何かかすかな物音がして目が覚める。
時間を確認しても、まだ夜中の二時過ぎだと分かってもう一度寝ようとしたが、扉の向こうに誰かがいる気配がした。
凍らせた枝豆を素早くかじって武器を背負い、もしもの体勢に構えて置く。俺は自室の扉を開けた。
「わ、と、父さんっ?!」
「スノーグ」
扉の前にいたのは、スノーグラウスだった。
「どうした」
俺は警戒体勢を解き、スノーグラウスに聞いてみる。いつも真っ直ぐに言いたいことを言ってくるスノーグラウスが、今日は目が泳いで落ち着かない様子だ。
「……いや、なんでもない。ごめん、こんな時間に」
スノーグラウスはそう言って立ち去ろうとした。スノーグラウスは、覚えがないとはいえ俺の息子だ。気に掛けた方がいいのではないかと考えた。
「待て、スノーグ」俺はスノーグラウスの手首を掴んだ。「何か言いたいことがあるんじゃないか? 言ってみろ」
「父さん……」
スノーグラウスは俺のことを父さんと呼んではくれるのに、やはり今の俺では頼りないのかと寂しくも思ってしまう。俯くスノーグラウスを、放っておけない。
「何も話さなくていい。とりあえず俺の部屋で休んでいくといい」
また自分の部屋まで引き返すのは大変だろうと、俺はスノーグラウスの手を引いた。意外にもあっさりと中に入ってくれた。
「俺のところには水しかないが……」
椅子がないのでベットに座ってもらい、スノーグラウスに水を出してやった。スノーグラウスは遠慮しがちに水を何口か飲んだ。
「ありがとう、父さん」
とスノーグラウスは言うが、ずっと俯いたままだ。
「落ち着いたか?」
「うん、だいぶ」
俺はスノーグラウスの隣に座って様子を見てみる。うん。息遣いは落ち着いているみたいだ。
「これからどうしたい? このまま寝るか、このまま起きているか、それとも……」
「いや、起きてるのは悪いよ」
スノーグラウスがようやくこちらを見た。俺は真っ直ぐ見つめ返したが、スノーグラウスは慌てたみたいに目を逸らした。
……顔が赤いような。
「熱でもあるんじゃ……」
「父さん」
「なんだ」
「父さんは、俺が父さんって呼んでも、否定したことなかったよね」スノーグラウスがこちらを見ずに話し続ける。「父さんって呼ばれるの、嫌にならない?」
「そんなことはない」
父さんと呼ばれたのは最初はビックリはしたが。なんて呼ばれても俺は俺だし……それに、記憶喪失になった俺の目の前で立ったアンタは……辛そうな顔をしていた。それを否定することなんて俺には出来ない。
「俺と話したいなら時間が許す限り話してもいい。夜明け後は外勤があるのか?」
「ううん。……父さんは?」
「俺も休みだ」
俺が答えると、やはりスノーグラウスは何か言いたそうにキョロキョロしている。話を聞いてやることが父親の役割なら、そのくらいならいくらでもやろうと俺は思った。
「あのさ、父さん」
「なんだ?」
横を見やると、スノーグラウスと目が合った。昼間の空と同じような瞳の色だ。こうして見ると、フリントに似ているかもしれないと思えてくる。
「……ハグしてもいい?」
思わぬ発言に俺は一瞬言葉を飲んでしまった。息子って、父親にそんなことを言うものなのだろうか?
「ああ、構わない……っと、これは下ろすべきだな」
俺は漏電する武器を下ろした。コイツを背負ったままだとスノーグラウスに感電させてしまうかもしれない。なんで俺、この変な武器を相棒にしていたのだろうか?
「……スノーグ」
俺は武器を床に置いて両腕を広げた。スノーグラウスは少し恥ずかしそうにしながらも、俺の胸にそっと飛び込んできた。会えなかった六年間、もっとこうすべきだったのだろう。俺は、スノーグラウスの背中を撫でた。
「不思議だ……父さんの胸の中だと……落ち着く……」
スノーグラウスが俺の肩でそんなことを言った。それなら良かった。アンタの悩みが消えるなら俺は……。
「スノーグ?」
動かなくなった。俺の腕の中で。スノーグラウスが。
もしかして、と思ってゆっくり離れてみると、スノーグラウスは眠っていた。寝顔がとても穏やかで、まだ少し子どもっぽさがある。アンタは本当に、俺の息子なんだなと思う。
「おやすみ」
俺はスノーグラウスをベットに寝かせ、布団を被せてあげた。俺はベットの横で座ったまま寝よう。どんな体勢でも寝られるから俺はどこに寝てもいいのだ。
ただちょっとだけ、スノーグラウスの頬を撫でてみた。俺とほとんど同じコータスの耳が震えたが起きなかった。アンタの悩みが少しでも解決するように願うのは、俺が父親だからだろうか。