それでも彼らは、家族だから
サンドレコナー目線でお話が進みますが口調がちょっと難しいです……
なんでも大丈夫という方だけ、どうぞ
「イウニくん、セネトちゃん、行きますよ!」
「「はーい」」
ムースが呼び掛けると、サルカズの子どもが二人、勢いよく駆けてきた。
見るとそこに眠獣がいた。子ども二人にその眠獣はしばらくついて来たが、私たちの元に近づくにつれ離れて行った。
「餌付けはしていないだろうな」
と私が念の為訊くと、イウニとセネトはまるで息の合う双子かのように同時に首を振った。
「ううん、餌はあげてないよ!」
「可愛いからナデナデしてただけ」
「そうか」
イウニとセネトはムースの影響で、眠獣を見かけるとすぐに撫でに行くようになっていた。眠獣を可愛がるのはいいが、こうして外に出ている時に急に立ち止まられるとはぐれるだろうから困る。
「今日は新しい衣服を買いに行くんだったな」
私は両手にそれぞれ繋いできたイウニとセネトに今回の予定を確認する。まずはイウニが話し始めた。
「うん、そうだよ、サンドレコナー! イウニのズボンが破れちゃったから買いに行くんだ!」
と小さく飛び跳ねながらイウニが言う。転んで怪我をしそうな歩き方だが、怪我をしただけで泣き出すような子どもではあるまい。
「セネトもお洋服買う!」
一方、私のもう一つの手と繋いでいるセネトは大人しく歩いていた。初めて会った時は質素で飾り気のない服ばかり着ていた彼女だが、ムースの影響で鮮やかな洋服を身につけるようになっていた。
「あの、サンドレコナーさん、お買い物に付き合って頂きありがとうございますっ」ムースが私たちの横に並び、何度も忙しなく頭を下げた。「本当は私だけでも良かったんですが、イウニくんの服は男の子っぽいのを選んであげたいなって思ってて……」
「イウニ、ムースママの選んでくれたものならなんでも着るよ!」
ムースを庇っているつもりなのか、イウニがそう言った。
だが、ムースは可愛らしいものを好む傾向があり、イウニとセネトの洋服は鮮やかなものが多かった。つまり……落ち着いた色合いの服があまりなかったのだ。
それに、もうすぐロドス・ラズハ・アイランドで一年に一度行っている……ロドスを取り戻した日を祝う祭事もやってくる。そのための衣装も購入する予定だった。毎年といってもまだこの祭事は二回しか行っていないが。
しかしイウニとセネトは日に日に大きくなり、すぐに服のサイズが合わなくなっていた。イウニは特に活発ですぐ衣服に穴を空けたり擦れたりしている。今着ている服だってズボンの裾がもう擦れていた。
「子ども用の洋服店は……あ、あそこですね!」
ロドス・ラズハにて調達した地図を見ながらムースは目的地の店を目視した。私の両手にいるイウニとセネトがますます浮かれ始めた。
「カッコイイお洋服がいいな!」
「イウニ、祭事のお洋服も買うんだからね?」
とイウニとセネトは私の体越しに会話をしている。
そうして私たちはムースの言う洋服店へ向かおうとしたが、周りの街の人々から何やらただならぬ雰囲気を察知して立ち止まった。私と手を繋いでいるイウニとセネトも立ち止まる。
「どうしたの、サンドレコナー?」
イウニは私が唐突に立ち止まったことに不思議に思いながらこちらを見上げた。だが、察知能力の高いアーツの才能を持つセネトは既に何かに気づいたようで私の足を掴んできた。
「ムース、その店は後にしよう……」
私が言い終える前に、真横で鋭い音が響いた。瞬時の判断で身を屈めてかわしたが、どうやら私たちに向かって石を投げつけられたみたいである。
「おい、外しちまったぞ」
「いいからやれやれ!」
「よそ者の悪魔が!」
投石者がいるだろう方向には三人の男性らが見えた。突然の投石で騒然となった街の一角で私がすぐに相手を見つけ出すことが出来たのは、頭にいたカラクリ羽獣を飛ばしたからだ。
「な、なんの騒ぎです……っ?!」
ムースが怯えた様子でその場にしゃがみ込む。見る限り怪我はしていない様子だが、相手がまた投石をしてくる可能性があるから安心は出来ない。
私は懐に仕舞っているカラクリ羽獣の数を確認した。
「ここを一旦去ろう」
私がそう言うと、ムース、イウニ、セネトが肯定を示す頷きを返した。立ち去った瞬間また投石され、私たちの後ろで石が飛んできた。
「ここならもう安全だろう」
見通しのきく草原だけの公園に出た。人気のない公園だったが周りを遮るものが少なく、何か怪しい人物を見掛けたらすぐに気づけるはずだ。
「良かったです……急に石を投げてくるなんてびっくりしました」
とムースは言いながら力が抜けたようにそこにあるベンチに腰を下ろした。その隣を寄り添うようにセネトもベンチに座ってムースの背中を撫でたが、イウニは私の手を繋いだまま動かなかった。
見やるとイウニは地面を見つめていた。
「あの石、イウニたちがいるから投げられたんだよね」
「なぜそのように思ったんだ?」
私はイウニの横にしゃがみ、彼の顔を覗き込んでみた。浮かない顔をしているのは一目瞭然だった。
「だってさ、街の中で歩いてるサルカズは……イウニたちだけだったし」
ロドス・ラズハで充分に学びを得ているイウニとセネトは、自分たちがサルカズと呼ばれる種族で、どのような扱いをされてきた歴史があるのかを知っている。……多種多様な人々が行き通うロドス・ラズハ・アイランドで過ごせば自ずと知り得たことだろうが、イウニとセネトは非常に人の目を気にするところがあった。
「君たちは堂々としていればいいんだ」私は毅然とした態度を貫いた。「いずれ、種族間での差別は大したことがなくなる。個性の一つとして受け入れられる時代が来るのだ」
君たちのように堂々と歩く者が、一人、二人と増えていけば、と私が話すと、イウニが小さく頷いた。
「サンドレコナーはさ、そう言ってくれるからイウニも信じてるけど……」
イウニの声は沈んでいる。
「ムース、今度石が飛んできたら全身で守ってあげますからね!」何を思ったのか、ムースが急にそう言ってベンチから下りた。「だからイウニくん、元気出して下さい! ムースはイウニくんとセネトちゃんの味方ですから!」
イウニとセネトを励まそうと思ったのか、ムースが張り切った様子でそう言う。そんなことで果たして元気になるだろうかと半疑の気持ちでイウニの顔をもう一度確認すると、彼は笑っていた。
「ムースママ、石が当たったら可哀想だからイウニが守るよ!」
とイウニは言ったのだ。
「セネトも守る!」
するとセネトもベンチから下りて一緒になってムースを励まし始めた。そんなやり取りを見守っていると一体どっちが励まされているのか分からなくなってくるようだ。
「そうやって互いに支え合うことはいいことだ」
私は彼らの頭を軽く撫でて立ち上がった。カラクリ羽獣を飛ばし、目的地に妙な者がいないか確認に行かせる。
「少しここで休んだら服屋へ向かおう」
「「はーい」」
「はい!」
イウニとセネトは同じタイミングで返事をし、ムースも控えめに笑って頷いた。こうして寄り道するのも悪くない。私はあのロドスから、そしてこの小さな子どもたちから多くを学んだのだ。あの戦場と共に。
おしまい