もんむす・くえすと! ぱらどっくすRPG きつねのお話 作:ケルル(ハーメルン始めました)
「ど、どうしてイリアス様がここに。」
「質問は後にした方がいい、さくら君。」
さくらは動揺を隠せないようだ。先ほど二人の少女がさくらとキリスの目の前に現れたかと思えば、今度は彼の尋ね人であったイリアスまでもが現れたのだから。理解が追いつかず、さくらはその場でアタフタしている。
他方、キリスは落ち着いていた。キリスはさくらの言葉に返しながらも、警戒をしていた。事実、キリスの視線は自身の後ろに隠れた犬耳の少女とイリアスではなく、後に現れた四人組の方に向けていた。
「うが? 誰なのだ。」
四人組の集団の内、竜の姿を下半身に持つ少女がキリスに向けて問いかける。それは先程までイリアスを追いかけていた時に出していた気迫ではなく、その見た目相応に首を傾げる可愛らしいものであった。
「私はキリスという者だ。唯の旅人さ。」
「僕はさくらです。あなたたちはどちら様ですか。」
さくらとキリスは取りあえず、自己紹介を四人に向かってする。こうしている間にも、さくらとキリスの二人の後ろにしがみついている三人は、ガクガクと震えが止まらないようだ。
「あたしはパピだぞ!」
「我はヴァニラだ。」
「プチよ。」
「ボクはゴブだよ。」
さくらの言葉につられて四人も自分の名を名乗る。そして四人が名を名乗るとそれぞれが腕を宙に構えたり組むなりしてポーズを各自取り始めた。それがひと段落すると先ほどよりも大きな声でキリス達に向けて宣言する。
「我ら知る人ぞ知る!」
「誰もが恐れおののく最強の四人組!」
「その名も!」
「チビッコ盗賊団四天王!」
シャキーンという効果音が似合いそうなポーズを決めるとともに出たこの名乗り。テレビなどであれば彼ら四人の後ろが爆発するなどのエフェクトが付き、さらに印象に残ること間違いないだろう。
さくらは口をあんぐり開けて呆然としてしまったが、その中でもキリスは四人に向けて拍手をしていた。この状況であってもキリスは平常運転のようだ。
キリスは先程とは違いどこか上機嫌でさくらに話しかける。
「いやすごい名乗りだと思わないかいさくら君。チビッコ盗賊団?というのは。…因みに有名なのかい。」
「いえ、知りません。自称かと思います。」
キリスに期待の圧を向けられたさくらであったが、臆さずに即否定した。それに対し、はぁ…とため息を吐き、肩をすくめながら落胆した様子のキリスは、チビッコ盗賊団を名乗る四人組に顔の向きを戻す。
「…そうかい。有名ならサインの一つでもと思ったのだけどね。で、そのチビッコ盗賊団とやらは何故この3人を追いかけていたんだい。」
「勿論、強奪なのだ!」
「随分と物騒だね…。」
キリスに対し、パピは元気よく答える。しかしその答えた内容はその純粋無垢な表情から出るとものとは思えないものであった。それを隠さずに言うパピの姿勢にキリスは思わず頬が引きつってしまっている。
「あたしたちが偶々ここらへんを歩いているときに見つけたんだけど…。」
「そこの天使は中々に裕福そうな服装をしているしな。」
「売れそうなもの、持ってそう!」
パピの言葉に続いてヴァニラとプチ、ゴブもそれぞれの思いを口にする。言ってる内容こそ違えど、3人を襲った経緯を話している。恐らく3人はこのチビッコ盗賊団に偶然遭遇してしまい、哀れにもそのまま目を着けられてしまったのだろう。そして捕まる前に逃げ回り、今に至ると感がるのが妥当であろう。
「何にせよ強盗はいけないことです。見逃すことはできません!」
さくらは一歩前へと踏み出し四人組を強く睨みつける。その姿にはその背丈に似合わないほどの気迫に満ちており、言葉通りこの3人を守るという決意に満ち溢れているようだ。その迫力にチビッコ盗賊団は思わず後ずさりしてしまう。
「くっ…。だ、だがそれなら我に考えがあるぞ。」
額に若干汗を流し、少し涙目になっているヴァニラはさくら達に対して提案する。少し震えている気がするが、それでも逃げることはしないようだ。
「貴様はさくらといったか。さくらと隣の男が3人の代わりに我らの下につくというのなら…見逃してやらなくもないぞ。」
「そこの二人はとても魅力的で、その身に宿る精も美味そうだからなぁ。」
ヴァニラが提案するのは、さくらとキリスがチビッコ盗賊団の手下となり、その身を粉にして尽くしてくれれば、3人は見逃すというものだった。どこか舌なめずりしているヴァニラのこの提案を呑めばイリアス達は助かるが…。
「…却下だ。どこか寒気がするよ、身の危険を感じる。」
「僕も認めません。たまも様一筋なので!」
キリスのさくらも即拒否した。この提案は言い換えれば3人の代わりに2人を生贄にするというものだからこそ、そう簡単に許容できるものではなかっただろう。さくらは堂々としているが、キリスはどこか身の危険を感じたようだ。両腕で腕を組みながら体が少し震えているようで、少し寒気でも感じているのだろうか。
「…そうか。では交渉決裂だ。」
ヴァニラが少し悲しそうに話す。先ほどまで舌なめずりをしていたが、その舌もいつの間にか引っ込めてしまった。しかし直ぐに先ほどまでの自信満々な顔に戻る。
「我が知っている言葉にこのようなものがある。」
「逃げたら一つ、奪えば二つ…。」
そこまでいうとヴァニラは天に向けて高く指を突き刺し、そしてその指をそのままさくら達に向ける。そして言い放つ。
「奪えば全部! なのだ!」
ヴァニラは決まった…とでも言いたいかの様にさくら達にドヤ顔を向けていた。そのまな板のようでほぼない胸を力いっぱい張っていた。その態度に対してさくら達はどうなのかといえば…。
「僕たちが食べる予定のマシュマロあげますので、ここは一旦お引き取り願えませんか。」
「わぁい…。ってちがうのだ。」
全く持って気にしている素振りを見せなかった。さくらに至ってはヴァニラに餌付けしようとしている始末。最早ヴァニラのここまで見せつけていたものは意味を為さなくなっていた。しかしさくらのこの行動に対するヴァニラのノリツッコミのおかげで、重かった空気がどこか軽くなった気がする。
「と、とにかく全員逃がす気はないのだ。」
「チぃ、逸れてくれなかったか。そちらの方が楽だったのに。」
流れを何とか戻そうとするヴァニラに対してキリスは分かりやすく舌打ちする。ヴァニラはそれを見つつもゴホンとその場で一息つき、さくら達を強く睨む。
「我らチビッコ盗賊団の名に懸けて、欲しいものはすべて手に入れるのだ!」
ヴァニラはその声と共に自身の持つナイフを構える。ヴァニラが構えるとパピやプチ、ゴブもそれぞれの得物を手にし、さくら達に向ける。子供のような背丈であったとしても、その目に宿る闘志は決して馬鹿にできないものとなっていた。
「キリス様構えてください、来ます!」
「あぁ早くマシュマロが食べたい…。」
さくらも腰の日本刀を抜刀し、両手で柄を持ち構える。キリスはブツブツ文句を言いながらも背中にある、キリスの背丈以上の大剣を引き抜いた。そして大剣を肩に担ぐように背負い、どこか気だるそうにチビッコ盗賊団に顔を向ける。
―今、戦いの火ぶたが切って落とされようとしていたー
「…私の出番はどこですか⁉」
………
≪チビッコ盗賊団が現れた!≫
「先手必勝なのだ!」
睨みあいが続く中、最初に動いたのはパピだった。掛け声とともにパピは口から炎を吐き出す。まるで火炎放射器のような炎はさくらに向けて放たれた。
「く…。熱いです!」
≪パピは火の息を噴き出した!≫
≪さくらに116の炎属性ダメージを与えた!≫
さくらは左手に刀を持ちつつも両腕を目の前に出し、パピのブレスを防ごうとしていた。しかし腕だけでは完全に防ぐことは難しかったようで、顔に少し焦げ跡ができてしまった。幸いにも、衣服が燃えてしまったことはなさそうだ。
「では我も続くぞ。さぁ、我の目をじっと見るのだぞ!誘惑の魔眼!」
≪ヴァニラの眼が怪しい光を放った!≫
果敢に攻めるパピに続き、ヴァニラも攻撃を仕掛ける。ヴァニラはさくらではなくキリスの方を対象としたようだ。ヴァニラからキリスに魔力が込められた魔眼が向けられる。これに屈してしまえばキリスはたちまちヴァニラの虜になってしまうだろう。
「…魔眼が何だって? 何の効果もないようだが。」
「そんな!我の魔眼が効かぬとは…。」
≪キリスには効かなかった!≫
キリスは身構えていたが、何も起きないことに拍子抜けしたようだ。ヴァニラの余裕の表情が段々と焦りの表情に変わっていく。キリスはそんなヴァニラの方へと歩み寄っていく。そしてヴァニラのすぐそばに近づいた後、キリスは肩に背負う大剣を地面に振り下ろし片手で構える。
「さて、そちらが攻撃したのだからこちらのターンだよな?」
「ヒィ‼」
「逃がさないさ。そら!」
ヴァニラはその目に涙を浮かべながら後ろを振り向いて逃げようとした。しかしそんな隙をキリスが見逃すわけがなかった。キリスは大剣を振り上げ、そしてそれをヴァニラに向け勢いをつけて振り下ろした。
≪キリスの攻撃!≫
≪ヴァニラに15236のダメージを与えた!≫
「…キリス様、やりすぎないでくださいね。」
「ん? 勿論さ。殺さないように加減は忘れていないとも。」
キリスはさくらの言葉にそう返しながら振り下ろした大剣を片手で持ち上げ、振り下ろす前と同じように肩に担ぐように持った。よく見ると、キリスは大剣をヴァニラに向けて振り下ろしたが、切りつけたわけではなかったようだ。キリスは大剣の刃の部分ではなく、刃のない部分で攻撃したようである。実際大剣の平たい部分を板の様にして叩きつけたようでヴァニラの頭には大きなたんこぶができており、彼女はその場で目を回して倒れてしまった。
≪ヴァニラを倒した!≫
「ヴァニラがやられた!」
「でも所詮やつは四天王最弱…。」
「四天王の面汚しなのだ…。」
「馬鹿な茶番劇を繰り広げられるとは随分と余裕みたいだね。君たち?」
ヴァニラがやられたことに対してパピ、プチ、ゴブはどこか含みのある笑いでフフフと笑う。しかしキリスはヴァニラを一撃で葬った自信からくるのか余裕そうだ。3人の会話を鼻でフッと笑って挑発する。
「ヴァニラがやられた恨み、食らえ~!」
ゴブはそう言うとその手に持つ鉄槌を空高く掲げた。そして両手で鉄槌をしっかりと握りなおすと、キリスに向かって猛突進した。キリスは大剣を持っていない左手をゴブに向けて構える。
「させません! ぐるぐるいきます! 狐忍法・ぐるぐる車輪!」
≪さくらは狐忍法・ぐるぐる車輪を放った!≫
≪ゴブに105のダメージを与えた≫
さくらはその場で前転をするかのように前向きに回転し始めた。そしてある程度の回転速度がつくと、その勢いのままにゴブに向けて突進するかのように突っ込んでいった。ゴブはそれに気づいていないようでそれを不意打ちという形で食らってしまった。更に運がないのか、ゴブはさくら達が先ほどつけていた焚き火の炎に倒れてしまった。焚き火の炎は消えていないようだったが、火の中に入ってしまったゴブは唯では済みそうになかった。
「うわ、熱い!熱いよぉ!」
ゴブはその場で飛び上がり、泣きながら辺りを縦横無尽に駆け回りだした。幸いにも全身が焼けてしまってはいないようだが、服の所々が焦げているようであった。しかしゴブは前が良く見えていなかったのか、近くの木に正面から激突してしまった。小さな悲鳴が上がると同時にゴブはその場で目を回して倒れこんだ。
≪ゴブを倒した!≫
「倒せましたが、ちょっと悪いことをしちゃった気分…。」
「そうね…。でもお陰様でさくら君、油断しちゃったみたいね。」
「…しまった!」
さくらはゴブの気絶していく一連の流れを見ていて、少し可哀そうな目線で見つめていた。しかしゴブのことでいっぱいになっていたせいで、静かに近づいてくるプチの存在に気づかなかったようだ。さくらは慌てて回避しようとするが、プチの方が速かった。
「巻き付いちゃうぞー! ほらほらっ!」
「うぐぐ…。放してください!」
≪プチはさくらにきつく巻き付いた!≫
≪さくらは拘束されてしまった!≫
≪さくらは体勢を崩してしまった!≫
プチはその蛇状の半身でさくらのことをグルグル巻きにして拘束した。さくらはその場でジタバタして何とか抜け出そうとするが、プチの力に敵わずそれも無意味に終わってしまった。プチは段々と締め付ける力を上げているのか、ギチギチと音がし始めた。
「さくら君!」
「お前の相手はこのあたしだぞ!」
キリスはさくらがプチに拘束されたことに気づき、助けようと近寄る。しかしそんなキリスの前にパピが立ちふさがる。その口からは炎が少し漏れており、何時でもキリスに向けてブレスを吐き出せそうだ。キリスはその様子に無視できなさそうだと、大剣を握る右手に力が入る。
「くっ…。まずは倒すしかないな。」
「うがー!」
「うふふ。早く抜け出さないと大変なことになっちゃうよ。」
「………。」
こうしている間にもプチがさくらを拘束する力はどんどん強くなっていく。最初は懸命に抵抗していたさくらであったが、時間が経つにつれてその力も弱まっていく。四方八方に振り回していた手足も、今では力無くだらんと垂れてしまっている。顔も段々青く変色してきている。
キリスはさくらの方に近寄ろうとするが、プチの炎のブレスがそれを邪魔する。近づこうにも近づけない。さくらは絶体絶命な状況に追い込まれてしまった。
さくら達が悪党苦戦していると、さくら達のテントより突如としてブーメランが飛んできた。その木のブーメランは高速回転してキリスの前を通過していき、プチの方向目掛けて飛んで行った。そしてプチの顔面に命中した後、木のブーメランは勢いを無くしてその場にカランコロンと力なく落ちていった。誰の仕業かは分からないが、突然このような攻撃を受けたプチからすればたまったものではない。
「きゃぁ‼」
≪何処からかブーメランが投擲された!≫
≪プチに25のダメージを与えた!≫
プチはブーメランがぶつかった部分を手で押さえる。よく見ると、ブーメランがぶつかったところは赤くなっており、プチも涙目となっていることから相当な威力であったといえよう。プチが顔を手で覆っていることにより、意識がさくらよりずれる。これにより尻尾の拘束が先ほどよりも緩む。
さくらに脱出の絶好の機会が訪れたと言えよう。
「…今です、ガブゥ!」
「何するの、痛いじゃない!」
≪さくらはプチに噛みついた!≫
≪プチに45のダメージ!≫
さくらはこのチャンスを逃さずプチの尻尾に噛みつく。プチはさくらの攻撃に尻尾で振り払おうとする。しかしプチは先ほどのブーメランからのこの噛みつき攻撃により、判断を誤った。尻尾で振り払おうとするということはそれすなわち、さくらの尻尾の拘束を更に緩めることにつながるのだ。
先ほどからさらにもう一段階緩んだその拘束は、最早意味を為していないほど緩くなっていた。さくらはこの隙を逃さず、今度こそ拘束から脱すべく全力でもがく。
≪さくらはもがいた!≫
≪さくらはプチの拘束から逃れた!≫
「やりました!」
「うぅ…。」
緩みに緩んだプチの尻尾の拘束から逃れることは容易であったようだ。先ほどまで鋼鉄でもあるかのように硬く、逃げることはできなかった。しかし怒涛の攻撃の連鎖によってプチの注意が散乱とし、結果的に緩みに緩んだことで上手く逃げ出せたようだ。さくらはプチから距離を取った後、若干涙目でありながらもその両手で刀を構える。
「何とか逃げ出せたみたいだねさくら君。良かった良かった。」
「あたしから視線を逸らすなー!」
「はいはい。言われなくとも忘れてなんかないさ。」
「うがー‼」
キリスはさくらが無事であることにホッと一息ついていた。しかしキリスのその行動はどうやらパピの癇に障ったようで、先ほどよりも激昂している。その口から出る炎だけでなく、パピの顔も真っ赤に燃えているようであった。下唇をかみしめながらパピがキリスのことを睨みつけていると、その怒りに身を任せるように口から特大のブレスを吐き出した。
≪パピは火の息を噴き出した!≫
≪キリスには通じなかった!≫
「なんで涼しげな顔をしているのだ! あたしのブレスを食らってなんでそんなに平気そうなのだ!」
「実際そこまで熱くないからじゃないかな。…まぁ細かいことは気にしすぎない方がいい。」
パピのブレスはさくらに最初放ったものよりも大きいものであったように見えた。実際さくらに放ったものは焚き火の大きさくらいのものであった。しかしキリスに放たれたブレスはキリスの視界がその炎で埋め尽くされるほどのものであった。
しかしブレスを食らったキリスは何事もなかったように平然としている。これに対しパピは地踏鞴を踏み悔しそうな表情を浮かべていた。キリスは視界が晴れた後、右手に背負う大剣を構え、パピに向けて先ほどまでとは比べ物にならないほどの圧を出す。大剣の先を鼻の先に突き付けられたパピは、怒り狂っていた先程とまでとは違い、涙目を浮かべてブルブルと震え始めた。
「さて私の番だ。先ほども言ったが、やるということはやられる準備は出来ているはずだね。」
「…殺さないで、くださいなのだ。」
「別に殺しはしないさ。最後に決めるのは私ではないから、ね!」
≪キリスは大剣でパピを振り回した!≫
≪パピは吹き飛んで行った!≫
キリスは大剣を力のままに振り回し、パピにぶつけた。そしてパピは弧を描くようにして吹き飛んで行った。うがーと泣き叫びながら宙を飛ぶパピだがその勢いは止まることを知らなそうで、真っ直ぐに飛んでいく。
パピが飛んで行った先だが、どうやらプチがいるようだ。プチはこちらに飛んでくるパピに気づいたようで、涙目になりながらパピに向かって叫ぶ。
「こっちに飛んでこないでよ! ねぇ!」
「そう言われても止まれないのだー!」
「いやー‼」
≪パピはプチに突っ込んでいった!≫
≪プチに438のダメージを与えた!≫
プチの必死の懇願も空しく、パピはプチに突っ込んでいった。それを受け止める形となってしまったプチはパピのその勢いによるダメージを受けてしまった。ブーメランから始まり、さくらによる噛みつき攻撃、そして最後にパピの等身大を受け止めることによる三段階のコンボによるダメージ。砂埃が晴れた後さくら達が見えたのは、頭を抱えてうねっているパピと目を回して気絶しているプチであった。
≪プチを倒した!≫
パピが頭をブンブン振るってその場に立つ。その顔からは死ななくて安堵していることが伝わってくる。そうしてホッとしているパピの前にさくらが立ちはだかる。
さくらの眼はパピのことをとらえており、一挙手一投足見逃さないように睨みつけてくる。また、さくらの手には日本刀が握られていた。月の光が差し込み、刀の刃の部分がキラリと輝く。
パピは震えながらも、さくらに話しかける。
「…見逃してほしいのだ。」
「駄目です。さきほど酷い目にあわされたこと、そう簡単には許しません!」
「それってあたしじゃないー」
パピが言い切る前にさくらは刀を天高く振り上げる。そして両手で刀を握り締める。さくらが振り上げた後、周りに少し花弁が宙を舞った。その花弁は桃色で桜の花びらを連想できるものであった。しかしさくら達の周りに桜は愚か、花の一つも咲いてはいなかった。恐らく能力か何かで生み出したものなのだろう。
パピがその花弁に見とれていると、さくらが叫ぶ。
「これぞ僕の必殺奥義の一つ! 狐忍法奥義、桜・一分咲き!」
さくらはそう言うと振り上げていた刀をパピに向かって振り下ろす。その時周りに舞っていたさくらの花弁がそれに呼応するかのようにパピの方に吹かれていった。さくらが出したその技は刀より斬撃を繰り出して相手を攻撃する技だ。威力としてはあまり高くはないがパピが手負いであることを考えれば十分にダメージを与えることができるだろう。
≪花弁を纏いし一撃が今、敵に刻まれる!≫
≪パピに1398のダメージを与えた!≫
「う、うが…。」
≪パピを倒した!≫
さくらの技を真正面から受けたパピは限界のようで、白目をむいてその場に倒れてしまった。幸い息はしているようで、死んではなさそうであった。
それを見たさくらは息を整えた後、握りこぶしを作り空に突き上げる。
「僕たちの…勝利です!」
≪チビッコ盗賊団を倒した!≫
………
「多少危険な場面もあったが、何とか勝てたな…。」
「お疲れ様ですキリス様、ご無事で何よりです。」
キリスはチビッコ盗賊団の四人が完全に気絶し起き上がってこないことを確認した後、その場にため息を吐きながら座り込む。
さくらはそんなキリスに笑顔を浮かべながら駆け寄る。その姿には、先ほどまでの戦闘の疲労がまるでなさそうなほどに元気な様子であった。
「…しかしさくら君が拘束されたときは不味いと感じたよ。」
「いやぁ…、僕としたことが不覚を取りました。面目ないです。」
キリスがそう言うと、さくらは頭を掻きながらキリスより視線をそらした。その顔は苦虫を嚙み潰したような表情で、さくら自身も少し負い目があるようであった。
しかしさくらは直ぐに表情を先ほどのはつらつとした態度に戻った。
「でも助かりました。キリス様の援助が無ければ取り返しのつかないことになっていたかもしれません。」
「え?いや、あのブーメランを投げたのは私ではないさ。」
「え?ではあのブーメランは一体誰が…。」
さくらは手を顎に当てて悩む。てっきりあの奇襲にも似たあの攻撃はキリスの仕業であったと思っていたからだ。
さくらがうむむ…と悩んでいると、キリスがまるで今思い出したかのように言い出す。
「ブーメランねぇ…。そういえばだがあのブーメラン、私たちのテントの方角から飛んできたようにも見えたけれどもね。」
「僕たちのテントですか? でもそちらの方はイリアス様達しかいらっしゃらなかったはず…。」
キリスの言葉を受けさくらが視線をテントの方へと移す。そこでは逃げ込んできた三人組がテントより頭だけを出し、こちらを見つめていた。三人揃って若干涙目ではある。さくらが彼女らを見つめると、スライムの少女がたどたどしくもさくらに話しかける。
「私のブーメラン、大丈夫だった? 当たっちゃってない?」
「私の…ってことは、もしかしてあなたが投げてくれたんですか。」
さくらはスライムの彼女の言葉にハッとする。もしかしなくても自身を助けてくれたのは彼女ではないかと。それに気づいたさくらは、今にも泣きそうな彼女に近寄りその手を握る。
「ありがとうございます。あのときあなたの助けがなければ今の僕はありませんでした。」
「…ほんとに?」
「本当です! あなたは命の恩人とも言っても過言ではありません!」
「…うん、うん!」
さくらは話しながらスライムの少女の手を握りブンブンと勢いよく振るっている。さくらの言葉に彼女も涙腺が刺激されてしまったのか、ポタポタと本当に泣き出してしまった。さくらはそれを見て一転、あわわと慌て始めた。
「あわわ…泣かないで。これでふき取ってください。」
さくらは懐よりきれいに折りたたまれたハンカチのようなものを取り出した。そしてスライムの彼女の目元にそれを当てて流した涙を拭っていた。
ここまで後ろで見ていたキリスは独り言のように呟く。
「うんうん。中々に感動物の話でないかな、こちらも涙が出てきそうだ。…さて。」
目元は見えないが、何度も頷き口角を上げて満足そうな表情を浮かべていた。しかし最後の言葉と共に上がった口角をキュッと下げて若干の圧も出しながらテントの方に顔を向ける。
「自称女神よ、説明してもらおうか。今回のことの発端からすべてを。だからテントに隠れてないで出てこい。」
キリスは先程の態度とまでとは違い、威圧的にテントの方に向き合う。いきなりの変わりようにさくらでさえ驚きを隠せなさそうだ。それこそ、「キリス様…?」と呟いてしまうほどに。スライムと犬の少女はキリスの圧を受けて、また泣き出しそうになっている。
しばらくあたりが静寂に包まれるが、二人の少女の後ろよりイリアスが渋々といった感じで顔を出す。恐らく場の沈黙的に耐えられなかったのだろう。口元が若干白いイリアスは何やら口元をくちゅくちゅしながらキリスに答える。
「はむはむ、うるさいですね何ですか…。」
「だから今回の…。待て、何を食べている。」
キリスはイリアスに追求しようしたが、イリアスの口が動いている様子に一時停止する。まさかと思いながらもキリスは震えながらイリアスの回答を待つ。
イリアスは口の中の物をゴクンと飲み込んでからキリスに返答する。
「何かと言われればマシュマロに決まっているでしょう。焼き加減も絶妙で美味しいですね。」
「貴様、私のマシュマロを…!」
キリスはイリアスの言葉に憤慨しているようだ。やはりイリアスの口元についていたのはマシュマロの残骸か周りについている白い粉だろう。イリアスはキリスの様子など気にもせずに言葉を続ける。
「しかし、私より先回りをして女神を助力し、数は少ないですがこのような食事まで用意するなど…。さくら、貴方あのような魔王など見捨てて、私に乗り換えませんか。今ならあなたの抱く恋の手伝いをしても…。」
「虚言もそこまでだ自称女神。戯れも程々にしておけ。」
イリアスはキリスのことなど気にも留めていないようで、今度はさくらの方に向けて話し出す。しっかり聞けば中々に酷いことを話しているが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
キリスがイリアスの首元をつかんだのだ。イリアスは突然のキリスの行動に対応できず、うねることしかできなかった。一触即発どころか、手を出してしまったキリス。
この場を受けてさくらは…。
「キリス様、止めてください。」
「いいのかいさくら君。こいつは君のことを…。」
「そのようなこと、僕は気にしていませんよ。ですのでイリアス様をお放しください。」
「むぅ、君がいいのならいいが…。」
止めに入ったようだ。流石に見過ごすことはできなかったのだろう。
さくらの言葉を受けてキリスは渋々といった感じではあるがイリアスの首を握るその手の力を緩めた。さくらはそれを見届けた後、懐をいじくり袋に入ったマシュマロを取り出した。キリスはそれを見て安堵した表情を見せた。
「なんだまだあるじゃないか…、心配して損したよ。」
(本当に心配していましたか…?)
さくらはキリスの言葉に疑問を覚えつつも深くは追及しないようだ。苦笑いをしつつもさくらはイリアス達の方を向く。
「イリアス様もどうですか。マシュマロでも食べながらお話の続きでも。」
「…いいでしょう。この私と食を共にできること、光栄に思うのですよ。」
イリアスの方も渋々という感じではあるが納得したようだ。傍にある椅子代わりの丸太にドカッと座る。その様子は女神というよりも子供らしい姿だった。
さくらが全員にマシュマロの刺さった串を配り終わった後、キリスはイリアスに向けて話しかける。
「では改めて…自称女神よ。貴様は何の目的を胸に抱えて旅をするんだい。」
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