〜ジェイ&ブラックローズ編〜
「お父さん……お父さ〜ん」
よく聞いた声がしたと思って起きると、時間は夜中の二時過ぎ。扉から何度もコンコンとノック音が聞こえる。
「どうしたんすか、ローズ」
と扉を開ければやっぱりブラックローズがそこに立っていた。眠そうな顔。前に街で屋台をやっていた時もたまにこういうことがあったが、ロドス・ラズハに来てから突然俺の部屋に来ることもなかったし、もう大丈夫なんだと思っていた。
「……怖い夢を見たの」
「あー、はいはい」
俺は全てを察してブラックローズを中に通す。こんなに大人ぶっていてもブラックローズは九歳の女の子。ブラックローズは遠慮もなく俺のベットで横になった。まぁ、今更遠慮されてもやりづらいんだけどな。
「ここで寝てもいい?」
「いいっすよ」
商人をやっていた時から抜けなくなった口癖が、ブラックローズに移らなくて良かったなとかどうでもいいことを考える。俺とは血が繋がってないけど、でもやっぱ、こうやって頼ってくれると嬉しいと思う自分もいた。
「添い寝しやしょーか、お嬢さん」
わざと接待のように言ってみせたが、ブラックローズはもうこんな俺に慣れているだろう。ブラックローズは目を閉じたまま小さく笑った。
「ん、お願い」
「へい」
俺は小さな少女を潰さないように壁側に寄って寝転がる。あと何回、こうやって俺に頼ってくれるんだろ。あともう少しだろうな。その内臭いとか言われそうだし。
「おやすみ、ローズ」
「ん、おやすみ、お父さん」
ローズがもっと小さかった時、なかなか寝つかない彼女をどうしたもんかと慌てていた時がもう懐かしく感じた。ローズはいい子に育ったんだなぁ。しみじみ思いながらトントンするオプションもつけてやる。俺のことを怖がらないでありがとう。我が子の健康を祈りながら、俺も一緒に眠った。
〜ロサ&ブラックローズ編〜
「へぇ、花には色んな効果があるのね」
ある日の療養庭園。私はブラックローズちゃんから、お花について教えてもらっていた。
「そーなの! こっちは元気になるお花で、こっちはリラックスするお花なんだって!」
とお花の話をするブラックローズちゃんはいつも楽しそうだわ。
「勉強になるわ。教えてくれてありがとう」
「エヘヘ」
私が褒めると、ブラックローズちゃんは心から嬉しそうに笑った。教えてもらうばかりじゃ悪いし、何かお礼を考えた方がいいわね。
「ブラックローズちゃん。私、いつもあなたにお世話になっているし、お礼をしたいわ。何か欲しいものとか……」
言いかけて私は言葉を切る。ブラックローズちゃんが寄りかかってきたからだ。
「……ブラックローズちゃん?」
「あ、ご、ごめんなさいっ」
私が声を掛けると、ブラックローズちゃんは慌てて顔を上げて離れた。どうしたのかしら。疲れているのかな?
「今日は休んだ方がいいんじゃないかしら。宿舎まで送るわ」
と私は言ったけど、ブラックローズちゃんは首を振った。
「ううん……まだ明るいし、患者さんが相談に来るかも」
そうブラックローズちゃんは言ったけれども、目がウトウトしていた。私は少し考えた。
「じゃあ、こうしない?」私はブラックローズちゃんの顔を覗き込む。「ここでお昼寝をして、患者さんが来たら私がブラックローズちゃんを起こすわ。少しくらい寝たら体調も良くなるかもしれな……」
「ありがとう、ロサさん」
もう我慢の限界だったのか、言い終わる前にブラックローズちゃんが私のお腹の上に飛び込んできた。それからぐっすりと寝息を立てているから、私はブラックローズちゃんは寝たんだと思ったの。
「ふふ、妹が出来たみたいね」
妹にしてはちょっと歳が離れ過ぎているかもしれないけど、こういうのもちょっといいかも、と私は思えてきた。
私は少し体勢を変えてブラックローズちゃんを膝枕することにした。ブランケットがあれば良かったのだけれども……天窓から降り注ぐ光が心地いいから、私もここでお昼寝してもいいかもと目を閉じて過ごしたわ。