ここのお話はドクターの一人称視点で進んでいます
ロドス壊滅してから六年、トイフェルから取り戻して二年。
長くも短かったようなこの年月は、私にとっては忘れられない期間となった。今ではいつものロドスの風景と変わらなくなったが、それでも、救出したロドスオペレーターたちの記憶は依然戻らないままであることが多かった。
「ドクター、この書類、ここでいいの……?」
「わ、あ、ああ、ありがとう、マンティコア」
私の執務室にはロドスの時にあったシステムと同じように、こうして秘書が仕事を手伝うようになってくれている。ただ、マンティコアも八年前以降の記憶はなく、取り戻したという話も聞かない。けれども今もこうして元気でいてくれるのが、私の何よりもの嬉しいことだった。
「ドクター、何か考え事……?」
マンティコアが大きな目で顔を覗き込んできた。考え込み過ぎていたかもしれない。
「そう、考え事をしていたんだ。……今でも、色々思うことがあってね」
私はマンティコアに正直に答えながら、あの日のことを思った。もし私が早くトイフェルに乗り込んでいたらとか、更にもっと前に戦場を指揮していたらとか。どうしても、もしものことを考えて、今とは違う未来を想像してしまうのだ。
「ドクター、私……」マンティコアが囁くような綺麗な声で話を続けた。「ロドスにいたことは、覚えてないけど……ロドス・ラズハのことも、ドクターのことも、みんな大好きだよ」
マンティコアは、今までの記憶がなくても私たちに貢献的だった。
「ありがとう、マンティコア」
「へへへ……」
私は嬉しくて泣き出したくなるのを、マンティコアの頭を撫でることでなんとか誤魔化した。ほとんどの人たちは、私やロドスのことを悪く言わなかった。記憶がなくて混乱し、一旦はロドス・ラズハから離れた者もいたが、またここに戻ってきてくれたり、協力してくれたりしていて比較的穏やかであった。
「「ドクター!」」
その時、明るい声と共にパタパタと執務室に子どもたちが入ってきた。八歳になって逞しくなってきたマホガニーとツルギだ。二人の手にはそれぞれ赤い風船と橙色の風船が握られていた。
「マホガニー、ツルギ、今日も元気そうだね」
と私が言うと、マホガニーとツルギはニッコリ。
「あのねあのね、パパと一緒にイベリアに行ってきたよ!」
「パパの作った機械見てきた」
マホガニーとツルギは代わる代わるそう話しながら楽しそうだった。
ソーンズを始め、レッドもエアースカーペもフリントも、自分に子どもがいることを覚えていないのに、否定や拒絶をしなかったのは本当に良かったなと思っている。彼らはどこかで、親のいない子どもがどうなるのか、知っているのかもしれない。それは例え記憶喪失だとしても、大切なことは忘れないということなのだろう。
ということで、ソーンズは自分の記憶の手掛かり探しに休日にイベリアに向かったのだ。戦闘は体が覚えているらしく、前にロドスでいた時と同じくらいソーンズは外勤任務にて申し分ない成果を残していて今でもここで前衛オペレーターとして活躍してもらっていた。その休日にイベリアに向かうと言い出した時は、私もあまりいい話は聞かないとそれとなく伝えたがそれでも行くとソーンズは聞かなかった。それを知ったマホガニーとツルギが一緒について行くと言い、ソーンズが「分かった」の一言で了承し、双子たちはソーンズと共に昨日イベリアに行っていたのである。昨日の夜遅くに帰ってきた時はヒヤリとしたものだが。
「他にも何かあったかい?」
私は彼らが心配でそう聞いてみた。何か嫌なことがあったらどうしよう、と思っていたが、どうやらそんなことよりソーンズと一緒だったことが楽しかったらしく、マホガニーとツルギの話すイベリアでの思い出は、色とりどりに輝いていた。