もんむす・くえすと! ぱらどっくすRPG  きつねのお話   作:ケルル(ハーメルン始めました)

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前回のあらすじ…アリス「くくく…全ては計画通り!」


15,旅の休息

「虫けらが集めた蜜を使うとは、なんとおぞましい…。あむあむ、…美味しい♪」

 

 

 さくら達はそこからイリアスベルクの各所を回った。屋台にて売られている野菜や果物を買ったり、武器屋や防具屋にて装備を整えたり、道具屋で薬草やポーションなど、旅先で必要になる物を買いそろえていた。

 

 

「いちいち小言を挟まなければ死んでしまう病にでもかかっているのかな君は…。文句があるなら別に食べなくてもいいんじゃなかい。」

「あむあむ…。別にいいではありませんか。天界にいたときはこのような物を味わうことは出来なかったのですから。」

 

 

 そして現在、イリアスはベンチにて、イリアスベルクの高級宿にて購入したあまあま団子を口一杯頬張っていた。口の周りに蜜をつけて食べるその姿は、神を名乗らなければ普通の少女としか見えないものであった。

 

 ご機嫌なイリアスの後ろからキリスが苦笑いしながら近づき、隣に座った。その手には水の入ったコップが握られていた。イリアスとは違い、口の周りには蜜はついていなかった。

 

 

「天界といえば理想郷のイメージがあるが、その言葉から考えるに意外にもそうでもない場所なのかな。」

「何を言っているのですかキリス。この私が作り上げたのですよ?誰もが望む理想郷に決まっているではありませんか。」

「そんなに口元をべとべとに汚した状態でも言われても説得力に欠けるね。ほら、これで拭き取るといい。」

「むむむ…。」

 

 

 キリスの言葉にイリアスは声をあげてうねっている。キリスは何処までもイリアスの言葉を信頼していない様子だ。イリアスはキリスより差し出された紙で口元を拭う。しっかりと拭き取れたようで、キリスにその汚れた紙を渡していた。

 

 

「まぁいいでしょう。この団子の献上に免じて、宿に関しては勘弁するとしましょう。」

「その言い方は悪役のセリフの言い方じゃないかい。」

 

 

 イリアスの傲慢極まる言葉にキリスは苦笑いしていた。宿というのは今夜泊まる場所のお話である。

 

 当初イリアスはあまあま団子を買ったときに、この宿であればこの私を止めるにふさわしいですね…と言っていた。このイリアスベルクには二つの宿がある。一つは普通の宿と、あまあま団子が売られている方の高級な宿だ。イリアスは後者の高級な宿に宿泊しようと画策していた。

 

 しかしそれに待ったをかけた者がいた。それはさくらである。イリアスが食べているあまあま団子もそうだが、旅の費用を負担しているのは全て彼である。彼がその場で涙を流しながらイリアスを止めたのだ。

 

 それも仕方ないことである。前者の宿は一拍に10G(“G”というのはこの世界のお金の単位のこと)掛かるのに対し、後者の高級な宿は100,000Gと、桁数が4つも異なる。また参考までに、ここイリアスベルクの八百屋に売られているバナナは一つ35G、トマトやジャガイモは20Gとなっている。更に他の場所だと、普通の宿レベルであれば10Gで泊まれることができる場所もあるほどだ。これらから高級な宿の一泊代金は、他と一線を画す価格であることが分かるだろう。

 

 イリアスとキリスが二人で話していると、良心的な値段の宿よりさくらが出てきた。さくらは辺りをキョロキョロと見渡し、二人を見つけると大きく手を振って声をかけてきた。

 

 

「イリアス様―!キリス様―!今夜の宿の部屋を確保できました~!」

「よし、では行こうか。」

「言われなくとも参りますよ。」

 

 

 二人はさくらの声に座っていたベンチより腰を上げて、宿の方へと歩き出した。そして宿の入り口をくぐり、中へと入っていった。

 

 

「外だけでなく中も木材を中心に構成されているのか。優しい雰囲気があるね。」

「僕たちの部屋は二階ですよ!」

 

 

 キリスは宿に入るなり物珍しそうに周りを見渡していた。さくらはそんなキリスのことを気にせずに宿の階段を駆けていった。ぷることわんこもさくらに続いて走っていった。

 

 

「キリス、さくらはもう行きましたよ。いつまでそんなところで待ちぼうけしているつもりですか。」

「…おっとすまないね。では私達も行こうか。」

 

 

 キリスは宿屋のことに夢中でさくら達が上に言ったことに気づいていなかったようだ。イリアスより指摘されると、我に返ったようで自身も階段を上り二階へと向かっていった。イリアスもそれに続き、二階に向かった。

 

 

「キリス様、イリアス様、こっちです。」

「とっても広いお部屋だよ~。」

「ベッドもふかふか♪」

 

 

 キリスとイリアスが二階に上がるとさくらが扉より半身をだして二人を手招きしていた。その部屋の中からはぷることわんこが既に部屋を満喫しているのか、楽しそうな声を聞こえる。

 

 キリスとイリアス達はその手に促されるままに扉を開けて部屋へと入った。その部屋は安さに比べてとても広いものであった。簡易的なクローゼットに5つのベッドがあり、また5人が横に並んでもスペースが余るほどの広さがあった。

 

 

「安いとは言っていたが…これほどならば全然そうは思えないね。」

「ですよねですよね。僕もお仕事の際に何度かお世話になりましたが、とっても良いお部屋です。」

 

 

 キリスの様子にさくらもどこか鼻が高そうである。手を腰に当てて胸を張っていた。ぷるこはその手に木製のブーメランを持ち、「わーい♪わーい♪」と楽しげな様子であった。またわんこもベッドの上で飛び跳ねており、こちらも楽しそうであった。

 

 

「こちらでこれほどであれば、向こうはどれ程の物だったのでしょう…。気になりますね…。」

「だから僕の財力では無理ですよ…。」

 

 

 イリアスはまだ高級宿のことが諦めきれていないようである。しかしさくらからすればたまったものではないので、顔を真っ青にしてイリアスを止めていた。

 

 

「自称女神もそこら辺で勘弁したらどうだい。」

「だからですねキリス、私は女神であると何度言ったら…。」

「はいはい、それよりもあまあま団子でも一つどうだい。」

 

 

 イリアスは自称女神と呼ばれることに不満を覚えたが、それ以上の小言を言う前にキリスにあまあま団子をその口に突っ込まれてしまった。もごもごと咀嚼し、イリアスは団子を飲み込んだ。その顔は団子の美味しさに感動しているのと、それ以外にも何か言いたげなことの二つが混じった複雑な顔であった。

 

 そこから5人は宿内でまったり過ごしていた。イリアスベルクで買った物を食べたり、道中にあったことなどを話したりして時間があっという間に過ぎていった。途中、眠そうなイリアスにさくらとキリスが投げ合っていた枕が命中し、ブチギレたこと以外は平和であった。陽はいつの間にか沈み、月が光輝き夜を告げていた。

 

 

「ではキリス様、おやすみなさい。」

「あぁお休みさくら君、私ももう少ししたら寝るかな。」

 

 

 さくらはふわぁと眠そうに欠伸をしてベッドに潜り込んでいた。そしてしばらくするとスース―と寝息をたてて寝てしまった。キリスは窓に寄り掛かり、そこから見えるイリアスベルクの夜の街を見下ろしていた。昼と違い夜は人がおらず活気はないが、その静寂さが昼の街とは別の魅力を引き出していた。

 

 

「…しかし、呼び出されて良かったな。そうでなければこんな美しい景色は一生見れなかったかもしれないな。」

 

 

 キリスは独り言を呟く。キリス以外は全員ベッドで寝ている。イリアスも腹を手で搔きながら鼻提灯を作って熟睡している。

 

 

「元の世界に帰還した際は、この世界で見たこと、学んだことを上手く用いるとしよう。これも呼び出された特権というやつかな。」

「…そろそろ就寝するとしようかな。明日も明日の旅があるからね。」

 

 

 キリスが視線を窓よりそらしたその時、さくらがベッドの中でうねり始めたのだ。額には汗を流し、歯をかみしめながら苦しげな表情を浮かべ始めた。何か悪夢でも見てしまったのだろうか。

 

 

「さくら君大丈夫かい…って聞こえているわけがないか。」

 

 

 キリスは自身にツッコミを入れながらさくらの方へと歩き出す。心配だったのだろうか、キリスはさくらの様子を確かめようとしていた、その時だった。キリスは部屋の入口より何者かの気配を感じ取った。

 

 

「…何者だ。ノックもなく客人の部屋に入るとは感心しないな。」

 

 

 キリスは先ほどまでさくらに向けていた視線を、気配がした扉の方へとむけていた。彼の周りにいつもいる光達はキリスのベッドの上で沈黙している。寝てしまっているのだろうか。

 

 キリスが視線を向けた先には二つの人型がいた。その二人は肌が青白く透き通っているような印象があり、まるで幽霊な存在であった。身長的には二人ともさくらよりも少し高いくらいであった。片方は日本の平安時代にいそうな陰陽師の格好をしており、もう片方は神社で祀られていそうな巫女の服装をした人であった。巫女の服装をした方は後ろに先が銀色の尾を九本生やし、また頭にケモ耳が生えていた。二人とも目元は髪で覆われており、その目元はキリスからは見えなかった。

 

 巫女の服装をした女性の霊が歩き出す。その方向にはさくらがいた。キリスは先程壁に立てかけておいた大剣をその手に握り、女性の霊へと向けようとした。しかしキリスの前に陰陽師の格好をした霊が入り込み、キリスの前に立ちふさがった。

 

 

「夜に忍び込み、寝首を掻こうとする怪しき者よ。彼らを害するのなら容赦はしない。」

 

 

 キリスはその手に大剣を構えて二人の霊に切りかかろうとしたが、陰陽師の霊がキリスに手を広げてキリスに手のひらを見せつけてきた。そのハンドサインは「待て」というものであるが、この陰陽師の霊はまるで巫女狐の霊をかばっているようだった。

 

 キリスが陰陽師の霊に遮られている間にも巫女狐の霊はさくらに近づいていく。彼女はさくらのベッドの傍まで近寄り、苦しむさくらの頭を…その手で優しく撫でた。

 

 撫でられたさくらは苦しそうな表情が段々と引いていき、終いにはベッドで寝入ったときと同じような穏やかな表情で寝息をたて始めた。巫女狐の霊もそれを見届けてさくらを撫でるその手を頬より放した。そしてその場で一回頷くと立ち上がり、先ほど現れたところまで歩んでいった。陰陽師の霊もそれを見ると、キリスより顔を背けて巫女狐の霊の隣へと歩いて行った。

 

 キリスは呆然としていた。一連の流れが理解できなかったからである。突然現れたかと思えばさくらの頭を撫でていった彼らを、キリスは全く理解できなかった。

 

 霊の二人は振り返り、扉に向かって歩こうとしていたが、キリスが呼び止めていた。

 

 

「君たちは急に現れたかと思えばさくら君の頭を撫でて…、一体何者なんだい。」

 

 

 キリスの声が届いたかどうかは分からないが、陰陽師の霊がそれに応えるかのように服より筆と巻物を取り出した。そしてその巻物を広げては何やら筆を忙しく動かして書き込んでいるようにも見られる。しばらくしてその手が止まると、巻物をひっくり返しキリスに見せてきた。

 

 

【我らは怪しい者ではない。】

「よくもまぁ、ここまでの行動でそれが書けた物だね。自分でも驚くくらいにその言葉が信用できないな。」

 

 

 キリスの言葉など意にも介さないように巻物をひっくり返し、また何か書き込んでいる。そして書き終えると先ほどと同じようにキリスに見せる。

 

 

【また会おうぞ、若人よ。】

 

 

 それを見せると今度こそ陰陽師の霊は扉の方へと振り返ってしまった。巫女狐の方は口元に笑顔を作り、キリスに向けて手を振っていた。それはまるで「また会いましょう。」とでも言いたげな様子である。そうして二人の霊は光の粒子となって消えてしまった。

 

 

「…いったい何だったんだ。今のは…。」

 

 

 部屋に一人取り残されたキリスはボソッと呟く。キリスは後に部屋を調べ何かされていないかを確認した。しかしさくらの表情が和らいだ以外の相違点は無かった。結局何も進展がなかったキリスは諦めて、ベッドに入り込み寝ることにした。寝る前に「明日、さくら君達にも聞いてみるか…。」と呟いてから。

 

 

 

 

 

 

………

 

……………

 

「…ということが昨夜あったのだけど、何か知らないかい。」

「えっと、何ですかそれは…。」

 

 

 翌朝、さくら達が全員目覚めて朝食を取っているときにキリスは昨夜のことを聞いていた。この世界に住んでいるさくら達なら、何か知っているかもとキリスは思っていたが、帰ってきたのは沈黙だった。何ならイリアスに関しては、キリスから幽霊というワードを聞いただけで涙をその目に浮かべて震えている。

 

 

「キリス、その幽霊たちは勿論祓ったのですよね⁉そうでなければ裁きの雷を落としますよ⁉」

「その霊は立ち去って行ったが…、別にそんなに怖がらなくてもいいんじゃないかい。」

「こ、この私が幽霊如きにこ、怖がっているわけないでしょう⁉」

 

 

 イリアスはキリスの言葉を必死で否定するが、その体の震えようから答えは一目瞭然である。一方、さくらは手を顎に当てて「う~ん…。」と悩んでいた。

 

 

「…申し訳ありませんがキリス様。ここの宿でそのようなことは聞いたことがありません。一月ほど前に利用した際もそんなことはなかったはずですが…。」

「いや、聞いたことないのならいいんだ。悪かったね。」

 

 

 さくらはキリスに申し訳なさそうにしているが、キリスは平気そうだ。そうしていると、彼の周りにいる光がキリスの胸の周りに集まってきた。そしてキリスの胸の元で止まった。

 

 

「………。」

「…いや大丈夫だとも。特段けが等はしていないし、それに寝ていたのだからしょうがないさ。」

 

 

 キリスがその光達に声をかけながら空いている手で撫でる。それで光達は元気になったのか、緑色の光に至っては先程よりもスピードをつけてキリスの周りを回りだした。

 

 

「…えっと、イリアス様。これからどうするんですか。」

「そうですね…。」

 

 

 キリスのもう大丈夫そうな様子を横目に、さくらはイリアスに話しかける。もう幽霊に関しては大丈夫そうで、狼狽えている様子もない。

 

 

「世界のいくつかには、天界に近いスポットが存在します。まずはそこに向かって配下を呼ぶことを第一目標とします。」

「天界に近いというのは標高が高いということですか?でしたらイリアスヴィルの裏山なんてどうでしょうか。あそこであればイリアス大陸の中では随一の標高を誇りますよ。」

「そうですね。しかし私一人で赴いたのですが…。」

 

……………

 

 イリアスはイリアスヴィルの裏山の頂上にて、自身の仕える天使たちに向けて呼びかけを行った…。

 

 

「天使よ…。私に仕える天使達よ…。」

「私の声が聞こえますか…。」

「………。」

「天使よ、我が元に馳せ参じなさい…。」

「………。」

「熾天使エデン、ただちに我が元に来なさい…。」

「今なら、あなたが一番乗りですよ…。」

「………。」

「ミカエラ、私を迎えに来なさい…。今なら、許してあげてもいいですよ…?」

「………。」

「ルシフィナ…は、もう死んだのでしたね…。」

「どうして、あそこまで意地を張ったのでしょう…。そんなに、私のことが嫌いだったのでしょうか…。」

「………。」

「…ぐすん。」

 

 

 しかし誰も答えることはなかった…。

 

……………

 

「泣いてなどはいません…。」

 

 

 イリアスはさくらの質問に答えていたが、そのうちに何かを思い出したのだろう。涙目になってしまった。しかし直ぐに調子を戻して話を続ける。

 

 

「そういった場所で、再び天使たちを招集します。そのため、魑魅魍魎はびこる北の地に行かねばなりません。」

「なるほど、イリアス様のおっしゃることは大体わかりました。」

 

 

 さくらはイリアスの話に相槌を打っていた。取りあえずは今いる場所よりも北の場所を目指す予定なのだろう。さくらが頷いていると不意に首を捻り、眉を潜めてイリアスに言葉を投げかける。

 

 

「ところでですが…、どうしてイリアス様はそのようなお姿に?」

「恐らくですが…六祖大縛呪によるものですね。正確には、その封印から抜け出すために自力でこの姿となったのです。」

「六祖大縛呪?」

 

 

 イリアスは小さくなった要因に六祖大縛呪というものをあげた。それは一体何なのだろうとキリスが理解できていなさそうにしている。しかし、さくらに何か心当たりがあるようだ。イリアスの後に言葉を続ける。

 

 

「六祖大縛呪といいますと、確か被縛者の魔力で作動し続ける強力な封印でしたよね。」

「ええそうです。その魔力が強ければ強いほど強力になるのです。」

 

 

 さくらの知識はどうやら当たっていたようだ。イリアスは満足そうな表情を浮かべる。

 

 

「六祖大縛呪は弱き肉体にはほとんど呪縛が働きません。そこを利用し、この体で封印から抜け出したのですが…。」

「神の強大な力を弱めるには、随分な時間が経ちました。おまけに、魔力はもちろん記憶にまで制限を受けたのです。」

 

 

 イリアスの説明からすれば、六祖大縛呪という封印術を抜け出すためには弱い状態である必要があるという。しかし神であるイリアスはそう簡単には弱くなれず、手こずってしまったようだ。

 

 ここまで話を聞いていたさくらが何かを疑問に思ったのか、イリアスに質問する。

 

 

「ですが、いったい誰がイリアス様にそんな封印を…?」

「可能性が高いのは、黒のアリス…。もしかしたら、プロメスティンの仕業かもしれませんね。邪神が手を回したという可能性も捨てきれませんね。」

((意外に候補が多い(ですね…。)(な…。)

 

 

 イリアスの話を聞いてさくらとキリスは苦笑いをしていた。誰の仕業かと言えば、普通に心当たりがあるのはそう多くないのが普通だ。しかしこの女神、スラスラと3人も候補をだした。意外にも敵が多いのだろうか。

 

 ふとキリスが立ち上がる。そしてそのまま扉の方に歩いていくとドアノブに手を駆ける。

 

 

「すまない、少しお花を摘みに行ってくるよ。」

「トイレですか。ごゆっくりどうぞ。」

「…あのさぁ。」

 

 

 キリスの言葉を包み隠さずに公言してしまうイリアスの様子にキリスは何か言いたげであった。しかし特に何も言うことなく部屋を出て行ってしまった。

 

 

「…席を外している間に忠告しておきましょう。さくら、キリスをあまり信用してなりませんよ。」

「それは前からおっしゃられている、イリアス様の知らない発言ですか。」

「そうです。それはつまり、歴史に存在するはずのない人間だという事。キリスという人物は、この世界に存在しないのです。」

「………。」

 

 

 扉が閉まり、キリスが完全に部屋から退出すると、イリアスはさくらにむけて忠告をする。それはキリスのことだ。イリアスは昨夜もキリスのことについて触れていたが、今度はそれを具体的に述べていた。

 

 これを聞いていたさくらは内心冷や汗をかいていた。キリスはさくらがこの世界に呼び出した存在だからである。心当たりしかない。

 

(…まずいです。キリス様は他の世界の出身ですので、下手に詰められると誤魔化しきれません…。)

「そして昨日にもう一人、私の知らない人間と会いました。」

 

 イリアスは冷や汗ダラダラなさくらのことは気にしていないのか、言葉を続ける。

 

 

「昼間にも会った、ソニアとかいうルカの隣にいたあの女…。あの者も私の記憶にはないのです。」

「でもソニア様はルカ様と一緒に、あの村にずっと住んでいましたよ?イリアス様の記憶違いでは?」

「ソニアに私たちを騙している素振りなどはありません。おそらく、自身でも自覚していないのでしょう。」

 

 

 イリアスはソニアについても懸念していた。彼女はキリスと同じく、イリアスの記憶にないと明言されていた人物である。キリスはまだ分かるが、ソニアはこの世界で生まれて育ち、イリアス神殿に仕えている。では何故イリアスは知らないのだろうか。

 

 

「いったい世界に何が起きているのでしょう…。神である私にさえ、分からないことがあるなど…。」

「………。」

 

 

 イリアスは顎に手を当てて悩んでいる。全知全能の神だからこそ知らないことには敏感なのだろうか。キリスとソニアのことを熟考しているようだ。

 

 さくらはそのイリアスに対して何も声を掛けたりはしなかった。下手に刺激すると矛先がこちらに向いても困るとでも思ったのだろうか。

 

 イリアスが少しの間悩んでいると、部屋の扉が開いた。そしてそこよりキリスが部屋に戻ってきた。

 

 

「戻った…が何をそんなに悩んでいるんだい。」

「いいえ何でもありませんよキリス。さくらもそうでしょう。」

「あ、はい。大丈夫です。」

「…まぁいい。」

 

 

 イリアスは素っ気ない態度を示したがさくらは分かりやすいくらいに挙動不審になってしまった。キリスはその様子を怪しむも、それ以上は追及しないようだ。

 

 

「そ、それでイリアス様。結局のところこの後はどちらに向かう予定なのですか?」

 

 

 さくらは気まずい空気を変えるためにイリアスへと先程とは別の話題を振った。それにイリアスはうむむ…と多少畝ってから話した。

 

 

「そうですね、此処より北のセントラ大陸に聖山アモスがあります。そこをまず目的地としましょう。聖山アモスの頂上も天界に近い場所の一つなのですよ。」

「でしたら一度船に乗る必要がありますね。イリアスポートから乗っていきますか?」

「船か。見たことも乗ることも初めてだから楽しみだな。」

「お船♪お船♪」

「わうわう♪」

 

 

 イリアスの発言にさくらは船で渡るかという提案をした。大陸間を渡ることから必要になるのだろう。キリスは船に乗ることは初めてらしく、またぷることわんこもそれを聞いて楽しげな様子であった。

 

 

「でしたら一度、きつねの里に戻ってもいいですか?ちょっと用事がありまして。」

「あの腹黒狐の元に行くのですか。早く戻ってくるのですよ。少しでも帰ってくるのが遅ければ、貴方の朝食はなくなっているものだと思いなさい。」

「あはは…。」

 

 

 イリアスの言葉にさくらは苦笑いを浮かべる。遅かろうが早かろうが、さくらの食べかけの食事は帰ってきたころにはなくなってしまっているだろう。それはそれとして、さくらはたまもに一度報告にでも戻るのだろう。懐より、キリスとイリアスヴィルに来た時にも用いた羽を一枚取り出す。

 

 

「では行ってきますね、ハーピーの羽!」

 

 

 さくらは羽をその場で高く掲げて大きな声で叫んだ。ハーピーの羽はいわゆるテレポート効果のあるアイテムなので、一度赴いたことのある場所に一瞬で移動することが可能だ。

 

 なので、さくらはハーピーの羽を使ったので宿より姿を消して、きつねの里の入り口にいる………はずであった。

 

 

「………。」

「………。」

「…あ、あれ?」

 

 

 さくらは先程の体勢から何も変化しておらず、またイリアス達に見つめられているこの光景も一切変化がなかった。つまりさくらはハーピーの羽の発動に失敗したのだろうか。

 

 

「何をしているのですか、行くのであれば早く行きなさい。」

「い、いや何故だかわかりませんが発動しないんです⁉」

 

 

 さくらはその場でもう一度ハーピーの羽と叫んだり、また他のハーピーの羽を懐より出して同様に試したりもしていた。しかし全て失敗に終わってしまった。

 

 一通り色々と試して失敗した後、さくらはその場で膝をついて蹲り、泣き出してしまった。

 

 

「うぇ~ん!これじゃあたまも様に会えないよぉ~‼」

「あの性悪狐に会えなくとも、この美しい私がいるのですから何も問題ないではありませんか。」

「そうじゃないだろう自称女神、今は慰めの言葉の一つや二つ投げかけるべきだ。」

「い、痛いです!」

 

 

 さくらが泣き出したとき、イリアスはどこ吹く風という感じで興味なさげであった。しかしその時に発した心無い一言がいけなかったようだ。キリスからイリアスの頭にチョップが叩き込まれていた。イリアスはその場で頭を抱えて、こちらも涙目になっていた。

 

 ぷることわんこはそんなさくらの傍に近寄り、頭を撫でたり励ましの言葉を掛けたりしていた。キリスもイリアスのことは無視してさくらのことを元気づけることに勤しんでいた。しばらくして落ち着いたのか、さくらは何とかその場で立ち上がった。目元は若干赤く、涙をかなり流した跡が見られる。

 

 

「何とか落ち着いたようだねさくら君。」

「ぐすっ…すいませんキリス様取り乱してしまって、ぷるこさんもわんこさんもありがとうございます。」

「大丈夫だよ!」

「泣き止んで良かった…。」

 

 

 キリス達はさくらが泣き止んだことにホッとしている。しかしさくらは顔を曇らせて、うむむとその場で悩み始める。

 

 

「でもどうしましょう…。きつねの里に戻れないとこの先の旅の費用の工面も難しいですね…。」

「!それは不味いです。さくら、早く何とかするのですよ!」

「手のひら返しが早いって言われないかい、自称女神よ。」

 

 

 イリアスはさくらの言葉に先ほどまでと態度を変えて慌て始めた。あまりの態度の変わりようにキリスは呆れるそぶりを見せていた。

 

 さくらが悩む中、キリスが「そうさなぁ…。」と何か言いたげな様子であった。

 

 

「さくら君、そのハーピーの羽とやらは君専用の持ち物なのかい。」

「い、いえ。僕意外にも普通に皆持っていますよ。」

「なるほど…。」

 

 

 キリスはさくらの言葉を受けて、顎に手を当てて考え込む。やがて何か思いついたのか、手をポンと打ちさくらに顔を向ける。

 

 

「さくら君の知り合いはこの近くにいるかい。もしいるのならその人に助力を願えばいいんじゃないかな。」

「確かにそれはありですね、イリアス大陸に誰かいましたっけ…。」

 

 

 さくらはその場でまたもや悩みこむ。しかし今度は頭の中でヒットするものがあったようだ。目を輝かせてキリスを見つめる。

 

 

「この近くに秘宝の洞窟という場所があるのですが、そこにきつねさんがいました!」

「きつね君というと、きつねの里で一緒にいたあの子かい?」

「そうです!」

 

 

 さくらの言葉で何とか事の解決が見えてきた。イリアスポートで海を渡る前に、秘宝の洞窟でさくらにコンタクトを取ることが第一目的となった。行き先が決まったことで、イリアスは立ち上がり、他4人を見渡して言う。

 

 

「では秘宝の洞窟へと参りましょう。この私に付いてくるのです!」

「…まずは口周りについたものを拭き取ったらどうだい。」

 

 

 イリアスが宣言するも、その口の周りにはたっぷりと朝食でのお弁当などがついているので、何とも締まらないものとなってしまった。

 

 イリアスは恥ずかしそうにキリスから紙を受け取ってその口の周りを拭いていた。5人全員の支度が終わり、さくら達は宿を出てイリアスベルクから旅立った。イリアスベルクより北西の方向にある秘宝の洞窟に向かって歩き出した。

 




Q.どうしてハーピーの羽が使えなくなったの?
A.仕方がなかったんです…、そうしないとイリアス達が最初から魔王城に飛んでいけることに気づいてしまったんです…。
それっぽい理由は考えておきます…。
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