もんむす・くえすと! ぱらどっくすRPG  きつねのお話   作:ケルル(ハーメルン始めました)

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前回のあらすじ…キリス、ソニア「「変な恰好…。」」
        さくら(どっちもどっち…。)


8,勇者の儀式

 

「ソニア様、ありがとうございました。」

「色々とすまないね。儀式も近いというのに。」

「いいのよ。困っている人を助けるのも神官の役割だからね!」

 

 

 村でソニアと出会ったさくらとキリスは、ソニアに頭を下げていた。前回の話の後にさくらはソニアに勇者の儀式についてのいくつかの質問をしていたのだ。質問自体はあまり多くはなかったが、それでも聞いた後なのだから感謝の意を込めて頭を下げているのだ。

 

 

「じゃ、楽しんでね~。」

「はい!」

 

 

 ソニアはさくら達に手を振りながらイリアス神殿の方に向かっていった。これから始まる儀式に神官の一人として参加するらしく、その準備もあるのだろう。さくら達に背を向け、少し駆け足で歩いて行った。

 

 

「キリス様、僕たちも行きましょう!」

「あぁ、行くとしよう。」

 

 

 ソニアの背中を見送った後、さくら達もイリアス神殿へと歩き出す。道なりに歩いているさくら達に一人の老婆が話しかける。

 

 

「そこの旅人や。新鮮な野菜お一つどうだい。」

 

 

 彼女はイリアスヴィルで育った野菜を売っていた。売り場としてはどこかの市場と言えるほど大きいものではなかったが、それでも彼女の小さな売り場には人が何人か並んでいた。

 

 

「ほう、野菜か。少し気になるね。」

「見ていきます?」

「良いのかい、では少し。」

 

 

 彼女の言葉にキリスが反応した。やはり出身世界が違うことから、自身の世界とどの様な差があるのか気になるのだろう。キリスの視線は彼女の売る野菜に釘付けだった。

 

 さくらもそんな心境のキリスのことを察したのか、キリスに見に行こうと話す。そうして二人は列へと並び、少し待って列に並んだ二人は彼女の前へと来た。

 

 

「いらっしゃい。きゅうりや玉葱、この村で取れた新鮮な野菜を取り揃えているよ。」

「どれも美味しそうですね、キリス様。」

 

 

 野菜売りの老婆の前に来たさくら達は売り物として並べられている野菜をまじまじと見つめた。彼女が売るその野菜どれもがどうやら取れたてのようで、表面の艶は良く、どれもがとても新鮮である印象を受けた。

 

 

「キリス様。どれを買いますか。費用なら僕が持ちますよ。」

「…。」

 

 

 さくらのその言葉にキリスからの返答はなかった。キリスは店頭に並べられている野菜を目に捉えると、顎に左手を当てて固まってしまった。その様子を見ていたさくらは初め、どの野菜を買おうか、若しくは自身の世界との差を実感しているのだろうと思っていた。しかし何分経ってもキリスは顎に手を当てた状態で動かずにその場で立ち尽くしている状態であった。さくら達の後ろにも列が出来ていき、さすがのさくらも気まずくなってきたのか、未だ立ち尽くしているキリスに先ほどよりも強めに声をかける。

 

 

「キリス様、キリス様!大丈夫ですか!」

「…あぁ、すまない。少し考え事をしていたんだ。」

「考えこともいいけど冷やかしはごめんだね。」

 

 

 やっとさくらの言葉に反応したキリスはもう一度野菜を見つめる。そうして今度は野菜を指さしてさくらに話しかけた。

 

 

「そうだね…。ではこの緑色のものと茶色のものを一つずつ頂けるかな。」

「きゅうりと玉葱ですね。」

「あいよ。一点ずつで合計35Gだね。」

 

 

 キリスが指さした野菜を老婆は手に取る。そうしてキリスにその野菜を手渡してさくらからそのお金を受け取る。

 

 

「ちょうどです。」

「まいど。また近くに来たら寄ってね。」

 

 

 お金を払ったさくら達は老婆の前から去る。キリスの手には先ほど買ったきゅうりと玉葱が握られていた。

 

 

「ありがとうね、さくら君。」

「いえいえ、これくらいなら大丈夫ですよ。」

「では…、イリアス神殿に行きましょう!」

 

 

さくらは財布を、キリスは野菜を手にイリアス神殿へと向かった。

村にある階段を上りさらに奥へと進んでいく。

 

 

………

 

 

 

「あれです。あれがイリアス神殿です。」

「ふぅん。あれが、ねぇ。」

 

 

 二人は兵士の間を通り抜けてイリアス神殿の前までと来ていた。イリアス神殿の前は先ほどまでは土であったが、兵士を境界にしてイリアス神殿までの道は石で作られていた。

 

 

「そういえばさくら君、この世界に来てから気になっていたことなのだけれども聞いてもいいかな。」

「何ですかキリス様。僕に答えられることなら精一杯答えますよ。」

 

 

 キリスは何やらずっと気になっていたことがあったようだ。イリアス神殿までの道の左右に立つ円柱状の物体を指さしながら話す。

 

 

「この世界は道や建築物、果てはこの地形など。所々紫色の何かがあるじゃないか。見た目もあまり良いともいえる物体ではなさそうだが、これらは何だい。」

「えーと、それは…。」

 

 

 キリスの指さした物はかなり見た目がかなり奇怪な物であった。配置的にはそこに神殿の柱のようなものが置かれてなければならない。しかしそこにあるのは紫色の何かであった。更には他の神聖さを感じる柱とは違い、何やらツタ状の物で覆われており、一目見てとてもじゃないが神殿に配置される物体ではなかった。

 

 

「…ごめんなさい。それはなんだかよく分かっていないんです。」

「ん?そうなのかい。ここまで身近にある物であれば知っていると思っていたのだが。」

 

 

 キリスが身近と言い切ってしまうのも無理はない。その物体はこのイリアス神殿だけでなくイリアスヴィルやきつねの里にも存在していたからだ。更にその物体はあくまでおかれているというのではなく、地面や建築物の一部もその物体となっている。ゲームのバクが発生しているような世界観が現実で起きてしまっているのだから、キリスが気になっても仕方がないことだ。

 

 

「僕がたまも様のもとで働いて20年以上経ちますけど、これの原因は具体的には分かっていないそうです。」

「なるほど。異世界とはいえども、限度はあるのか。」

「そうなんです。材質も構造も未知なのがまた大変で…。」

 

 

 あの未知の物体は一体何だろう。そんなキリスの純粋な疑問にさくらはうねった。キリスからすれば、何処に顔を向けてもあるありふれた物なので疑問に思うのは当然のことだった。しかしだからと言ってさくらが把握しているかと言えばそういうわけではない。

自身の体の仕組みの全てが理解できていないように、身近なものすべての正体を知っているわけではないのだ。

 

 さてキリスがこの世界についてさくらに質問している間に二人はイリアス神殿の中に入った。イリアス神殿とあるので勿論、この神殿には創世の女神イリアスが祀られている。この神殿には熱心に祈りをささげる敬虔な信徒もいる。

 

 

「神殿の中は結構広いのだね。」

「そうですよ。毎日お祈りを捧げる人たちのために考えられた構造らしいですよ。」

「ふぅん。なるほどなるほど。」

 

 

 キリスはそう話しながら周りを見渡す。初めて入った建物であることもあり、キリスは興味津々で見まわしていた。

 

 

「よろしければですけどキリス様。」

「何だいさくら君。」

「どうやら勇者の儀式の開始が遅れているようなので…、始まるまでここを軽く案内などしましょうか。」

「ぜひ頼んでもいいかな。」

 

 

 どうやら儀式の開始が遅れているようだ。しかしキリスにとっては好都合である。何せ初めてきたイリアス神殿の観光時間が取れたのだから。儀式が終わった後はそのような時間が取れるか分からないからこそ、少しでも時間が取れて良かったと言えるだろう。

 

 

「ではよろしく頼むよ。」

「はい!ではいきます。」

 

 

 さくらはキリスに元気よく答えるとキリスに対してイリアス神殿の建物の説明を始める。

 

 

「このイリアス神殿は2階建て構造で地下もあるんですよ。」

「神殿なのに二階建て構造なのかい。おまけに地下部屋まで。神殿にしては中々変わっているねぇ。」

「そちらの世界ではないんですか。このような建造物。」

「…いや、多分ないと思うよ。」

「世界によっても結構違うんですね。」

 

 

他の世界の事情に驚きながらもさくらは、今度は右にある扉の方を指さす。

 

 

「キリス様、あちらの扉の先にある部屋に入ってみてください。」

「何か、変なものあるのかい。」

「見てからのお楽しみです。」

「…まぁいいか。」

 

 

 キリスはさくらの態度に若干苦笑いしていたが、さくらの話した通りにその部屋の扉を開けて部屋の中を見た。その部屋の中には…。

 

 

「これは凄い人だな。」

「凄いでしょう!」

 

 

 その部屋の中には多くの人がいた。入ってすぐに戦士の鎧をまとった人もいればその同じ机には武道服を着た人もいる。また他にも図書館の司書の人が着ていそうな服装をしている人もいた。中々に様々なカゴテリーの人たちがいたことにより、キリスは少しの間呆気に取られていたが、先ほどから感想待ちという感じで尻尾を振りながら待機しているさくらに正直に感じた感想を伝える。

 

 

「…何かコスプレ大会でも開いているのかい。ここは」

「いや、違います。そうじゃありません。」

 

 

………

 

 

 

「ごめんよさくら君。私の失言だった。」

「別にそこまでではないですけど…、急にコスプレ大会というのでびっくりしました。」

 

 

 キリスはさくらに手を合わせて謝っていた。その原因はキリスが口を滑らせたからである。その言葉はあまり大声でなかったからこそ、他の人に聞こえているという感じではなさそうであった。しかし、気まずそうに部屋を出ていった。

 

 さて現在二人がいるのは先程行った方向とは逆の左の扉の先にある部屋にいる。これに関してはキリスの先ほどの失言が原因である。先ほどの言葉が万が一聞こえていれば気まずいどころの状況でなくなる可能性があるからだ。

 

 

「ところで、先ほどの部屋の人たちは結局のところ、何なんだい。」

「あの人たちですか?あの人たちは職業の特徴を説明する名のあるモブ達です。」

「名のあるモブ…。名のあるモブ?」

「そうです。あの人たちは自身たちのことを名のあるモブと名乗っているんです。」

「思ったよりも癖のある人たちだったな…。」

 

 

 一応補足説明すると、この世界では勇者の旅路を支援するために様々な政策が作られている。その支援というのは多岐にわたるものであるのでここではすべては説明しないが、今回の変人集団もその政策の一部である。その人たちはこの世界における職業について説明する人たちである。そのために職業ごとに合致する服装をしていたというわけである。しかしだからと言って、名のあるモブという名称は謎である。

 

 

「確認するが…、その人たちの個々の名前は例えば、モブ1、モブ2だったりするのかい。」

「いえそのようなことはないです。エリック様やナタリー様など。しっかりとした名前がありますよ。」

「であれば猶更、何故そのように呼ばれるに至ったか、興味が湧いてきたな…。」

 

 

中々に強烈なワードの登場に考え込むキリス。

このような癖の強い言葉を知ってしまえば、考えこんてしまうのはご愛嬌と言ったところだろう。

 

 

「そういえばキリス様。先ほど購入した野菜は食べないのですか。」

「…そういえば買ってもらっていた。忘れていたよ。」

「その手に握った状態で忘れていたんですか?」

 

 

 さくらは至極まっとうなツッコミをする。イリアスヴィルの野菜売りから買ったときからその手に握り締められていたからだ。その状態でどうして忘れられようか。しかしキリスはそんなさくらのツッコミを無視する。

 

 

「ではこちらの緑色をしたほうから頂こうかな。」

「キュウリですよ。それ」

「そうか、これはきゅうりというのだね。」

 

 

 そう話すとキリスはきゅうりをまじまじと見つめる。たかがキュウリな気がするが、キリスにとっては珍しい物なのだろう。そうしてみて満足したのか、そのキュウリを一口かじる。するとキリスの包帯で覆われていない口元の口角が上がった。

 

 

「ほう!これは凄いな。ここまでゴツゴツとした見た目であるのにここまでの柔らかさ。これにはさすがの私も驚愕したよ。」

「イリアスヴィルの野菜はどれも水々しくて美味しいと有名ですからね。」

「水々しいとは。いい表現を知っている。そうだそうだ、水々しい、だな」

「…水々しいだけでそこまで言います?」

 

 

 キリスは興奮を隠していなかった。水々しいという単語だけでここまで反応するのは予想外であり、さくらもびっくりしていた。さて話しながらキュウリを一本食べ終わったキリスはもう片方の手の中にある茶色の野菜を見つめる。

 

 

「ここまで旨いとなるとこちらのほうも期待できるね…。」

「…あ、ちょっと待って下さい、玉ねぎ生のままは辛い…。」

 

 

 先程の感動のままにキリスはもう片方の手に握られた野菜に齧り付く。さくらはそれが何なのか気づいたので忠告しようといたが、時すでに遅し。キリスはさくらの言葉を待たずにその野菜を口に含んでしまった。

 

 

「…!…!…!」

 

 

 玉葱をそのまま食べたキリスはその辛さに口元をゆがめた。流石にその場で吐き出しはしなかったものの、それでも予想外の辛さに辛そうである。

 

 

「言おうとしたのに…、これ水です。」

 

 

 その辛そうな態度をみて、さくらは自身の持っていた水を渡す。キリスはその水を一息で飲み干すと大きく息をつく。

 

 

「すまない。助かったよ、さくら君。」

「大丈夫ですけど…。普通玉ねぎを生で食べますか。」

「いやはや、キュウリとやらがあそこまで旨かったからこそ油断した。この玉葱というのはとてつもなく辛い物なのだね。」

「いや、玉ねぎはそのままでは食べませんよ。」

 

 

 さくらがキリスの会話にツッコミを入れていると部屋の外が少し騒がしくなってきた。それを受けてさくらはキリスに声をかけて立ち上がる。

 

 

「キリス様。そろそろ儀式が始まりそうなので行きましょう。」

「もうか。では行くとしよう。」

 

 

………

 

 

 

「先ほどはひどい目にあった…。」

「いや、自業自得な気がしますけど…。」

 

 

 忠告が遅れたこともありますが、と言葉をつづけながら話すさくら。二人は部屋を出てイリアス神殿の一階の大きなところに戻っていた。先ほどよりも人が多くなっており、何処か忙しそうな状況が見受けられた。

 

 

「あ!あの人です。今回の勇者候補の人は。」

「ほぅ。あの人が儀式とやらで勇者になるのか。」

 

 

 さくらが指さした先には一人の少年が立っていた。紫色の髪色でその背中に赤いマントを来た少年である。その背丈は他の大人よりも決して大きいと言えるものではなかったが、それでもその瞳には強い決意を感じた。

 

 

「…?キリス様と少し服装が似ていませんか。」

「気のせいではないかな。」

「(でもよく見ると…キリス様の口元。見たことあるような?どこで?)」

 

 

 さくらは対象を発見したが、どうにもその服装がキリスに似ていることに気が付く。それをキリスに指摘してもひらりと躱してしまった。しかしその様子を見ていたさくらはふとキリスの顔が目に留まる。目元に包帯を覆った状態という何とも独特な服装に身を包んでいるが、その包帯に覆われていない口元に視線が釘付けとなった。なぜならさくらはその口元にどこか見覚えがあったからだ。具体的に誰と分かったわけではないのだが、その口元に見覚えがあったさくらは一体誰だろうと考え込んでしまった。

 

 

「時にさくら君、私はお祭りなどの地域独特の文化が好きなんだ。」

「藪から棒ですね。どうしたのですか。」

 

 

 悩みこむさくらにキリスが急な話題を持ちかける。先ほどの話題と似ても似つかないものにさくらは混乱する。

 

 

「いや、何か悩んでいるようだから、ここは一つ。私から話題を出してみようと思ってね。」

「なるほど、そういうことでしたか。」

 

 

 さくらもどうやらキリスの意図が読めたようである。その頷いた様子をみて、キリスは話を続ける。

 

 

「私の住んでいたところはあまり面白いものが無くてね。本でそのようなものを知ることが私の唯一の楽しみだったんだ。」

「そうだったのですか。」

「そうだとも。しかし本でその知識を得たとしても実際にその祭りに参加はできなかったんだ。」

「なんで参加しなかったのです?祭が開催している場所が遠かったのですか。」

「…そうだね。この世界での…何とかの羽とやらもないから自分一人で行ける距離ではなかったから、参加できなかったのさ。」

「へぇー。何か大変だったのですね。」

 

 

そこまで話したキリスは両腕を組む。

 

 

「このイリアス神殿で執り行われる勇者の儀式とやらは中々に期待していてね。勇者を任命するものであるのだからこそ、さぞ豪華絢爛な儀式となること間違いないだろう。」

「…えーとそれは。」

「パレードなどはなくても、別に構わない。私はこの目で勇者誕生の瞬間とやらを見届けるとも…!」

「…。」

 

 

 キリスのテンションは上がりっぱなしだった。異世界にまで来てから勇者誕生の瞬間を目の前で見られるのだから。本の中にしかないような、そんなイベントが起きようとしている。一向に目元の包帯は外そうとはしないが、その状況を鑑みるに、恐らく周りの状況は見えているのだろう。

 

 

「あの…、キリス様。悲しませることを先に話して申し訳ないのですが…。」

「すまないがさくら君。神父が何やら読み上げ始めたようだ。その話は後にしてくれ。」

 

 

 さくらは何やらキリスに話しかけようとしていたが、キリスは神父が勇者候補に何やら話しかけている様子を見て、それを遮った。

 

 キリスはワクワクしている。

 

 この先何が起こるのか。

 

 一体どのような儀式が始まるというのか。その目はしっかりと神父と勇者候補をとらえていた。

 

 

「「…。」」

 

 

 さくらとキリスが神父たちを見守る中、何やら勇者に長い話をしていた神父がその手に持っていた本を閉じて話すのをやめた。そうして勇者に近づく。

 

 

「「…。」」

 

 

 そうして神父は懐から一つの瓶を取り出す。その瓶はコルクで蓋をされており中には何かしらの透明な液体が入っていた。その瓶を手に収めると神父はコルクを瓶より抜いた。

 

 

「「…。」」

 

 

 キリスはその瓶を取り出すその一連の流れを見ていて目を輝かせていた。あの瓶に入る液体を用いて何か未知の事情を引き起こすのだと。キリスはその動作一つ一つを見逃さぬという意気込みで、神父をにらみつける勢いで見ていた。

 

 さて、そんな視線は気づいていないのか、あるいは無視しているのか分からないが神父はその蓋の取れた瓶を手に勇者候補へと近づいた。そうして勇者の元にまで来ると神父は何のためらいもなく、その瓶の中にある液体を勇者の頭にかけた。

 

 

「「…。」」

 

 

 キリスは遂に始まると意気込んでいた。その頭には最早先ほど口の中に放り込んだ玉ねぎのことなど忘れていた。何かが起きるまでキリスは待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…?何も起きないな。)」

 

 

 しかしこれと言って何か特殊なことは起きなかった。キリスは不審に思ったが勇者候補の少年はもう神父と穏やかに話しているし、さらには傍にいた神官の一人であるソニアと話していた。そうして一通り話すことは話せたのだろうか。勇者候補の少年は元気よく神殿より飛び出していった。

 

 

「…。えっと、さくら君もしかしてなのだが。」

「はい。もう勇者の儀式は終わりましたよ。」

「何か…こうもっとすごいことが起こったりは。」

「特にないですね。」

「あの液体が少年にかけられることで何か特殊な魔法陣みたいなのが出現したり…。」

「そんなことは起きません。」

 

 

ガクッとキリスはその場で項垂れた。

 

 

 

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