょっとの艦載機を有する事が出来、まともな戦闘力を有することが出来るのである。
建造計画中の大鳳型航空母艦をもう一隻加えれば艦載機数の点から見れば、五隻でようやく他航空戦隊に並ぶのである。
軽巡はこれとは別に阿賀野型軽巡が旧来の五五〇〇トン級軽巡の代替として建造されており現在六隻が就役中、二隻が建造中となる。
各艦隊に二隻づつの配備を目指しており、もう六隻の建造計画が進められている。
現在我々は正規空母十一隻、軽空母七隻、護衛空母六隻の計二十四隻の空母を有する。
建造中の伊吹型航空母艦五隻、計画中の翔鶴型航空母艦二隻、大鳳型航空母艦一隻の建造が計画されている。
こちらが空母を失わなければ最終的に1944年末から1945年に掛けて高速空母機動部隊を二十六隻有することが出来る。
編成としては、五航戦と六航戦に翔鶴型を一隻づつ、七航戦に大鳳型を一隻編入する。
伊吹型軽空母はまず一航戦と二航戦に一隻づつが配備される。
残る三隻は一隻が五航戦に、一隻が四航戦、一隻が三航戦にそれぞれ配備される。
こうすることで、一航戦三隻、二航戦三隻、三航戦二隻、四航戦四隻、五航戦五隻、六航戦四隻、七航戦五隻という空母配備となる。
翔鶴型を一航戦、二航戦に配備するという話もあったが、同型艦同士の方が何かとやり易かろう、と山本長官が配慮して下さったのである。
私としては別に無くても構わない、あるならあるで戦力が増えるから良し、というだけだった。
まぁ、そうなれば正規空母三隻に軽空母二隻を有する形になるから主戦力としてより一層働かされる事になるだろうな。
七個高速空母機動部隊を有するのは、事実上日本海軍だけになる。
米海軍ですらここまでの兵力を揃えるのには時間が掛かる。まぁ、我々が大敗を何処かで演じなければ、という大前提があるのだが。
護衛空母は主戦力計算に入れていない。
船団護衛が主任務の低速護衛空母を計算に入れてもしょうがないからな。
空母の建造は、現在翔鶴型航空母艦の六番艦、七番艦及び大鳳型航空母艦一隻の建造計画が進められ、他はそれを補う為の軽空母の建造となる。
所謂最上型重巡の船体を流用した軽空母だ。
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伊吹型航空母艦 同型艦五隻
搭載機五十二機
烈風四〇機 天山八機 彩雲四機
島型艦橋
艦載機用昇降機 二基
武装
一〇cm連装高角砲六基十二門
四〇mm四連装高射機関砲六基
二十五mm三連装機銃六基
二十五mm単装機銃二十九挺
全長 二〇〇.六m
全幅 二十二m
吃水 七m
機関
ロ号艦本缶大型八基
艦本式タービン四基四軸
速力 三十三ノット
航続距離 十八ノット/九〇〇〇海里
燃料 重油二五〇〇t
排水量 一三五〇〇t
性能はこんなものだ。
最上型譲りの速力は高速空母に恥じないものであり、全長は変わらないが全幅は一.四mほど長くなっている。
これは艦載機数を可能な限り増やす為の措置であり、こうする事で五〇機を超える機体を全て艦載機格納庫に収容する事が出来る。
性能やコンセプトが似通っているのは米海軍のインディペンデンス級航空母艦だろう。
違いは建造数だ。
伊吹型とされるこの軽空母の建造数は五隻が最大とされるが、インディペンデンス級は伊吹型の倍近い九隻。理由は色々あるが純粋に建造能力が違い過ぎる点だ。
我が国は資材確保能力、建造能力がアメリカに比べて遥かに劣るが、それでもフル稼働させてようやく、息も絶え絶え状態でなんとかしている状態なのだ。
特に影響が大きかったのは翔鶴、赤城、蒼龍の修理の為の入渠だ。それがあったおかげで各空母や軽巡、駆逐艦の建造計画に影響が出たのだ。各艦の就役が丸々一ヶ月遅れるぐらいの影響であった。
それでも全国各地から工員を掻き集め、工員保護法で各工廠や各造船会社の熟練工員を徴兵されないようにして、三交代制で昼夜を問わずの建造でなんとか遅れを一ヶ月に収めたのである。
それが無ければ三ヶ月は遅れていたかもしれない。
話が少し逸れるが、現在海軍で建造が進められている駆逐艦は三種類ある。夕雲型駆逐艦と秋月型防空駆逐艦、そして松型駆逐艦である。
夕雲型駆逐艦は早い話が艦隊型駆逐艦で、従来通りの役割となる。
秋月型防空駆逐艦は艦隊防空の為に建造された駆逐艦であり、その特徴は魚雷装備を一切搭載していないことである。
これは防空能力をより高いものにする為であるのと単純に魚雷発射管製造能力の限界から来るものだ。魚雷発射管は酸素魚雷を用いる関係上、どうしても複雑精緻で製造に手間と時間、そして金が多く掛かる。
酸素魚雷発射管の製造能力は年間二十五基でしかなく、魚雷搭載を前提として建造してしまうとそれだけ戦列に加わるのが遅くなるし、仮設で機銃などを装備していても完成したら本土に戻って改装する、という手間が掛かる。
ならばいっそのこと防空駆逐艦なのだから魚雷無しで、防空専任にしてしまえばいいとなったわけである。結果、魚雷装備は搭載されないこととなった。
その分、初期に建造された秋月型は一〇cm連装高角砲四基八門、二十五mm三連装機銃十六基、同単装機銃二十三基となった。これに対空電探二基、そして対空電探と連動した九四式高射装置二基が加わって対空兵装となる。
これ以外には対潜兵装として聴音機二基、探信儀二基、爆雷投射機四基、爆雷六〇個を装備する。
秋月型は後々、初戦の南方作戦やニューカレドニアで鹵獲された四〇mm連装高射機関砲をコピー生産したものを搭載している。
これを左右に二基づつの計四基となり対空火力がより高いものになった。
では松型駆逐艦はなんなのか、というと分かり易く言えば峯風型、神風型、睦月型駆逐艦の所謂旧式駆逐艦群の代替と船団護衛戦力の充実の為に建造が進められている駆逐艦である。
松型駆逐艦
性能諸元
全長一一〇m
最大幅一〇m
吃水 公試平均 三.三〇m
満載平均 三.五二m
ボイラー 二基
タービン 二基
推進器 二基
速力 二八ノット
航続距離 十八ノット/四五〇〇海里(約8300km)
乗組員 二八〇名
兵装
十二.七cm連装高角砲四基八門
四〇mm連装高射機関砲四基(改装後装備)
二十五mm三連装機銃 八基
二十五mm単装機銃 十六基
爆雷投射機 四基
二式爆雷 八〇個
対空電探二基
対水上電探二基
聴音機 二基
探信儀 二基
搭載挺 四挺
主な建造目的は旧式駆逐艦の代替と船団護衛戦力の充実というのは前述の通りである。
しかしそのためには、少なくとも旧式駆逐艦三十六隻分の建造が必要になる。そこで可能な限り構造を簡略化しつつ量産性を両立させる必要があった。でないと万が一開戦となった場合、戦争に間に合わないとされたからである。
そこで計画設計、建造されたのが『松型駆逐艦』である。
船体構造は従来の日本海軍艦艇の特徴であった曲線構造を廃止し、平面構造を多用したものになっている。こうすることで加工や成形をやり易くした。
機関部も簡略化した影響で速力が従来駆逐艦に比べ劣るので、その代わりに操艦性能重視している。
他の駆逐艦に比べても操艦性能は高く、艦長は軒並み高評価を付けている。
艦首も直線型の構造が簡易なものになっており、外板や構造材の曲げ加工を極力少なくしている。艦尾も構造が簡素なものにし、ビルジキールも三角形から平板に変えられている。
兵装も対空、対潜を主眼としており魚雷を装備しない。
建造当初は装備していなかったが、四〇mm連装高射機関砲を各艦四基づつ装備する小改装を順次受けている。
これにより、より対空能力が向上することが期待されている。
建造数は旧式駆逐艦の代替分三十六隻に加え、護衛艦隊に配備する分も加味して当初は三十六隻の建造計画であったが、六個護衛艦隊に規模が拡大した事を受けて建造数が追加され、最終的に五十六隻の建造となった。
護衛艦隊に配備される駆逐艦は全て松型駆逐艦である。
低速力も輸送船団護衛が主任務なら特に問題にはならない。
松型駆逐艦は確かに特筆すべき点は無いが、それでも要求され、必要とされる性能を十分に有し、尚且つ数も揃えられていて、と傑作駆逐艦と言って間違いない艦種となったのである。
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六航戦と七航戦は三ヶ月の習熟訓練を終えた後に実戦配備となる。
五航戦、四航戦、三航戦は本土で新型機を受領し、その習熟訓練を実施。1943年八月十五日を以てラバウルへ進出。その後に作戦行動となる。一航戦と二航戦は入れ替わりで新型機の受領と訓練を行う。
新型機は艦上戦闘機『烈風』、艦上攻撃機『天山』、艦上爆撃機『彗星』、艦上偵察機『彩雲』となる。
烈風は史実と違い、不具合や信頼性の低いエンジンに悩まされるということが無く、スムーズに開発が進んだ。
史実の『誉』エンジンはエンジン直径をかなり小さくし、無理矢理とでも言うべきギチギチ具合であったが、エンジン直径を一三〇〇mmにまで拡大し、大きく取って余裕ある設計とした事でその辺の問題が解決した。
エンジン馬力は離昇出力二一三〇馬力を発揮し、公称出力は一八二〇馬力となる。
エンジン直径が太くなったので必然的に胴体も太くなり、零戦に比べて二回りほど機体が大きい、ずんぐりしたシルエットだ。
本格的な折り畳み翼を採用し、機体サイズの割には各空母の搭載機数が減る事は無く、むしろ増えている。
速度は最高速度六一七km/hを記録し、全備重量状態でも六〇一km/hを叩き出した。
武装は翼内に九九式二号二〇mm機銃四門、弾数は各門二〇〇発となる。
航続距離は短くなったが防弾装備も零戦に比べて格段に強化されている。零戦のように一撃貰っただけで撃墜される、なんて事は少なくなる。
天山は最高速度四八一km/hを発揮する。
エンジンは火星二五型を搭載している。
武装は自衛用に機体上方用七.七mm旋回機銃一挺、機体下方用七.七mm旋回機銃一挺、魚雷一本か、六番八発、二五番四発、五〇番一発、八〇番一発となる。
九七艦攻に比べ、ざっくり一〇〇km/hほど速い。
航続距離は変わらないが、そのぶん防弾装備を充実させた。
機体形状もより空力的に洗練され、エンジンと胴体結合部もすらっとしている。
彗星
金星六二型エンジンを搭載し、最高速度五七〇km/hを発揮する。
最初はドイツ製液冷エンジンであるDB601を国産化したアツタ二一型を搭載する予定であったが、液冷エンジンに信頼性は低く、整備性や量産性も低く、母艦航空隊全てを置き換えられるだけの数を1943年中に揃えられない、艦爆として狭い空母の中で運用するには不適当、などの理由から不採用とされた。
しかし性能自体は良かったので空冷エンジンである金星六二型に換装された型が試験の結果、良好な数値を出したので正式採用される。
武装は機首に七.七mm機銃二挺、自衛用に後上方用七.七mm旋回機銃一挺、後下方用七.七mm旋回機銃一挺を装備する。
爆弾は二五番二発か五〇番一発を胴体下に、翼下に三番か六〇番二発を搭載出来る。
彩雲
空母の艦上機として一から開発されたものが彩雲となる。
今までは九七艦攻を索敵に用いていたが速度が遅く、敵機の迎撃を受ければ助からない。
そこでとにかく高速性能と航続距離を念頭に開発が進められた。
最初は彗星を流用したものが考えられ、開発されたがやはり液冷エンジンが足を引っ張り、空冷エンジンにするなら新しい専用機を一から設計した方が適当であるとされて開発されたのが彩雲だ。
最高速度は六二〇km/hを発揮し、実用上昇限界高度は約一一〇〇〇mであり、九〇〇〇mほどの高度であれば問題無く上昇して飛行出来る。
航続距離は増槽を装備した状態であれば五四〇〇kmを発揮する。
しかしながら彩雲は高速性能と航続距離を最優先で設計された為、防弾性能は皆無であり、一連射喰らうだけで撃墜される可能性が高い。
自衛用の武装は申し訳程度に七.七mm旋回機銃を一挺装備するだけだ。防御力も皆無な為、敵戦闘機に捕捉されてしまったら為す術はない。
五航戦、四航戦、三航戦は上記の新型艦載機を一航戦、二航戦に先んじて既に受領し、習熟訓練も終えていた。
次の作戦はそれら新型艦載機を満載している全航空戦隊が揃う1943年十月を予定していた。
一航戦と二航戦が本土へ戻り、五航戦と四航戦、三航戦が交代でラバウルに進出した。
この時、ソロモン諸島以西に敵巡洋艦部隊が時折出現して我々の補給線を脅かし始めていた。
この巡洋艦部隊には艦隊防空を目的とした軽空母が一隻配備されているらしく、この方面の船団護衛を担当する第三護衛艦隊に重巡『最上』『三隈』、駆逐艦六隻が加えられ輸送船団と行動を共にして周辺海域の警戒を強めていた。
最上、三隈は航空巡洋艦にはならず、重巡洋艦のままだ。
主砲を二〇.三cm連装砲四基八門とし、対空兵装として十二.7cm連装高角砲八基十六門、四〇mm四連装高射機関砲六基、二十五mm三連装対空機銃十基、同単装対空機銃二十七基を装備する。
ただ、敵巡洋艦部隊の正確な規模や編成が未だに判明していない為、彼らだけで対応出来るかどうかが分からないのが心配なところだ。
次作戦に備えて物資備蓄や兵員輸送に従事しながら過ごす事、一ヶ月。
暫くは平穏で、警戒するべきは米潜水艦ぐらい、と言った感じの日々だった。
「司令、ニューカレドニアへ向かっている輸送船団から緊急電です!」
「何事か?」
「読みます。《我敵艦隊ノ攻撃ヲ受ク。敵兵力巡洋艦五、駆逐艦六ヲ認ム。至急支援求ム。位置ニューカレドニア島ヨリ北西一〇〇〇km地点》以上です!」
「敵艦隊が通商破壊に出張ってきたか……!」
この船団は四〇隻で構成される。
輸送しているのは陸軍三個師団六万六〇〇〇名に大量の物資だ。このままでは物資どころか数万名の陸軍兵が海に沈められてしまう。
そうなれば作戦計画に大きな影響が出るどころの話ではなくなる。
「司令、今すぐに艦隊を出撃させましょう!このままでは嬲り殺しにされてしまいます!」
「だがすぐに出航とはいかん。乗組員を全員呼び戻すだけで数時間は掛かるし現地に到着する頃には輸送船団は丸ごと海の藻屑にされている。輸送船団に最も位置が近いのは?」
「ラバウル近海で訓練中の四航戦です」
「すぐに向かわせろ。四航戦の艦載機が敵艦隊を攻撃半径に捉えるまでどれぐらい掛かるか?」
「ラバウルからですので……、十二時間は掛かります」
「遅過ぎる。間に合わんぞ。近場に支援に出せる味方航空隊は?」
「ガダルカナルの陸攻隊が一番近いですが、距離を考えると三時間は飛ばないと到達出来ませんし、何より護衛戦闘機を付けられません。敵に空母がいることを考えれば大損害は免れません」
「タイミングを合わせて護衛空母の戦闘機に敵機を抑えさせろ。その間に陸攻隊に敵艦隊を攻撃させる」
「はっ。ではすぐに通信を送ります」
「頼む」
焦る気持ちを抑えながらも、どうしようもない事に苛立ちを覚える。
「最上より入電!《我敵艦ノ砲撃ヲ受ク》以上です!」
「不味い……」
司令部に絶望感が漂った。
最上と三隈、駆逐艦六隻だけで重巡洋艦が複数存在する敵艦隊の相手は無謀だ。
他にあるのは対艦攻撃能力に乏しい護衛空母に軽巡、そして船団護衛の為に建造された対艦攻撃力に乏しい松型駆逐艦だけだ。それだけで重巡複数を有する敵艦隊との撃ち合いは自殺に等しい。
下手をすれば一方的に蹂躙される。
「最上より更に入電!《敵巡洋艦六、駆逐艦七ト認ム》以上です!」
戦力差は三倍。
どうやっても勝ち目はない。
「三隈より更に入電!《敵巡洋艦二隻ハ新型ト認ム。殘ル四隻ハニューオリンズ級ト認ム。至急来援請ウ》以上です」
射程に捉えられているということは船団との距離はかなり近い。一番低速の輸送船に船団速力を合わせなければならないから追い付かれるのも時間の問題だ。
今襲われている船団の最高速力は一〇ノットが精々だ。逃げようもない。
「最上より入電!《我敵巡洋艦ト交戦中。只今ヨリ反転、味方船団撤退援護ノ為コレニ突撃ス》以上です!」
「最上は自らを盾にするつもりか……」
最上は旗艦だ。その旗艦自らが敵重巡六隻との盾になるというのだから決死の覚悟に違いなかった。
「三隈、駆逐艦凪雲、朝雲より通信!《我最上ニ続ク》!」
「最上より通信、《退ケ退ケ退ケ。艦隊指揮ハ三隈ガ執レ。船団ヲ無事ニ待避サセヨ》以上です!」
「たった一隻で、六隻の重巡と七隻の駆逐艦と撃ち合うつもりだ……」
誰かがぽつりと漏らした。
「凪雲より通信。《我最上ヲ支援ス。三隈、朝雲ハ船団と共に退避サレタシ》以上です」
「凪雲は命令違反上等か。なんとも……」
三隈と朝雲は船団護衛に、最上と凪雲は敵艦隊にそれぞれ向かった。
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「敵艦発砲。命中せず。我観測機発艦。我電探射撃開始」
「初弾命中せず。敵艦の集中砲火を受ける」
「敵弾一、艦中央射出機に命中、火災発生。鎮火の見込み」
「敵艦に命中弾二。以前敵艦隊は我と交戦中」
「敵駆逐艦の砲撃、多数命中するも損傷軽微。機銃座、機関砲座も射撃続行中」
「敵駆逐艦、突入してくる。魚雷発射を確認。増速、回避行動を取る」
「敵魚雷全弾命中せず。敵艦隊との距離九〇〇〇を切る」
「敵巡洋艦一に射撃多数命中、速力低下落伍す。我敵巡洋艦と交戦中、凪雲は敵駆逐艦と交戦中」
「凪雲魚雷発射。命中まで三〇秒」
「敵駆逐艦の射撃、凪雲に集中。回避せよ」
「凪雲の魚雷、敵駆逐艦に命中、轟沈す」
「魚雷再装填完了。発射開始」
「敵巡洋艦の炎上を確認。射撃を集中」
「凪雲の魚雷は命中せず。再装填開始」
「凪雲被弾。艦後部に火災発生」
「我艦中央部に数発被弾」
「凪雲、魚雷発射。残魚雷無し。砲戦に集中する」
「凪雲に敵駆逐艦の射撃集中。被弾二。艦橋付近より火災発生」
「凪雲の魚雷、敵巡洋艦一に命中。行き足止まる」
「凪雲、敵駆逐艦からの被弾多数。行き足衰えるも戦闘継続。凪雲より通信《我に顧みず戦闘継続されたし。最上の武運を祈る》」
「凪雲航行停止。なれど戦闘継続す」
「凪雲、総員退艦発令」
「最上、敵艦隊との戦闘続行」
「最上右舷一番、二番高角砲に直撃、沈黙」
「右舷高角砲、全て沈黙。機銃、高射機関砲は若干数が射撃中」
「最上回頭、左舷を敵艦隊に指向。左舷高角砲に射撃開始命令」
「三番主砲塔に直撃弾。誘爆回避の為弾火薬庫に注水。三番砲塔人員は各砲塔に応援に向かえ」
「速力低下なれど戦闘行動に支障無し」
「二番主砲に敵弾二発命中、爆発。弾火薬庫に注水間に合う。戦闘続行」
「敵弾多数命中、左舷高角砲、機銃群に多数損害。高射機関砲は未だ射撃中」
「四番主砲塔に直撃弾。弾火薬庫に注水。戦闘継続」
「一番主砲塔、加熱により砲員昏倒。他砲塔の生き残りに交代」
「一番主砲塔、射撃継続なれど残弾僅少。これより敵艦隊へ最後の突撃を敢行す」
「友軍に武運長久あれ。祖国の繁栄と銃後の平和を願う」
1943年九月十一日午後六時三十八分。
重巡洋艦『最上』、駆逐艦『凪雲』、ニューカレドニア島北西一〇〇〇km地点にて沈没。
救助せる『最上』生存者二七六名、『凪雲』五十三名。
ーーーーーーーー
最上と凪雲が沈んだ。
しかしその最後は味方を守る為に四時間もの間、敵を引き付け戦い抜いた上での沈没であった。誠に立派な最後であった。
その様子は艦内放送にて艦隊全員に聞かされている。
「艦隊、総員上甲板」
数分してから、
「司令、総員上甲板集合完了しました」
「気を付けェ!最上、凪雲、及び両艦長以下乗組員に対し敬礼!」
ここまで腹から声を出したのは久方ぶりであった。
「総員持ち場に戻れ」
後に最上と凪雲が守った輸送船団は無事にラバウルへ帰投。
一週間後、護衛艦隊と戦艦長門、陸奥、空母瑞鳳、祥鳳、龍驤を加えた強力な護衛部隊を伴いニューカレドニアへ再び出航。
敵艦隊は出現しなかった。
この話は陛下のお聞きになるところとなり、最上と凪雲には功一等金鵄勲章が艦に授与された。
救助された乗組員は一階級特進の上、金鵄勲章が授与された。
戦死した乗組員は例外無く二階級特進の上で遺族には特別手当と味方船団を守り、尚且つ敵重巡洋艦一隻、駆逐艦一隻撃沈の武功が讃えられることとなり、金鵄勲章が授与された。
1943八月八日。
一航戦から五航戦までの全五個航空戦隊が揃い踏みとなった。
一航戦と二航戦はラバウルに錨を降ろし、五航戦、四航戦、三航戦はニューカレドニア島に進出し、錨を降ろしていた。
我々航空戦隊を総動員した目的は豪州への上陸作戦支援である。
無謀に思えるかもしれないが、ただ無作為に上陸する訳ではない。
この作戦の目的は豪州の連合国脱落だ。
豪州は今、完全に孤立状態にある。
イギリスは対独戦に必死で太平洋に戦力を回せていないし、アメリカも余裕が無く豪州防衛のための艦隊派遣など夢のまた夢。
だからオーストラリアを脱落させるには今しかない。
オーストラリアが脱落するか、或いは作戦に成功の見込みがなくなった時点で撤退する。
欧州戦線やアフリカ戦線に部隊を派遣してしまっているからまともな兵力が無いのは確認済みだ。
緊急徴兵による即席の部隊はあるようだが、防衛しなければならない場所の面積が広い事から配備してしまえば再配置は中々出来ない。
それに我々の主攻は豪州北部にあると陽動している為、兵力の大部分は向こうに回されているとか。
なんでも米豪英間でかなり揉めているらしく、オーストラリアの主張としては、
「まともな防衛兵力を派遣しないなら我々のあらゆる選択に対して口出しするな」
対して米英の主張は、
「何があっても徹底抗戦しろ」
らしい。
その隙を突いて今のうちに豪州を脱落させてしまおう、という訳である。
全面降伏は無理なので、内容は緩い講和条約や和平条約となる。
こちらが提示する条件は、
・戦時期間中に限り、豪州政府は連合国から全面離脱をすること。
・米英軍に対するあらゆる支援を行わないこと。
・その間、日本政府及び日本軍全般は豪州に対し安全を保障し、一切武力行使を行わない。
・米英軍の駐留も一切認めないが、日本軍も駐留や駐屯をしない。
・日本との公平な貿易の再開。
主な条項は以上になる。
最悪、敵に協力しないないなら中立でも良いので交渉次第である。
少なくとも米海軍の戦力は整っておらず、前線投入が可能な空母は『エセックス』と『インディペンデンス』を加えても四隻だけだ。他に護衛空母も数隻あるが、それは大西洋に回されたらしい。
米海軍はたった四隻で七隻の空母に戦いを挑む馬鹿では無い。
目標とするのはトラック諸島かカロリン諸島、ラバウル、ソロモン諸島、ポートモレスビーだろう。どこも我々の一大拠点で叩く価値がある。
この米海軍の攻撃に備えてトラック、カロリンには海軍から二三〇機を超える零戦と、七〇機ほどの一式陸攻と九六陸攻が配備されている。
ラバウルには陸海軍合わせて二五〇機の戦闘機と三〇機ほど陸軍爆撃機、四〇機ほどの陸攻が。
ソロモン諸島には陸海軍合わせて三〇〇機を超える戦闘機と、一〇〇機を超える陸海軍の爆撃機や陸攻がある。
早期警戒線も構築され、索敵機による索敵と対空電探も数基づつ配備されている。米海軍が来るなら強襲となる。
その情報は少なからず掴んでいる筈だから戦力が整うのを待つ筈だ。
英海軍はどうかと言うと、豪州に派遣されているとすれば航空母艦四〜五隻、戦艦二〜三隻を主力とした艦隊になる筈だ。
実際通信量の分析などからどうやら英艦隊が豪州に派遣されているのは確からしいが、詳細な規模が分からない。大西洋のほうもあるから、根こそぎとまでは行かないだろうから、イラストリアス級航空母艦が主力となるのは間違いない。アーク・ロイヤルはドイツ海軍潜水艦によって撃沈されている。
現在、英海軍が運用する空母はイラストリアス、フォーミダブル、ヴィクトリアス、インドミタブルの4隻に加えてフューリアスの五隻となる。しかし艦齢が高いフューリアスは対独戦の為に大西洋に残されるだろう。
これ以外にも米海軍から供与されたり、自前で建造した護衛空母が七隻か八隻ぐらいいるが、これは太平洋に回されないだろう。
なんせドイツ海軍の相手もしなければならないから、稼働状態にある正規空母、護衛空母を全部太平洋に回してしまうとドイツ海軍潜水艦に対して輸送船団が無防備になってしまう。少なくともニ隻か三隻は残す筈だ。
それにこの護衛空母の艦載機数は十五機と少なく速力も遅い。
正直なところ、居ないよりはマシ、というぐらいだ。
となれば太平洋に回航される英空母はイラストリアス級四隻に、艦載機の不足を補う為に数隻の護衛空母となる筈だ。
インド洋に展開する潜水艦や哨戒機からはなんの報告も無い為、こちらの索敵が届かない、大きくインド洋を南極大陸寄りに迂回するルートを通ってきた筈だ。
これなら我々の索敵にも引っ掛からないし、シドニーやメルボルンといった安全圏に艦隊を停泊させておけるし我々が来たら対応出来る。
米海軍は戦力の観点から来ないか、来たとしても大した兵力にはならない。ならば最も警戒すべきは英海軍である。
一〇月一〇日。
輸送船団を伴い、我々は豪州沖に進出。
五航戦、四航戦、三航戦はシドニー上陸作戦支援の為に、一航戦と二航戦はブリスベン上陸作戦支援の為である。
まずブリスベンに上陸し、敵地上兵力を誘引。
正規兵力に劣る豪陸軍はどうしても戦力集中をしなければこちらに勝つのは難しい。その隙を突くのだ。
その隙に敵首都キャンベラの目と鼻の先であるシドニーへと上陸し、敵の喉元に切先を突き付け講和、という筋書きである。
豪州政府は対日戦を続けるか否かで政権内部、連合国同士はおろか、日本軍の上陸は目前という噂まで流れており、国民同士でも揉めに揉めている。
首都の目と鼻の先に敵が上陸してきたら、主戦派と講和派の均衡は一気に崩れる。一気に和平派や講和派に傾く筈だ。
「索敵機を出す。どれぐらいで発艦出来る?」
「一〇分頂ければ発艦出来ます。やはり敵艦隊ですか?」
「そうだ。出て来るとしたら英海軍の可能性が高い。それを警戒している」
「ではやはり米軍は出てこない、と?」
「海に関しては大方出て来んだろう。陸は知らんが十中八九いるだろうから気にするだけ無駄だ」
「確かに米軍の動向を見ていると、豪州に地上兵力を幾らか送っているようでしたね」
「どれぐらいの数がいるのかは分からん。だが、少ない訳はないだろう」
米海軍の動きは低調だが、大して米陸軍や海兵隊の動きは活発だ。
遠回りをして豪州に兵力を送り込んでいたらしく、その兵力は未知数だ。少なくとも三個師団、多ければ六個師団以上とされているが正確な数は分からない。
我々が投入する兵力はブリスベンに六万七〇〇〇名、シドニーに四万六〇〇〇名となる。
これら兵力は必要であれば即座に撤退をする事が決定している。
豪州脱落が達成不可能とされた時点で、だ。
索敵機は南に進路を取り、敵艦隊を探し求める。
敵艦隊がいるとすればポート・フィリップ湾だろう。インド洋側ならパース、豪州北部ならダーウィン港。
しかし索敵の結果、ダーウィン港には敵艦隊の存在は確認されていないし敵艦隊の兆候や動きも無い。
パースならこちらの索敵が届き辛いから隠れているかもしれないが、立地を考えるとあまり良い場所では無い。
ならばポート・フィリップ湾にいるとするのが妥当なところだろう。
既にニューカレドニアを出撃した際に敵潜水艦に発見されて通報されている。その潜水艦は対潜哨戒任務に就いていたニューカレドニア島航空隊の九七艦攻が撃沈しているが、我々の存在と動きは敵に間違いなく知られた。
ならば敵艦隊が出て来るのも時間の問題だろう。
「索敵線は合計二十四線、二段索敵を実施しております。前段索敵の十二機と、後段索敵の十二機です。手元に四機の彩雲を残し、敵艦隊発見に備えます」
「想定される敵は、現地基地航空隊と英海軍空母機動部隊、それと敵潜水艦です」
「通信量や敵暗号文の傍受などから、どうやら英海軍が本国艦隊から艦隊を派遣したということが判明しております」
「規模は?」
「少なくとも空母多数を含んでいるというのは間違いないでしょう。戦艦は二隻か三隻程度と見積もられます」
索敵を出しつつ、敵艦隊に備える。
居るのは間違いないが、かと言って変に上陸戦開始を先延ばしにしてしまうと敵の防御が固められてしまう。
だから敵艦隊を早めに排除して上陸作戦をやらないとならない。
「一航戦と二航戦は?」
「今しがた入った電文によればブリスベンの方で既に敵基地航空隊と交戦状態だそうです」
「なら向こうに支援を求めることは出来ないわけだな」
「はい。もし敵艦隊が出てきたら我々だけで対処する必要があります」
「シドニーまでどれぐらいだ?」
「現在一四〇海里の地点にあります」
「敵機は?」
「現れておりません。もしかすると敵艦隊との同時攻撃を狙っているのかもしれません」
「英軍機は足が短い。かなり近付かないといけないから、攻撃隊を放つことが出来ないのかもしれないな」
「司令、シドニーへ接近するのを一度待ちませんか」
「ふむ。理由は?」
「索敵機が最大進出線にまで到達するまで現地点で遊弋するのです。これで敵艦隊が見つかれば足の長さに利がある我々が先手を取り、敵艦隊を排除する。見つからなければシドニー近郊の飛行場を叩いてから上陸作戦を実施するということにすれば二つの敵と同時に戦う必要は無くなります」
「宜しい。ではそうしよう」
暫くの間我々は現海域を遊弋し、索敵機の情報を待つこととなった。
「司令、瑞鶴の彩雲三号機が敵艦隊を発見しました」
「規模と位置は?」
「空母四隻、キング・ジョージV世級戦艦二隻、R級戦艦二隻、巡洋艦六隻、駆逐艦二〇隻以上です。そこから幾らか離れたところにもう一群が。数は空母三隻、駆逐艦一〇隻程度とのことです。位置はシドニーの南東沖一三〇海里です。我が艦隊との距離は二七〇海里となります」
「数は七隻か。とすれば艦載機は全部合わせて多くても二七〇機ぐらいだな」
キング・ジョージV世級戦艦は特徴的な外見をしているからすぐに見分けが付く。だから名指しで送ってきたのだろう。
R級戦艦も一次対戦の頃に就役した艦だから識別に苦労はしない。
「少ないですね」
「イラストリアス級航空母艦は装甲空母故に搭載機数が少ない。護衛空母も多くて三〇機ぐらいだろうから我々より少ないのは間違いないな」
翔鶴 艦載機数九十六機
烈風四〇機 天山二十八機 彗星二十四機 彩雲四機
瑞鶴 艦載機数九十六機
烈風四〇機 天山二十八機 彗星二十四機 彩雲四機
瑞鳳 艦載機数四十四機
烈風三十六機 九七艦攻四機 彩雲四機
隼鷹 艦載機数六十四機
烈風二十八機 天山十六機 彗星十六機 彩雲四機
飛鷹 艦載機数六十四機
烈風二十八機 天山十六機 彗星十六機 彩雲四機
祥鳳 艦載機数四十四機
烈風三十六機 九七艦攻四機 彩雲四機
龍驤 艦載機数四十八機
烈風二〇機 天山十二機 彗星十二機 彩雲四機
烈風二四八機 天山一〇〇機 彗星九十二機 彩雲二十八機
計四六八機
我々は以上の艦載機を有している。
各空母の彩雲は露天繋止で搭載している。
本格的な折り畳み翼を全艦載機に装備している為、艦載機数が各艦十機ずつぐらい増えている。
それでも彩雲は露天繋止で搭載しているので格納庫に余裕があるわけでは無い。
彩雲を各艦四機搭載しているというのはかなり大きく、索敵に関してかなりの余裕がある。
それに加えて艦攻を索敵に出さなくても済むので攻撃隊に割ける兵力が多くなるのは嬉しい事だ。
彩雲が二十八機もあるので、その気になれば十四機での二段索敵も問題無く出来る。
それか今みたいに十二機づつの二段索敵をやって敵艦隊を発見したら追加で彩雲を出して継続して接触、位置情報を定期的に知らせるということも可能だ。
戦術、戦略の幅が大きく広がるから彩雲の配備は有難い。
「彩雲を追加で出して敵艦隊に継続して接触、位置情報を知らせよ。参謀、攻撃隊の発艦準備を進める様に」
「はっ。直掩機は残しますか?」
「念の為に各艦四機づつほどを残してあとは全て制空隊と攻撃隊に編成してよい」
「承知しました」
この時期の英海軍空母が搭載している機はスピットファイアの艦上機仕様やアルバコア、米海軍から供与されたアヴェンジャーやワイルドキャットとなる。
ここで重要になってくるのが彼我の距離、二七〇海里という距離だ。
スピットファイアやアルバコアといった英軍機は航続距離が短い。特にスピットファイアは精々三八〇海里(約七〇〇km)しかない。
アルバコアなら航続距離八〇〇海里(約一五〇〇海里)あるが、護衛無しで送り出すわけにも行かないし、複葉機だから兎に角速度が遅く、最高速度二五九km/hしか発揮することが出来ない。まさか護衛戦闘機を付けないで攻撃隊を送り出すわけにも行かないので戦力として数えられるのかどうか、というところである。
もし攻撃隊を出せるとしたら米海軍から供与されたワイルドキャットやアヴェンジャーだけになる。
そうなれば攻撃隊として編制出来るのは精々一五〇機あれば良い方では無いだろうか。
可能性としてあるのは自国の艦載機を全て降ろし、米海軍から供与された機で固めているということである。
ただ、米海軍でも空母機動部隊の再建を目指して必死になっているので供与されているのは精々旧式のF4Fやアヴェンジャーが良い所であろう。そうなればこの距離でも敵が攻撃隊を放って来る可能性がある。
なので一応二十八機の直掩機を残しているわけである。
1944年になればF4UやF6Fなどの新鋭米軍機を供与して貰えたかもしれないが後の祭りである。
制空隊
翔鶴 烈風二〇機
瑞鶴 烈風二〇機
瑞鳳 烈風二〇機
隼鷹 烈風十六機
飛鷹 烈風十六機
祥鳳 烈風二〇機
計一一二機
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第一波攻撃隊
翔鶴
烈風八機 天山十六機 彗星十二機
瑞鶴
烈風八機 天山十六機 彗星十二機
瑞鳳
烈風八機
隼鷹
烈風八機 天山八機 彗星八機
飛鷹
烈風八機 天山八機 彗星八機
祥鳳
烈風八機
龍驤
烈風十二機 天山四機 彗星四機
烈風六〇機 天山三十六機 彗星四十四機
計一四四機
ーーーーーーーーーーー
第二波攻撃隊
翔鶴
烈風八機 天山十六機 彗星十二機
瑞鶴
烈風八機 天山十六機 彗星十二機
瑞鳳
烈風八機
隼鷹
烈風八機 天山八機 彗星八機
飛鷹
烈風八機 天山八機 彗星八機
祥鳳
烈風八機
龍驤
烈風八機 天山八機 彗星八機
烈風五十六機 天山五十六機 彗星四十八機
計一六〇機
ーーーーーーーーーーー
艦隊直掩
各空母より烈風四機づつ、計二十八機。
ーーーーーーーーーーー
攻撃隊を発艦させる。
天山の武装は九一式航空魚雷、彗星は各機五〇番を装備している。
英空母は装甲甲板を施しているから、二十五番だと損害を与えられない可能性が高い。
九九艦爆だったら敵空母を無力化することすら難しかっただろうから新型機様々である。
敵空母との戦いに於ける定石は先手を取ること。
そうすれば敵空母の飛行甲板を潰せることが可能で、敵空母は艦載機運用が出来なくなる。
そうなればこちらが一方的に攻撃隊を繰り出し続けられる、という寸法だ。
だから今現在の我々の状況は空母航空戦に於いて理想的なものに近い。
この第一波、第二波攻撃で敵空母を無力化すれば英艦隊に我々に対抗する術は無くなる。
どうやら陸軍の派遣は無いようで、とにかく海軍だけを慌てて派遣してきたというのが実情らしい。
地上部隊が脆弱ならば敵艦隊さえ撃破してしまえばあとはこっちのものである。
「電探に感あり!方位一八〇!高度二五〇〇、距離三〇海里!機数は少ない!恐らく敵索敵機です!」
「直掩隊を差し向けろ。艦隊の情報を与えるな」
艦隊上空を周回して備えていた四機の烈風が機体を翻して敵機がいる方角へ機首を向ける。
高度二五〇〇mなら一五〇〇mで直掩任務に就いていたから烈風だと一分も掛からんだろう。
一〇分もすると、烈風から敵索敵機撃墜と報告が入った。
直掩に就いていた四機を一旦母艦である飛鷹に降ろし、翔鶴から代わりに四機を出す。
「敵索敵機から先程、撃墜される前に電文が発されました。我々の位置を悟られたかと」
「分かった。全艦対空、対潜警戒厳、第二種戦闘配置。艦隊輪形陣」
「はっ。総員第二種戦闘配置、輪形陣!」
艦隊は次々に二種配置に置き換えられていく。
それと同時に手慣れた動きで空母七隻を中心とした輪形陣が形成されていく。
本来なら航空戦隊毎に輪形陣を組むべきであるが、今回は直掩戦闘機が少ないので別個にしてしまうと分散して狙われると守り切れない可能性が高くなる。なので三個航空戦隊を纏めて総勢九十六隻の輪形陣を形成することとなった。
空母七隻を中心に、その左右に戦艦四隻、重巡六隻、防空駆逐艦八隻を直掩艦として配置し、更にその外側に軽巡と駆逐艦を配置する。二重の輪形陣である。
「壮観だ……」
誰かが漏らす。
南洋の太陽に照らされる大艦隊はそれだけで皆を惹きつける不思議な魅力があった。
「第一波攻撃隊、ト連送発信!」
「いよいよか」
「敵機には迎撃されなかったようですが英艦隊相手は初めてです。どうなるかは未知数ですな」
「なに、彼らは一航戦や二航戦をも凌ぐ海軍きっての対艦攻撃のスペシャリストだぞ。やってくれるさ」
我々五航戦は戦歴や戦果だけで見れば間違いなく対艦攻撃という点に於いて、経験、練度は一航戦や二航戦を上回る。
五航戦には攻撃隊の総隊長を務める村田隊長を筆頭に、艦戦隊にも板井三郎や岩本徹三など、既に撃墜数二十五機を超える海軍きってのトップオブエースがいる。
彼らに任せれば何の問題もあるまい。
制空隊は敵艦隊の手前三〇海里で迎撃を受けたようである。
敵艦載機はやはりシーファイアが主力でそこに若干のF4Fが混じっているようだ。シーファイアの速力はざっくり五七〇〜五八〇km/h、武装は七.七mmを多数。
機数も七〇機ほどと多い訳では無く、数的有利も獲れている。
「制空隊によりますと、戦闘中に攻撃隊と思われる一団が我が艦隊に向けて進軍していたと報告が」
「距離を考えれば英軍機では無いな。多分米軍から供与された機体だろう」
迎撃機にF4Fが少なかった理由が分かった。艦隊防空に使うのでは無く攻撃隊に随伴させている訳だ。
足の短いシーファイアは艦隊防空に専念させ、足の長いF4Fやアヴェンジャーは攻撃隊として出撃させたという事だ。
「敵攻撃隊はF4Fとアヴェンジャーだ」
「なるほど……。足の短いシーファイアは艦隊直掩に充てて、足が長い方に我々への攻撃を全て任せた訳ですか」
「うむ。数はそう多くは無いが、こちらも直掩機が少ない。用心しろ」
電探が敵攻撃隊を捉えるのと同時に艦隊直掩に残していた全ての烈風を迎撃に上げる。
烈風は、電探で位置と高度、距離を把握する艦隊からの無線電話によって誘導され、高度優位を獲った状態で攻撃を仕掛けることになる。
敵編隊の高度は二五〇〇mなので、三五〇〇mほどまで上昇すれば圧倒的に優位な状態から初撃を仕掛けられる。少なくとも一撃離脱に徹して上手くやれば三撃目ぐらいまでは鴨撃ち状態になるかもしれない。
直掩隊を迎撃に上げてから三十分後。
敵攻撃隊と接敵、戦闘開始の打電が発された。
敵攻撃隊の迎撃が始まる一時間前、我々が放った攻撃隊は敵艦隊を捉え、攻撃を開始した。
敵戦闘機の迎撃は制空隊が完全に抑えていたので無く、敵艦が撃ち上げる対空砲火のみが脅威であった。
手始めに彗星が急降下爆撃を仕掛け、敵艦の対空砲火を減じる。
戦艦や巡洋艦の対空砲火は脅威的だからだ。
次に急降下爆撃によって、一瞬対空砲火が弱まる隙を突いて空母へ雷爆同時攻撃を仕掛ける。
彗星隊によれば、やはりイラストリアス級航空母艦の装甲甲板は強力であったらしく複数の五〇番の直撃を食らってもなんともなかったという。
しかしながら我々の大鳳型に比べて昇降機には装甲を施していなかったようで昇降機への直撃弾は防げず貫通を確認、損傷を与えられた。
沈めるには雷撃しかなく、第一波攻撃隊の戦果は天山による雷撃を仕掛けて四隻の内、二隻を撃沈確実、二隻撃破となった。
第二波攻撃隊は別の空母三隻を有する艦隊を攻撃。
こちらは護衛空母群だったようであっさりと、雷撃を加えるまでもなく急降下爆撃だけで撃沈することとなった。
余った天山は敵空母と敵戦艦への攻撃に転用され、第二波攻撃隊の手によって空母二隻撃沈、戦艦三隻に魚雷を数本命中させ大破確実の損害を与えた。
我々の損害は制空隊の烈風十二機、第一波と第二波攻撃隊合わせて天山二十五機、彗星十七機、搭乗員五十九名戦死、六十二名救助内二十七名が重軽傷となった。
敵攻撃隊は直掩隊に阻まれて撃墜されるか、爆弾を放棄して遁走することとなった。
しかしながら二十八機だけでは防ぎきれず、二〇〜三〇機ほどがすり抜けて攻撃を開始した。
とは言え三〇機で、しかも全て急降下爆撃機に出来ることは大して存在しない。戦力を集中して一隻か二隻を撃破するのが精々だ。
「敵機二群に分かれる。別方向から四航戦を狙う模様」
「各艦は四航戦を支援せよ」
急降下爆撃機しかいないから、上手く行けば無傷で乗り切れるだろうが狙われたのが四航戦とは可能性の中では運が悪いな。
翔鶴や瑞鶴のように三〇ノットで回避、という手段が使えない。
隼鷹と飛鷹は二十六ノットを出すのが精一杯で、回避中なら二十五ノットか二十四ノットが限界だ。
艦艇の回避運動は基本的に大きく操艦性能、速力の二つに分けられる。
操艦性能は艦の舵の利きの良さと、見張り員の報告や艦長の命令の適切さ、操舵員の技量の総合値だ。皆が連携する必要がある。
しかし速力は単純に速さで振り切るというような避け方だ。
何故避けやすいのか、というと速力が速い方が避けやすいというより投弾位置を見積もるのが難しいという方が適切だ。
魚雷は対象物の速力が速ければ速いほど、より射角を取らねばならないし、急降下爆撃にしても対象の速度が速い方が急降下開始時の標的位置と、投弾位置のズレが大きくなる。そうなると未来位置予測が難しくなる。
だから速力が速ければ単純な被弾確率が減る訳である。
「敵機、隼鷹と飛鷹に急降下!」
「各艦、隼鷹と飛鷹を援護」
周りの艦が二隻の上空に弾幕を集中させる。
「敵機三機撃墜、二機が被弾離脱!」
「敵機後続、続けて急降下!」
「敵機投弾!」
我々の援護射撃を受けながら隼鷹と飛鷹は艦首で水飛沫を激しく巻き上げながら面舵で回頭を続ける。
投弾され、外れた敵弾が二隻の周りに落下して水柱を上げる。
艦橋よりも高く、近くに落下した爆弾は水柱を隼鷹と飛鷹に思いっ切り被らせる。
スポンソンの乗組員や機銃要員達が攫われていないか心配なところだ。
「隼鷹乗組員、一名が水柱の落下に攫われたようで海面に漂っています」
「今救助するのは難しいが、駆逐艦に救助網を展開させてすれ違いざまに救助させられないか?」
「難しいですね。隼鷹と飛鷹が近くで回避行動を取っておりますから下手をすると衝突の危険性があります」
「やはり無理か。救助は戦闘終了後とする」
「致し方ありませんな」
攫われた乗組員は泳いで艦から離れようとしている。
でないと艦にぶつかったりスクリューに巻き込まれたりしてしまうからだ。
「隼鷹被弾!」
「なにっ!?」
「やられたな」
十二機目が放った爆弾が一発、隼鷹に命中した。
真っ黒な煙を飛行甲板から噴き出しながらも、依然として速力は維持出来ている。
損害は飛行甲板に止まっているようだ。
「飛鷹被弾!炸裂二回を確認!」
「二発か、厳しいな」
「戦線に留まるのは難しいだろう」
二発も爆弾を喰らえば装甲空母でもなんでもない飛鷹が艦載機運用能力を維持するのは難しい。
隼鷹は今のままなら応急修理を施せば問題無く艦載機を運用出来るだろう。
「隼鷹、更に二発被弾!」
「隼鷹もやられたか!」
最後の最後にやってくれる。
我々はこれで空母二隻が戦線離脱を余儀無くされたな。
「敵機攻撃終了、離脱していきます」
「艦隊撃ち方止め。攻撃隊収容準備。対空、対潜警戒厳となせ」
もう三〇分で攻撃隊が帰ってくる。
敵艦隊にはまだ戦艦や巡洋艦がいる。すぐに収容して、第三波、第四波攻撃隊を放って確実に息の根を止めておく必要がある。後々脅威になられても困るし、今確実に叩けば英海軍はインド洋、太平洋方面に艦隊を派遣するだけの余力は無くなるだろう。
既に主力正規空母四隻を失い、護衛空母も全て損失している。
そこに加えて戦艦や巡洋艦まで全滅したとなれば、大西洋の戦いが種戦線である英国からすれば太平洋へ戦力をこれ以上割けなくなる。そうなれば我々は米海軍の相手をするだけで良くなるからかなり楽になるのだ。
「隼鷹と飛鷹の損害報告が来ました」
「読み上げてくれ」
「隼鷹、飛鷹共に艦載機運用不可能となりました。速力は二〇ノットの発揮が可能です」
「隼鷹、飛鷹は四航戦から駆逐艦八隻を伴い退避。ラバウルで明石と朝日より応急修理を受けた後に本土へ回航。本格的な修理を受けるように」
現在、ラバウルには豪州作戦支援の為に工作艦明石、朝日を始めとした支援部隊がいる。
軽微な損傷であればラバウルで修理を受けて戦線復帰が可能、という訳だが流石に五〇番クラスの爆弾を二〜三発も被弾していては本土で本格的な修理をする必要がある。
速力低下があるから機関部も幾らかやられているようだし、尚更だ。
攻撃隊収容後、再出撃可能な機体で第三波、第四波攻撃隊を編成し放った。
敵機を警戒する必要は少なく、燃料タンクに穴が空いていて長距離飛行が出来ない烈風を入れて四十三機が艦隊直掩に就いた。
他の全機は敵艦隊を目指して出撃。
二時間後、第三波攻撃隊と第四波攻撃隊は敵戦艦二隻づつを見事に撃沈するに至った。
続いて起動時間がギリギリ夕暮れになる事を承知の上で残存する敵艦隊を掃討するべく第五波、第六波攻撃隊を出撃させ、巡洋艦や駆逐艦多数を撃沈破するに至った。
その後、敵艦隊は沈没艦の乗組員を夜間の内に救助し撤退。
翌日、我々はB-24、B-17、B-25などからなる爆撃機の攻撃に晒された。
「敵重爆、約一〇〇機が三つの梯団に分かれてこちらに向かって来ます。高度六〇〇〇m、距離約一二〇kmです」
機影が大きい上に数も多いから一二〇km先でも電探はしっかり捉えたようだ。
「全烈風を迎撃に上げろ。敵機の機種は分かるか?」
「接触した彩雲によればB-24とB-17、それにB-25の混成変態のようです」
「護衛戦闘機は?」
「ありません」
「なら問題は無いな」
護衛戦闘機のいない敵重爆相手なら、心配するべきは烈風の弾数が足りるかどうかだな。
B-24は二〇mm機銃で問題無く撃墜出来るが、B-17はとにかく頑丈だ。二〇mm四門、弾数八〇〇発でも厳しいものがある。
護衛戦闘機もない鈍重な重爆は簡単に迎撃に上がった烈風にあっさりと捕捉された。
約三〇機の梯団が三つ、計一〇〇機ほどの数が来襲したが半数ほどが迎撃によって撃墜されるか撃退された。
投弾に成功した敵機も、そもそも六〇〇〇mを超える高度からの移動する艦艇への水平爆撃だ。どれだけ大量の爆弾を運んできて投下したとしても命中率は一〇〇〇発落として一発当たれば良い、という話だ。
「敵重爆、長門、陸奥の主砲射程圏内に捉えました。三式弾射撃開始します」
「続いて金剛、榛名の主砲も射程に捉えました。交互撃ち方始めます」
戦艦四隻が次々と対空用主砲弾『三式弾』を撃つ。
距離を考えれば三回ほどの射撃で終わるだろうが、四隻合わせて九十六発の射撃を期待出来る。
撃墜出来なくても編隊を崩す事が出来ればそれだけで十分なのである。
「長門、陸奥の射弾、炸裂まで五、四、三、二、一、今」
双眼鏡を覗くと遠くの空に最初に八つ、次に八つ、三式弾が炸裂した。更に数秒遅れて十六発が敵編隊を襲う。
斉射では無く交互撃ち方だから八発づつの炸裂になるのだ。
続いて金剛、榛名の三式弾が次々に敵編隊を襲った。こちらも八発づつの炸裂だ。
「敵編隊の頭と、編成中心で炸裂しました」
「何機落とせた?」
「四隻合わせて十三機、引き返した機体も六機ほど確認しました」
「ざっくり二〇機か。次の射撃でも同じぐらい墜とせればいいのだがな」
「敵編隊散開!」
「あぁ、こうなったら三式弾で命中弾を得るのは難しいな」
「はい。ああも散開されてはマグレ当たりを期待するほかありませんな」
運の悪い敵機数機が二射目を食らった墜ちたが、尚も五〇機ほどが小隊単位の編隊を維持しながら来る。
「高角砲、射撃始めます」
戦艦よりは軽いが、かと言ってしっかりと重く腹に響く射撃音が断続して鳴り響く。
十二.七cm連装高角砲、一〇cm連装高角砲、十二.七cm連装砲が次々と射撃を始めたのである。
一発当たりの威力は戦艦の主砲弾には劣るが、こっちは弾数で勝負だ。
すぐに空は凄まじい炸裂後に残る黒煙で覆われていく。
炸裂し、敵機がふらふらとよろけるがそれでも飛び続けているB-17を見やる。
「あれだけの弾幕をこうも簡単に抜けてくるとは……」
誰かがぼやく。
実際、七〇隻に近い数の艦艇の、門数にして数百門の射撃にも関わらず中々敵機を墜とせない事に焦りが募る。
B-24は比較的、撃墜は容易いがB-17はエンジンから黒煙を吹いていようが平然と飛んでいる。
幾ら六〇〇〇mからの水平爆撃の命中率が低いとは言え、マグレ当たりが起きれば、二五〇kg爆弾だろうと重力による加速もあって空母は一溜まりも無い。戦艦でも無事では済まないだろう。
「敵機、爆弾倉扉開いてます!」
「爆撃態勢に入ったか……!」
「艦隊、敵機方向に一斉転舵準備」
「り、了解!」
「司令、どうされるお積りですか?」
「転舵、敵機に向かえば爆撃照準が狂う事を期待する」
「なるほど、既に爆弾倉扉を開いているなら照準を付けている筈。簡単に修正は出来ないからやり直すか、そのまま投下するしか無い、そういう事ですね」
「うむ。あとは命中せん事を祈るしかあるまい」
タイミング良く、艦隊を転舵させ敵編隊に向かって突っ込むようにする。
「敵機投弾!」
見張り員の報告から少しして、爆弾が落ちてくる嫌な風切り音が聞こえてくる。
凄まじい水柱、恐らく一〇〇mを越すのではないだろうか、というほどの巨大な水柱を次々に乱立させていく。
「命中したら、とんでもないですな……」
「駆逐艦は跡形も残らんだろうな。戦艦や空母ですら下手をすれば轟沈も有り得るな」
敵機が投下した爆弾は全て海面に落ちる。
全ての敵機が投弾を終えて、敵機が飛び去っていく。
「被害は?」
「ありません。司令の策が上手く行ったのでしょう、ほとんど的外れな場所に弾着していました」
「それは良かった」
因みに先ほど水柱の勢いに攫われた隼鷹乗組員は無事に駆逐艦『立風』によって救助されている。彼にとっては災難だったな。
「索敵機を出して、敵飛行場の位置を炙り出す。先んじて攻撃を加えて敵爆撃機が輸送船団を狙えないようにしておこう」
「はっ。では四機ほどを索敵に出し、他に敵艦隊が居ないかを警戒する為に各方位にも索敵機を放っておきましょう」
「そうだな。制空隊、攻撃隊の編成も同時に頼む」
「承知しました。そのように進めます」
我々の本命はシドニー上陸作戦だ。
輸送船団に対する脅威は全て排除し、安全を確保しなければならないのである。だからまずは、一番脅威度が高い敵飛行場を叩く必要がある。
シドニーには少なくとも三か所の飛行場があるとされている。
それらには先ほど来襲した爆撃機の他に多数の戦闘機が配備されているとされる。
概算ではざっくり三〇〇機ほどとされているが、爆撃機を含めてなので撃墜、撃退した爆撃機を考えれば戦闘機は一八〇〜二〇〇機ぐらいだろうか。戦闘機の数では互角だから問題は無い。
隼鷹、飛鷹の艦載機は全て残る五隻に収容している。
格納庫内に収まりきらない機体は飛行甲板に並べられているが、敵機に攻撃を受ける可能性は少ない為、良しとしたのである。
「制空隊、攻撃隊の編成が終わりました」
「いつ出せる?」
「二時間頂ければ全機の準備が整います」
「では一〇:一五に制空隊を、一〇:四〇に第一波攻撃隊、一一:〇五に第二波攻撃隊を出撃させる」
「承知しました」
飛行甲板上にも多数の機体を載せている都合上、煩雑になるので事故防止などを考えて発艦作業時間に二十五分と長く設定して猶予を持たせている。
天山には八〇番陸用爆弾一発か二十五番陸用爆弾四発を搭載し、彗星には五〇陸用爆弾か、二十五番陸用爆弾二発をそれぞれ搭載している。
天山の内、二十六機に新型のクラスター爆弾であるタ弾を搭載させている。これは爆弾本体の中に子爆弾が多数内蔵されており、投下すると爆弾先端にある羽が空気抵抗により回転し、最後まで回り切ると外殻が外れて子爆弾がばら撒かれる、という寸法だ。
一〇kgの子爆弾が七〇個内蔵されており、それを約三〇〇mの範囲にばら撒く訳である。子爆弾一個に五kgの爆薬が内蔵されており、破壊力は十分である。
今のところ対地攻撃専用であるが、これを更に対人殺傷力を高めたものの開発も進められている。
開発中なのは二種類のタイプで、空中で炸裂させて鉄球をばら撒くタイプ、焼夷弾タイプである。
前者は近接信管の開発に手間取っているので1945年に実用化出来るかどうかと言った感じだ。
対して焼夷弾タイプは割とすぐに実用化出来る見通しだ。
構造は単純で、外殻、雷管、焼夷剤に起爆点火する為の爆薬を少量入れて残りは全てゲル化させた油脂やガソリン、ナフサに増粘剤を混ぜて爆弾に充填すれば完成だ。
焼夷弾だから他の爆弾のように外殻を強固にして破片や爆風で敵を殺傷する訳では無いから爆弾本体の外殻も極端な話、周囲を燃やすのが目的だから金属である必要は無く、内側に防漏塗装を施した木材でも構わない訳である。
金属製外殻でも、普通の爆弾より圧倒的に薄くていい訳だから省資源で大効果を発揮出来る。
一応、今回の作戦にも試作品が各空母に四発づつ積み込まれているのだが、対飛行場爆撃となると焼夷弾はあまり威力を発揮しない。
なので飛行場攻撃にはタ弾と普通の陸用爆弾を用いる事になった。
「制空隊が敵戦闘機と戦闘開始しました」
「数は?」
「互角と言ったところです。しかしF4FやP40と言った旧式機が多く、中にはF2Aバッファローの姿もあると」
敵はF4FやP-40が数的主力で、そこにP-38と新型機P-47が二〇機づつほどいるという。
どうやらP-47は欧州に送られる予定のものを、我々の豪州に対する作戦に慌てて配備したらしい。
機体性能は良いが、数が揃って無いなら脅威では無い。
「幾ら最新鋭機と言えども数が揃っていないのならば脅威では無い。制空隊にはそのまま戦闘を続行させよ」
「はっ」
制空隊から遅れること、三〇分。
第一波攻撃隊が空域に到着した。すると拮抗状態となっていた制空隊と敵迎撃隊の空戦が我々有利に傾いた。
攻撃隊には三〇機ほどの烈風が随伴しており、その内の二〇機が空戦に参加したことで数的有利が明確になった。
敵戦闘機を抑え、攻撃隊はなんら妨害されることもなく飛行場へ爆撃を開始した。
三〇分にも及ぶ爆撃で三箇所確認されていた飛行場は全て破壊された。
これで敵航空機に妨害されること無く上陸作戦を行える。
攻撃隊の収容をしてから上陸作戦を実行する。
「シドニーへ船団を近付けるぞ。上陸地点は事前の計画通りブロークン湾、ウロンゴン、スタンウェルパークの三箇所だ」
「はっ」
シドニーへ直接上陸するのではなく、シドニー近郊の海岸に上陸してシドニーを包囲する。
シドニーには少なからず正規部隊の守備隊がいるはずだから丸ごと殲滅してしまおうというわけである。
民間人の扱いについては民間人には水食料を配るという措置を取る。
まぁ、早い話が人質としつつ心象を良くしておくわけである。
砲撃、爆撃で支援を行いながら上陸作戦を見守る。
この上陸作戦には以前のニューカレドニア島攻略作戦などで鹵獲していたM3軽戦車、M5軽戦車、M3中戦車、M4中戦車などの米軍製戦車も多数投入されている。
豪州軍には米軍から数多くの装備や車両が供与されており、自前の九七式中戦車や九五式軽戦車ではまるで歯が立たない。
基本的には豪州大陸は今までのジャングルや狭い小島の戦場とは違って開けた広大な地での戦いになる。中国大陸とは違い、大規模な機甲戦が発生する可能性もある。
それらの可能性に備えての投入である。
「上陸作戦の進捗はどうだ?」
「海軍さんの艦載機が海岸線の防御陣地を叩き、最初に歩兵と工兵隊が上陸しました。そして今は特大発動艇、超大発動艇、第一〇一号型輸送艦を用いて戦車隊の揚陸を進めているところです」
第一〇一号型輸送艦は戦車揚陸艦として設計、建造された艦である。
今回の作戦には全二十五隻が投入されており、揚陸の難しいM4中戦車を搭載している。
第一〇一号型輸送艦かM4中戦車を四輌、人員約三〇〇名、物資二十六tを搭載することが可能だ。
海岸に直接乗り上げて、戦車、兵員、物資を即座に揚陸することが可能だ。
「戦車の揚陸に当たり、まず最初に砂浜に穴空き鋼板を展開しています。じゃないと履帯が砂を巻き上げて嵌ってしまう可能性が高いんです」
「どれぐらいで戦車部隊の上陸が完了するか?」
「M4中戦車だけで六〇輛以上ですから少なくとも二十四時間は掛かりますね。他の戦車も加えると多分、二日は掛かるんじゃないでしょうか?」
「ふむ」
中々時間が掛かるな。
出来れば敵兵力が逃げてしまう前に、早めにシドニーを包囲したいところなのだが仕方が無いか。
陸軍連絡士官は二日掛かると言ったが、実際には翌々日の三時頃には全ての揚陸作業を完了させ、一部部隊は既にシドニー包囲作戦のために進軍していた。
包囲はブロークン湾から始まり、ハークスベリー川、コロ川を結び、そこからクラジョンと言う町を占領、グローズ・ベール、ヤラマンディ、ウェンマリー、スプリングウッド、ブラックスランド、グレンブルックを順々に占領、ネピーアン川に沿って下り川沿いのマルゴア、ワラシア、ワラガンバ、グリーンデール、ブリンゲリー、コビッティ、カムデン、スプリングファーム、ローズメドーを占領。
更にキャンベルタウン、スタンウェルパークを占領し、包囲を完成させる。
包囲の更に北側にある上陸地点の一つであるウロンゴン占領は北上してくる敵部隊を押し留める為のものだ。
このシドニー上陸作戦には日本本土、満州から六個師団及び二個旅団が抽出され、その兵力は十二万名を超える。
そこに海軍陸戦隊が六〇〇〇名ほど、主に野砲、重砲部隊を中心とした編成で送り込まれる。
合計して十三万名の兵力となる。
輸送船六十七隻を動員するが、一度に十三万を超える兵力の輸送能力は無い為、ニューカレドニア島に部隊を集結させておき、二回に分けて輸送する。
補給に関しては川が使える為、上陸作戦終了後は大発動艇や小発動艇、特大発動艇などを用いて河川軌道による補給を行う。
陸路より沢山の物資を一度に運べる為、河川機動が出来るのは有り難い話だ。
飛行場は野戦飛行場を作り、零戦や烈風を主力に数十機ほど送り込むに止まる。これは敵の反撃などでいざ撤退、となった場合に飛び立って空母に直接着艦して逃げられるようにする為である。
「司令、航空燃料の残量に不安が出てきました。出来ればそろそろ補給をしたく」
「宜しい。対潜哨戒機と直掩戦闘機を上げてから補給を始めよう。他の物資については大丈夫か?」
「燃料が若干心許無いぐらいですね。あとは生鮮食料と水、嗜好品を幾らか補給出来れば暫くは問題ありません」
「各艦は?」
「駆逐艦に燃料不足に陥る可能性があります。とりあえず今日一日は問題無いですが、このままだと支障が出かねません」
「宜しい。では艦隊はこれより交代で補給作業に移る。最初に空母と直掩駆逐艦から始める」
「はっ」
まず烈風を二〇機、対潜爆弾や陸用爆弾を搭載した天山(六〇番一〇発)を各空母から十二機づつ発艦させる。
続いて彗星を各空母から十二機づつ発艦させる。
これでしばらくの間の対地支援や対潜警戒には事欠かなくなった。
その間に補給作業を終わらせてしまおう。
タンカーと輸送船は両舷から補給作業を行えるから、一隻当たり二隻同時に補給出来るわけだ。
最初にタンカーの両舷に空母五隻が位置取り、速力を二ノットまで落とす。
そこから空母からワイヤーを二本、前後で一本づつ撃って伸ばす。
このワイヤーはガイドで、これを頼りにより太いワイヤーを伸ばして蛇腹状の燃料パイプを伸ばして給油、物資を受け取るわけだ。
空母の側面にはその為の片開きの開閉式扉が備えられており、補給の際はこれを開けて艦載機格納庫内に直接物資を入れ、そこからバケツリレーで食糧庫や弾火薬庫に運び込むのだ。
だから格納庫内を出来る限り空き状態にしておくために先程艦載機を可能な限り発艦させた訳である。
残った艦載機は格納庫の中の邪魔にならない場所に避けられている。
「給油作業と補給作業を合わせて六時間で終了します。その後にささやかながら艦内酒保を開こうかと」
「それはいい。長期の作戦になるから開いてやろう」
主計長が今のうちに艦内酒保を開いて戦意高揚をしよう、との提案をしてくれた。
今回の作戦は長期間になるのは避けられず、となると整備員や搭乗員達はローテーションを組んでいるが常に動き続けることになる。
そのぶん疲労の蓄積は尋常なものではなく、各空母毎に休みを設定して搭乗員と整備員、乗組員の休養に充てたりもするが、やはり中々疲労は抜けない。
その為に、ガス抜きとして甘味や酒煙草を艦内酒保で支給するのである。
この補給作業で一番大変なのは魚雷と爆弾の補充である。
先の海戦で魚雷は大部分を使ってしまい、各空母には数本づつが残っているだけだ。
敵艦隊が出てくるとは言い難いが、備えておくに越したことはない。
爆弾も対地攻撃、体幹攻撃合わせてかなり使っている。これ以降のことを考えればここで一度補充しておくべきだろう。
翔鶴型航空母艦は九一式航空魚雷を五〇本、爆弾を一〇九t分搭載可能だ。
本土や停泊中であればクレーンを使って纏めて一〇本づつ積み込めるがワイヤー一本が頼りの輸送船からの補給はそうはいかない。
事故になれば死傷者多数、翔鶴は大破とまでは行かないまでも入渠は避けられず、輸送船は沈むだろう。
最悪、輸送船に積まれている爆弾や魚雷に誘爆してその余波で空母も沈みかねない。それぐらい輸送船はから空母への魚雷や爆弾の補充は大変な作業なのである。
一番最初に空母と直掩の軽巡、秋月型駆逐艦が補給を終える。
最初に補給を終えた我々は一旦艦隊から離れ、補給作業中の味方が敵に襲われても対応出来るように別の場所で陣形を取る。
今は各駆逐艦が順次補給作業中だ。
五航戦、三航戦、四航戦がそれぞれ全部の補給作業を終えるのに丸一日掛かった。
これは練度不足ではなく単純に艦艇数が多いため、その分時間が掛かるのである。戦艦や重巡も上陸前に支援砲撃を海岸線に行って砲弾を消耗していたし、燃料も少なからず消費している。
駆逐艦は搭載出来る燃料が空母、戦艦、巡洋艦に比べ少なく底を付きやすい。
その間、空母は艦載機を出して陸軍部隊の支援、南、西から迫る敵地上部隊への爆撃と忙しなく動いていた。
制空権はこちらが完全に奪取しているし、メルボルンの方から爆撃機が飛んでくることもあったが此方も早々に潰して回ったので再稼動は出来なかろう。
飛行場を復旧させても、肝心の戦闘機や爆撃機が無くては意味が無いからな。
二週間も経つと、ウロンゴンに上陸した部隊は敵の防衛線を突破して山地を越え、平地に出た。
戦車が猛威を振るい、此方の航空攻撃で戦車や装甲車の大部分を失っている敵には抵抗する術は殆ど無く、決死の肉薄攻撃ぐらいしか戦車を撃破する望みは無くなっていた。
平地を制圧すると、工兵隊の手によって野戦飛行場が作られ、三日後には
護衛空母によって運ばれてきた零戦や烈風が三〇機ほど、野戦飛行場に運び込まれて稼働を始めていた。
転圧とコンクリート板を敷いているから烈風でも十分に稼働出来る。
零戦は武装を二〇mm四挺に換装したタイプである。
主翼燃料タンクの大部分を削り、装弾数を各門二五〇発に増やしている。
戦闘機とは別に一〇機ほどの天山が送り込まれているが、母艦航空隊のものとは型式が違う。
この天山は『天山二型』と呼ばれ、爆弾を搭載出来るハードポイントを多くしたものだ。
今のところ、胴体下に十箇所、左右翼下にそれぞれ六箇所の二十二箇所のハードポイントを備える。
防弾性能と機体各部の強度を強化した結果、航続距離はせいぜい一〇〇〇武装搭載時の速力は三〇〇km/hを発揮するのがやっとなぐらい低下しているし、翼下には五〇kg爆弾か開発中のロケット弾ぐらいしか装備出来ないがそれでも対地攻撃という点において陸海軍中、トップクラスの性能を誇る。
搭載可能な武装は、
一〇kg爆弾
五〇kg爆弾
一〇〇kg爆弾
二五〇kg爆弾
五〇〇kg爆弾
八〇〇kg爆弾
ロケット弾十二発
以上から色々と選ぶことが可能だが最大爆装量は一tが限界である。
というか普通、こういう対地攻撃機は双発機とか、米軍のP-47とかF4Uみたいや大馬力高出力エンジンを持ってる戦闘機の役目なのでは……?と思わなくも無いがまぁ有り合わせで作ったにしては中々良い機体ではあるだろう。
そもそも我が軍にはそんな戦闘機、今のところ存在しないし。
烈風も戦闘爆撃機として運用出来るだけの能力は無いからなぁ。期待するとしたら陸軍が開発中の新型戦闘機だが、あれは1944年にならないと配備されないようだし、戦闘機としては別としても多分戦闘爆撃機として満足な性能は無いだろう。
なんにしてもこのタイプの対地攻撃用の機体は制空権ありきなので、制空権を失えば途端に役立たずになる。
だから投入するなら制空権を確実に奪取した状態か、或いは十分な護衛戦闘機を付けられるか、という状況でしか運用が出来ない。
何にしても、豪州上陸から三週間目に入る頃にはシドニー包囲網は完成し、ブリスベンも同様に包囲網を完成していた。
これで少なからず豪州政府の動揺を誘えるはずだ。
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一か月も経つと、兵糧攻めの効果が絶大になり始めた。
守備隊に加えて数十万、百万もの市民を食わせていくだけの食糧備蓄は到底存在しなかったのである。
これまでにシドニー、ブリスベン両都市解囲の為に攻撃を仕掛けて来た豪米軍であったが、周辺空域の制空権を此方に完全に握られた上、米英軍の増援部隊も無く、掻き集めても僅か数万程度の戦力では我々と戦うことも出来なかった。
シドニー解囲の為に、足掛かりとしてウロンゴンに攻撃を仕掛けて来た豪軍は、爆撃や機銃掃射により陸戦を挑む前に大打撃を被り、陸戦ではイラワラ湖南部で大部分が包囲殲滅されるに至った。
民間人には週に一度、炊き出しを行いながら胃袋を掌握し、シドニー包囲戦開始から二か月ほどでシドニー守備隊は降伏、三日ほど遅れてブリスベンが降伏。
兵力を終結させ、キャンベラへの攻撃を匂わせると遂に豪州政府は我々との講和の席に着いたのである。
1943年十月十三日。
日豪講和条約が締結された。
内容は以下の通り。
・豪州政府は今戦争中、連合国及び連合軍から脱退し、如何なる協力もしない事。
・豪州政府は日本との通商を国際市場に置ける適正価格再開し、輸出入を再開すること。
・日本政府は条約締結後、一か月以内に陸海軍部隊を撤収させること。
・日本政府は豪州政府の主権を尊重し、民間へ発生した被害を弁済すること。
・豪州政府や豪軍による独断で連合国、連合軍に参加する動きがあれば条約は即時破棄される。
以上五つが主な条項となる。
これにより豪州政府は戦争中に限り、連合国及び連合軍から完全に脱退することとなった。
これは条約締結後に正式に豪州政府から連合国に対し声明が出された。
各国の反応は様々であったが、英国は非難を、米国は致し方無し、という立ち位置となった。
英国政府は最後の最後まで戦え、と言っていたが豪州政府はそれに対して、
『最低でも陸軍四〇万名、海軍から正規空母数隻以上を加えた本国艦隊並みの艦隊を最低でも四つ派遣しろ出来ないなら我々の決定に文句を付けるな黙ってろ』
というやりとりがあったとか。
これで英国と豪政府の仲が悪くなったらどうなるんだろうか。
ともかく、こうして豪州作戦は成功裏に終わったのである。