もんむす・くえすと! ぱらどっくすRPG  きつねのお話   作:ケルル(ハーメルン始めました)

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前回のあらすじ…キリス「いやなにこれ怖…。」
      イリアス「私も知りませんよ…。」



今回ちょっと長めです。


18,セントラ大陸南へ

 

「魚の死骸を串に突き刺し、丸焦げにしてしまうなど…死んでいるものに対する冒涜もいいところですね。おかげでこの魚も死んだ目をしているではありませんか。…もぐもぐ」

 

「それただの焼き魚ですよね。死んだ目も元々死んでいるので当たり前だと思いますが…。」

 

 

 前回は南のタルタロスから歩き続け、さくら達はイリアスポートにいた。この港よりさくら達は船に乗り、イリアス大陸より北にあるセントラ大陸の南部分へと向かう予定となっている。しかし船の次の出航まで時間があるので、近くにあった出店にてさくらとイリアスとぷることわんこの4人は買い食いをしていた。

 

 

「これ美味しいねわんこちゃん!」

 

「そうだね、とっても美味しいよ!」

 

「はむはむ…ごくん。中々いけるではありませんか。次の貢物には魚を持ち込ませましょうかね。」

 

「お気に召していただけたのなら良かったですが…もう少し食べる量を減らしていただけると…。」

 

「何ですさくら。この私に何か意見ですか。」

 

「い、いえ…。」

 

 

 さくらはイリアスに睨まれて怯んでしまった。イリアスは現在、焼き魚を串に刺したものを口いっぱいに頬張って食べている。これだけであれば別に何も問題なさそうであるが、注目すべきはイリアスがこれまでに食べた量である。

 

 イリアスは現在両手にそれぞれ焼き魚の刺さった串を持っている。それだけであれば2本換算ということになるが、この女神がそれだけで収まるはずがない。イリアスの隣にいるさくらにはイリアスの食べ終わった串が渡されているが、渡された串の本数は10本で収まる量ではなかった。見たところ、30本以上の串が束になってさくらに持たされていた。

 

 イリアスポートの出店の店主からすれば、イリアス達のことは自分の売っているものを笑顔で食べてくれる子供という認識だ。実際その笑顔に魅了され、串をもう一本おまけした人もいる。

 

 店主はイリアスの笑顔に満たされる。イリアス達は美味しいものがたくさん食べることができる。これはまさにwinwinの関係だと言えよう。さくらの財布に掛かる負担を度外視すれば非常に良い関係が構築されている。

 

 

「あっ、キリス様だ!おかえりなさい~!」

 

「あぁ、ただいま戻ったが…、さくら君大丈夫かい。どこか泣きそうな顔をしているが。」

 

「何でもありません…ぐすん。」

 

「キリス様も一本いる?」

 

「ではお気持ちに甘えて頂こう。ありがとう、わんこ君。」

 

 

 さくらが若干涙目になっているところ、脇に本を何冊か抱えたキリスが戻ってきた。キリスは抱えた本を横にドサッと置くと、わんこの隣に座り込んだ。そしてわんこから差し出された焼き魚の刺さった串を、礼を言いながら受け取り、齧り付いた。

 

 

「キリス様、その持ってきた本はどうしたんです?」

 

「これかい。あそこの建物内の人を話していたら、数冊どうかなと言われてね。ありがたく貰ってきたというわけさ。」

 

「あそこって、イリアスポート大学じゃないですか⁉」

 

 

 キリスはそう言いながらイリアスポートにある建物を指さす。それは他の建物と比べて大きなものであり、その建物にはローブを着た学生らしき人や、角帽を頭に被った年を取っている人などが出入りしていた。

 

 

「たしかフィーズ君だったかな。しかし彼女は面白いね。私が知らないことでも都度解説を入れてくれるからつい熱くなってしまった。充実した時間を過ごせたとも。」

 

「はぇ~。そうなんですね。」

 

 

 キリスはそう話しながら口もちに笑みを浮かべる。そうして自身が持ってきた本の束の一つに手を伸ばし、適当に一冊を選ぶとその手に取って読み始めた。

 

 

「…あ、キリス様。何か落としましたよ。」

 

 

 キリスが本を抜き取ったとき、一枚の紙がその本の束から出てきてヒラリと地面に落ちた。キリスはその声に反応することはなく、それを見たさくらは手を伸ばしてその紙を拾った。さくらはその紙をキリスに手渡そうとしたが、その紙に書いてあった内容を見てさくらは固まってしまった。そこには「学位記」と大きく書かれており、つまりこれは博士号証書を書き記したものであった。

 

 

「え?キ、キリス様、これをどちらで…?」

 

「…ん、それかい。それはフィーズ君に貰ったものだ。何でも、これがあれば先ほどの建物の2階より上を行き来できるらしい。つまりは通行許可証という事だね。」

 

「いや、これってそう簡単にもらえるものではないと思うんですが…。」

 

 

 キリスはさくらの方に顔を向けずに、本を読みながら答えた。しかし対するさくらは納得がいってないようで、若干眉をひそめて怪訝な表情を浮かべていた。しかしそれも長くは続かず、直ぐに先ほどまで浮かべていた元気いっぱいの表情に戻った。

 

 

「でもキリス様、これは朗報ですよ!これを使えばイリアス神殿で『学者』に転職出来ますよ~!」

 

「学者に転職?一体全体どういうことだい。」

 

「えっとですね…。」

 

 

 キリスは一度読んでいた本を閉じ、さくらの方に顔を向ける。顔に巻いている包帯のせいで表情は読み取れないが、首を捻っていることからさくらの言葉を今市理解できていないのだろう。

 

 さくらはキリスの様子に転職や学生、そしてこの世界における職業の概念について説明した。この世界の人たちは各々自身の選択した職に就いている。それは子供であれば学生や、大人であれば農家や兵士など様々なものがある。これは至って普通のことであるが、この世界はこれに一つ、例外のルールがある。

 

 それはイリアス神殿にて、自身の勤める職業とは別の職業になることができるという事だ。この職業を変えるという行為が先ほどさくらが述べていた転職というものである。転職するには特定のアイテムが必要となってしまうが、それがあれば例え一般の兵士が全く経験のない料理人に転職することが可能だ。他にも基本的に一日中機械をいじっている技師であっても、勇者に転職し、世界を旅してまわることも出来てしまうのがこの仕組みの面白いところだ。

 

 

「…つまりこれを持っていれば、私は学者?という職業に就くことができるのかい。」

 

「出来ますよ。因みに僕の職業は忍者です。」

 

「…私は本を出版したこともないし、ましてや何か論文を作成したこともないが、本当になれるのかい?」

 

「だから何度も言ってますけどなれますって…。」

 

 

 キリスの念押しな確認にさくらは少し苦笑いしなら返答していた。ふぅんとキリスは取りあえずは納得したようである。

 

 さくらがまだ食べようとするイリアスを涙目で止めたり、キリスがぷることわんこと一緒に焼き魚に舌鼓を打っていると、イリアスポートに泊まっていた船に乗っている人が何やら忙しく動き始めた。どうやらそろそろ出航の時間の様だ。よく見ると、さくら達が乗る予定のイリアスポートから隣の大陸であるセントラ大陸に行く船に、人が乗り込み始めていた。

 

 さくらはその人たちに気づき、キリス達に声を掛ける。

 

 

「皆さん、どうやらそろそろ時間の様ですよ。早く行きましょう!」

 

「おや、もう時間かい。では行くとしよう。自称女神もそろそろ食べ終えて立ったらどうかな。」

 

「貴方に言われなくても行きますよ。ここではなく、向こうに着いたらそちらで楽しみましょうか。」

 

「まだ食べるおつもりなんですね…。」

 

 

 さくらはイリアスの態度に苦笑いを隠せなかったが、さくら達はその場を立ち上がり目的の船へと向かった。船の前に着くと、その船に乗り込む人たちで行列ができていた。それは長いものではなく長時間待たされるものではなかったが、それでもイリアスは待つこと自体に対する不満をブツブツ呟いていた。

 

 しばらく待ち長蛇の列を少しずつ進み、さくら達は列の先頭まで来た。そこには頭に青いバンダナを巻き、髭を生やした中年男性が立っていた。さくら達の前の人達を見ると、税員がこの人にお金を渡してから渡し板を通じて船に乗り込んでいた。

 

 さくらは懐からがま口財布を取り出し、そこから幾らかお金を出してその人に手渡した。

 

 

「お願いします!」

 

「はいよ。…5人分の料金、確かに貰ったぜ。」

 

 

 さくらからお金を受け取った男性はその手の平の上に硬貨を乗せ、指ではじくようにして数え始めた。やがて数え終えるとさくら達に向かって笑みを浮かべて渡し板の前から一歩横にずれた。さくら達はそれを待ってから、渡し板を通り船へと乗り込んだ。

 

 船は材木を中心として出来ているものであった。さくら達以外にも人がおり、あちらこちらから談笑の声が聞こえる。さくら達も話したり船から海を見下ろしたりして、出航までの残り時間を費やしていた。

 

 やがて全員乗り込んだようで、船と港をつなぐ渡し板が船へと担ぎ込まれていた。白色を基調とした制服を着た船員はそれを船に運び込んだ後、各々各自の持ち場に向かっていった。

 

 

「よし、野郎ども帆を上げろ!出航だ!」

 

「「「アイアイサー!キャプテン!」」」

 

 

 船長の合図とともに船員は糸で止められた結び目を解き、帆を広げた。風は多少だがあるので、帆がその風に吹かれて弧を描いたように膨らんだ。そして帆が膨らんだことにより、船は少しずつであるが、港を離れて前進し始めた。

                                                                                         

 イリアスポートの波止場では船を見送る人で溢れていた。手を大きく振ったり、「元気でね~!」と大声で叫んだりしていた。さくら達が乗る船にいる人もその人達に向けて手を振り返している人もいた。そうしている間にもその船は段々旋回し、イリアスポートを背に向けて進みだした。

 

 こうしてさくら達を乗せた船はイリアス大陸を旅立ち、次の目的地がある大陸であるセントラ大陸に向けて出港した。

 

 

……………

 

 

 さくら達を乗せた船はイリアスポートを出航した後、大した出来事はなく順調に進んでいた。特段何も起きなければ、いくら日常とかけ離れているとしても退屈を感じてしまうことがあるだろう。実際最初さくら達は船の上から身を乗り出し、広がる大海に目を輝かせていた。しかしその景色を長く見つめ続けて飽きが回ってきたようで、各自自分のやりたいことをやっていた。

 

 ぷることわんこは船の探検として、船内を歩き回っていた。ぷるこはその手に自慢の木製ブーメランを、わんこは最近さくらに買ってもらった新しい服を着て歩き回っていた。その顔に満面の笑みを浮かべながら歩き回るその姿は見るものの心を浄化していった。これが何を意味するのかというと、頭を撫でて貰ったり、お菓子をもらったりしていた。

 

 キリスは船体に設置されていた木製の椅子に腰を下ろし、イリアスポートの大学にて譲り受けた本を読んでいた。キリスは周りに広がる広大な海に偶に視線を逸らすが、直ぐに手元の本へと戻してしまう。そしてどこから持ってきたか分からない白いマグカップに入ったお茶を飲みながらペラリと紙をめくり、読み進めていた。キリスは顔に巻いた包帯のせいで気味悪がられているのか、誰も彼には話しかけようとはしなかった。それにより彼は完全に本の虫と化していた。

 

 3人は各自心のゆくままに過ごしているが、残るさくらとイリアスは何をしているのかと言えば…、さくらは船首の方で刀を振り、イリアスはそれを隣で見守っていた。

 

 

「てぃっ!はっ!」

 

 

 さくらは真剣な顔で自身の刀を上下に素振りしていた。掛け声とともに振り下ろされる一芸に迷いはなく、船に乗り込んだ時に見せた笑顔も今は引っ込んでいた。周りにいる人はさくらの刀が当たると怖いからなのか一歩引いていたが、さくらの一所懸命な様を、息をのんで見守っていた。

 

 横で見守っているイリアスは素振りしているさくらに呆れの視線を送っていた。

 

 

「船旅の最中にさえ、修練を望むとは…。休養もまた長旅には大切なのですよ。」

 

「でもセントラ大陸にはイリアス大陸よりも、強い敵がたくさん出てきます。僕にはあまり戦闘経験がないので少しでも強くならないといけません!」

 

 

 イリアスに対してさくらは素振りを続けながら答えた。その言葉に嘘はない様で、さくらはイリアスのことを曇りなき眼で見つめていた。イリアスはその様子に「そうですね…。」と呟いてから言葉を続ける。

 

 

「焦りは禁物ですが…。ではここでひとつ新技を伝授しましょうか。」

 

「…え⁉イリアス様が僕に指導してくださるんですか⁉どんな技ですか⁉」

 

 

 イリアスの言葉にさくらは素振りする手を止めて、イリアスに期待を込めた目を向ける。先ほどまでは鋭い目つきであったのに、イリアスの言葉で瞬時にキラキラとした目つきになった。さくらは自身の二つの尻尾をブンブンと音を立てて左右に振っている。

 

 

「どんな技ですか?刀技ですか?」

 

「いえいえ、今から教えるのは回復技です。攻め一辺倒ではなくバランス良く習得することも大事ですよ…。」

 

 

 こうして、さくらはイリアスの指示を受けながら、イリアス直伝の技を習得しようとしていた。さくらは自身の片手に持っていた刀を言われた通りに空高く掲げて技を発動しようとする。しかし一発では上手くいかないようで、何も起こらずに周りが静寂に包まれる。

 

 

「うぅん、上手くいきません…。」

 

「仕方がありませんね…。私が手を貸しましょう。その刀に私の尊敬と感謝の念を込めて、癒しの波動を放つのです。」

 

 

 今度はイリアスの補助を受けながら、一度目と同じように刀を空高く掲げてもう一度魔力を回して技を発動しようとしていた。先程は上手くいかなかったが、今回は上手く発動できたようで、さくらとイリアスの周りを白い光が包み込んだ。やがてその光は弱くなっていき消えてしまったが、その光が消えた後、さくらは自身の体が少し軽いように感じた。

 

 

「…できました?」

 

「そうです。よくできましたね。」

 

≪さくらは癒しの剣を習得した!≫

 

 

 さくらは首を捻っているが、イリアス的には上出来なようだ。イリアスは満面の笑みを浮かべてさくらに話す。

 

 

「SPを消費し、味方1人のHPを禍福する剣技です。MPを使わずに回復するのでとてもお得ですよ。」

 

「ありがとうございましたイリアス様!でも僕の職業は忍者ですので剣技が使えないです…。」

 

「流石にそれは知りませんよ…。アビリティに『「剣技」使用可能』でもセットしなさい。」

 

 

 さくらの言葉にイリアスは不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。それにさくらはしまったという様子で自身の失言に気が付いた。そこからさくらはイリアスのご機嫌取りに時間を費やした。

 

 さて、ここでアビリティという単語が出てきたので軽く解説しよう。アビリティとは自身のステータスの底上げをしたり、戦闘面での弱点をカバー出来たりする便利なものである。分かりやすいものであれば、攻撃力が10%アップする『攻撃力10%アップ』や毒状態を50%の確率で無効化する『毒回避』などが挙げられる。このアビリティは兵士や忍者などの職業を極めていくことで習得できるものであり、このアビリティを充実させていくことが一種の成長の楽しみと言えるものになるだろう。

 

 さくらが必死にイリアスを宥めていると、周りの人を押しのけて入り込んでくる人影が見えた。その人は顔に包帯を巻いていることから、遠くから見てもあれはキリスだと断定することができるだろう。キリスは人の集団をかき分けて、さくら達の元へと歩み寄ってきた。

 

 

「さくら君、船でも鍛錬とは精が出るね。」

 

「キリス様、本の方はもうよろしいのですか。」

 

「あぁ、進行方向に大陸が見えてきたからね。そう少しすればこの船旅も終わってしまうから、最後にこの景色を見納めようと思ってね。」

 

 

 キリスはそう話しながら船の先頭へと歩き出した。そして船の先頭まで来るとキリスは船の端についているスロープに寄り掛かった。そうしてしばらくはそのままの体勢でいた。

 

 船のスロープに寄り掛かっていたキリスはふと何かを思い出したように、さくら達の方へと顔を向けた。

 

 

「しかしタイミングが良かったね。何でも、少し前の船では淫魔の襲撃があったとか。」

 

「アルマエルマのことでしょう。あの淫魔の女王め…。」

 

 

 キリスの言葉にイリアスは苦虫を潰したような顔をする。イリアスは余程そのアルマエルマという人物が気に入らないのだろう。キリスはそんなイリアスの様子に若干首を捻る。

 

 

「アルマエルマ君という人物は知らないが…、とにかくその青髪の淫魔の強襲に鉢合わせてしまえば、こんな平和な船旅にはならなかったさ。本当に良かったとも」

 

「そうですね。…ん?ちょっと待って下さい。」

 

 

 さくらはキリスの言葉に頷いたが、何か引っかかる点があったようだ。眉をひそめながらキリスに確認をする。

 

 

「その淫魔には、青髪という目撃情報があったのですか?」

 

「私はそう聞いたがね。他にも局部は白いもので隠してはいたがそれ以外は露出していただとか。話を聞いていて、中々に際どい恰好をするものなのだなと思ったよ。」

 

「そうですか…。」

 

 

 キリスの言葉を受けたさくらは顎に手を当ててその場で考え込む。ここまでキリスの話を聞いたが、やはり思うところがあるらしい。

 

 

「アルマエルマ様は際どい服装をしているのは周知の事実ですが、髪の毛の色は確か紫色だったはずです。ですのでいったい誰が…?」

 

「…また自称女神の記憶違いかい。いったいこれで何回目だい。」

 

 

 さくらの小さな呟きが聞こえたキリスはイリアスに対して鋭い目線を向ける。そんな視線を向けられたイリアスはムッと少し機嫌の悪そうな顔をした。

 

 

「だから違うと言っているでしょう。この私が間違えるはずはありません。何せ私はこの世界を創造した女神なのですから。」

 

「そんな絶壁の胸を精一杯張られても、非力なその姿では説得力に欠けるね。もう少しデカくなるか、力をつけてから出直してきな。」

 

「ぐぬぬ…。さくら、貴方からもこの分からず屋に何か言ってやりなさい!」

 

 

 イリアスはキリスの言葉のナイフに涙目になりながら、さくらにヘルプを求めた。さくらはそんなイリアスの様子に苦笑いしか出てこなかった。

 

 

「そう言われましても…、でもここら一帯を監視しているのはアルマエルマ様の担当ですので、イリアス様の言い分にも一理あるかと思いますが…。」

 

「ほら見たことですか、キリス。早合点して私を悪人と決めつけたのですから、何か私に対していう事がありますよね。」

 

 

 さくらの言葉にイリアスは自信を取り戻したのか、涙を引っ込めてキリスのことを得意げな顔で見下ろすように腕を組んでキリスのことを見た。謝罪の言葉を催促するイリアスに対してキリスは…。

 

 

「そうか、すまないね。ではそろそろ着きそうだし、この話は終わりにしようか。」

 

「随分と軽いですね…。まぁ私の寛大な心に免じて良しとしましょう。」

 

 

 キリスはイリアスに対して軽く謝罪して、この話を打ち切ろうとしていた。キリスはそこまで話すと顔をだんだん近づいてくる大陸の方へと向けた。イリアスはこれに憤慨するかと思われたが、意外にも暴れることはなかった。しっかりと声に出して謝ってもらったからかイリアスはそれで満足したのだろうか。とにかくこれ以上追及しないようで、隣で見ていたさくらは安心したのか、ホッとため息をついた。

 

 3人が話していると段々とうっすらと見えていた陸がどんどん近づいてきており、最初はぼやけて見えていた港も、今ではそこで働く人影がはっきりと見えるくらいの距離くらいにはなっていたのだ。さくら達が乗る船は、その港に向かって進んでいた。

 

 船が港に近づいていくと、船の船員が船の広がっていた帆を畳みだした。

すると船の進むスピードが緩やかになった。帆が風を受けなくなったことから船を動かす力が小さくなったのだろう。そして先ほどよりも徐行気味な船を、舵取りを担当する船員が器用に波止場のほぼ隣に停泊した。停止したことを確認するとさくら達が乗っている船の船員が、船に乗せていた渡し板を船と港の間に掛けた。これにより、船と陸がつながったので、船員が安全確認をした後、人が船より降り始めた。さくら達もこの人の流れに乗って、下船した。

 

 

「着きました、ここがナタリアポートです!」

 

 

 さくらがキリス達に向かって話す。セントラ大陸で最初に訪れた港はナタリアポートというそうだ。イリアスポートよりも活気があり、人も多い印象を受ける。人が多いからか、イリアスポートよりも出店が多く、イリアスはすでにそちらを見て目キラキラと輝かせていた。港に泊まっている船の数もイリアスポートでは1隻だけであったが、ナタリアポートでは4隻ほど停泊している。港の規模がイリアスポートとは違うのだろう。

 

 

「それではさくら、このナタリアポートで最も有名な食べ物を売っているところに案内しなさい。私がその味を吟味してあげましょう。」

 

「それは単に自分の食い意地を張っているだけなのでは…。」

 

「黙りなさいキリス。一言多い男は嫌われますよ。」

 

 

 イリアスはさくらに命令口調で話すが、それにキリスは呆れていた。イリアスはそんなことは気にも留めずにさくらに期待を込めた目を向ける。さくらはその視線にたじろいでしまったが、直ぐに持ち直した。そして頭を回転させて、このナタリアポートの中で最も有名なものを考える。

 

 

「そうですね…このナタリアポートで有名なものと言えば焼きヒトデでしょうか。」

 

「焼きヒトデ?」

 

 

 さくらの言葉にイリアスではなくキリスが首をかしげる。さくらはそれを見て説明を続ける。

 

 

「ヒトデっていう星形の海の生き物を丸焼きにしたものです。ここに来たら一度は食べることが昔からある伝統…?みたいなものになっているんですよ。」

 

「星形の生物とは…、面白い生物もいるものだね。…因みにどんな味がするんだい。」

 

 

 キリスは星形という点に関心を持ちながらも、その焼きヒトデという未知の食べ物の味についてさくらに聞いた。しかし聞かれたさくらは何やら顔を真っ青にして少しブルブル震えていた。キリスは何かいけないことを聞いてしまったかと心配になった。

 

 

「大丈夫かいさくら君。そんなに震えてしまって。」

 

「い、いえ。ちょっと思い出してしまって…。」

 

 

 さくらはキリスに心配されながらも深呼吸をして落ち着いた。顔色も青から元の血色の良い色へと段々変化していった。

 

 

「そんなに思い出したくなければ、別に話さなくても大丈夫だよ。」

 

「いいえ、これはキリス様達には伝えておかなければいけません。これ以上犠牲者…、いえ苦しむ人を出さないためにも!」

 

「もういろいろと隠しきれてないね…。」

 

 

 さくらの何処か覚悟が決まったかのような表情にキリスはクスっと笑った。しかしさくらの態度は真剣そのもので、キリスに対して言葉を続ける。

 

 

「あれを食べたのは、たまも様とここにお仕事に来た時ですが…。なんていうか、許容しがたい味と表現せざるを得ません。」

 

「…えーと、つまり?」

 

「抽象的に言えば、人を限りなく選ぶ味ということです。」

 

「なるほど、悪く言えば…ということかな。」

 

「察してもらって助かります。あまり大きな声で言うと怒られてしまうので…。」

 

 

 キリスはさくらの言葉の先を察した。さくらはキリスが察したことと、それ以上先を公言しないでくれたことに安堵している。誰かから怒られるとのことだったので、その焼きヒトデのファンにでも怒られてしまうのだろう。

 

 

「分かった、ではその焼きヒトデは無しという方向で…。それ以外だと何かあるかな。」

 

「そうですねぇ…、イリアスポートでも食べた魚がナタリアポートでも人気ですね。ここだとイリアスポートとも獲れるものも違うので面白いですよ!」

 

「よし、では行こうか…。あれ、自称女神達はどこだい。」

 

「え?先ほどまで一緒にいたはずですが…。」

 

 

 キリスの言葉にさくらは困惑した表情を浮かべる。さくらとキリスが話し始めるまではキリスの横にいたはずが、いつの間にかいなくなっている。それにぷることわんこまでもが姿を消している。さくらが心配そうな顔で周りを見渡すと、ナタリアポートの屋台の日の一つの前にイリアス達はいた。

 

 イリアス達は行列の先頭におり、屋台の店主と話をしているようだった。そしてイリアスは片手に持つがま口財布から幾らか硬貨を取り出すと、少しつま先立ちになって屋台の店主に手渡した。そうすると店主はイリアス達に星形のようなものが刺さった串を一人一本手渡していた。店主は「まいど!」と飛び切りの笑顔を浮かべていた。

 

 

「いました。…ってあれ僕の財布!」

 

「いつの間に…、意外と手癖が悪いのかい自称女神は…。」

 

 

 さくらはイリアスのことを見つけたが、同時にイリアスの手に握られているのが自身の財布であることに気づいて顔を真っ青にしていた。キリスはその言葉に、イリアスに若干引いているようであった。二人はそれぞれの反応を示しながらも、イリアス達の方へと向かった。

 

 

「…遅いですよさくら。こういうものは先に購入しておいて、私に手渡すのが常識でしょう。」

 

「いやそれよりも僕の財布…。」

 

「さくらのものは私のもの、私のものは私のものです。何か問題が?」

 

「逆に聞くが、どこに問題がないと思ったんだい?」

 

 

 イリアスの傲慢極まる発言にキリスは突っ込んでいた。しかしイリアスは全く気にせずに視線を手元の串に移した。その串には黄色に中心が黒く焼けている星形のものが刺さっていた。もしかしなくても刺さっているのはヒトデであり、イリアス達が購入したのは間違いなく、このナタリアポート「名物」の焼きヒトデだろう。

 

 イリアス達は焼きヒトデに迷わず齧り付いた。その口の小ささから豪快ではないが、見た目はハムスターのような小動物の可愛さを引き立たせるものがどこかにあった。しかしそんな様子は長く続かかった。

 

 イリアスの顔は段々と青く染まっていった。眉はひそめ、口はへの形に曲げていた。

そしてぷるぷると手を震わせて口に当てていた。そうした後にギギギとゆっくりとさくらの方へと顔を向けた。何か言いたげな顔をしているが、口に含んでいる状態であるので話せないようである。

 

 さくらはイリアスの言いたいことが察せず、キョトンとしていた。しかしキリスはなんとなく理解したようで、懐から白いコップを3個取り出し、自身の周りを漂う青色の光の方向に顔を向けた。そうするとキリスの持つコップに水が注がれ、満たされた。キリスはそれをイリアスとぷることわんこに手渡すと、イリアス達は待っていましたと言わんばかりにそのコップを受け取り、中に注がれた水を一気に飲み干した。

 

 キリスに渡された水によって口内のものを飲み込めたイリアスは顔を下に向けて一度ため息をつくと、さくらに怒り表情を向ける。

 

 

「よくもこの私を騙してくれましたね!ゲテモノではありませんかこれは!」

 

「いや、焼きヒトデは有名なだけであって美味しいとは一言も言ってないですけど…。」

 

「最後まで話を聞かずに行ってしまったのは君の方だろう自称女神。流石に君の方に非があると、私は考えるがね。」

 

 

 さくらはイリアスの気迫に押されながらも自分の意見を負けじと述べた。キリスも可哀そうだと思ったのか、涙目のぷることわんこを撫でながらさくらの援護をした。2対1は不利だと考えたのか、イリアスは悔しそうな顔をしてこれ以上攻めることはしなかった。

 

 

「しかしこれを食べてしまった以上は口直しが欲しいですね…。」

 

「…イリアス様、そろそろ僕の財布でもきついので、これ以上食べるのは遠慮していただけると…。」

 

 

 イリアスはそう言うとさくらの財布を片手に立ち上がる。視線はナタリアポートの屋台の方に向いており、これから買い食いする気満々の様だ。しかしさくらは自分の財布のキャパを理解しているので、引きつった笑みを浮かべて何とかイリアスを制止しようとしていた。

 

 さくらは言葉でイリアスを引き留めようとするも、イリアスは不敵な笑みを浮かべてその場から走り出してしまった。その足の速さはイリアス大陸にてちびっこ盗賊団で襲われたときの時よりも何倍も速かった。

 

 

「ま、待ってください!イリアス様!」

 

 

 さくらは走り出したイリアスに追いつこうと走り出した。しかしいつもよりなぜか速い速度を出しているイリアスに追いつくことは出来なかった。更にイリアスは人混みの中に紛れてしまい、さくらはイリアスのことを見失ってしまった。

 

 そこからさくらはナタリアポート中を走り回ってイリアスのことを捜索した。色々な人に話しかけることは恥ずかしい事であったかもしれないが、そんなことに躊躇していれば、待っているのは自身の財布の残りのお金がすべて使われてしまうことになってしまう。キリスにも頼んで一緒に捜索してもらった。

 

 しばらくして、さくらは屋台の前で何かを食べているイリアスを見つけた。さくらは見つけたことにホッとした。キリスにイリアスを見つけたことを連絡し、合流してからタコの足を食べているイリアスに話しかける。

 

 

「探しましたイリアス様…。どうか僕の財布を返してください…。」

 

「さくらですか。貴方のおかげで私はここゆくまで楽しむことができました。満足したのでこれは返しますね。」

 

 

 イリアスは上機嫌な顔でさくらに財布を返した。さくらはそれを受け取りホッとした表情をした。しかしさくらはどこか違和感を覚える。返された財布が思ったよりも軽いのだ。さくらは慌てた表情で自分のがま口財布を開く。

 

 その中に入っていたのは数枚の硬貨だけであった。ナタリアポートに来たときは割と膨らんでいたさくらの財布は、少し目を離した隙にとても細くなってしまった。タルタロスにて懐は温かくなったはずだが、いつの間にか寂しくなってしまったようだ。

 

 この事実を確認したさくらはその場で膝をついて崩れ落ちた。そして顔を手で覆い、泣き出してしまった。

 

 

「ぐすっ…僕の…お金…。」

 

「ちょ、ちょっと。泣き出さなくてもいいではありませんか。」

 

 

 泣き出してしまったさくらを前にしてイリアスは慌てだす。何とかして泣き止んでもらおうと、慰めの言葉をかけたりしていた。しかしさくらが泣いている原因である本人が慰めたところで何の意味もなく、さくらが泣き止むことはなかった。

 

 さくらが泣き始めたとき、キリスは今まで浮かべていた笑みを無くし、スンとした表情になった。キリスはオマケに周りに若干の圧を出しており、顔は見えなくとも怒っているのは誰もが分かった。周りにいた人達はキリスの圧を感じてか後ろに一歩引いていた。

 

 キリスはそのままイリアスに近づく。「ひぇ!」とイリアスは腰を抜かしその場に尻もちをついてしまう。しかしキリスはそんな様子のイリアスのことを気にせずにイリアスの背後に歩いて回った。そしてキリスはしゃがみこんだが、何をしようと思ったのかキリスはイリアスの背中に生える天使の羽へと手を伸ばした。そしてそれの内の一つの羽毛を手に掴むとキリスは勢いよく千切り取った。

 

 

「い、痛いです!キリス、何をするのですか!」

 

「いや?天使の羽根を何本か仕入れれば、自称女神の食費の何割かを浮かせられると思ってね。」

 

 

 イリアスはキリスに抗議の声をあげるも、キリスはその羽根をむしり取ることを辞めはしなかった。一枚、また一枚とイリアスの羽根がブチっブチっと抜かれていく。キリスの口元の表情筋は全く仕事をしておらず、見ているこちらが怖くなるほどの無の表情をしていた。イリアスは自分の羽を抵抗出来ずに抜かれていく様を、涙を流しながら見ることしかできなかった。

 

 一方さくらは先程よりも落ち着いてはいたが、まだ目に若干の涙を浮かべており、完全に立ち直ったわけではなさそうであった。そんなさくらであったが、キリスと一緒に合流したぷることわんこが頭を撫でたりすることで慰められていた。それにより、先ほどよりもは落ち着いている。

 

 キリスがイリアスの羽を抜き、さくらは慰められる。こんなカオスな状況を町の人たちは一歩引いて見守っていた。自分から動けば、妙なことに巻き込まれるかもしれないといった不安から介入する気はなさそうであった。しかしその人混みの名から一人の人魚が、人をかき分けてさくら達の前に来た。

 

 

「ねぇ、貴方たち。見たところお金に困っているようだけど、良かったらウチで働いてかない?」

 

「ぐすっ…、誰ですか貴方は…。」

 

 

 さくらは涙を手で拭いながら、話しかけてきた人魚に返答する。さくらは目を赤く腫らしていたが、何とか受けごたえはできるようだ。

 

 

「アタシ?アタシはタラッタ。ナタリアポートの人魚パフで働く一介の人魚よ。よろしくね。」

 

「よ、よろしくお願いします…。」

 

 

 さくらはタラッタと名乗る人魚に押され気味ではあるが、差し出されたその手を握り返して握手していた。

 

 

「でもどうして僕たちを?」

 

「えーとねぇ…。ウチって人魚と触れ合いながらカフェを楽しむのがコンセプトとしてあるんだけど、最近マンネリ化しててねー。そこで新しい刺激を入れろって店長に言われて、どうしよっかな~って考えてたところに貴方たちがいたの。」

 

 

 そこまで言うとタラッタはさくらの手を先ほどよりも力を込めてギュッと握り返す。さくらは少しドキッとしたが、何とか平常心を保って話を聞いていた。

 

 

「短期間でいいからさ、ウチで働いてよー。限定イベントってことにすれば、それなりに聞こえはいいし。ちゃんと働いた分の賃金も出すように店長に交渉するからさー。」

 

「え、えーと。そう言われましても…。」

 

 

 さくらはタラッタの期待を込めた視線から目を逸らす。タラッタの中では何となくの筋書きは出来ているようで、これからの未来に思いを馳せているようだ。さくらは近くにいたキリス達に目を合わせた。

 

 

「どうしますか皆様。僕としてはお金がかなり怪しいので、ここで少しでも貰えるのでしたらやりたいのですが…。」

 

「いいよ~!」

 

「何をするのか楽しみ!」

 

「この私を働かせ…むぐっ。」

 

 

 さくらの言葉に各々が反応を見せていた。ぷることわんこは肯定的で、これからすることに期待を込めてはしゃいでいた。イリアスは何か言いたげな態度をしていたが、キリスがその口を手で塞いでしまったことにより、その先の言葉を紡げずにいた。

 

 

「…タラッタ君、その人魚パフでは、仕事として何をするんだい。」

 

「働くと言ってもそんな凄いことはしないよー。料理を作ったり、運んだりするだけだよー。」

 

「まぁ変なものではなさそうか…。」

 

 

 キリスはタラッタの言葉を聞き、顎に手を当ててその場で考え込む。いつの間にかイリアスの羽をむしり取ることは止めたようだ。しばらくしてキリスは顔を上げてさくらの方へと向ける。

 

 

「さくら君、私もいいと思うよ。この自称女神がやらかした分のお金の補填もしなくてはいけないしね…。」

 

「分かりました。ではタラッタさん、お願いします。」

 

「断られなくて良かった~。んじゃ、行こ!」

 

 

 タラッタはさくらの答えに満面の笑みを浮かべて、その手を引っ張りながら駆けだした。さくらは引っ張られながらもしっかりと後を追う。ぷることとわんこも笑顔を浮かべながら追いかけた。キリスは嫌がるイリアスを横に抱えてさくらが走っていった後を歩き出した。イリアスはキリスの横腹で全身をジタバタとして暴れていたが、逃れることは出来ずやがて疲れたのか暴れるのをやめてしまった。

 

 

……………

 

 

「ごめんって、ソニア…。」

 

「そんなに謝らなくてもいいけど、ポーションくらい買っときなさいよ!」

 

「余の魔法がなければ危ないところだったぞ…。ドアホめ…。」

 

 

 ルカ達はナタリアポートの中を歩いていた。会話の内容から、ルカが何かやらかしたのだろう。ルカはソニアに手を合わせて必死に謝っていた。ソニアはそこまで起こっていないようだったが、アリスからも冷たい目線を向けられて、ルカは居心地が悪そうであった。

 

 

「とにかく道具屋に行かないとね…。それ以外にも必要な物があればちょうどいいし買って回りましょ。」

 

「ラミアの尾も必要分揃えたからな。余の尖剣も強化したいところだ。」

 

「………。」

 

 

 ソニアはナタリアポートにある道具屋を指さして歩き出した。アリスも自身の持つ尖剣とルカを交互にチラチラ見ながら話す。ここから色々と買うのは目に見えているので、ルカは自分の財布に掛かる負担を考えて遠い目をしていた。

 

 

「…む、人魚パフが人で溢れかえってはいるではないか。」

 

 

 アリスはナタリアポートにある人魚パフを指さす。人魚パフと言われたその建物には人や魔物が列を作って並んでいた。その人数はパッと見ただけで50人を超えるほど並んであり、大盛況と言えるほど人魚パフは人気になっていた。

 

 

「ホントね。前来たときはあんなにいなかったのに…。何かあったのかしら。」

 

「時間もあるし、見に行ってみる?」

 

 

 ルカの言葉に二人は頷いた。前訪れたことのある場所に前回以上の人が集まっていれば気になってしまうのは仕方のない事だろう。ルカ達は好奇心に駆られるままに人魚パフの方へと行った。

 

 人魚パフの近くまで歩いてきたルカ達は長蛇の列に並ぼうとして、列の最後尾の方まで歩いて行った。列の後ろの方で、「こちら最後尾!」とデカデカと書かれた看板を持つ人魚の方がいたので、ルカ達はそちらの方に向かった。

 

 

「は~い。こちら最後尾ですよ~。って魔王様⁉」

 

 

 看板を持つ人魚はアリスのことに気づくと、その看板を置いて頭を下げようとする。しかしアリスは手を前に出し、制止の合図を送った。アリスはその人魚に対して聞きたいことを質問する。

 

 

「しかし何故ここまで混んでいるのだ?」

 

「今、短期間で雇用しているスタッフがいるんですけど、彼らの人気が思いのほか高まっているんですよ。彼らがいなくなってしまう前に一目見ようと、ここまで人気になっている感じですね。」

 

「そうか…。情報提供、感謝する。」

 

 

 アリスは人魚の返答に感謝の言葉を述べる。人魚はそれを受けて頭を下げた後、自分の仕事へと戻っていった。アリス阿知の話を横で聞いていたソニアはルカに話しかける。

 

 

「ねぇ、そんな人気な人達ってどんな人なのかしらね。もしかしたら今まで見たこともないほどもイケメンかも⁉」

 

「それは分からないけど…とにかく会ってみよう!」

 

 

 ソニアは手を顔に当てて妄想にふけていたがルカとアリスは無視していた。そしてルカ達は未だ伸びる長蛇の列に並んだ。人魚パフはカフェであるとはいえ、店先から並んでいる人があまりにも多すぎるので、人魚パフの前まで行くのにかなりの時間を有した。

 

 そしてしばらく時間が経過した後、ルカ達は長き列を乗り越えて人魚パフに次に入れるところまで来た。途中あまりにも長い待ち時間にアリスがしびれを切らせそうになったりしたが、ルカが食べ物を渡したり何か話題を振ることで何とか鎮静化していた。

 

 

「お待たせしました、ご主人様。中へとお進みくださ…。」

 

 

 店の中よりメイド服を着た定員が出てきた。人魚パフと呼ばれるくらいなので店員は人魚であると普通は連想するだろう。しかしルカ達の前に出てきた店員は違った。

足は人間と同じく2本であり、髪の毛は銀色であり、メイド服の後ろに2つの狐の尻尾を覗かせた、この小説の主人公であるさくらがそこにはいた。

 

 

「魔王様⁉何故この店に⁉」

 

「さくらこそ、こんなところで一体何をしている⁉」

 

 

 さくらは驚きのあまり目を大きく見開き、先ほどまで落ち着いていた態度を崩してしまった。対するアリスも予想外な知人の登場に驚きを隠せないようだ。さくらはたじろぎながらも、何とかアリス達に言葉を紡ぐ。

 

 

「ちょっと旅の資金に少し困っていまして…。そうしたらタラッタさんがここで働いていかないかとのことだったので、それに便乗させて頂く形となりました。」

 

「しかしさくらよ。余が覚えている限り、貴様はそこまで困るほどではなかったはずだぞ。」

 

「イリアス様が思いのほか健啖家の様でして…。」

 

「…なるほどな。」

 

 

 さくらはアリスと話し込んでいた。すると人魚パフの中よりひょっこりと顔を出してくる人がいた。彼女はさくらに向かって話しかける。

 

 

「さくらー何してるの?ご主人様達を案内しちゃってー。」

 

「あ、すみませんタラッタさん…。」

 

 

 顔を出していたのはタラッタであったようだ。タラッタはさくらに謝罪されると、笑顔で「大丈夫だよ~。」と言って直ぐに顔を引っ込めてしまった。意外にも忙しいのかもしれない。

 

 タラッタに注意されたさくらはその場で一度深呼吸をして落ち着いていた。そして元の浮かべていた笑顔を浮かべてルカ達に向き合う。

 

 

「ではご案内しますね、ご主人様。」

 

「ところで、たまもの前ではその姿はやってやらんのか。」

 

「したら朝まで解放していただけなさそうなので、やる予定はないです…。」

 

 

 さくらはアリスの言葉に苦笑いを浮かべるも、ルカ達を人魚パフの中へと案内した。ルカ達はそのまま、人魚パフの中へと入っていった。

 

 人魚パフの中は全席満席で、店員と思われる人魚が忙しく店を動き回っていた。彼女たちは両手にお盆一杯の料理や飲み物を乗せ運んでいた。しかしそれでも顔は満面の笑みを浮かべており、席に座っている客に話しかけられても真摯に受け答えしていた。

 

 ルカ達はその店の中を物珍しそうに見渡していた。前にここを訪れた際には席がボチボチ空いていて、店員もそこまで忙しそうにしている様子はなかったからだ。キョロキョロと周りを見ていると、ソニアの視線が厨房の方にとまる。そこには顔に包帯を巻いた人物がフライパンを片手に料理していたからだ。そのような不審者の格好をする人など、知り合いの中では1人しか心当たりがなかった。

 

 

「ねぇさくら、あのキッチンにいるのってもしかしなくてもキリス?」

 

「そうです。キリス様は現在、料理担当として腕を振るっていますよ!」

 

 

 ソニアの質問にさくらは答えていた。キリスは人魚パフに入ってきたルカ達の存在に気が付いていないようで、ケッチャプを片手にとりフライパンのご飯と絡めて炒めていた。

 

 

「意外だな。キリスは料理もできたのか。」

 

「いえ、それがですね…。」

 

 

 アリスの言葉にさくらは渋い顔を見せる。聞けばキリスは、初めは上手くできず食材を黒焦げにしてしまったという。できないのであればフロア担当になってもらうとなっていた。キリスはこれに初めは反論しなかった。しかしその顔に着けている包帯を取るといったところで、キリスより待ったが出た。そこで話し合いになり、一度作り方を見せて貰った後でもう一度料理して失敗すれば包帯を取りフロア担当になってもらうことに決着がついた。

 

 そして厨房担当の人魚の一人が軽くオムライスを作った。キリスはその調理する様をしっかりと見て…、いや見えているかは分からないが、顎に手を当てて顔をそちらの方に向けていた。やがて作り終わり、完成したものをイリアスが食した後にキリスが料理する番となった。キリスはフライパンを手に持ち、キッチンの前に立った。さくら達は先程失敗したことから、その様子に不安を抱きながら見守っていた。

 

 しかし以外にもキリスはオムライスを焦がさずに作り上げた。その調理姿はキリスの前に作った人魚の動作と同じようで、まるでそれをそのままコピーして学習したような動きで作り上げていた。完成したオムライスをイリアスが恐る恐る食べてみるも、イリアスは一口食べただけで目をキラキラと輝かせた。さくら達も一口食べたが、上に掛かる卵の層が下のチキンライスと絡み合い、味は絶賛の一言に尽きるものであった。

 

 かくしてキリスは見守っていた人や店長よりOKサインを貰い、無事包帯を外さずに済んだ。これにキリスはホッと胸をなでおろしているようであった。後にキリスは人魚パフのコックから指導を受けて、オムライス以外にも作れるようになっていた。

 

 

「…というわけで現在に至る感じです。」

 

「なんて言うか、凄いわね…。キリスは天才肌ってやつなのかもしれないわ…。」

 

 

 ソニアはさくらの話に驚きを隠せないようであった。一度見ただけでそこまでできるようになってしまうとは、中々にあり得ない話である。しかしキリスはそれをやってのけてしまった。

 

 話している間にもルカ達はさくらに人魚パフの1つの机に案内されていた。その机には何個か席があり、ルカ達は全員その席に座った。ルカ達が全員席に座ったことを確認するとさくらはルカ達に一枚の紙を渡してきた。それを開くと料理とそれに対する値段が複数書かれているメニューだった。

 

 

「では注文がお決まりになりましたらお呼びください。」

 

 

 さくらはそう言うとペコリと頭を下げてルカ達の前から立ち去って行った。さくらはそのまま人魚パフの入り口へと行き、次の人を案内していた。メニューを渡されたルカ達はそれを見ながら何を頼むか悩んでいた。

 

 

「ソニアとアリスは何頼むか決まった?」

 

「そうねぇ…さっきの話聞いてたらオムライス食べたくなってきたかも。」

 

「余もオムライスを頼むぞ。」

 

「…それじゃあ僕もそれにしようかな。」

 

 

 ソニアは悩んだ後、オムライスを頼むことにしたようだ。アリスの方は迷いなくオムライスと断言した。ルカはメニューを眺めて、結局同じものにしたようだ。

 

 注文が決まったルカ達は近くにいた店員らしき人魚に話しかける。彼女はルカ達の注文は何かとその手にメモ帳を手に聞いてきた。ルカはオムライス3つと言うと彼女は「分かりました、少々お待ちください。」と頭を下げて厨房の方へと向かった。そしてキッチンにて汗を拭うキリスに話しかける。

 

 

「オムライス3つ、お願いします。」

 

「心得た。少し待っていてくれ。」

 

 

 キリスは彼女の言葉を受けると、その手に包丁をとった。彼の周りにいる光達がいつの間にか運んできた野菜をキリスは受け取ると、まな板で切り始めた。その速度は料理初心者とは思えないほどの速度で、一定のテンポを保ちながら野菜を切っていた。

 

 ルカ達はキリスが調理している様を遠目で見ていると、人魚パフの2階より降りてくる人影があった。その人達は3人おり、メイド服を着ていてここの店員であるようだ。

1人はスライムでその体が構築されており、1人は頭に犬耳をぴょこと覗かせ、1人は背中に天使の羽根を生やしていた。そう、2階より降りてきた人たちはイリアス、ぷるこ、わんこであったのだ。

 

 アリスはその人影がイリアスであることを認識するとアリスは驚きを隠せず、そこまでルカ達と話していたが、黙りこくってしまった。対するイリアスも席に座っているのがアリス達であると気づくと、その目を大きく見開き、その場で立ち尽くしてしまった。

 

 

「何故ここにいるのですかアリス⁉」

 

「それはこちらのセリフだ⁉」

 

 

 アリスとイリアスはお互いの存在に呆然としながらも、互いに睨みあう。両者の間で火花が散らされているのは一目見て分かることであった。ルカ達はアリスとイリアスがこの場で争い始めないか、内心冷や汗をかきながら見守っていた。

 

 激しいにらみ合いが行われる最中、厨房で調理しているキリスが調理を終えたようで3枚の皿にオムライスを盛り付けていた。そして近くにいたぷることわんこに声をかける。声を掛けられたぷるこはキリスの方へと駆け寄る。

 

 

「ぷるこ君、わんこ君。すまないがこれらをそこのテーブル…、いやルカ君達によろしく頼むよ。」

 

「分かった!」

 

「私たちに任せて!」

 

 

 キリスはこのときに初めてルカ達が人魚パフに来店していることに気が付いたようだ。ぷるこ達にオムライスを盛り付けた皿を渡した後、ルカ達に向かって小さく手を振ってきた。それを見たルカとソニアはキリスに対して笑顔で手を振り返した。イリアスとアリスは未だ睨みあっている。

 

 キリスよりオムライスを3皿分受け取ったぷることわんこはそれをお盆に乗せた。それらを落とさないように2人は慎重にルカ達のテーブルまで運ぶと、そのオムライスをテーブルの上に置いた。

 

 

「お待たせしました!」

 

「どーぞ!」

 

「おぉ、中々に食欲をそそる見栄えではないか。」

 

「ね!物凄く美味しそう!」

 

 

 アリスは運ばれてきたオムライスに目を輝かせる。そのオムライスにはデミグラスなどのソースがかかっていないシンプルなものであった。しかし出来立てほやほやのオムライスが発するその匂いは、ご飯をまだ食べていないアリスの満腹中枢を刺激するには充分であった。

 

 

「…では頂こう。」

 

「そうだね。頂きます。」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 

 ルカ達がテーブルに備え付けられているスプーンとフォークを片手にオムライスを食べようとしたところ、ぷるこよりブレーキがかけられた。なんだなんだとルカ達の視線がそちらに向けられると、ぷるこは懐より何やら赤いものが入った容器を取り出した。

 

 

「えっとねー、このケッチャプでオムライスにハートを書いて愛を込める?とさらにおいしくなるんだって!」

 

「だから私たちがこれから愛を込めるよ!」

 

 

 ぷることわんこはケッチャプの入ったボトルをその手にルカ達のオムライスの前へと躍り出た。2人はルカとソニアのオムライスにケッチャプを垂らすと、そのオムライスに描き始めた。ルカ達はその様子を静かに見守っていたが、やがてハートの線が書き終わったようで2人はルカとソニアのオムライスよりケッチャプの容器を遠ざける。

 

 ケッチャプの容器を懐に締まった後、ぷるこはルカに、わんこはソニアに向き合った。そして2人は両手でハートのハンドサインを作った

 

 

「「萌え、萌え、きゅん‼」」

 

 

 ぷることわんこはルカ達に向かってルカとソニアに満面の笑みを向けながらハートを作ったその両手を突き出した。これはメイドカフェなどでよくあるものである。しかしそれを目の当たりにした2人はぷることわんこのひたすらに可愛いその様子に自然と口元が緩んでいた。

 

 ルカとソニアがほんわかしている中、ぷるこは懐より再度ケッチャプを取り出した。そしてオムライスにまだハートが描かれていないアリスに対して話しかける。

 

 

「魔王様の分も書いて大丈夫?」

 

「あぁ、たの…。いや、いい。」

 

 

 アリスは流れでお願いしようとしたが、少し考え込んでしまった後に断ってしまった。ぷるこはそれに対して「分かった~。」と言いながらケッチャプの容器をしまった。ルカはそのアリスの様子に怪訝な表情を向ける。

 

 

「どうしたのアリス。正直断るとは思っていなかったんだけど。」

 

「そうよ、貴方食べ物にはうるさかったじゃない。ここまで入っておいて今更恥ずかしくなったの。」

 

「そうではない…。ただぷるこではなく他に頼もうと思ってな。」

 

 

 アリスはルカとソニアから向けられる疑いの視線を否定する。そうしてアリスは店内にいる1人のメイドを指さした。部屋の隅にいたそのメイドは、先ほどぷるこ達と2階より降りてきたイリアスであった。

 

 

「余の分はそこで暇そうにしているイリアスに頼もうと思ってな。伝えてきてくれ。」

 

「分かった!」

 

 

 ぷるこはアリスの言葉を受けて、休憩しているのかサボっているのか分からないイリアスの方へと駆け出した。ぷるこはイリアスの元までくるとイリアスと話し出した。ルカ達は離れている場所に座っているので何を話しているかまでは聞こえなかったが、イリアスが途中、ルカ達の方に2度見したのだけは分かった。

 

 しばらくするとぷることイリアスは話が終わったのか、ルカ達の方へ向かって歩いてきた。イリアスのその手にはぷるこから渡されたのかケッチャプが入った容器が握られていた。

 

 

「わざわざ呼び出して何用かと思えば、この私にハートを描いてほしいとは…。」

 

「あぁ、そうだ。聞けばオムライスにはそのようにしてもらうのが風習であると聞いた。頼めるか?」

 

「…やけに素直ですね、いったい何を企んでいるのです。」

 

 

 イリアスはアリスのことを怪しみながらもケッチャプが入った容器のふたを開ける。そしてアリスの分のオムライスにケッチャプを垂らしてハートを書き始める。しかし…。

 

 

「おいイリアス、線がガタガタではないか。ぷるこのものはもっと、なめらかな曲線を描いていたぞ。」

 

「うるさいです。私が直々に書いているものなのですよ。本来なら頭を地面にこすりつけて平伏されてもやらない、貴重品です。私がやったという、ただそれだけの事実で価値があるのです。」

 

 

 イリアスはアリスにどやされながらもオムライスの上にハートのマークを作っていく。それはぷるこやわんこが書いたものとは歪なものではあったが本人は知らんぷりして平然としている。

 

 一仕事終えたとイリアスはオムライスの上に描かれたハートマークに視線を送る。そしてそのまま去ろうとしたが、アリスに待ったを出されてしまう。呼び止められたイリアスは嫌な顔をしながらもその場で立ち止まり、ルカ達の方へと振り返る。

 

 

「何ですかアリス…。貴方の注文通り、しっかりと描いたではありませんか。これ以上何の用です。」

 

「何、大したことではない。この店には更に美味しくなる呪文として『萌え萌えきゅん』というのがあるそうだ。ルカとソニアは書いてもらったぷることわんこにやってもらったが、貴様は余にはやらんのか?」

 

 

 アリスはイリアスにキョトンとした表情で聞く。どうやらアリスの狙いは、イリアスが自分に『萌え萌えきゅん』をさせることのようだ。当然これを聞いたイリアスは先程よりもさらに眉をひそめて、表情を怒りに染める。

 

 

「何を言うのかと思えば、この私がそんなことするはずが…。」

 

「だったら私たちと一緒にやろう!」

 

「そしたら恥ずかしくないもんね!」

 

 

 イリアスは咄嗟に断ろうとしたが、近くにいたぷることわんこによってふさがれてしまう。ぷるこはイリアスの右に、わんこは左にきてイリアスのことを挟んでしまう。そしてぷることわんこはその手に先ほどと同様にハートサインを作る。そしてルカ達に向かってそれを突き出す

 

 

「せ~の!」

 

「「萌え、萌え、きゅん‼」」

 

 

 2人はさっきよりも元気満々でイリアスをその間に板挟みにしてルカ達にハートマークを向けた。イリアスはその場で下を向いて黙り込んでしまった。しかし突き刺さるアリスの視線から逃げられないと思ったのか、その手に小さくハートを作り出す。

 

 

「………。」

 

「………。」

 

「………もえもえきゅん。」

 

「なんだ?はっきりと言わなければ伝わらんな。」

 

 

 イリアスは悪あがきとして、とてつもなく小さな声で呟いた。しかしアリスにはそれでは通用しないようで、アリスは顔をニヤけながらイリアスに聞き直す。聞き直されたイリアスは今度こそ堪忍袋の緒が切れたようで、先ほどよりも大きな声で叫ぶ。

 

 

萌え萌えきゅん‼これでいいでしょうアリス⁉」

 

 

 イリアスは吐き捨てるようにしてその台詞を言い放った。その姿に最早可愛げなど1ミリもなかった。イリアスのあまりの声量に、周りの客及び店員の視線を集めてしまった。

 

 一方、イリアスから渾身の『萌え萌えきゅん』をもらったアリスはその場で腹を抱え、イリアスのことを指さして笑っていた。

 

 

「あ、あのイリアスが萌え、萌えきゅん、とな!これは笑わせる!あの傲慢で意地っ張りでどうしようもないあのイリアスが、萌え萌えきゅんと‼」

 

 

 アリスは面白くて面白くて仕方が無いようであったが、当然笑われたイリアスは不快感をその顔から表していた。しかしだからといって何かアリスにしようとはしていなかった。それは悔しくて仕方がないのか、又は遠目から感じるキリスの視線に怯えているのか。どちらかは分からないが、イリアスは下唇を噛みしめて怒りをその顔に浮かべていた。

 

 

「くっ…この屈辱、いつか必ず晴らしてやります…!覚悟なさい、アリス!」

 

「くははは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでキリス、あの部屋の隅で、さくらにカメラを向けて写真を撮っている人は何なのですか。カメラを構えている女性は「さくら、さくら…‼」と呟きながら危ない笑みを浮かべていますし、非常に不愉快です。」

 

「カメラも写真も何のことだかさっぱり分からないが、あの2人はイリアスベルクにて言っていた例の2人組の霊だね。男性の方は【精進せよ、さくら!】と巻物に書いて掲げているようだね。まぁ気持ち悪いという点に否定はしないが…。」

 

「ひぇ⁉れ、霊と言いましたか⁉」

 

「何だい自称女神、幽霊が怖いのかい?」

 

「そそそそ、そんなことはありません。ただあの世に旅立たずに地上を彷徨う不浄な魂をあまり好まないというだけです。決して幽霊が怖いとかそんなことではありませんよ。」

 

「流石にその動揺を隠さないとバレバレだぞ…。」

 




本当はイリアスをアへ顔ダブルピーズさせるつもりだったのですが、私の文章力では無理でした…。私の文章力ではイリアスにメイド服を着させ、「萌え萌えきゅん」させるのが精一杯です…。

感想、評価、良ければよろしくお願いします…。
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