対ホロウ六課のゲヘゲヘ言ってる不審者おじさん。 作:なんとほくと
GBVSRにハマってたとか
そんな事は
別にありません。
ほんとです。
おはよう新エリー都!あなたが生きるこの終末世界は、今日もいつも通りです。
もちろん。災害が全てを呑み込み、犯罪者が街を闊歩し、権力者の悉くが腐敗するこの街の日常が普通の筈がありません。
それがどんなものかって?
それは...いつものように、子どもが公園で砂遊びをしてはしゃぎ。
いつものように、それを大人たちが眺めて微笑み。
そして、いつものように、人々の目に見えない日陰で悪鬼羅刹が蠢めき、謀略策略が弾丸のように飛び交う。そんな"いつも通り"。
そんないつもの景色をあなたがゲヘゲヘしながら眺めていると、ふと背後から
「うわ、みてあれ.....」「やば.....通報しとく?」
と、下校中の女子高生達の、冷ややかな視線とともに、心無い言葉が送られてきた。
しかし、この程度では、あなたは決して折れることはない。
口を開けば修行の話しかしない同僚や、四六時中サボりの言い訳をしている同僚。 眼鏡を光らせ、仕事の話しかしない同僚達とお喋りして鍛えられたコミュニケーション能力を駆使すれば、こんな状況を乗り越える事など、難しいことではないのだ。
あなたは意を決し、女子高生達に振り返り声を掛ける。
「ふひひ......お嬢さんたちぃ、チョット、酷くないかナ....?」
──それを例えるならば。それを見た知能構造体の倫理コアがエラーを吐き、機能が向こう数十年は停止しかねない、そんな光景であった。
「──ぃやあああああああ!!!」「っ、ちょっ!置いてかないでよ!!」
もちろん、あなたの圧倒的な不審者力を持つ顔面に耐え切れる訳もない。
女子学生たちは、どこかへ走り去っていってしまった...あなたの無害な一般人への道のりはまだまだ長いようだ。
しかし、それもそのはず。あなたは一般人からは対極の位置に居るのだ。そんな事が出来よう筈もないが、あなたはそれに気が付いていない。
「はぁ、こう拒否られると流石に傷つくね.....みんな逃げちゃって。あ、お使い頼まれたんだった。えっと、なになに?」
いそいそとスマートフォンを操作し、メモを確認する。
そこに書かれていたのは
「昔のB級映画とメロンと、コピー機のインクか」
(先に映画借りてから、メロンやらの食べ物買って帰ろうかな。)などと呑気に考えていると、あなたの先程の 破壊的不審者スマイル によって人がはけていたはずの背後から、
「すみません」
「治安局です、お時間よろしいですか?」
と、職質フルコースへの招待状が届くのだった。
・・・
「日島さん、また貴方ですか.....」
「うむ、1日にボンプが迷子になる回数より多いとは。日島殿にはなにか特別なオーラがあるようだ」
「へへへ.....すみません.....」
昼下がり。ルミナスクエア交差点前の治安局署内にて、黒髪に赤のメッシュが入った女性の治安官と女性の知能構造体に叱られている男。その名は日島歩廷。
でっぷりとした明らかな不審者が、治安官に囲まれてお叱りを受けているというのは、それはそれで何かをやらかした時の正しい姿ではあるのだが。
「ひひっ...いやぁ、僕はただ微笑ましい光景を、見守っていただけなんだけどねぇ....?」
そう。あなたはただ、新エリー都に住む人々を見守っていただけなのだ。
こんな事をされる筋合いは無いと貴方は思っているが、冷静に考えなくてもそんな訳はない。
あなたは、そこに存在するだけで、周囲に不安を抱かせる事が出来る見た目をしている純度100%の、スーパーパーフェクト不審者なのだ。治安局へ連行されたのも当然の帰結と言える。
「日島さんは、その......ダイエットなどに挑戦してみてはいかがですか?印象も随分変わると思いますが...」
「それが、その......お恥ずかしいことに、この体型のまま筋肉がついちゃってて、中々痩せれないんだ」
「そうですか...」
半ば諦めたような目をする朱鳶。あなたが完全無欠の不審者から脱出する日なんて、来る訳がありません。
このあなたの体型。実際には、過去にT.O.P.S.を相手にやんちゃを繰り返していた頃の、投薬による副作用の効果であったりするのだが "まぁ態々そんなことを表立って言う必要はないだろう"と、あなたは嘘をついておく事にした。
なお、本気で痩せようとして失敗するのを五度繰り返しているのは、ここだけの秘密である。
そんな事を考えていると
「おぉ、日島殿の肢体はまことに堅いな。我ら知能構造体でもこれほどの硬さは中々おるまい」
「青衣先輩!?」
なんと青衣は、正座しているあなたのお腹を指先で突き始めた。いや、つんつんどころでは無い。ついにはあなたのお腹をもみもみし始めている。
この自由奔放さ、あなたはどこかの課長に似たものを感じずにはいられません。
「青衣ちゃん、ステイ。ステイだよ青衣ちゃん...!」
「なに考えてるんですか先輩!離れてください! まったく。人のコンプレックスかもしれない部分をいじくり回すなんて。そもそも青衣先輩は─────
あなたから引き剥がされた青衣は、朱鳶の説教をくらっているが、当の本人はなんとも言えない絶妙な顔をしてどこ吹く風だ。
この威風堂々たる様。まるで反省のかけらも感じられません。この姿勢も見習わなければならない、のかもしれない。
「まぁまぁ、僕は別に気にして無いから...」
こんな話をしていると、「日島さんの身体って柔らかそうですけど、その実嘘みたいな硬さしてますよね。どんな鍛え方してんすか?もう鋼鉄ですよこれ。鋼鉄。」と、浅羽悠真お腹をコンコンと突かれながら笑われたのをあなたは思い出した。
.....あなたは段々とムカついてきたので、来週の掃除当番を悠真にする事に決めた。
「.......」 「ふむ....」
あなたがそうして感傷に浸っていると、説教をしていた朱鳶さんと、説教をされていた青衣さんが、なにやら神妙な面持ちで目配せをした後、こちらをじっと眺めてきているのに気付く。
ついにあなたが逮捕される時が来たのだろうか。戦々恐々としながら相手を窺っていると
「あの!やっぱり今からでも、治安局に来ませんか!」
朱鳶から飛び出た言葉は、まさかまさかのスカウトだった。
天変地異でも起こっているのだろうか。もしや誰かに脅されているのか?あなたは不思議に思わずにはいられない。
今耳に入ってきている情報を整理すれば、どうやら朱鳶はあなたを治安官にしたいようだ。
ダチョウが賢くないように、魚が空を飛べないように、あなたは人を安心させる事ができません。
それが天地開闢、この宇宙が始まってから変わらぬ不変の理なのですが、どうやら宇宙の法則が乱れようとしているようです。
「ほ、本気で言ってる....?僕って一番治安官向いてないと思うんだけど....」
「万事一面のみならず。治安維持のみが治安官の仕事ではない、例えばお主は機械の整備が得意と聞いてあるぞ。どうだ?我の身体の整備をしてくれぬか。最近肩の調子が───」
「青衣先輩、それはホワイトスター学会の方に頼んでください!」
「うひひ...ウチの課の武具やら防具やらは全部僕が整備してるけどさ...知能構造体ってなったら大分厳しいんじゃ....?」
「なに、分からない箇所があれば教えてやろう。玉偶の構造に触れる事ができる機会なぞ、この先あるか分からんぞ?」
「先輩!」
と、なんだか取調室がガヤガヤと騒がしくなって来た時。
不意に部屋の扉がガチャリ!と勢いよく開き
「失礼する。受付の者からここに居ると聞いたのだが」
聞き馴染みのある声が掛かる。
顔を向けるとそこには、尖った獣耳を持ち、腰に刀を携えた最少年の虚狩り。我らが対ホロウ特別行動隊第六課課長。
「やはりここだったか。迎えに来たぞ」
星見雅 がいた。
・・・
治安局から解放された後。あなたと雅は、雑貨屋141に足を運んでいた。
理由はもちろん、雅の好物であるメロンを購入するためだ。
「ひひひ、いや〜ありがとねぇ...雅ちゃん!雅ちゃんが居なかったら僕、どうなってたことやら...」
「なに、日島が治安局に拘束されているのはいつもの事だ。謂わば、人を迎えにゆく修行といった所だろうな」
顎に手を当て悩ましい表情をしながら、"やはり一玉丸々買うか..."と呟く、いつもと変わらない我らが課長に、あなたはひどく安心する。
大方、お使いに行かせたあなたの帰りが遅かったので、探しに来たのだろう。それで一直線に治安局にすっ飛んでくる所から、あなたへのある種の信用が伺える。
「
「なに。民草を守護する刃として、いついかなる時でも平静を保つ事は重要だ。これも修行、といった所だろう」
「そんな、いつも通りな雅ちゃんは....ふひひ、今日はいつもとは違う服なんだねぇ?と〜っても、似合ってるヨ!」
「む、そうか。なら、新しく仕立てた甲斐があったと言う物だ。」
そう言いながら華やかな笑顔を見せる雅。不意に見せる年齢相応の仕草が、やはり成熟していてもまだまだ子供なのだと、あなたに認識させてくれる。
────どんな気持ちなのだろうか。
あなたはそう思わずにはいられない。幼き頃に、平凡たれと愛を尽くしてくれた母を亡くし、幼子が享受するべきだった日常を失くし。
一度挫折し、生きる意味が分からなくなっても、それでも衆生の為ならんと
彼女の心の芯は強い。そんな環境に置かれても、民を守る刃として鍛錬を積み重ね、遂に虚狩りという称号にすら手が届いてしまうほど。今や彼女は人類がホロウに反抗する為の旗印であり希望だ。街を歩けば人だかりができるほどの人気から、それが伺える。
そんな生き方、あなたには到底真似できないだろう。いつか、どこかで挫折してしまう。
それこそ、あの大災害の時のように。
そうだ。あなたは今でも、
(雅の事まで気に掛けられていれば。)
そんなもの、ただの
もし、あなたが雅の母を助けられていたら。
もし、あなたが母を失い、血を欲しがる妖刀に駆られ、怒り狂う雅を止められていれば。
もし、あの時目の前で散った数々の命を、救えていれば。
もし もし もし。
────なるほど。こう見てみれば、あなたはしっかりサバイバーズ・ギルトに囚われているようだ。
それを自覚したあなたは、それ以上深くは考えないようにした。全ては過ぎ去りし昔のこと。後悔は後先に立たず、重要なのは今をどうするか。なのだ。
それに、こんな事で六課の皆んなに迷惑を掛けるなど論外だ。それだけはあってはならない。
あなたはそれを自覚している。外にはおくびにも出さないよう努めている。勘のいい隊員には気づかれているかもしれないが。
あなたは大丈夫だ。個性的な対ホロウ特別行動隊第六課の不審者担当、日島歩廷だ。
───島!」
あなたは大丈夫だ。最少年の虚狩り、星見雅の最強の盾。日島歩廷だ。
「───日島...!」
「うおっ、とと」
「気づいたか。大事ないか?呼びかけても応答が無かったが...」
「ううん。だいじょぶだいじょぶ。チョット疲れちゃったのカナ?」
あなたはまるで普段と変わらぬ態度で応える。
どうやら心配をかけてしまったようだ。物憂げに垂れる狐耳と目尻が、それを証明している。
「............そうか、なら良い。」
「あ!雅ちゃん、この新発売のメロン味のスナックとか良いんじゃないカナ?」
「...成程、これを三つほど買っていくか。」
あなたは目を輝かせながらお菓子をカゴに入れる雅を見て、身に纏っている、いつもとは違う衣装に興味を持った。
(ほほう、この服......)
あなたは雅を眺める。
黒と白を基調とした、金の銀杏があしらわれた華やかな羽織と、雅本来の素朴な美しさとのコントラストが、可憐さを何倍にも引き上げている。普段の課の制服とは違い、かなり露出ある格好になってはいるものの、下品さなど微塵も感じさせない着こなしは流石星見家のお嬢様といった所だ。あなたと隣合って歩いていたら、あまりにも場違いに見えることは想像に難く無い。まるで美女と野獣。いや、月ととすっぽんと言ったところか。
「....随分と情熱的だな」
あなたはいつの間にか、メロン味のお菓子に飛びついていたはずの雅が、こちらをじっと見つめている事に気が付いた。
「あっ、その...ご、ごめんよ....あんまり可愛かったもんだからつい...」
「........そうか。」
雅の頬には朱が浮かんでいる。あなたは、どこぞの人の機敏を察するアンテナがブチ折れたラブコメ主人公の鈍感ボケナス難聴野郎のごとく、てっきり怒っているのだと勘違いしているため、その朱が照れからくる物だと理解していません。
なんと度し難い事でしょう。この上ない程の不審者おじさんな上にこんな属性まで隠し持っていたとは、あなたに救いはあるのでしょうか? きっと無いでしょう。
「...........お前になら.........別に..........」
「んん?何か言った?」
「コホン...いや、ただの独り言だ。気にするな」
今まさにクソボケ難聴が発動してしまいました。なんなのでしょうこの空間は。ベッタベタのラブコメゾーンが展開されていますが、誰かのスタ◯ド攻撃を受けているのでしょうか?
甘すぎる雰囲気に、店番のコウニュウ、アンナイ、オツリでさえ
(((コイツらさっさと会計してくれねぇかな....)))
と思わずにはいられません。私も耐えきれません、退散させてもらいます。
・・・・
「なぁ、日島...」
「んふ、どうしたのかな?雅ちゃん」
「私は...お前が思うほど弱くはないぞ」
「...?雅ちゃんを弱く思ったことなんてないよ...?」
「ふっ、そうか。......ならば今はまだ、そのままで良い」
「???」
誤字報告ありがとう!