もんむす・くえすと! ぱらどっくすRPG きつねのお話 作:ケルル(ハーメルン始めました)
「あわわ、魔王様とイリアス様が睨みあってる…。どうしよう…。」
さくらは手を口に当てて慌てたそぶりを見せる。先ほどまで自分の上司の上司と話をしていたはずが、後ろよりイリアスが会話に割り込んできた。そして割り込んできたかと思えば、今度はアリスと睨みあった。
さくらは特に何かやらかしていたというわけでもないので、対応に困っているのだろう。アリスとイリアスのことをどちらか手助けすることもなく、見守っていた。
他方でキリスは3人のことを気にも留めずに、アリスの横にいるルカとソニアに話しかけていた。
「やぁ、二人とも。この町で買い出しかな。」
「そうだね。キリスも?」
「同じだな。ついでに観光もしていきたいと思っている所存さ。」
「だったらあまあま団子なんてどう?甘くてとっても美味しいよ。」
「ふむふむ。それはどこで売っているんだい。この町には初めて来たから場所が分からなくてね。」
「それならこの町にある一番大きな宿屋に売ってるわ。ほら、あそこの建物よ。」
キリスは完全に観光気分のようだ。さくら達のことに助力どころか関与すらしない姿勢で、ルカとソニアから話を聞いている。
ソニアはキリスの話を聞いて町の建物を指さして答えていた。指の先には、この町で最も大きな建物がそびえたっていた。その建物の前ある階段に「INN」という看板が貼られている。その建物から誰かが出てきたが、その人たちは高そうな服をその身に纏い、金でできたものを装飾品として腕に着けていた。高級宿といった部類の宿泊施設なのだろうか。
キリスはそんな人たちを気にすることなく、ソニアの言葉に頷く。
「ではそちらの方に行こうかな。ありがとうソニア君。ではこれでー。」
「ちょ、ちょっと待って下さいよキリス様。」
この場を去ろうとするキリスを、さくらは呼び止めた。キリスは完全に無視していたが、さくらの方からとすれば無視などできなかっただろう。なにせここでキリスが去ってしまえば、イリアス側の立場が一人減ってしまうのだから。
さくらは必死であるが、キリスはため息をついていた。とても嫌そうである。背を向けていたが、キリスは振り返りさくらの方を向く。
「さくら君、私は楽しいことは好むけどね、面倒なことは好きじゃないんだ。この如何にも喧嘩が今から始まりますよーというこの場所に、はいそうですかと黙ってそのままそこに居られるほど、私はお人好しじゃないんだ。お分かり?」
「だからといってそのまま見過ごして行かせてしまうわけにはいきません。大変なことは分割すれば、その分楽になるということは知っていますよね。」
「あのねぇ…。」
キリスはさくらに頭を掻きながら話すが、さくらも負けじと反論していた。さくらはヒソヒソとあまり大きな声ではなく小さな声で話していた。絶対に逃がさないという意思をその瞳から感じる。
しかしその言葉が聞こえていたのか、イリアスがアリスより視線をそらし、さくらの方を睨みつける。
「さくら。まさかとは思いますが、今この私のことを大変なことと言ったのではないでしょうね。」
「そ、そんなわけないじゃないですか。イリアス様のために尽くせるのなら僕はとても嬉しいと思っていますよ。」
「ならいいのです。あまり変なことを公言しないように。」
さくらの返答に一応は満足したのか、吊り上がった目の角度を元に戻した。さくらは取りあえず凌いだことに、ホッとその場にため息をついた。キリスは手に口を当てながらさくらにヒソヒソと先ほどよりも小声で話しかける。
「まさかこの会話まで聞き取られるとは…。」
「…キリス様も極力気を付けたほうが良いかもですね。もしかしなくても変に勘ぐられるかもしれません。僕も魔王様に言われたことをバレたくありませんし…。」
「そうだね。私も変に追及されたくないからね…。」
「何ですか二人とも。言いたいことがあるのならこの私をしっかり見てから言いなさい?」
二人がコソコソ話していると、イリアスは二人のことを睨みつけながらそれに対して言及する。さくらはヒェと声に出していたが、キリスはあっけらかんとした様子でイリアスのことを見る。
「いやぁ、イリアスは随分なお耳をお持ちのようだと話していただけだ。それは例えるならまるで地獄耳。本当に耳ざといというだけさ。」
「当然でしょう。地上のことを管理していたのですからこれくらいは出来なくては。つまりは女神の特権ということですね。」
「そうかい。だからと言って君を女神と認めるかどうかについては話が別だけどね。」
「ぐぬぬ…。」
イリアスがキリスの女神を認めないという言葉に悔しそうにしている。するとこのやり取りを見ていたアリスがフンと鼻を鳴らした。そしてイリアスに向けて話しかける。
「なんだイリアス。お前は連れに自身の正体を信じてもらっていないのか。まあ仕方あるまい。その姿では女神の威厳の欠片すら存在しないからな。」
「何を言うかと思えば…、貴方だって同じようなものではありませんか。」
アリスの言葉にイリアスは反論する。客観的に見ても、アリスとイリアスの二人は子供の姿である。その小さな体ではお互いに尊厳など主張しても、子供の戯言と聞き流されてしまうのがオチだろう。
「まぁ良い。ルカが余を選んだというこの事実は揺るがん。イリアス、所詮貴様はルカに選ばれなかった敗北者よ。」
「…何ですって?この私が敗北者?」
アリスの言葉にイリアスは驚愕する。息も段々と荒くなっていき、目もまた吊り上がっていく。ぎりぎりと歯ぎしりをして、アリスのことを強く睨みつける。
「…取り消しなさい、今の言葉!流石の私も寛容できる物ではありませんよ!」
その言葉を皮切りにイリアスはアリスへと襲い掛かる。フシャ―‼と口に出しながら爪を立ててアリスに飛びかかり噛みつこうとしている。
騒ぎを起こされると厄介だと思ったのだろうか。さくらは飛びかかるイリアスを両手で掴み抑えようと、イリアスに近づく。
「イリアス様、どうか落ち着いて…。」
「喧嘩両成敗!」
「うぎゃ⁉」
「何故余も⁉」
さくらがイリアスを咎めようとしたところ、突如として横から棍棒が飛び出てくる。どうやらソニアが自身の片手に持つ得物のようで、それをイリアスとアリスの両者の頭目掛けて振り下ろしていた。二人とも不意打ちだったようで、その攻撃を回避できずに直撃で食らってしまった。頭を手で押さえて、その場で下を向き悶えている。
「服装に加えて今度は棍棒ねぇ。やっぱりソニア君を清廉潔白な僧侶と呼ぶのは無理ではないかな…。」
キリスは現場より少し離れたところにいたが、キリスはソニアの行動に若干引いていた。ソニアとキリスはイリアスヴィルにて会ったが、その時にソニアは自身のことを僧侶だと説明していた。キリスはその格好で僧侶…?と当時から思っていた。今回も僧侶ならまず言葉で制止を呼びかけるのかと思いきや、繰り出されたのは棍棒のフルスイングである。
殴りつけられたアリスとイリアスはその場で宙に星を回しふらふらしていた。少し間をおいて、顔をブンブンと横に勢いよく振るって意識を取り戻した。イリアスは自身を殴りつけたソニアを睨みつける。
「この私を殴りつけようとは…、いったい誰なのですか⁉」
「あたし?あたしはソニア、イリアス神殿に勤める僧侶。座右の銘は「気合」よ!」
「また私が知らない名が出てきましたね…。一体全体どうなっているのです…。」
ソニアの自己紹介にイリアスは悩む。キリスの時と同じでその名を知らないようだ。
ソニアはイリアスが悩む様子を見て、変なこと言っちゃったかな…という微妙な勘図の表情を浮かべていた。そんな状態のソニアにキリスは近づき、肩にポンと手を置く。ソニアがそちらの方に顔を向けると、キリスはどこか呆れた感じで首を左右に振っていた。
「あまり彼女のことを気にしない方が良い。何せ私の時も同じ反応をされたからね。」
「どういうこと?」
「私が貴方を知らないのは何故と…。私も初対面なのに君と同じように、変な対応をされたよ。」
「そうなのね…。」
キリスの言葉にソニアも苦笑いする。そういえばキリスも、この点においてはある意味被害者と言えよう。今のイリアスのソニアの対応と同じようにされていたのだ。
呆れている二人の一方、イリアスは頭を押さえながら立ち上がった。涙目になりながらもソニアのことはしっかりと睨んでいる。そんなイリアスをアリスは鼻で笑う。
「自身に仕える者に棍棒で叩きのめされているとは。無様なものだなイリアス。」
「貴方も同じではありませんか…。」
アリスの言葉にイリアスは苦笑いしていた。しかしそこから罵倒することはなかった。その代わり、イリアスはアリスを視界に入れながらクックックッと何やら意味深に笑う。
突然イリアスが笑い出したことの意味が分かるわけもなく、アリスはどこか不機嫌にイリアスに問いただす。
「…急に笑い出しおって、何がおかしいのだ。」
「魔王よ。貴方は何も分かっていませんね…。」
アリスが眉を潜めていると、イリアスはさくらに視線を向けた。さくらはその視線に気が付いたが、それの意味は察することはできなかった。
「イリアス様、僕がどうかしましたか?」
「たとえルカが私のことを選ばなくても関係ありません。何せあなたの部下であるさくらの引き抜きに成功したのですから!」
「…何?」
「…どういうことです?」
イリアスの言葉に絶句する。イリアスはさくらのことを引き抜いたと言った。引き抜きと言えば、知識やスキル、人柄などが評価されて、他社の人材を自社にスカウトする際などに用いられる言葉だろう。今流行りの転職というものであろうか。
さくらとしてはそんなことを言われた覚えもなければ、承諾した覚えもない。中々に冗談にならない状態だ。
アリスは少し固まってしまったが、少し間をおいて意識を戻せたようだ。アリスはさくらの方に疑いの目を向ける。
「どういうことださくら。まさかとは思うが余を裏切ったというのか。」
アリスより疑われたさくらは、その手をブンブンと全力で振るって否定する。
「そんなわけありませんよ!僕は…。」
「いいのですさくら。皆まで言わなくても私は分かっていますよ。」
さくらはアリスに弁明しようとするが、イリアスはその言葉を遮る。そしてアリスに不敵な笑みを浮かべる。
「私が襲われたあの時、そう簡単には許さないと、その刀を抜いてくれたではありませんでしたか。それに、その後にあんなに熱い夜を過ごしたというのに。」
「何だと⁉さくら、本当にイリアス側についたのか?」
「だから違いますって!誤解ですよぉ!」
イリアスは最後の言葉を言うとともに、両手を目に当てた。その仕草は傍から見れば、泣いている姿にしか見えないものであった。泣き真似をするイリアスにアリスは酷く動揺していた。どこか狼狽えてながらもさくらの肩をガシっとしっかり掴んでさくらを揺さぶる。
アリスに掴まれたさくらも必死に違うと訴えている。しかしその言葉が今の動揺しているアリスに届いているかと言われると微妙なラインである。
事の成り行きを黙ってみていたルカは、キリスに近づいて質問する。
「ねぇキリス。今のイリアス様の言ったことって本当なの?」
「間違ったことは言ってはいないが…、話の省略に自称女神の悪意が混ざっているせいで、確実に事実が曲解されて伝わっているね。はぁ…。」
ルカにそう言った後、キリスはその場で頭を抱える。その様子にキリスは、イリアスの行動に呆れているのが伝わってくる。
イリアスの言った言葉は事実を上手く切り抜いたものだと言えよう。つまり、嘘は言っていないというやつである。
イリアスの話で考えるポイントは主に二つだ。「そう簡単には許さない」という部分と、「あんなに熱い夜を過ごした」という部分だ。前者については、さくらがパピに自身の必殺技を放つときに言ったものである。後者については完全に“そういう”意味にしか捉えられないが、さくらとイリアスは昨夜その様な行為には至っていない。
では何なのかと考えるに、昨夜のうちに熱いという単語が使われているのは焚き火だ。それ以外には多分ない。よって「あんなに熱い夜を過ごした」というのは「あんなに熱い(焚き火を囲んで)夜を過ごした」ということなのだろう。大事な部分が省略されて、最早意味合いが変わってきている。
ここまで長く語ったが、こんなことを冷静ではなく、また一部事実を知らないアリスが分かるわけもないだろう。アリスの余裕のない様子に、イリアスは何処か嬉しそうだ。きっとうまくやり返せたと思っているに違いない。
「ふふふ…、例え魔物といえどこの私が持つ魅力には抗えませんね。虜になってしまうのも致し方ありません。」
「イリアス貴様…!」
「えぇその顔です。お似合いですよ、私に部下をとられて涙ぐむことしかできない、自身の無力感に嘆くその顔が…!」
イリアスはアリスの下唇を噛み悔しそうにする顔に上機嫌だ。オホホ!と高笑いまでしている。
やがて満足するまで笑ったのだろうか。イリアスは笑うのは止めてアリスに背を向ける。そして顔だけアリスに向けて言う。
「ではさらばです魔王。今度は四天王の一人でも引き連れてきましょうかね。」
「な⁉ま、待てイリアス!」
「イリアス様待って~。」
「あたしたちも一緒に行くよ!」
イリアスはアリスに捨て台詞を残して去っていった。その後をぷることわんこは慌てた様子でついていく。置いて行かれると思ったのだろう。
イリアスが去った後のさくら達には微妙な空気が残されていた。アリスとイリアスの小競合いにより生じたものだろう。さくらもルカも何も言葉を発せずにいた。
そんな中下を向いていたアリスがさくらの方へと顔を向ける。その顔は真剣そのものであり、視線を向けられたさくらは自然と背がビシッと伸びていた。
「…さくら。確認だが、本当にイリアスの元についたわけではあるまいな。」
「僕は昔も今もたまも様一筋です。そのたまも様が仕える魔王様の元で、これからも頑張っていきます!」
「…そうか、ならよい。」
さくらの回答にアリスは満足げだ。するとアリスはクックックと口角をあげて不敵な笑みを浮かべた。さくらはアリスが笑ったことにまた困惑してしまう。
「ど、どうしたんですか魔王様。僕、何か変なこと言ってしまいましたか。」
「いやそうではない。相も変わらず一直線だと思ってな。」
さくらがアリスの笑った意図がつかめなく悩んでいるところ、キリスがアリスに近づき話しかける。
「もしかしてだが、アリス君。君はわざとイリアスの言葉に踊らされていたのかい。」
困惑するさくらを置いておいて、キリスがアリスに質問した。すると先ほどよりもアリスは笑みを深めた。そしてキリスに向けて言葉を投げかける。
「何だキリス、意外にも貴様は察しが良いな。」
「良いも何も、本当に裏切っていると考えるのならそこで切り捨てるくらいのことはするだろう。魔王なのだから。」
「余のことを一体何だと思っている…。まぁ演技は中々の物であっただろう。」
キリスの発言に若干引いてはいたが、それでも胸を張り、誇らしげにしていた。そして再びその場でクックックと笑いながら、さくらの方を見つめる。
「やはりさくら、貴様は頼りになるな。たまもがあそこまで信頼を置くのも納得がいく。」
「は、はぁ…。」
アリスはさくらのことを見ながら、うんうんと腕を組んで頷いていたようだ。一方それを言われたさくらは困惑が抜けきっていなそうであったが、アリスの言葉に一応相槌を返していた。
「これでイリアスの情報が手に入る。くくく、まさかさくらが我らのスパイだとは思うまい…。」
「上手くいくといいねぇ。」
「さくら、キリス。いつまで魔王と話し込んでいるのです。女神の気はそこまで長いものではありませんよ。早くこちらに来るのです。」
さくら達がアリス達と話し込んでいると、遠くよりイリアスが大声で呼びかけてくる。その顔はまだ怒ってはいないがこれ以上待たせれば、何を言われるか分かったものではない。
「では魔王様、僕は行きますね。変に言われてもしょうがないですし。」
「あぁさくら、気張っていけ。あの女神が何を言い出してもいいようにな。」
「あはは…。」
さくらはアリスより激励の言葉をかけられて苦笑いを浮かべている。アリスがわざわざ言うということで今後の苦難でも想像したのだろうか。口角を吊り上げ、ヒクヒクと無理割笑っているようにも見れる。
「ではルカ君達もまた今度。次は勇者の武勇伝の一つや二つ、聞かせてほしいな。」
「そんな語るほどのことは出来ないと思うけどね。」
「じゃあね、キリス!」
キリスもルカ達に別れの言葉を告げていた。さくらとキリスの二人はそうしてアリス達を背にしてイリアス達の元へと歩き出していた。幸いにもイリアス達は二人とそう離れて
いない場所にいたため、すぐに合流できた。
「お待たせしましたイリアス様。」
「ぷるこ君もわんこ君も待たせたね。」
「大丈夫だよ!」
「えぇ待ちましたよさくら、キリス。では行きましょう。」
イリアスは合流した二人を確認すると、すぐに歩き出してしまった。さくら達も先に歩きだしてしまったイリアスの後を追う形で歩き出す。