前書き
白き海のイベストを読んで、引星ソーンズくんと出会って、これはソーンズくんの息子、娘がいるバージョンも書かなきゃと思いました()
白き海の彼方へのネタバレを含みます
まだ育成が終わってないので解釈違いあるかも
モブが喋ります(口調捏造注意)
モブオリジナルキャラも登場します
良かったら、どうぞ
〜ドクター目線〜
ソーンズは、一ヶ所に留まっていられる人物ではないのだろうと私は出会った時から感じていた。
だからこそ、ロドスで長くいて、研究室を度々爆発させながらもレッドと夫婦になり、双子の子どもを授かったと聞いた時は私は本当に驚いたものだった。
そのあと色々あってソーンズには自分に子どもがいたことを忘れてしまっていたが、双子たちの器量の良さと一生懸命さが伝わったのか、彼は我が子らを心から受け入れているように見えたのだった。
ソーンズがこう言い出すまでは。
「剣術を学びに、ロドスを離れたい」
一瞬驚いてしまったよ。ソーンズはロドス・ラズハとなった今では大事な戦力の一人でもあったのだし。
「それはいいけど、なんで急に……?」
私は取り乱しているのを悟られないように質問を投げ、ソーンズの表情を伺う。記憶を失っていても、ソーンズの表情はあまり動かないし落ち着いている。褐色肌に琥珀色という瞳をした彼の容姿は、よりその視線を際立たせているように見えた。
「ここで剣を振り続けて分かった。俺には何か足りないものがある」ソーンズは真っ直ぐ私を見据えて話し続けるのだ。「数ヶ月前、波風をも斬るという剣術があると聞いたんだ。それがイベリアにあると。俺は剣術を学びに行く」
揺らぎがない眼差しに、私は否定をする理由が思いつかなかった。
「そっか、分かったよ。ロドスを離れる時のための書類があるから、そこに書いてあることを確認して、サインしてね」
「分かった」
私はデスクの引き出しから必要な書類を取り出しながら、よく聞いたこの彼の返事も、もうしばらくは聞けないのだろうなと思った。そして気掛かりなのが、もう一つ浮かんでいて。
「……マホガニーとツルギは、どうするんだい?」
私は書類をソーンズに差し出したまま訊いた。答えるまで離さないぞ、という強い気持ちで。
だがそれも、ソーンズはあっさりと答えたのだ。
「ここに置いて行く」
わずかにソーンズから感情が見えた気がするが、すぐには消えていつも通りの彼が、そこに立っていた。私は書類から手を離した。
「そっか、ちゃんと話はして置くよ」
ついて行きたいって言うんだろな、と私が思っていると、ソーンズは渡した書類に視線を落としながらこう言ったのだ。
「俺から説得する。連れて行かない理由はすでに用意してあるんだ」
「へぇ、そうなんだ?」
その理由とは? と私はソーンズに視線を投げたが、目は逸らされてしまった。
「書類はあとで揃える。失礼したな」
ソーンズはそのまま踵を返して私の執務室を出て行った。これが、私とソーンズの、随分と淡白な別れ方だったのだ。
その後、ソーンズはマホガニーとツルギにどう説得したのか分からないが、本当に彼は剣術を学びにロドス本艦を離れた。
見送りに出た時は、マホガニーもツルギもソーンズの背中に向かっていつまでも手を振り続けていたが、昨日まで落ち込んでいたのは私も遠巻きから話は聞いている。
特にマホガニーは本当にソーンズについて行きたかったらしく。
通信機を使って時々ソーンズとやり取りはしていたみたいだが、ある日を境に連絡が返ってこなくなり、心配になった私はエリジウムとウィーディをイベリアに向かわせた。
そして帰ってきたエリジウムからの話で事情を知る。
「ソーンズは海賊になった」
てっきりロドスに戻ってくると思っていた私が驚いたのだから、マホガニーとツルギは更にショックなことだったろう。しかし饒舌なエリジウムのおかげで、ソーンズはカッコイイ海賊の船長になったのだとマホガニーとツルギに話して聞かせ、それはロドス・ラズハ中に広まって本にまでなった。
そうして二年経った時である。ソーンズ率いる海賊の船「赤子の揺り篭号」がロドス・ラズハと接触し、協力関係を結びたいと連絡を取ってきたのだ。ソーンズの、あの低く穏やかな声で。
しかしソーンズと会えたのは、すっかり夜も更けた頃であった。なんでも嵐で航路を変更したため、赤子の揺り篭号がロドス・ラズハのいる港町に来るのが遅れたからである。
私はいつもの如く夜遅くまで仕事に追われていて会うのは明日か明後日だろうな、と頭の片隅で考えていたところに、執務室の扉がノックされたのだ。
「どうぞ〜」
こんな時間に執務室に来るなら、夜食を作ってくれたジェイくらいかな、と私は書類と画面と端末から目も上げずに応じると、訪問者が入ってきた。
「久しぶりだな、ドクター」
「え……」
予想もしていなかった人物の声が聞こえ私は顔だけ上げて硬直してしまった。褐色肌に茶色がかった黒髪の青年。その瞳は、黄金色かのように輝いている。
「ソーンズ!」
私は勢いよく立って椅子を後ろに弾いた。ソーンズは微笑を浮かべていた。
「大きな声を出さなくても聞こえる、ドクター」
相変わらずの声に私は嬉しさを感じ、ソーンズに飛びつこうとした。だが、その前に横にある銀色の浮遊物が気になって私は足を止めた。
「だいぶ変わったみたいだね、ソーンズ」
「ああ」
私は落ち着いて椅子を引っ張って座り直し、彼の変化をよく観察した。彼の肌が褐色より日焼けしただけではない。身に纏っている衣服は、精密そうな装飾が施されたフォーマル寄りなもので、それをやや着崩して身につけているのがソーンズらしく見えた。彼のその耳からは、青い飾りが時折揺れている。
「その格好は……いや、そんなことより、元気そうで良かったよ、ソーンズ」
聞きたいことは山程あったが、わざわざこんな時間にここまで会いに来てくれた彼に感謝を伝えようと思った。ソーンズはここでも落ち着いた様子だった。
「お前もいつも通りのようだな。そろそろインスタント食品をやめた方がいい」
「うっ、久しぶりに会う人に言うことかい?」
皮肉を忘れないのも、私たちの仲だからだろうか。
するとソーンズが目を伏せて笑みを浮かべたので、ああ、いつも通りのソーンズなのだと改めて感じた。私はそんな小さく笑う彼に安心感を抱くのだ。
「それより、こんな夜遅くに何の用だい? 雑談をするために来てくれても嬉しいんだけどね」
そもそも私が起きているかも分からないこんな夜中に、と私がソーンズを見やると、彼は今まで見たことのない顔でこちらを見つめ返していて談笑で緩んだ気持ちを引き締めた。ソーンズって、こんなに憂いを含んだ表情をしたことがあっただろうか。
「聞きたいことがあるんだ。出来るだけ急ぎで」ソーンズは話し続ける。「マホガニーとツルギは、どこかで金属を操ったことはあるか?」
「え?」
急になんの話をし出すのか。私は驚き、困惑した。だがソーンズはこちらを見据えるばかりでその理由までは今は答えたくないといった感じ。私は顎に手を当てた。
「金属かどうかは分からないけど、マホガニーは手を使わずに物を浮かべることはしたことがあるよ」
私は、ラズハとして活動していた時に見たマホガニーの戦闘方法を思い出していた。子連れの商人……正体はジェイだったのだが……を探してスラム街に迷い込んだ時、妙な輩から逃げるためにマホガニーが周りの物をいくつも浮かべて攻撃を仕掛けたことがあったのだ。マホガニーはソーンズとそっくりなデカイ武器を持っているから、街を歩くにはそう言った小技を身につけるべきだったと思って私がレオンハルトを通じて出来るようになったアーツの力だと思い込んでいた。
「私はそれをマホガニーのアーツだと思い込んでいたけどね……イウニとセネトの方がアーツの才能に優れているから、それ以降は物を浮かべるマホガニーを見たことはないよ」
あれが金属だったかどうかまでは思い出せないが、確かにあの場所から考えると金属を含んだ何かの可能性は高そうだ。
「ツルギは?」
まだ答えを言わないらしい。ソーンズが意味深そうに私に質問を重ねるのはどうしてだろうか。
「あの、なんでそんなことを……」
「ツルギが金属を操ったか操っていないかを聞いているんだ」
ソーンズに真っ直ぐ見つめられる。とにかく顔がいい。私がソーンズに言葉で勝ったことはないし、そもそも闘う気もない。ソーンズはもしかして私が面食いなのを知っているのでは。そして自分の顔がいいことをソーンズ自身に自覚があるのでは。
「ツルギは、簡単なアーツユニットを使ってなら、ケーキを浮かべる手品をしてみせたことはあるよ」
「手品……」
私が渋々折れて答えると、ソーンズは小声でつぶやきを返してきた。手品? ソーンズは、マホガニーとツルギが手品が出来るかどうか聞いているのだろうか?
「思えば、豪華なパーティの席だったからね、ツルギは、ケーキを浮かべたというより、銀の皿を浮かべていたのかも」
私はあの時のパーティ会場を思い出していた。シルクに招待されてやって来たあのパーティ会場は、マホガニーとツルギに色々な経験をさせたいという私の勝手な考えで連れて行った場所だった。だけどあそこには嫌なことを言う人がいて、ツルギは気遣うつもりであの手品を見せてくれたんだっけ、と思うと私は眉間につい力が入ってしまう。
「銀の皿か……」
ソーンズがまた小さく呟いた。ソーンズは一体どういうつもりで私にこんな話をさせたのだろう?
「そろそろ教えてくれないかな。マホガニーとツルギについて聞いてくる理由」
私はとうとう聞いた。
ソーンズは、一筋の光のようなオレンジ色の目で私と見つめ合い、やっと答えたのだった。
「マホガニーとツルギも、錬金術師の可能性がある。二人が望むなら、海に連れて行ってそこで錬金術を教えたい」
「え……」
それは、衝撃的発言だった。
翌朝。
ソーンズはすでに自分の船……赤子の揺り篭号に一旦戻っていたが、私はほとんど眠れずに朝を迎えていた。
夜中にソーンズに言われたことをマホガニーとツルギに伝えると、意外にも反応は別々であった。
「行きたい!」
マホガニーは即答で、
「あたしは……今は行かない」
ツルギは迷ったように首を振ったのだ。
マホガニーは錬金術に興味を持ち、それはツルギも同じように思えていた。だがツルギは、ロドス・ラズハでやりたいことがあるのだという。それでも、時々はパパとも会いたい、と口にした。
この話をソーンズにすると、彼は全く動揺しておらず、どこか落ち着ける場所で話そうと言ってきた。なので私はロドスの談話室に案内してマホガニーとツルギも呼ぶと、ソーンズは私に更なる提案をしたのだ。
「一ヶ月、ロドスから派遣して貰えないか」
どちらかというとそれは、ソーンズがツルギとも一緒にいたいと言っているようなものだった。彼はこんなにも強欲なことが言えたのか。いつもそれなりに受け身なイメージが多かったソーンズが、本当に心から海賊になったのだと思った瞬間でもあった。
「一ヶ月経ったら、もう会えないの?」
私が答えあぐねていると、ソーンズの片腕に抱っこされているツルギがそう聞いていた。
「いや、また期間が空いたら来て欲しい。ツルギにはツルギのしたいことがあるんだろう?」
「うん」
謙虚さを忘れずに、自分の言いたいことはしっかり伝えるソーンズ。やっぱり、ロドスの時から変わってないかもな。
「あとはお前の決断に任せる」
ソーンズは、両腕にまた少し大きくなった我が子二人を抱えたまま私に目を向けた。もうそろそろ抱っこなんて出来なくなるんだろうな。もう双子たちは十歳だ。
「ツルギがそれでいいなら、派遣システムを導入するよ」私は快諾した。「あ、私もどこかで同行していいかな? 海や塩海には興味があるんだ」
「分かった」
ああ、あの時から変わらない相槌だ。
ロドスから離れ、海賊となり、錬金術師となって帰ってきたソーンズが、イシドロとなって私の目の前に現れた。格好もすっかり変わって目つきも変わったみたいだけれど、船長となった今でも自分が父親であることを片時も忘れていなかったというかのような、今でも私に友好的な態度を示してくれる一人の人間として向き合ってくれている彼に深く感謝の心を抱いた。
それはまるで私も見たことのない、深い海のように鮮やかだった。
──十年後──
先輩船員「この船もだいぶ変わったなぁ。今ではあちこちで雑草の生えまくったサンドシップだ」
ファビアン「先輩、この船の名前は赤子の揺り篭号ですよ?」
先輩船員「それは分かってるけどよ……ちょっと、名前が恥ずかしいだろう。弱そうだしよ」
ファビアン「そうかなぁ……」
先輩船員「あ、おい、そこの新入り! その雑草は抜いちゃいけねぇ! 船長が絶対引き抜くなよって言ってあるところなんだよ!」
ミュエル「え、そうなんですか? てっきり、みんな雑草なのかと……」
ファビアン「ハハ、雑草の生えている船は赤子の揺り篭号だけだろうからな。ま、少しずつ覚えていこう、ミュエル」
ミュエル「はい、ファビアンさん!」
見張り船員「おーい、ロドスからやって来る船員希望者が見えてきたぞ!!」
船員たち「「おお!!」」
ミュエル「そういえば、今日から来る人って、女の子なんでしたっけ」
ファビアン「女の子っていうか、船長の女みたいな?」
ミュエル「ええっ、あの船長に女がいるんすか!」
ファビアン「シーッ! 声がデカイって! この船じゃなんでもバレるんだから……」
「こんにちは! 今日からお世話になります、ナギです!」
どこかで続くかも?
あとがき
ここまでの閲覧ありがとうございます
長い短編集となってしまいましたが、あともう2つ、あるオペレーターたちが弊ロドスでお迎え出来たらおまけ程度に追加する予定なのです。今のところは一旦ここまでにします
この白き海編はどこか別の連載として書いてみたいなぁと思っています。……モチベ等がしななければ……
え?マホガニーとツルギの伏線ですか?
当時、双星方舟を書いていた時に、ソーンズくんが実は錬金術師だった、なんて知らなかったんですよ。ただ、よーく見たら基地配属の時にソーンズくんに「錬金」って文字はあったかもしれませんけどね、早々に信頼度200%になっていたものですから気づきませんでしたw
まさかこんな形で、意味のなかったようなシーンがこんな形で伏線回収されようとは
どうして私は、マホガニーに物を動かす力を、ツルギがケーキで手品をさせたのかよく分かりません。でもよくよく考えたら意味のないシーンっぽかったですよね。まさか伏線回収出来るとは……私は今でも驚いているんですよね
そんな訳でふんわりと続きを待って下さればと思います
ではまた、どこかで