イベリアについて詳しくないので新しいイベントが明かされる前に捏造しました()
〜ソーンズ目線〜
幼少期のことは、少し覚えている。
それでも、ドクターという怪しい男に呼び起こされ、ラズハという艦に来た時は、俺は一体今まで何をしていたのか何も覚えていないのが不気味だった。
ロドス・ラズハの奴らがあれこれしてくれているのも、俺の書体で契約書が残っているのも見た。だがそれでも、ほとんどのことは思い出せなかった。
レッド……あのループスの女だけはなぜか妙に覚えてはいるが。
覚えてはいる、ということしか分からないのもおかしな話だが、どうやら記憶喪失の俺にはそれ以上語るのは無理なようだった。記憶喪失というのは、非常に厄介だ。
「こっちに来い」
「「はーい」」
イベリア近くまで来たロドス本艦から降りると、子どもが二人走り寄ってきた。このループスの子どもがマホガニーで、エーギルの子どもがツルギだったか。どうやら俺の息子と娘らしい。何度見ても、全く覚えがない子どもだ。
ドクターに言われたことがあったな。そんなにあっさり自分の子どもを受け入れるのは予想外だったと。
確かに俺に子どもがいるのは信じ難い話だったが、のちの血液検査でも事実だとは分かることだったし、否定する理由は何もなかった。それに……いや、やはり何も思い出せないが、拒絶をしようとも思わなかった。それはこの子どもたちが、どこか遠慮がちだったからかもしれない。パパと呼ばれるのは慣れないが、不快でもなかった。
「あれだな」
「あれがイベリア?」
少し歩くと灰白色の街並みが見えてきた。俺が口にすると、マホガニーが聞き返してきた。
何もかも忘れている俺は、あれがイベリアだと言い切れなかったが、位置的にも話的にもあれが目的地であることは明白だった。ツルギは、何も話さない。こうして見るとこの子ども、小さいな。離れないように見ていた方がいいだろうか?
俺が手を出すと、ツルギは躊躇いがちに手を握ってきた。俺が子どもの頃はこうだったろうか、と考えてみるが家族のことすら忘れたらしくさっぱりだ。恐らくあのイベリアにも俺の家族はいないと思うと言われたが、知り合いなら会えるのかもしれない。ソイツなら俺のことを知っているんだろうか。
「あ、ぼくも手繋ぐ!」
お喋りな方のマホガニーがそう言ってきたので俺がもう片方の手を出すと握ってきた。こっちも小さい。確かこの二人は双子だったな。
俺は妙な形をした武器を背中に背負い、子どもたちにぶつからないように気をつけてみる。とはいえこの二人も作戦に参加する実力はあるのは知っているから、そんな下手なことはしないだろう。
街に入ると、途端に意味深な目を向けられているのは俺もすぐに気がついた。だが子どもの二人はあまり気にしていない様子だ。……人に突然襲われるような治安ではないとは聞いているが、周りの目線は気になる。
「マホガニー、ツルギ」
俺は一旦足を止めてしゃがみ、両腕を広げた。こうするとこの二人は、次に自分たちが何をしたらいいか分かるらしい。だから俺は二人を両腕に抱えることが簡単だった。
そうして俺は、二人を抱えて街の中を歩き続けた。周囲の建造物を注意深く見てみるが、思い出せるようなものはない。俺は本当にこの街の出身なのだろうか。
「あ、パパ!」
その時、右腕にいるマホガニーが声をあげた。何かと見れば、マホガニーは空を指していた。空には赤い風船が飛んでいて、その丁度下には知らない子どもが泣き喚いていた。
「うわぁん、僕の風船がぁ」
風船はどんどんと高く飛んでいたが、あの程度ならまだ間に合うと俺は判断した。だが両手は二人で手一杯だ。俺は聞いてみた。
「いけるか」
「うん!」
マホガニーは元気に返事をしたが、本当に通じたかどうか確認している余裕はなかった。俺は膝に力を込めて跳ねた。俺の体は想定内に大きく飛んだ。
「取れた!」
マホガニーが大きな声で言った。俺はしっかり受け身を取って着地し、泣いている子どもの前でしゃがんだ。マホガニーが、捕まえた風船を子どもに差し出す。子どもは途端に泣き止んだ。
「はい、これ!」
マホガニーが風船を渡した。子どもは赤い顔をして受け取った。
「ありがとう……」
子どもはそう言いながら風船を持ったが、その手はマホガニーやツルギよりも小さいなと思った。もう二度と離せないように、風船の紐を手に巻いたらいいんじゃないだろうか。
「……こうしたらもう離さないだろう」
俺は気づいたら子どもの手に風船の紐を結んでいた。こっちを引っ張ればすぐ解けるから、子どもでも出来るだろう。すると、俺の左腕にいるツルギがますます体を寄せてきた。
「どうした……」
「あの、ありがとう、ございます……」
俺がツルギの様子を見る前に、子どもの母親やしき人が礼を言いに来た。このリーベリが子どもの親だったのか。
俺は何も言わずにマホガニーをもう一度抱えて立ち上がった。自分から抱っことかと言い出すような子どもじゃないが、一緒に歩くならこっちの方が効率がいいと気づいたからだ。子どもの親が俺たちを訝しげに見ているのは気になるが、まぁこの二人はハーフだし、珍しいのは確かだ。
「風船はどこに売っているんだ」
「え、あ、あそこの屋台に……」
俺が聞くと、母親は慌てた様子で向こうを指した。大通りの道沿いに、色とりどりの風船を揃えている屋台が見えた。
「分かった」
俺は二人を抱えたまま風船の店に向かった。そこにいる店員も、俺たちを見るなり焦った表情をしたが、ここまで来るともう見慣れてきた。
「ツルギ、何色がいい」
「え」
てっきり俺は、ツルギは風船を欲しがっているのかと思って聞いたことだった。何か言いたそうだったし、ドクターからはこの二人はあまり我儘を言わないとも聞いていた。何も答えないから俺の勘違いだったのかとツルギの顔を覗き込むと、レッドによく似た目があちこち向いていた。
「赤がいい」
「そうか」俺は金を取り出した。「赤い風船をくれ」
「あ、ああ、分かった……」
店員の男が狼狽えているような、警戒しているような態度は崩れなかったが、普通に風船は買えた。妙に高く取られることもなかった。俺はマホガニーの方を見る。
「マホガニーは」
「え、ぼくもいいの?」
「ツルギにだけ買ったらケンカするだろ」
「ぼくたちケンカしないよ〜」
このお喋りなマホガニーは、そうは言っているもののさっきから尻尾が激しく揺れていた。風船を欲しがっているのは誰が見ても分かることだ。
「んーと、お兄さん、ぼくオレンジがいい!」
「はいよっ」
店員の男もだんだん慣れてきたのか、それともマホガニーがループスに見えるからか、明るい声で風船を売ってくれた。今度はなぜか半額でだ。
「値段より安いぞ」
俺は後々の面倒を思って同じ値段を払おうとしたが、店員の男は首を振った。
「いや、俺が変な態度しちまったから、詫びに安くしてんだ。俺はアンタらのことを疑っていたが、その子どもの笑顔見てたら、疑っている俺が悪いって思ってきたからさ」
と頑なに金を受け取らなかったので、俺は仕方なく半額の風船で折れることにした。
「えへへ、安く買えたね、パパ!」
一方のマホガニーは大人の事情も知らずに呑気だ。子ども料金と思えばいいだろうか。子どもというのは随分楽な身分だ。
そうして俺は、マホガニーとツルギを抱えたまま街の中を散策していた。相変わらず街の人たちは俺たちを意味ありげに目配せはするが何も言わない。ここにはやはり、俺の知り合いはいないのかと思えてきた。
そんな時、向こうから誰かが走ってきたのが見えた。俺は避けようと道の端に寄ったが、こっちに走ってきた人物も端に寄って来たからさすがに警戒した。
何かしらの敵の可能性も考えて身構える。
一度、マホガニーとツルギには下りて貰おうかとも考えたが、逃げることになって俺について来られなくなる可能性がある。コイツらがまだ子どもじゃなかったら置いていってもいいんだが。
いや、レッドが怒りそうだな。
そんな考えを一瞬の内に脳で纏めた俺は、最終的には足で迎え撃つ体勢を取ることにした。向かってくる男は、やはり俺たちの前で止まった。
「みんな噂してたんですよ、ソーンズさんが来てるって」と男は肩で息をしながら言う。「来ていたなら連絡くらいしてもよかったのに……何か用事があったんですか?」
俺の知り合いだ。
俺は警戒体勢を少し緩めて口を開いた。
「俺は記憶喪失なんだ。ここのことを思い出すために来た」
そう答えると、男は驚いたように目を丸くした。
「ええ、そうだったんですか?」それから男は俺の両腕にいる二人に目を向けた。「もしかして、この子どもたちも記憶喪失と関係が……?」
「俺の息子と娘らしい。覚えていないが」
「え、ソーンズさんに子ども?! こんなに大きな……」
やはり俺の知り合いも驚くことだろう。俺も今でも信じられないからな。
「あ、ああ、ごめんね、大きな声出して」と男は顔を繕った。「僕はフェリペ。ソーンズさんは、僕を助けてくれた恩人なんだ」
とフェリペと名乗った男はマホガニーとツルギに言っていたが、俺はその名前を聞いても何も思い出せなかった。こんな知り合いがいたのか。しかも俺が恩人だと?
「パパ、恩人なの?」
マホガニーがフェリペに訊いた。するとフェリペの顔が明るくなり、楽しそうにこう話したんだ。
「そうなんだ。昔みたいなお祭りをしてみたいって言ったら、色々と手伝ってくれて……」とフェリペは俺の方を見上げた。「あ、そうだ! ソーンズさんの作ってくれた機械、今も倉庫で保管しているんだよ。見に行ったら少しは何か思い出すかも!」
それからフェリペの目は俺に向いた。俺はここでも何かを作っていたらしい。見に行ってみると答えようとして、先にマホガニーが声をあげた。
「見に行きたーい!」
コイツらはいつも、俺の作ったものや俺が記憶喪失になる前に残した記録なんかに興味を持っていた。まぁ、俺が本当にこの二人の親で、何年も会えなかったんだとしたら当然の反応かもしれないがな。
「じゃあ案内するね。……ソーンズさん、いいですか?」
「ああ、頼む」
俺は街の人の反応とは違うフェリペに、ついて行くことにした。
「へぇ、これがパパの作ったもの?」
「すごい大きい……」
フェリペに案内された倉庫には、変わった形とデザインの機械がいくつか置いてあった。マホガニーとツルギは機械のそばまで近づいて興味深そうに観察している。俺にはこの機械を見ても何も思い出せないが、この背中の妙な形の武器を作ったのが自分なら、俺が作ったと言われても間違いはなさそうだ。
「何か思い出せましたか? ソーンズさん」
さっきから心配そうに顔を見てくるフェリペがそう聞いてきた。
「いや、何も」
俺がそう答えるとフェリペは本当に悲しそうな顔をした。自分のことじゃないのにそういう顔をする人物を俺は別にも見たことがあって、フェリペは信頼出来る人物なのだろうということがよく分かる。
「そっか……何か思い出せるきっかけになれたらと思ったんですが……」
「何も収穫がなかった訳じゃない」俺はフェリペに言った。「お前という人物と知り合いだったのはいい収穫だった。この街の人間が妙な態度なのは気になるが、別に俺が気にするものでもないんだろう」
「それは……」フェリペが何か言いかけたが、首を振って目を伏せた。「うん、確かに。ソーンズさんが記憶喪失でもあまり変わってなくてよかったです。ソーンズさんが前にここで僕のことを手伝ってくれた時も、気にしていないみたいだったから。僕も、イベリアはエーギルの人が歩いていることに見慣れた方がいいと思っていますから」
「そういうことか」
「あ、今のは」
フェリペは失言だったと目を見開いたが、俺はそんなことはさほど重要ではないと考えた。この街には確かにエーギルの人間は歩いていなかった。俺は自分によく似たらしいツルギを見やった。
「娘がエーギルの見た目になったのは、なぜか可哀想だと思った。種族については途切れ途切れしか覚えていなくてな、今ようやく分かった」あの店員がマホガニーを見て和解したように見えたのも、俺の勘違いではなさそうだ。「俺は構わないが、ツルギが何か言われるのは困るな」
まだあの子ども、小さいのに。と思ってツルギがマホガニーと話し込んでいるのを眺めていると、そこのフェリペが小さく笑った。
「ソーンズさん、やっぱ少し変わったかもしれないですね」とフェリペは言った。「お父さんの顔してます、ソーンズさん」
「俺が?」
俺はフェリペを見、まだ機械を眺めている双子の子どもたちを見た。するとマホガニーが俺の視線に気づき、次にツルギもこっちを振り向いた。それからなぜか俺の方に走り寄ってくる。二人の頭の上で、赤と橙色の風船が揺れた。
「風船離すなよ」
金払った物をあの子どもみたいに離されたら困ると俺はしゃがんでマホガニーとツルギの手に風船の紐を結んでやった。解きたい時はこっちを引っ張れと伝えると、二人は息ぴったりにありがとうと言った。
「本当に双子なんだな」
と俺が言っても双子は楽しそうに笑うばかりだ。レッドから生まれたというが、あの細身の腹に二人いたのかと思うと、それこそ生命の神秘性を感じずにはいられない。
「ほら、やっぱりお父さんですよ」
フェリペはそう言って俺の隣にしゃがみ、マホガニーとツルギの頭を撫でた。マホガニーは嬉しそうにしているし、ツルギの表情は乏しいが嫌がっていないから止める必要もないだろう。俺が立ち上がると、フェリペが何か思いついたようにこちらを見上げた。
「そうだ、ソーンズさん。記憶探しなら、よくお世話になった食堂にも案内しますよ」とフェリペも立ち上がる。「そろそろお昼だし、そこでゆっくり話しませんか? ……あ、子どもたちにアレルギーとかあります?」
「アレルギーはないと聞いている」
子どもの話はある程度聞いている。好き嫌いがあるかどうかは、聞いていないな。
「なら良かったです! 僕のオススメがあって……」
そう話し続けるフェリペも楽しそうだったから、俺は黙って聞くことにした。マホガニーとツルギも腹が減ったらしいので、丁度いいだろう。
その後、フェリペに教えてもらった食堂で飯を奢ってもらった。マホガニーとツルギもフェリペが勧めていたものをあっという間に食べ終わっていた。コイツら、なんでも食うらしい。
接客をしてくれた女店員も親切だったが、周りの客から妙な視線が注がれていたのには気づいていた。すると親切な女店員が突然コップを落として割ったからさすがに驚いた。なのにあの女、平気そうに笑って、
「ソーンズさんから教えてもらったことなのよ」
と言っていた。
心当たりは全くなかったが、その女店員も俺のことを知っているみたいだった。あまり多くは語らなかったが、女店員の言葉は不快じゃなかったから、気にするものでもない。
「でも驚いたわ。ソーンズさんに子どもがいたなんて……」
とは言われたが。
「俺もだ。気づいたら八歳の子どもだ」
そのことについてマホガニーもツルギも、何か言ってくることはなかった。俺が仕切りに言うからだろうが、それでもコイツら、俺のことをパパと呼ぶんだよな。よく飽きたり嫌になったりしないものだ。
そうして飯を食いながら、俺はフェリペに記憶喪失になった日のことを覚えているだけ話した。フェリペは様々な表情を変えながらよく聞いていた。そして最後に、大変だったんですねと言われた。
「大変だったか、俺には分からない。大変だったのはそこの二人だろうからな」
俺はマホガニーとツルギが、たった一年足らずで乗っ取られていたロドスを取り戻した話は聞いているし、記録も残っている。それに、俺がこの話をすると、マホガニーが勝手に色々と話してくるから俺は何も喋らなくてもよくなるから楽だ。
「ぼくね、雪が好きなんだ! ツルギといっぱい遊んだんだよ!」
「うん、お花も好き」
と話すマホガニーとツルギに、フェリペと女店員は最後までよく聞いていた。この二人は戦っていたはずだが、そんな話よりパーティの話や絵を描いていた話なんかする。時々古代サルカズ語を話し出す時は少しぎょっとしてしまうが。
すっかり長居した食堂から出てフェリペたちと別れると、日がだいぶ傾いていた。結局俺の記憶喪失は解決することはなかったが、このまだ小さな双子のコイツらが終始楽しそうだったから記憶のことはもうどうでもよくなっていた。
俺はマホガニーとツルギと手を繋いで帰路を辿る。コイツらと手を繋ぐのもだいぶ慣れてきた。こんな感じで、イベリアも俺たちがそこら辺を歩いているのも、慣れていくんだろう。二人の風船は、ずっと頭上に浮いて揺れている。
「ねぇ、パパ」マホガニーが歩きながら唐突に話し掛けてきた。「僕、パパと一緒にいたら邪魔かなぁ」
俺は足を止めた。どうしてそんなことを急に、と俺はマホガニーを見やったが俯いていてその顔はよく見えない。
俺はツルギへ目を向けた。相変わらずこの娘はあまり喋らないし分かりにくい表情だ。俺はしゃがんでマホガニーの頭に手を乗せ、顔を覗き込んでみた。
「どうしてそんなことを聞くんだ」
俺はマホガニーの顔を観察してみる。悲しいとか怒っているというより、不安という言葉に近い顔をしていた。それもそうか。イベリアの街の人間を見たらそんな顔にもなる。
「二年前、俺はなんとなくでお前たちを助けたが、間違っているとは思っていない」俺は自分の考えていることをそのまま伝えた。「助けた理由は、俺も色々考えたが……それこそ、あのドクターが言っているように、人を助けるのに理由は必要ないだろう」
マホガニーが俺の目とようやく合わせた。こうして見ると、やはり俺の目にも似ているのかなと思えてくる。子どもというのは、不思議だ。
「だが、少しは我儘を言った方がいい。お前たちは我慢することに慣れ過ぎてる」例え今までの環境のせいで我慢しなくてはいけないことが多かったとしても。「ツルギ、お前もだ。何を考えているか分からないから、何が欲しいか分かりづらい」
とツルギにも言ってやると、一度瞬きをして俺を見つめ返した。怒りもしないこの子どもたちを、たまに感情をどこに置いてきたんだろうと俺はよく思う。まぁ、そんなことを考える俺も俺か。
とりあえず言うことは言ったし、俺は立ち上がってイベリアを振り向いた。
灰白色が多い建物を、夕日が照らしてその橙色を深めていた。マホガニーが橙色の風船を選んだ理由は聞かなくても分かった。俺の目の色だ。ツルギはレッドがよく身につけている服装の色を好んでいるみたいだしな。
そうして自分に好感を向けられるのは、悪い気はしなかった。それに、もし俺が親ではないと拒絶したら、この小さい子どもがこれからどう生きていくのかと考える方が後味が悪かった。多分放って置けなかったんだろう。俺がこんな漠然とした感情を持ち合わせているとは思ってもいなかったが。
「パパ、ワガママ言ってもいい?」
ツルギが突然話し出した。俺はツルギに目を向ける。ツルギは真っ直ぐ俺を見上げた。
「抱っこ、して欲しいの」
なんだ、そんなことか。
「分かった」
俺はしゃがみ、腕を広げた。ツルギは少し遠慮がちだったが、散々抱えていたから抱えられ方をよく知っている。間もなく、マホガニーの「ぼくも!」が聞こえてくるだろう。
「ぼくもぼくも!」
ほらな、言っただろ?
「ああ」
俺は再び、マホガニーとツルギを両腕に抱えて歩き出した。しばらくはこの子どもたちに振り回されるのだろう。だがそれも、悪くないなと思っているくらいには、俺もきっと辛うじて覚えている昔よりかは幾分かは変わったのかもしれない。
「あ、ドクターにお土産買うの忘れちゃった……」
「戻るか?」
「え、いいの?」
マホガニーが聞き返してくる。
「今から戻ったら帰る時間が……」
とツルギは心配そうに言った。
「いつも守らなきゃいけない訳じゃないだろ」
自分で言うのもなんだが、俺はあまりルールを守るタイプじゃない。子どもの教育に悪いとか、俺は気にしないしな。
「急いで戻ればいいな」
ちゃんと捕まってろ、と俺は子どもたちの背中を支えて走った。土産屋はどの辺りだろうか。とりあえず大通りまで行けばいいか。
土産選びに悩んですっかり暗くなってからロドスに帰ることとなり、ドクターには長いお説教を食らった。マホガニーとツルギが、ドクターより俺の方を庇ったのは親の特権だろうか。
「パパ、怒られちゃってごめんね……」
「あたし、お土産選ぶの遅かったから……」
とマホガニーとツルギは言っていたが、俺が全く動じていないことをドクターがいる目の前で言うと余計面倒なことになりそうだ。
「謝るな。何も悪いことはしてない」
「悪いことはしてるよ! 暗くなる前に帰ってこないんだから!」
俺の言葉を遮るようにドクターは叫んだ。ドクターは時々感情的だ。マホガニーとツルギが我が子のように思ってこそのことだろうが。
「……反省はする」
これが、今の俺の日常だ。
おしまい
あとがき
今回のこのお話はソーンズ目線でしたが、難しかったですね
理知的なキャラクターは私とあまり似ていないので難しいんです……
本当はもっと二字熟語とか多く使いたいのですが語彙力のない私には無理だったので、出来るだけ擬音語を使わないようにしていました。如何だったでしょうか
それに、ソーンズくんの口調的に冷静さを欠かない、を意識していると地の文がめちゃくちゃ短調的になっちゃった気がします。ソーンズくんの一人称視点のお話はとても難しい……私もソーンズくん並に頭がよくなりたかった……()
ということでいつになるから分かりませんが次のお話もソーンズくん目線なので、のんびり待って緩く読んで下さると幸いです
……この話のためにソーンズはイベリアのことも忘れていることにしたと?
そうですよ()
ではまた