〜ドクター目線〜
ある日のこと。
エアースカーペに用事があり、宿舎の巡回がてら艦内を歩いていると、黒髪に黒いコータスの耳が見えてきた。
「やぁ、エアース。ちょっと渡したい書類があったんだけど……」
と私が声を掛けると、傍らにスノーグラウスがいてビックリした。
「ドクターは俺たちのことを間違えないんだな」
と言うスノーグラウスは、エアースカーペとほぼ同じ格好をしているのだ。耳飾りの種類や目の色が違うとはいえ、こうして並んでいるとギョッとしてしまう。
「えっと、スノーグラウス、その格好は……」
どういう風の吹き回しなんだと聞こうとして言い淀む。憧れの父親とこうして再会出来たのだ。その憧れの父親と同じ格好をしたいと思うのは子どもにとっては普通のことかもしれない。だがそれを、エアースカーペが承認したと思うと、二人の心境を好奇心で聞きたくなってしまったのだ。
「前にドクターは、俺たちと並んで欲しいって言ってただろ? だからそんなに似てるのかと思って、後方支援の人に頼んで父さんと似た衣装を用意してもらったんだ」
とスノーグラウスが説明している間、横にいるエアースカーペは特段変わった様子なく否定もしてこなかった。ということは、スノーグラウスは嘘は言っていないということなんだろうけど。
「本当に私の囁かな夢が叶うとは思わなかったよ。エアースは、スノーグが自分と同じ格好をした時何か思ったのかい?」
と私が聞くと、エアースカーペはチラリとスノーグラウスを見た。
「別に同じ衣装を着るくらい気にしない。だが、ドクターも騙されなかったんだから、あまり俺たちは似ていないんじゃないか?」
「確かに……」
そう言うエアースカーペにスノーグラウスは頷いたが、私は首を振った。
「いやいやいや、君たちめちゃくちゃ似てるよ」
何を言ってるんだ、この親子。ここまでめちゃくちゃ似てる親子なんていない。私はそこにあったソファベンチに視線を投げた。
「とりあえず、二人ともここに座ってご覧?」私は思いつきで二人をソファベンチに座らせると、案の定彼らの座高はほぼ同じだった。「私が二人を間違えなかったのは、背丈の違いだけなんだよ。こうして座ったら座高は同じだし、他の人なら騙せるかも……?」
と自分で言い終えて、なぜ私は彼らで人を騙そうとしているのだろうと疑問とおかしさに気づいた。いや、ごめん、変なこと言ったわ、と私は謝ったが、エアースカーペとスノーグラウスの反応は予想外であった。
「なるほど。今度はここで座っていたら皆間違いやすいかもな」
とエアースカーペは言い、
「しばらくここで座っていてもいいか? 父さん」
とスノーグラウスが言うのだ。
「ああ、今日は何も用事がないし構わない」
エアースカーペはスノーグラウスの我儘に付き合うつもりらしいしもう取り返しがつかなくなってきた。思えばこの二人、親子なんだわ。この親にしてこの息子ありとはこのこと。
「そういうことで、俺たちはしばらくここにいる。書類は部屋に置いといてくれるか」
とエアースカーペに言われ、私は頷くことしか出来ず。
「分かった。あとで確認してね……?」
大した書類ではないし、と私はそこから立ち去った。少し離れて遠目に眺めると、二人はまだベンチソファに座っている。スノーグラウスの耳が時々揺れているから、エアースカーペと何か話しているのかと思われた。
仲良くしてくれているなら良かった。
私はそう思うことにし、エアースカーペの部屋に向かった。
のちにエアースカーペとスノーグラウスの見分けがつかずによく間違えるからあの二人の分身ごっこを辞めさせてくれ、となぜか私のところにクレームが来た。二人とも、間違えられていることに気づいていてもそのまま話を聞き続け「分かった、あとで伝えとく」と最後に言うからそこでようやく人違いだったと気づく人が続出したのだ。
「エアースとスノーグ? 俺は間違えたことないんだけどなぁ」
レオンハルトは、やはり同じ格好をしても二人をしっかり見分けていたみたいだが。
私はため息をつき、贅沢な悩みにほんの少し幸せを感じるのだ。
おしまい