訓練室でのこと。
スノーグラウスからの降りかかる飛ぶ刃をかわし、私は床を踏み込んだ。狙うはスノーグラウスの背後だ。
スノーグラウスは私の息子らしいが、今のところそれらしい記憶は戻っていない。だが、こうして拳を交えて特訓の相手をするのは、嫌いじゃない。
「……っ?!」
いつもなら、私からの背後からの攻撃にスノーグラウスは反応が出来るはずだった。何度も特訓には付き合っていたし、スノーグラウスの動きは分かる。
だが今回はわずかに反応が遅れ、あろうことか尻もちまでついてしまった。私は拳を寸止めしたが、スノーグラウスは腰が抜けたみたいでその場に座り込んだままだ。
「すまない、手加減はしたつもりなんだが……立てるか?」
と私は言ってスノーグラウスに手を伸ばす。スノーグラウスは素直なヤツで、私の手を取ってすぐに立ち上がった。
「大丈夫、母さん。ただちょっと、ビックリしただけで……」
とスノーグラウスは言っていたが目つきが変だ。私はスノーグラウスの背中に手を添えた。
「少し休もう、スノーグ」
「ああ……」
私はスノーグラウスを訓練室の隅にあるベンチに座るよう促した。スノーグラウスの足取りは重かったが、ベンチには座ってくれた。
「何か体調が悪いのか? 医療部まで付き添うが……」
「ん……」
返事が曖昧だと思って私はスノーグラウスの顔を覗き込む。スノーグラウスはウトウトしていて頭がグラグラと傾いていたのだ。
「眠れていないのか」
私がスノーグラウスの額に手を当てながら近づくと、彼はハッと目を開けた。
「いや、違っ……な、なんでもない! 大丈夫だから!」
私の手を丁寧によけて慌てて否定をするスノーグラウス。いつも素直なスノーグラウスが、そんなにあからさまに嘘をつくのは珍しいことだった。
「大丈夫だ。私の前で嘘はつかなくていい」私はスノーグラウスの隣に座り、肩から彼を抱き寄せた。「記憶喪失の私じゃ母親らしくないかもしれないが、お前は可愛いから今からでも親子になれると思ってるんだ」
親からいつもしてくれたように、私はスノーグラウスのことをめいっぱい愛してやりたいと思ってる。
スノーグラウスの耳がパタパタ動いた。
「ありがとう、母さん……」
「ああ」
そうしてしばらくスノーグラウスを肩に寄りかからせていた。訓練室にいる他のヤツらも、気をきかせてくれたのか誰も近づいて来なかった。
「よし、そろそろ特訓に戻っ……スノーグ?」
「すぅ〜……Zzz」
大人しくなったと思ったら、寝ていたのか。
私はもう少しだけスノーグラウスを寝かせてあげた。何か夢でも見て眠れていなかったのだろうか。こんなことでいいのなら、少しでも、親子でありたいと思って。