対ホロウ六課のゲヘゲヘ言ってる不審者おじさん。   作:なんとほくと

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 ちょっと書き足した!


信頼と、信用と、あとおじさん。

 

 

 

 

 

 

 息も白く空気に溶ける季節。病床の上で、しんしんと降り積もる雪を、ガラス越しになんの意味もなく、ただ眺めている。

 そんな仕草でさえ、側から見れば悪巧みをしているようにしか見えないのがこの私、日島という男だ。

 そんな僕に見舞いに来る物好きがいるはずもなく、いや、職場の同僚たちならくるかもしれないが。このまま退院までボッチザホスピタル生活を余儀なくされるはずだったのだが

 

 「日島、来たぞ。」

 

 

 そんな病院のナースすら関わろうとしない僕の病室の扉がガラガラと音を立てて開き、次に凛とした声が掛かる。それは───

 

 

 「メロンを持ってきた。食べるか?私が切ろう」

 「ぐへへ...お見舞いに来てくれるのは嬉しいけど...ここ最近、毎日メロン持ってきてない?」

 

 

 最年少の虚狩り、我らが対ホロウ特別行動部第六課課長、星見雅その人である。

 そう、何を隠そう彼女は数日前から毎日決まった時間に、決まった見舞い品を持ってこの病室に訪れているのだ。しかも大好物のメロンを一玉、必ず。

 そして空中にメロンを放り投げたと思えば、手元が見えない程のナイフ捌きで果物を切る。まるで曲芸だ。そうしてものの数秒でカットメロンが出来上がると、彼女はまるで石でも背負っているかのような、重苦しそうな表情で口を開く。

 

 「お前の傷は、私の不手際だ。無辜の民を守ると、悪の悉くを斬り伏せると誓ったこの刃で、お前を傷つけてしまった。」

 「...それはち「違わない。お前がこうして、傷ついてしまった原因は私なのだ。」

 

 そう、貴方がなぜこんな全身に包帯を巻き付けたデブ不審者ミイラに進化しているのかというと、かの讃頌会とブリンガーの一連の事件で、サラに暴走させられてしまった雅の相手をすることで、被害を最小限に抑えようとしたのが原因なのだ。

 

 暴走して十全の力を発揮できていなかったとはいえ、相手は虚狩り。結果、全身に切り傷を浴び、雅が正気を取り戻したところで出血多量で気を失い、あえなく病院にボッシュートされ、今に至るというわけだ。

 

 「...本当に、すまなかったな。この妖刀は、私自身の問題だったというのに」

 

 彼女はいつのまにか綺麗に等分されていたメロンをぐいぐいと押し付けながら、まるで罪人が罪を告白するようにそう言った。

 いつも元気にピンと立っている耳を萎れさせそう言う彼女の、宝石のような紅を抱いた瞳が、今は少し霞んで見えた。

 そんな彼女に、口にメロンを押し込まれているあなたはいつものようにこう言わなければならない───

 

 

 「んぐっ.....っだから、違うんだ。」

 

 「....?」

 

 首を傾げる彼女。とてもかわいい。

 

「ぐへへ.......違うんだよ、そもそも。前々からその妖刀の事は知ってた。刀の事、家の事、妖刀の持ち主の血と絶え間ない研鑽の果てに強力な力を得ていることも、ね...」

 

 「ひひ.....だから暴走した雅ちゃんが、妖刀に呑み込まれないように頑張ってるだろう事は分かってたし、誰かがそばに居てあげるべきだと思った、それができるのは僕だけしかいないとも。そんなバカをやらかしたから、僕はいまこうなってるんだ。君のせいじゃないさ」

 

 「っ、だがそれでもお前を傷つけた事に変わりは......!それにこの刀の事をどこで....」

 

 そう。結局のところ、これはただの自己満足なのだ。あの時、あの瞬間、あの状況に居合わせた『対ホロウ六課隊員 日島歩廷』としての最善は、雅を信じ、裏で糸を引きながら混乱を笑い、衆生の平和を脅かさんとしている輩を追う事だった。

 しかしそれをせず、敵から目を背け、自身の力に驕り、結果こうして身体的に、あるいは精神的に傷を負う事になったことは、確かに僕の責任なのだ。

 

 「ふへへ.....そこはナイショだよ.....長く生きてたら色々知っちゃっただけさ。それに、これを言っちゃなんだけど、あの時は、別に市民を守ろうだなんて考えてなかったんだよ?」

 

「あの時は、あの時はただ......君を、君だけを守るためにこの身体を使ったんだ」

 

 「────っ......」

 

 「ふへへ、結局僕はズタボロ、雅ちゃんにも無理をさせちゃったし、こうして心配もかけちゃってる訳だけどね」

 

 穏やかな目で相手を見つめる貴方と対照的に、彼女は俯き、震えた、今にも掻き消えてしまいそうな声で言葉を漏らす。

 

 「──お前は、いつも、いつもそうだっ。......自分自身を、最初から勘定に入れず、生傷を増やしっ、いつものように笑っているっ。わたしが、わたしがあのときどんなきもちだったか...!」

 「おっととっ.....」

 

 

 そう言って彼女は貴方に駆け寄って、上体を起こした僕に抱きつき、嗚咽混じりの声をこぼす。

 あぁ、僕はなんて弱いんだろうな。そう度々実感する。

 昔と何も変わっちゃいない。いつまで経っても、自分がただ死に物狂いで生きてきただけの凡骨なんじゃないかと、そう思わずにはいられない。彼女をこんな気持ちにさせた自分に嫌気がさして、でも何かせずにはいられなくて。

 

 いつも頼れる、でもちょっと心配になる彼女の背がいつもより小さく、ひどく儚げなものに見えて、僕は彼女が落ち着くまで、そっと背を摩る事にした。

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、抱き合っていた貴方と雅は、どちらからともなく口を開く。

 

 「.......怖かった、おまえを失ってしまうんじゃないか、と。私の刃が、誰かを、お前を傷つけてしまった事が.....っ、怖かった.....!」

 

 「....そっか」

 

 僕の服を湿らせ、嗚咽混じりでそう言う彼女。

 

 「でも、もうそんな事はさせない。お前がそうしなくてよくなるくらい、私が強くなって見せる。全てを守って、全ての悪を、この手で斬り伏せてみせる。」

 

 いきなり顔を上げてこちらを見上げると、目尻が赤らんで、瞳も潤んだ、しかし決意のこもった表情を浮かべ、そう宣言する。

 どうやら決意を新たにしたようで、その心の芯の強さと、不屈の精神に感服する。

 

 「....だから、今はもう少し、このままでいさせてもらえないか」

 

 「ぐへへ....こんな所、柳ちゃんには見せられないからねぇ」

 

 どうやらまだ解放はされないようだ。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

 「──そうだ、今日こそはお前といっしょに寝てもいいだろう?」

 

 

 もちろん、貴方の答えは決まっている。

 

 

 「──お見舞いでしょうが!帰んなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 ちなみにこの後抱き合ってるところをしっかり副課長に見つかって怒られてます。


 雅ちゃんは信頼できる大人の前だと結構甘えん坊さんな所、っていうか年齢相応の振る舞いを見せる所あると思うんですよね。
 それに挫折しようとも、逆境に立たされようとも立ち上がって、立ち直って、もう一度起き上がる力がある子だと思います。
 そうでなきゃ、虚狩りになんてなれてないと思いますから。
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