もんむす・くえすと! ぱらどっくすRPG きつねのお話 作:ケルル(ハーメルン始めました)
「自称女神よ。貴様は何の目的を胸に抱えて旅をするんだい。」
キリスは丸太に座り焚き火を挟んでイリアスに向き合う。キリスは左の肘を膝の上に乗せ、また顔を左手の上に置きイリアスの方に顔を向けていた。先ほどよりも落ち着いたとはいえど、キリスは若干警戒しているようであった。
またキリスの右手にはマシュマロの刺さった串がしっかりと握られていた。イリアスに対し目を光らせながらも、自身はしっかりと欲望に忠実なようだ。
「…そもそも貴方は誰なんですか。名を名乗りなさい。」
「あれ、自己紹介していなかったかな。私としたことがこれはうっかりとしていたようだね。」
キリスはイリアスにそう言いながら頭を手でたたく。あまりにもわざとらしいその仕草に、イリアスはキリスのことを睨みつける。因みにイリアスの手にもしっかりとマシュマロの刺さった串が握られていた。キリスのことが気に入らなそうにはしているが、それはそれとして手元の甘味を焦がさないようにとクルクル串を回転させていた。
キリスはイリアスの睨みなど全く気にしていないようだった。ん゙ん゙っとその場で咳払いをしてイリアスに言葉を投げかける。
「私の名はキリス。何の変哲もない、さくら君の旅のお供さ。」
「…知らないですね。女神である私が何故、貴方の名を知らないのです。」
「そんなこと言われてもねぇ…。」
キリスはイリアスの返答に頭を掻き、困惑している様子だ。それも当然である。言われた通りに自己紹介すれば、今度は何故その名を認知していないのかとの疑問が飛んできた。そのようなことを言われたとしても、キリスからしてイリアスは初対面のはずである。知らない者から、何故あなたのことを私は知らないと言われても、戸惑ってしまうのは致し方ないといえよう。
「おかしいですね、地上の人間などは全て記憶しているはずなのですが…。」
イリアスは手を顎に当てて考え込んでいる。彼女の発言をそのまま受け止めるならば、イリアスは全ての人間を覚えているということになるのだろう。それは到底人間には不可能なことであり、正しく神業と言える行為だ。
しかし目の前の少女を創世の女神と思っていないキリスは、イリアスの発言を鼻で笑った。
「フッ、そんなことできるわけないだろう。できるとすればそれは正しく神だ。」
「だから私は女神だと言っているではありませんか!」
「どうか落ち着いてくださいイリアス様。」
イリアスはキリスの言葉を聞き激昂する。その場で立ち上がり、片手に握られた串をキリスに勢いよく向ける。イリアスの顔には青筋こそ立ってはいないが、眉を潜めている。このやり取りを見ていたさくらは止めに入った。イリアスヴィルの宿の二の舞になるのは看過できないと思ったのだろうか。イリアスに手のひらをブンブン振ってその全力さを訴えている。
「キリス様ももう少し手心というものをですね…。」
「手心?これでも結構抑えているのだけれども。彼女の反応がいちいち面白くて少しやりすぎたかもね。」
さくらはキリスにも話すが、対するキリスはクスクスと笑っているだけであった。口に手を当てて笑う姿は目元が隠れていても何処か様になっていた。しかし笑っているだけでその態度を直そうとする意思はなさそうだった。
埒が明かないと思ったのか、さくらはイリアスの方に振り替える。憤慨し、今にもキリスに飛びかかりそうなイリアスを止めるために、さくらは何とかして話題を変えようと試みた。
「イリアス様も落ち着いてください。このようなことで騒がれてもどうしようもないですよ。」
「ですがさくら、これは全てキリスが悪いのです。女神である私を軽んじ、あろうことか私が女神であることを疑うのですよ⁉これは裁きの雷を落とされても仕方ない行為ですよ。」
「それは…知りませんけど。」
さくらがイリアスに説得するも、イリアスの怒りは止まらないようだ。その場でダンダンと地団駄を踏んでおり、また先ほどよりも目の角度が吊り上がっているようにも見えた。この状態で共感を求められたさくらだったが、流石に戸惑ってしまいどっちつかずの回答をしてしまう。イリアスをどうにか抑えられないかとさくらは頭を回す。そうしてこめかみに手を当てて悩んでいると、ふとイリアスの持っているマシュマロに目が留まる。
「イリアス様。」
「何ですか。私の意見に賛同してくれる気にでもなりましたか。」
「言えそうではなく…、イリアス様の持っているマシュマロですが、そろそろ回した方が良いですよ。」
「何ですって?もう少し早く言いなさいさくら。危うく焦がすところではありませんでしたか。」
イリアスは先程と打って変わりマシュマロに専念し始めた。その顔は職人が見せるような真剣な顔つきで、キリスと言い争いしていたことなどもう頭の中に無いようであった。イリアスは側面が茶色が色付いてきたマシュマロを回し、もう片方の色のついていない白色の方を焚き火の炎に向けた。もう暴れそうな様子もないイリアスを見て、さくらはその場でホッと息をつく。
「良かったです何とか収まって。」
「私としてはもう少しやっても良かったのだけれどもね…。」
「ではイリアス様が暴れたらキリス様がどうにかしてくださいよ。」
「………。」
さくらの言葉にキリスは顔を背けた。その反応から察するにキリスがどうにかするという考えはなさそうであった。さくらはこれに微妙な表情になりながらも、内心取りあえずは収まってくれてよかったと考えている。なにせイリアスもキリスも、何も話さずに目の前のマシュマロに専念しているのだから。さくらは自分もキリスから視線をそらし、自分の分を焼くのに専念するのであった。
5人の間に静寂が訪れる。彼らの間に会話はなく、唯々自分の分のマシュマロを焼いているだけだ。時々マシュマロの串をくるくる回す音以外は、焚き火の薪がチリチリ燃えている音だけが、この空間には鳴り響いていた。
そしてしばらくして、スライムの少女が炎に当てていた自身のマシュマロを火より放した。そして隣の犬の少女にキラキラした目をして話しかける。
「見て見てわんこちゃん。上手く焼けたよ~!」
「凄いねぷるこちゃん、とっても美味しそう!」
二人の少女はマシュマロの焼け具合について盛り上がっていた。その会話は先程イリアスとキリスとの間で繰り広げられていた会話の雰囲気とは180度違うものだった。どこかほんわかしているその空気に、さくらはいつの間にか口元に笑みを浮かべていた。キリスもまた同様に笑っているようだった。
「…あの二人を見ていると、なんて言うか穢れた心が浄化されていく感じがするね。」
「はい、キャンプはやっぱりこうでなくては!」
男二人組はスライムの少女と犬の少女を見て、優しい表情を浮かべていた。しかし対してイリアスは面白くなさそうに険しい顔をしていた。
「穢らわしい魔物が…。私よりも可愛さで注目されているなど気に入りませんね…。」
「なんだって?耳が悪くてよく聞こえなかったよ。もう一度言ってくれないかい。」
「………。」
イリアスは独り言のようにボソッと呟いた。しかしそれをキリスは聞き逃してはくれないようで、からかうように聞き返した。イリアスはキリスの言葉には返答せず、ただ眉を潜めいるままだった。そして丁度良く焼きあがったマシュマロを口へと運んでいた。
キリスはの方は更なる追撃などは特にはしなさそうであった。それは単にやる気がないのかマシュマロに目を奪われているのか、それとも先ほどから目を光らせるさくらの視線に何か思うことでもあるのか。
ぷることわんこ以外の三人もマシュマロが焼けたようだ。「熱っ!」と軽く口内を火傷しているキリスもいるが、それぞれ口にマシュマロを頬張る。
「ん~♪」
口に入れた瞬間、イリアスは目を細めて手を頬に当てる。余程美味しかったようだ。感嘆のあまり、声が漏れていた。直前にまで炎に当てておりかなり熱いはずだがイリアスはへっちゃらなようだ。そして一度マシュマロを口から遠ざけ、その場でジタバタと足を上下している。
「少しよろしいですかイリアス様。」
「何ですかさくら。このような貢物をしてくれた貴方であれば、今なら答えてあげなくもありませんよ。」
さくらに話しかけられたイリアスはとても機嫌がよさそうであった。目を離せば鼻歌を歌いながらその場で踊っていそうなほどに浮かれている態度だった。マシュマロ一つを挙げただけなのにここまで有頂天になるとは、中々に大袈裟である。
「いえその…、どうしてイリアス様はそのような姿なのですか。言い伝えだと、もう少し大人の姿だった気がするのですが…。」
「それなのですが…、私にも分からないのですよ。」
さくらの質問にイリアスは手を顎に当てて考え込む。その様子に嘘をついていそうな様子はなく、本当に知らなそうであった。
「どうやら記憶のあちこちに欠落が生じているようです。おそらくこの小さな肉体に神の魂を宿したことによる副作用でしょう。」
「いわば膨大な容量に達するであろうデータを、フロッピーでバックアップしようとしたものですから。」
イリアスの話していることから考えると、自身の魂を本体から別の肉体に移したことが姿が変わった原因だと推測できる。ただし何故移したかという理由は不明であるが。この説明を受けたさくらはいまいちピンと来ていないのか、首を捻っていた。
「でーた?それにふろっぴーってなんです?」
「…今の若いものは、フロッピーを知らないのでしたね。いえ、元々この世界には存在しないものでしたか?」
…いや、分かっていなかったのは後半の例に挙げた物の方であったようだ。筆者も正直言って良く知らない。ネットで調べれば、USBやSDカードなどの前身として使われていたようだ(wiki調べ)。
しかしそのような物がさくら達のいる世界に存在しているはずもなかった。それはさくらのきょとんとしている態度を見れば一目瞭然だろう。
「まあそのふろっぴーは分からないので一旦はいいです。それで、イリアス様は無くしたその記憶を取り戻すことが旅の目標ということですか。」
「そうです。察しが良くて助かりますよ。」
さくらの勘の良さにイリアスはどこか満足げな表情を浮かべている。恐らく無駄な説明が省けたとでも思っているのだろう。イリアスはさくらに怒りの表情を浮かべることなく、会話を続ける。
「さくら、この後の行き先は少し北のイリアスベルクですよね。」
「そ、そうですね。そこで今後の旅に必要な物を買いそろえようと思っています。」
「…寛大な私の心に免じて、今言い淀んだことは聞かなかったことにしましょう。」
イリアスの言葉に一瞬であるがさくらは言い淀んでしまった。イリアスには言えないのだろう。さくらの旅の目的は現在、イリアスの監視となっている。そのことを仮に言ってしまえばどうなるか分かったものではない。先ほどキリスに少し煽られただけでキレていたイリアスが耳に入れてしまえば大変なことになってしまうだろう。
幸いにもイリアスは触れるつもりはなさそうだ。さくらは内心ホッと息をついていることだろう。そんなさくらのことなど気にせずにイリアスは言葉を続ける。
「ではまずイリアスベルクへ。次の行き先は、追って指示します。よろしいですね。」
「………。」
「よろしいですねさくら?」
「…はい、分かりました。」
さくらの沈黙にイリアスは若干の圧をかけた。それに対しさくらは僅かにたじろぐが頷く。イリアスはさくらの従順な態度にご満悦なのか満面の笑みを浮かべる。
「ではさくら、私は寝ます。決して日が昇るまで起こしてはなりませんよ。」
そうさくらに向けて言うとイリアスはそそくさとテントの中に入ってしまった。そのまま寝てしまうつもりなのだろう。さくらはそれについて何も言わなかった。イリアスがテントの中に入った後、キリスがさくらに声をかける。
「良かったのかいさくら君、彼女の言いなりになって。」
「良くはないですけど…。下手に疑われるよりはマシかなって思います。それよりも魔王様との繋がりがあることがバレる方がまずいので…。」
「あぁアリス君から言われてるんだっけ…。」
さくらの返答にキリスは悩ましそうに手でポリポリと頭を掻く。さくらからすれば、アリスより命じられたことを確実に遂行することが大事なのだろう。だからこそイリアスに下手に強く出なかったのだ。
「難儀な立ち位置だね、さくら君は。」
「それほどでもないですよ。たまも様からお褒めの言葉を直接いただけますし。もしもらえれば、僕はそれだけで元気100倍です!」
「純愛が眩しいね。輝きすぎて眼がクラクラしてしまうよ。」
さくらとキリスが軽口をたたいていると、さくらの視線がふとぷることわんこに止まる。二人は先程まで語り合っていたが食べ終えて寝てしまったようだ。涎を垂らしながらお互い寄りかかる様にし、スース―と寝息をたてている。さくらはそんな二人に近づき、懐より出したタオルケットのように大きな布をそっとかけた。
「おやすみなさい、ぷるこさんわんこさん…。」
さくらはスヤスヤ寝ている二人を起こさないように優しくそう声かける。そしてさくらはふわぁと欠伸をしながらキリスの方に振り替える。
「そろそろ寝ないと明日に影響がありそうなので僕は寝ます。キリス様はどうなさいますか。」
「お開きという事なら私も寝るとしよう。」
キリスはさくらの言葉を受けて、腰かけていた丸太から立ち上がる。さくらはその場で水の塊を生み出し、それを焚き火の上から落とすことで火消しをしていた。キリスはそれを見届けてさくらと共にテントに入ろうとした。しかし…。
「そんなには食べられませんよ…むにゃむにゃ。」
「………。」
「…そういえばイリアス様が先にお休みになられていましたね。」
テントの中にはぷるこ達と同様に涎を垂らして幸せそうな顔で寝ているイリアスがいた。寝言からして夢の中でも何か食べているのだろうか。大の字で寝ているというわけではないが、横向きに寝ているので涎がテントの床に小さな水たまりを作っている。
イリアスのそんな状態を見てさくらとキリスは固まってしまった。いざ寝ようとしてテントの中に入ろうとしたら女神が涎をだして寝てましたなんてこの状況。動揺しない方がおかしいといえるだろう。
キリスが頭をガリガリ搔きながらはぁ…とため息をだす。
「自由だなホントに…。この世界は私が作ったのだから全て自分のためにあるってことかな。」
「…愚痴をこぼしても仕方ありません。それよりも寝る場所を考えないと…。」
キリスは呆れているようだったが、さくらはそれよりも目の前の状況を打開する案を考え込んでいるようだった。流石にイリアスの隣に寝転んで一夜を過ごすという選択肢はなさそうな感じであった。恐らく早朝何か言われたときが面倒なのであろう。
「…キリス様、丸太に寄り掛かって寝るのは大丈夫ですか。」
「それくらいなら大丈夫さ。問題ないとも。」
悩みに悩んでさくらが考え出した策は、先ほどまで座っていた丸太の場所で仮眠をとることだった。苦肉の策としてはまだ妥協できるラインのアイデアだろう。二人はそそくさとテントに背を向けて歩き、消化した焚き火の残骸がある場所まで戻ってきた。
「因みに何か掛け物はあるかい。キルトやシルクでも材質は何でもいいが。」
「それなら一つブランケットがあるので使ってください。」
「一つ…、さくら君はどうするんだい。」
「僕は大丈夫です。この気温であればなんとかなりますので。」
さくらはキリスの言葉を受けて、懐から綺麗に折りたたまれたブランケットを取り出し、キリスに手渡した。対するキリスはそれが唯一の物と聞いてたじろいでいたが、さくらが拒否したので遠慮なく使うことに決めたようだ。
二人はそれぞれ自分が先ほどまで腰かけていた丸太に寄り掛かる。そしてキリスはさくらより渡されたブランケットを自分の上に掛ける。
「おやすみ、さくら君。」
「はい、おやすみなさいキリス様。」
………
「いたた…。体のあちこちが痛い…。」
翌朝、丸太に寄り掛かっていたキリスが目を覚ます。キリスがうつろに開けた瞼に優しい日差しが差し込む。キリスが使っていたブランケットはいつの間にか、キリスの上から地面の上へと移動していた。
キリスはその場で立ち上がると、腕を回したり腰を伸ばしたりして軽くストレッチしていた。その動作をするたびに体のあちこちからバキボキ音が鳴る。どうやら慣れない寝方はキリスの体には凝り固まらせてしまったようだ。
キリスがある程度体を動かして音もならなくなったころ、キリスは近くから響く音に気が付く。それはドスッドスッと何かをぶつけているものや、ヒュンと空気を切るものであった。恐らく昨日の襲撃のこともあったのだろう。キリスは背中に大剣を背負い、音のなる方へと歩いて行った。樹木の間を通り抜け、少し広い場所に出ると音の発生源である人がいた。
それは刀をその場で素振りし、汗をかいているさくらであった。キリスは背の大剣より手を放し、さくらの方へと歩み寄る。
「おはようさくら君。早朝から鍛錬とは精が出るね。」
キリスがさくらに声をかけたところ、さくらはキリスに気が付いたようだ。先ほどまで振っていた刀を一度懐に納め、タオルのようなもので額より滲み出る汗を拭う。
「おはようございますキリス様。昨日はよく眠れましたか。」
「快眠とは言えないけどね…。まぁしっかり休むことはできたよ。」
「それであれば何よりです。」
さくらは水筒に入れられた水を飲みながらキリスにそう返答する。さくらは先程汗を拭ったはずだがそれでも流れる汗はまだ止まっていない。これだけでさくらが一生懸命練習していることが読み取れる。
ふとキリスの視線が周りの木に止まる。そこにはクナイが何本か刺さっていた。唯のクナイであれば別に何ともないのだが、そのクナイは持ち手の丸く紐でも通せそうな穴が空いている部分に緑色の布のようなものが通されている。キリスはそれを指さしながらさくらに質問する。
「さくら君、あれは何だい。」
「あれですか?あれはクナイを僕が改造したものです。名付けて、ハヤテクナイです!」
さくらは胸を張りながら自信満々に答える。そのクナイは唯のクナイではなく、「ハヤテクナイ」なるものだそうだ。何でも、さくらが製作したと言っていた。キリスはそのクナイを掴み、木よりスポッと抜いた。
「ハヤテクナイ?こうして近くで見ても特に本に載っているクナイと大差ないようだが…。」
「刃の部分に注目してみてください。きっと分かりますよ。」
キリスはそのクナイを顔に近づけているが、違いが分からなかったようだ。さくらがキリスに駆け寄り、そのクナイの刃を指さす。よく見ると、そのクナイの部分は何かしらの模様が彫られていた。
「…確かに何か彫られているね。これは何かしらの効果が?」
「そうです。そのクナイを投げると布の色に応じた属性を纏って飛んでいく…はずなんですよ。」
「…はず?」
さくらはそのクナイについてキリスに説明していた。しかしキリスは会話中に紛れた「はず」という言葉に敏感に反応した。それに対しさくらはアハハ…と苦笑いした。
「何故だか分からないんですが上手く作動しないんですよね。術式的には間違っていないはずなのですが…。」
「そうか…。でも面白いものを見せて貰ったよ。完成したら是非見せてないかな。」
「勿論です!かっこいいこのクナイの姿をお見せしますね。」
キリスの期待の言葉にさくらは胸をポンと軽く叩いた。自分の作品が期待されているのが嬉しいのか、顔が少し赤くなっていた。
さくらとキリスはその場で少し話した後、テントの場所まで戻った。するとぷるこにわんこ、イリアスは丸太の上にちょこんと座っていた。どうやら二人が駄弁っている間に3人とも起きていたようだ。二人が木の間より姿を見せると、3人の視線がさくらとキリスの方に集中する。
「おはようございます、さくらにキリス。」
「おはよ~。」
「おはよう、わんわん!」
「おはようございます。イリアス様にぷるこさん、わんこさん。」
「おはよう。」
さくらとキリスは挨拶してきた3人に挨拶を返しながら丸太に座った。そうするとイリアスがさくらに期待を込めたキラキラとした視線を送る。
「さくら、朝食は何ですか。昨日より貧相な物であれば許しませんよ。」
「よっぽどマシュマロがお気に召したんですね…。」
さくらはイリアスの言葉に苦笑いしつつも懐に手を入れる。そして取り出したものは風呂敷だった。その風呂敷を開くと入っていたのは稲荷寿司だった。油揚げの美味しそうな匂いが辺りに充満し、朝にまだ何の食べていない5人の食欲を刺激する。
「僕お手製の稲荷寿司です。一人二つまでどうぞ!」
さくらはそういいながら5人の真ん中に稲荷寿司の入った風呂敷を広げる。各々稲荷寿司に手を伸ばし、各自持ち分を確保していた。そして手を合わせて声を揃えて言う。
「「「「「いただきます。」」」」」
食べ物に対する感謝の言葉を言ったところで5人は稲荷寿司を食べ始める。口に入れると米と油揚げの優しい味が口いっぱいに広がる。何処か懐かしいその味は朝食にぴったりと言えよう。キリスはその味に満足しつつもさくらが用意してくれたお茶を飲み、フゥと一息つく。
「美味しいね稲荷寿司というのは。特に中に入っているこの粒々が気に入ったよ。」
「これですか?これは米に酢や砂糖と塩などを混ぜて作った酢飯というものです。」
「酢飯…、それに米ね。米は確かおにぎりに使われていたいたやつかい。」
「そうですね。おにぎりにも使われています。」
キリスはさくらの言葉にうんうんと頷く。周りを見て見れば、ぷることわんこはキャッキャと楽しそうに食べているし、イリアスも「美味しい…♪」と満足そうに笑顔を浮かべて食べていた。
この後、イリアスがキリスの分まで食べてしまったなどの些細な出来事はあったが、特に問題は起きなかった。さくら達はテントを解体したり、焚き火の薪の残骸を処理していたりしていた。キリスにぷるこ、わんこは勿論手伝っていたが、イリアスは現場監督が必要だとして4人の作業を見守っていた。
「片付け終わったようですね。では早速イリアスベルクへと行きましょう。」
「イリアス様も手伝ってくださいよ…。」
さくらがブツブツ文句を言っているがイリアスは全く気にも留めていないようだ。イリアスはさくらの方を見ずに一人先に歩き始めていた。さくらの様子にキリスが肩に手をポンと置く。
「残念だが清く諦めたほうが良い。恐らく何を言っても無駄だろうだからね。」
「キリス様…。」
キリスはさくらに声をかけるとその手を肩より放しイリアス達の方に振り返った。キリスの言葉は慰めの言葉というよりもあきらめの言葉であった。さくらが若干いじけていると、それを心配したのかぷるこがさくらの傍に近寄ってくる。
「さくら、大丈夫?」
「…はい、僕は大丈夫です!」
ぷるこの言葉を受けたさくらは自分の両頬を叩き気合を入れなおす。そして突っ立ているキリスの前に駆け出した。さくらの元気な様子にキリスは安堵する。
「もう大丈夫そうだね。」
「はい、ではイリアスベルクに行きましょう!」
「そうだね…、っと言っても自称女神はもうすでに歩き出しているが。」
キリスはさくらの言葉に頷きつつもイリアスの方を指さす。指さされたイリアスは少し小さく見える程度なので、そこまで離れているわけではなさそうだ。さくら達はイリアスに追いつくべく少し速度を上げることにした。
歩き始めて一時間ほど経つころだろうか。5人の視界に茶色の何かが見え始めてきた。それは近づくと段々としっかり見えるようになってきた。それは茶色のレンガでできた城壁であった。イリアス大陸最大の街と呼ばれるイリアスベルクだからこそ、ここまでに大きい城壁を作っているのだろう。
5人は城壁をくぐり抜けてイリアスベルクに入った。そして彼らの眼に入ってきたのは整備された道と様々な建物であった。中央にある噴水付近には出店が立ち並んでおり、人と魔物が入れ混じり活気を見せていた。
「凄いな。イリアスヴィルとは大違いだね。」
キリスがこの光景に呆然としているとさくらは懐に手を入れながらブツブツと独り言を言い出す。
「何を買いましょう…、水分は何とかなるとしてやはり食料や装備などが足りない…。」
さくらは下を向き自身の買うべきものを検討している。だからこそ気づけなかったのだろう。目の前にいるこちらに向かってくる存在を。
さくらはその少女とぶつかってしまった。幸いにもその少女は片手にいっぱいの串団子を持っていただけであり、またそれを落とすことはなかった。さくらはぶつかってしまったことにより、尻もちをついてその場で転倒してしまった。
「いてて…。ごめんなさい、ぶつかってしまって…。」
「それくらいであれば大丈夫だ。余は寛大だからな。」
「え…その声は。」
さくらは痛がる素振りを見せるが、その声を聴いた瞬間にその場に固まってしまう。さくらは冷や汗を流しながらも、ぶつかってしまった少女を見る。
そこにいるのはイリアスヴィルで見た魔王アリスであった。その両手にはみたらし団子のような食べ物を持っており、口の周りにみたらしのたれが付着していた。
「久しいなさくら。そちらの調子はどうだ?」
「こちらは何も問題ありません。魔王様もここで旅支度を?」
「うむ、そうだ。」
さくらがアリスと話していると、突如後ろより圧を感じた。さくらが慌てて振り返ると、そこにはご機嫌ななめといった感じで眉を潜めたイリアスが立っていた。イリアスはズンズンと足音が聞こえてきそうな感じでアリスに近づいた。
「ここで何をしているのです。魔王よ。」
「何をしていても勝手だろう。女神よ。」
感想や誤字脱字報告、お待ちしております…。